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【創世の絆】光へ続く点と線

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【創世の絆】光へ続く点と線

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遺跡調査隊を護れ

 遺跡内部では外部の状況を目視できない。通信状況も必ずしもいいとは言えず、場所によっては途切れ途切れになったり、送受信がうまくいかない箇所さえある。アクリトは状況を鑑みて通信状態がよくなおかつ奇襲されにくい位置に移動してきていた。現在調査を行っている契約者たちを除き、戦闘力を持たない一般の研究者や調査員たちはアクリトを中心として身を寄せるように固まり、救援部隊が向かっていることは知らされているもののやはり不安げな様子を隠せずにいた。国軍大尉として調査隊に参加していたルカルカ・ルー(るかるか・るー)はそんな彼らの様子を見やった。医師でもあるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はこういう場合最も怖いのはパニックだと、ルカルカに人間の心理についての説明も交えて事前に話していた。ルカルカはアクリトに手短に自分の動きを説明した。パートナーの一人、ドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は体が大きすぎるため小回りが利きづらいと判断、入り口に見張りとして置いてきていた。彼がサクロサンクトを使用できるので入り口付近の守りは万全であることも伝える。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)夏侯 淵(かこう・えん)は調査隊の前後に控え、油断なくあたりを警戒している。
「私とダリルが先頭を行きます。万一のことを考え、淵は最後尾で追撃を警戒します」
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が呼びかけてきた。パートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)も一緒だ。
「皆さんをここで死なせるわけにはいかないわ。私も護衛として協力させてください」
「そうね、非戦闘員ばかりだから、そのほうが心強いわ」
ルカルカが頷いた。
「“ヒトガタ”を無事遺跡から搬出できたとしても、それを研究・解析する人間が倒れれば無意味ですし。
 それに、私も国軍の大尉として自分たちには彼らを無事に帰還させる責任もあります」
ゆかりは言い、ついでアクリトに向き直った。
「可能な限り持ちだせるだけの成果を持ちだせるよう最大限努力はしますが……。
 それでも場合によっては破棄せざるを得ない場合があるかと思うのです。
 そのような場合、何を優先的に持ち出すのかを決めてください。 データ類に関しては携帯可能な記憶媒体に移し替えるなどすれば身に着けて運べますから」
「もっともだな。すぐに手配しよう」
アクリトはすぐに調査員のチーフたちを呼び集め、手短に指示を行った。ゆかりとマリエッタは彼らに同行し、相談の間護衛をする旨申し出た。現在地はさほど危険な場ではないとはいえ、そういった行動が安心感につながるとの考え方からだ。
ゆかりらと入れ替わりに調査隊の中から桜月 舞香(さくらづき・まいか)が進み出てきた。
「今のお話を聞きました。あたし、光条兵器や光条世界のことを知ろうと思って索隊に同行したんだけど……」
そういって後ろを見やる。彼女のパートナー、桜月 綾乃(さくらづき・あやの)奏 美凜(そう・めいりん)が軽く会釈をする。
「綾乃の中にも覚醒光条兵器が眠っていたからあたしもその使い手になった……。
 でも、強い武器を手に入れた嬉しさより怖さの方が先に立つの。
