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リアクション
■ 1日目(4) ■
ツァンダ、『ジーバルス一族の里』。
「子供達が来るのはもうすぐか!」
見えてきたバスに里の入り口で待っているハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は後ろを振り返る。
「皆準備はいいか? いくぞ!」
里の入り口。道を挟んだ両側にずらりと並んだ里の者――狼達が一斉の遠吠えとして答える様に、ハイコドは満足気に頷いた。
歓迎の準備は万端だ。事前にと話をしていた時は子供達は楽しみにしていると聞いている。ただ、こういう特殊な場所だ、狼が嫌いな子がいないことを祈ろう。
出迎えの為に先頭で待つニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)、彼女の隣に居るソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)、両名が獣から人の姿に変じたのに気づき、一度視線をくべて、目の前で止まったバスにハイコド達はようこそと子等を歓迎した。
「竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー」
「イタズラされたら敵わないからな、落とさないようにな」
よ、よし。とりあえず予定通りにすればいいのよ! と緊張気味なニーナと二人ハイコドは皆にお菓子を配る。
「それでね、皆には男の子と女の子に分かれてもらってそれぞれ里を見学して行ってもらいたいの」
お菓子が入った袋を渡しながらニーナが軽く説明をして、じゃぁ、グループになろうと子等を誘う。
ただお菓子を渡すだけでは折角此処まで来てくれたのに勿体無いと感じたハイコド達は、里の見学をさせようという考えだった。
「いーかー? 子供達が危ない所に行きそうなら唸らないで止めるか、遠吠えで教えること」
子供達をハイコド、ニーナに任せ、破名とキリハ、バスの運転手の大人組を休憩所へと案内するソランは並ぶ狼達に大切なお客さんだからと指示を飛ばす。
そんな彼女に狼が一匹、語りかけるように鼻先を上に掲げ左右に小さく振った。まるで「疲れた」と言いたげだなとそれを見ていた破名は、
「皆おつかれ、後でなでなでしてあげるね」
と、答えるソランにヘッへとちょっとだけいやらしく舌を出す狼に彼女がにーっこりと笑い、
「ごはん抜きにしようか?」
問いかけると狼がブンブンとその太い首を左右に振って焦るという一連の流れを眺め、ふぅんと悪魔は面白いのを見たとソランの後ろを着いて行く。
ソランは子供達が戻ってくるまでゆっくりしていってと休憩所で飲み物を振る舞い、女の子組を担当するニーナの後を追った。
「まさか女の子が興味を持つなんてな」
里が保有している鋼から打ち出した武具類を広げ説明するハイコドに、男子と混ざって話を聞いているシェリーは照れた。
「うん。好きよ。武器がとかじゃなくてさっき見せてくれたような作っている工程が好き。人の手で何かが出来上がるのって素敵ね」
素敵と褒められて悪い気はせずハイコドはわんぱく盛りの男の子達が勝手に走りだしてしまわないように見張りつつ「こら、そっち行くな前の狼の兄ちゃんに付いて行けばカッコいい物見れるぞ?」と注意を飛ばしつつしている藍華 信(あいか・しん)に合図の目を向ける。
パートナーの目配せに気づいて信は「作っている所は見たな? では、使っている所も見たいだろ?」と子等に、どの武器に興味があるのかを尋ねる。
「実演? 危なくないの?」
院の子供は16歳のシェリーが一番大きく、此処にいる男の子は10歳前後と刃物の切り結びを見せるには少し幼いかもしれないとシャンバラ人の少女は瞳に不安の色を揺らめかせた。
「実際に扱うのは俺と信だけだし、まぁ、あれだ、真似はしないって約束出来るか? やるなら大きくなってからだ」
後半は子供達に「約束出来るか」と向けられた。
