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リアクション
【ヘッドマッシャー】
たった今、ルカルカの目の前で、セレンフィリティとセレアナがデスマスクと敵の一団に押し潰される形で無残な最期を遂げた。
ルカルカは、セレンフィリティが最後の力を振り絞って送り出したエタノールの瓶を拾い上げ、愕然とした表情のまま後退する。
実はつい先程、面会室でルカルカ、ザカコ、ジェライザ・ローズの三人もデスマスクと遭遇したばかりなのである。
この時はジェライザ・ローズが再び懐中電灯で撃退したのだが、この時、デスマスクは空間中に掻き消えるような格好で姿を消していた。
そのデスマスクが今、汚物処理室から飛び出してきて、セレンフィリティとセレアナを嬲り殺しにした。
自分達が撃退した敵が、セレンフィリティ達を襲ったのだ。何たる皮肉であろうか。
しかし、今は仲間の死を悲しんでいられる余裕は無い。ルカルカはすぐさま踵を返し、自動販売機前で待機しているザカコとジェライザ・ローズのもとへと駆けた。
「あのふたりは?」
ジェライザ・ローズの問いかけに、ルカルカは無言でかぶりを振った。
その意味を即座に理解したジェライザ・ローズとザカコは、沈痛な面持ちで唇を噛み締めた。
「あなた達は、この自販機を破壊して。私は、敵を食い止める」
ルカルカはふたりに指示を出し、自らはセレンフィリティから受け取ったエタノールを松明に浸して火勢を強め、更に懐中電灯をハンマー殴打態勢で握り締めて、自販機に背を向けた。
左右の廊下から、白衣姿や患者共がゆっくりと近づいてくる。
ザカコとジェライザ・ローズが、パイプ椅子を振るって自販機を破壊しようとする音が三階の廊下一杯に広がっているのだ。
敵を引き寄せてしまうのは、自明の理であった。
「さぁ来い……後ろのふたりは、私が守ってみせるッ!」
ルカルカは気勢を上げたものの、その全身は緊張で硬くなってしまっている。
そしてたった今、前方の廊下数メートル先に、デスマスクが忽然と姿を現した。
と同時に、ルカルカの背後で自販機の全面扉を閉じている南京錠が破壊される音が響いた。
「これでも……喰らえッ!」
ジェライザ・ローズが自販機の中からコーラを一缶取り出し、ルカルカの傍らからデスマスク目がけて放り投げた。
デスマスクは飛来するコーラを、頭を僅かに傾けただけで難なくかわした。
ところが、そのコーラが床に落ちて転がることは無かった――何者かがデスマスクの背後に立ち、ジェライザ・ローズが投じたコーラの缶を受け止めていたのである。
「何や、その自販機もう品切れや思うとったのに、まだ入っとったんか」
デスマスクの背後から、渋みのある野太い声が静かに響いた。
二メートルを超える巨漢が、ジェライザ・ローズから受け取った格好のコーラの栓を抜き、ごくごくと勢い良く中身を飲み乾し始めた。
「わ、若林さんッ!」
「若崎や」
ルカルカが相手の名前を間違えて覚えていたのはご愛嬌として、その人物、若崎源次郎は以前と変わらぬ飄々とした態度で、コーラを飲み終えた後のゲップをところ構わず吐き出していた。
「あんま冷えてへんな。電源切れとったんちゃうか」
尚も呑気な源次郎に対し、デスマスクが振り向きざまに攻撃を仕掛けた――が、無防備な筈の源次郎は何ひとつ打撃を受けることなく、その場に漫然と佇んでいる。
一方のデスマスクは攻撃を終えた態勢で、源次郎の後方に走り抜ける形で移動していた。
「時空圧縮……」
ザカコが、喉をごくりと鳴らした。
デスマスクによる攻撃が己に命中する瞬間の時間そのものを圧縮し、攻撃が命中したという事実を『無かったこと』にしてしまう最強の防衛能力――それが、時空圧縮である。
源次郎はまるで何事も無かったかのように、廊下をすたすたと歩いて自販機前へと辿り着いた。
その間、廊下の左右から医師風の白衣男や腐乱死体の如き患者共が殺到してきていたが、源次郎が軽く両腕を振るっただけで、それら敵の群れはことごとく、肉塊と化して廊下一杯に散らばった。
ヘッドマッシャーの基本生体武装であるブレードロッドが、源次郎の両手首から鞭のように宙空をしなって迸り、鋼を豆腐のように両断する鋭さで、敵の群れを一掃してしまったのだ。
「ほんで、自分らこんなとこで何しとんねん」
源次郎の問いかけに、三人のコントラクターは困惑した表情で顔を見合わせた。
何をしていると聞かれても、気付いたらこの病院に監禁されていたのだ。答えようが無かった。
「私達にも、よく分からないの……ただとにかく、ここから脱出したいだけ。ねぇ、手を貸してくれないかな、若山さん」
「若崎や」
一向に名前を覚えようとしないルカルカに呆れた表情を返しつつも、源次郎は脱出の手助けについては応じる意向を見せた。
「わしも、ちょっと調べたいのがあるしな。まぁ、ついといでぇな」
かくして、三人のコントラクターは現時点で最強とも呼べる助っ人を、味方につけた。
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