 これと引き替えに姿を消した人もいるって聞いたわ。世界を救う、そこまで大それたことじゃなくて……。
 もし綾乃もこの力に耐えられなくなって消えちゃったりしたら……そんなのあたしは耐えられない。
 何より大事なパートナーの綾乃を失いたくない、そう思って調査隊に参加したの。
 でも……あたし調べものとか調査とかの頭脳労働ってあんまり得意じゃないのよね……。
 覚醒光条兵器が使えるから、かなりの戦力にはなれると思うの。
 そういうわけで、その分みんながたくさん成果を持ち帰れるように成果物の護衛をさせてほしい!」
「そうね……気持ちは解るわ」
マリエッタが言った。ルカルカも考え深げに頷く。ヒトガタ……収納された容器は大きい。非戦闘員と成果物の護衛は別のほうがやりやすいだろう。
「別のほうが護衛しやすいだろうな」
アクリトがルカルカの心を見透かしたように言った。決まりだ。改めてルカルカは調査隊に呼びかけた。
「落ち着いて私達の後についてきてください。皆で出口を目指しましょう。大丈夫、きっと脱出できますから。
 私たちは軍事訓練を十分に積んでいますし、実戦経験も多々あります。
 パートナーのダリルは医師でもあります。皆さんの護衛に私たちの親衛隊員、飛装兵をつけます。
 出口はすでに保護下にあります。どうか安心してください」
出口の破壊の心配はない、そのことが調査員たちの動揺を少しはやわらげてくれるだろう。ルカルカは通信機を開き、ジェイダスに呼びかけた。
「こちらは今のところ海岸線で食い止められている。だが新手が次々押し寄せている状況だ。
 遺跡内の防衛システムも厄介だろうが、急ぎ脱出行動に移ってくれ」
「わかりました。どうかお気をつけて。残り時間は互いに連絡をしあいましょう」
どの程度までこちらが移動したかを救助隊に伝われば彼らの目安になるだろうし、向こうの状況次第でこちらも脱出のリミットを把握出来る。
 調査隊の先頭に立ってルカルカとダリル、ゆかりは慎重に、かつ敏速に動いていた。一方マリエッタは調査員たちの間に入り、緊張感も危機感もないような様子でのんびりしている様に振舞っていた。皆が皆極度な緊張感に囚われれば焦燥や不安につながり、かえって危険を招きかねない。ダークビジョン、神の目。殺気看破で周辺を徹底的に警戒しつつも、そんな様子は微塵も出さずに談笑している。淵も調査隊後方で護衛に当たりながら聖者の導き、英霊のカリスマ、荒ぶる力を最大限に発揮し、安心感を与え、調査員たちがパニックに陥らぬよう努力を続けていた。
「救助隊がもうそこまで来ておるし仲間が入口を確保しておる。
 懸念することはないぞ。大丈夫。
 ”ヒトガタ”だけではなく俺らが御主達全員必ず守り届けるゆえ、あと少し頑張ろう」
随所に下りた隔壁を破壊しつつ数百メートルほど遺跡の通路を移動したとき、機晶ロボの襲撃があった。淵がすぐさまアブソリュート・ゼロ、氷壁を盾として保護にかかる。紅蓮の走り手が氷壁の周りを駆け、突破しようとするロボットを灼く。
「ブラックホールの特急発車だよ。さあ道を開けて頂戴♪」
ルカルカが軽く言ってざっとアンダーテーカーを振るう。何体かの機晶ロボが闇の空間に飲み込まれ、姿を消した。ダリルが小声で囁く。
「突出しすぎるな。進軍速度をあわせろ……数が多い。囲まれるとまずい。ある程度まとめて凍らせる」
「わかった」
ダリルは零銃でロボットを撃った。一気に10体あまりが凍結し、動けなくなった。ついでダリルが電脳支配、エンド・オブ・ウォーズの併せ技で、機晶ロボの制圧を図ろうとした。通常なら戦意をなくさせ、ダリルを主人と認識させることで防衛機構から指示を打ち破るものだ。ゆかりもまた機晶技術、先端テクノロジーと、調査隊の中の技術者たちと無力化の方策を練っていた。しかし……。
「なんだ? こいつら……プログラムで動いているわけでは……ないのか?」
エンドオブウォーズが効いた固体は静止するものの、ダリルの支配は受け付けない。様子をモニターしていたゆかりが声をかける。