約束は守るべきものと教えられている子供達は互いに見合った後、ハイコドに向かって大きく頷く。
危なくないようにと見せていた武具類をしまい、子供達を開けた場所へと連れてきたハイコドは下がっていろと男の子達を座らせ、信を呼び寄せる。子供が興味を持った得物をと思ったが種類が多く意見が割れ選びきれなかった為にハイコドは″契約者の戦い方″を披露することにする。
信と二人、互いの間合いの外で対峙し、ハイコドは深呼吸に闘気を高め、自在の力を加え具現化させる天宝陵『万勇拳』の奥義をその手に持った。立ち上がるように揺らめく闘気を長物に変えて、切っ先を信に向ける。
靴底で地面を擦りハイコドに信はターミナル・ブレードでこれを受けた。掌に集め凝縮し創りあげた剣(つるぎ)に剣戟の火は散らず、衝撃が周囲に綺麗な円形でもって広がる。
見えない物を見せられて、届く頃には凪のように穏やかになった衝撃の風圧を前髪が揺れることで感じ、子等がそれぞれに驚きの顔で声を上げる。興奮して立ち上がる子を宥めて座らせるシェリーは、これは真似したくても真似できないとそれを眺め、知らず目を伏せる。
シェリーは自分で歩む道を自分で決める事を決心した少女だ。そして、院の他の兄弟達もいつまでも子供のままではない。
破名は外部との交流を良しとした。これからはこういう機会が増えるだろう。この中の何人が今日、明日、明後日、今後誰かに触れる度に、何を胸に抱き、何を決心するのか。
ハイコドと信が魅せる組手は周囲を騒がせない程度のとても軽いものだったが、子供達に与える影響は計り知れない。
常にハイコドの影に潜む、気性の荒い巨狼裳之黒。しかし、どうも子供には激アマな性格らしい。
腕白、お転婆な少年少女達にこれでもかともふもふされまくりにされまくりながら、怒ることもせずとにかくされるがままに相手をしている。
「大人しいな」
その様子に、付き添うというよりただ見ているだけの破名の呟きに、裳之黒だけではなく一切と唸り声を上げない狼達への単純な感想を耳に入れた、休憩所に戻ってきていたハイコドは頷く。
「こいつらは大丈夫ですよ、今日は人懐っこいのだけ集めましたしこども好きです。なんせ一族全員狼と話せるものでね、家族みたいなものですよ……俺は感情しか読み取れませんが」
獣人の家族を持つ、地球人のハイコド。
「読めるだけいいだろう?」
そんなハイコドに破名は首を傾げる。
「え?」
「俺は話(会話)をしなければわからない」
一緒に暮らしているから、というだけの理由で、全てわかるわけではない。コミュニケーションの取り方(能力)は個人差がある。
「ハイコド。此処は良い里だな」
だから、破名は言葉にして伝えるのだ。感謝の代わりに。
院の子供は女子が多い。装飾品やアクセサリー作りを見学していた女子達はニーナとソランを囲み、兎を腕に抱いて、話を聞いている。そんな楽しいひと時を過ごし、時間に気づいたニーナは彼女等にお土産用にと包んだネックレスを渡す。男の子にはペーパーナイフを。
「すみません、一ヶ月だとこのくらいの物しか用意出来なかったので……」
お菓子以外にも用意されて、破名は差し出された五寸釘を使ったナイフ(釘ナイフ。見た目も刀で、切れ味も刀に近い)に、思わずニーナの顔を見る。
「このナイフは……お守り刀ということで」
ちゃんと人数分きとんと用意されていて破名はキリハを横目で見る。目配せに気づいたキリハは進み出て感謝を述べるとニーナからそれを受け取った。
…※…※…※…
移動の時間になっても、もふもふと狼特有の毛質を堪能したくて広場から離れない子供達をなんとかバスに詰め込み、一行は次の目的地へと向かう。
それを見送って、ニーナが、ハイコド、ソラン、信へと振り向いて、向き直った。
「あなた、ソラ、信くん、おつかれさま」
今日はとても賑やかだったと労うニーナに、三人はそれぞれの反応で返した。
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