「もしかして中核となる施設があって、そこからしか命令を受け付けていないとか……。
 それと……従来のものと行動パターンが違う。様子がおかしい。破壊するしか今はないみたい」
「わかった。……心を持たない機械には容赦しない。ましてそれが敵対するなら尚更だ」
ルカルカとダリル、淵の近距離攻撃が炸裂する。ゆかりが氷壁の前に立ち、ライトニングウェポンで帯電さたヘビーマシンガンを使い、攻撃力を上昇させ、二丁拳銃、クロスファイアでの十字砲火を浴びせる。マリエッタはその横に立って奥のほうにいる敵に天のいかづちを見舞い、ゆかりの攻撃を縫ってきたものは雷術で応戦している。
 後方のヒトガタの周辺では舞香が応援舞闘術のチアリーダー・キックと七曜拳を組み合わせた、さながら舞っていような脚技の乱舞で敵を蹴り倒していた。
「んもう、うっとうしいわね! 邪魔よ! 消えなさい!」
綾乃が舞香に声をかけた。
「まだまだ先は長いし、消耗してしまっては……覚醒光条兵器を使って?」
「でも……綾乃がとっても苦しそうだからあんまり使いたくないんだけど……」
「皆さんを守るのが最優先だもの。それに……。
 まいちゃんが私のことを心配してこの調査隊に同行を申し出たのが分かってますから、私も精一杯頑張ります!」
「わかった。この状況じゃ仕方ないし……綾乃、いつもごめんね。少しの間頑張って! 美凜、綾乃をお願い!」
美凜が頷いた。
「へばった綾乃は美凜が引き受けるネ。
 綾乃はおんぶしてでも連れて行くから舞は戦闘に集中するアルよ!
 研究者達と綾乃と一緒に後衛に下がりながら周囲を警戒しておくネ」
綾乃が覚醒光条兵器を発動させた。
「とどめに覚醒光条兵器の剣の舞でなます斬りに切り刻んであげる!」
舞香の剣舞が再開された。機晶ロボはヒトガタの周辺に近づけもしない。くず折れかける綾乃を素早く抱えて美凜はヒトガタの収容された容器のそばに身を潜めた。
(しかし……調査隊の行く先々が襲われてるってことは、調査隊の動向を報告してるスパイが近くに居るアルか?
 ……いきなり背後から襲われない様に後ろにも警戒しておくネ。
 しかし、ヒトガタなんて名前からしてブキミあるな。これ、いきなり起き上がって襲ってきたりしないアルか?
 死体……? を暴くような罰当たりなマネしたらだめアルなー?)
美凜の思考はヒトガタ=死体(?)と飛躍したようだ。綾乃がかすかに身じろぎしてか細い声で囁く。
「覚醒光条兵器の所持者として何か感じ取れることがあるかも知れません。
 動けませんが……せめて感覚だけでも精一杯研ぎ澄まして何か感じ取れないか試してみます」
「……ムリはしないアルよ?」
襲ってきたロボットの群れはすべて瓦礫の山になった。淵が全員に呼びかける。
「救済の聖域を展開する。皆、俺の近くに、全員一度に回復するぞ!」
前後を契約者たちに護られたまま、脱出への移動前にしばしの休止がはさまれた。
 遺跡入り口のカルキノスはルカルカからの一報と同時にサクロサンクトを作動して出口の完全防御の布陣を敷いていた。外側からも誰かが遺跡を保護すべくサクロサンクトを発動してくれているようだ。これなら万一遺跡付近まで敵がきてもかなり持ちこたえられるに違いない。潜在解放を行い、戦闘力を増大させる。彼の武器は鎧の鎖だ。懸念すべきは遺跡内の機晶ロボである。遺跡内にいる『彼ら』以外の存在を全て異物として排斥しようとしてくるだろう。この場所はカルキノスが死守せねばならない。さっそく入り口付近のガード用だった機晶ロボたちがやってきたようだ。金色の目を細め、巨大な黒いドラゴン――カルキノスは咆哮した。
「あぁ? てめぇらは招かれてねぇよ!」
絶対領域を作動させ、ドラゴンアーツを乗せた怪力で鎖を振るい、襲ってきた機晶ロボをなぎ払う。その凄まじい力はロボットの胴体を真っ二つにし、頭部を粉砕する。
「ここは絶対守りぬく!」
瓦礫の山と化した機晶ロボを踏みつけ、カルキノスは吼えた。