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●元旦の思い出話

 鍋つつき合うも楽し、元旦の夜である。
 御神楽家は揃って、家族水入らずの夜を過ごしていた。
 今夜のメニューは鍋、コンロにかけた土鍋が、ふつふつぐつぐついっている。もうすぐ食べ頃になるだろう。
「やっぱり家が一番落ち着くわ〜」
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は気取らない部屋着で、心からホッとしたように言う。
「でも、もうそろそろ産休に入ってもいいのに」
 というのは彼女の夫たる御神楽 陽太(みかぐら・ようた)だ。
 すでに環菜には、二人の愛の結晶が宿っていたのだ。予定日は今月末ごろ、あるいは来月早々である。成長具合は上々、いまのところは安心だ。なお名前は『蒼菜(そうな)』というのを第一候補にしている。
「産休……そうもいかないのよね。ごちゃごちゃした用件ばかり入ってて、しかも全部、ちょっと断り切れない内容なのよ。出産直前まで働くことになりそうだから……まあ、生まれたらたっぷり休むわ」
 今日も夕方まで、環菜は各種セレモニーや祝賀の挨拶のためせわしなく移動を繰り返し、陽太もその護衛の任にあったので二人とも、なかなかリラックスできなかった。それだけに職務が終わった解放感はひとしおである。
 仕事ばかりではない、今月の御神楽家はどうにも忙しい。病院の近くに一時的に引っ越す予定があるからだ。といってもこれは出産に備えてのものなので、引越が終わればいよいよ秒読みの気分になることだろう。
 陽太は御神楽 舞花(みかぐら・まいか)に頭を下げた。
「ありがとうございます。居心地のいい家にしてくれて」
「気に入っていただけて嬉しいです。お二人は外遊に忙しいですから、せめて帰る場所だけは最高の状態にしておきたくて……」
「それに、一時転居先も見つけるところからその契約、内装からインフラの設置まで全部任せっきりにしたのに、すべて文句のつけようなくこなしてくれたことにも感謝したいわ」
「当たり前の仕事をしただけです。でも、そう言ってもらえるとやっぱり面映ゆいです」
「さあそろそろかな〜」
 と鍋の蓋を軽く持ちあげたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だが、つけっぱなしになっていたテレビにふと視線を向けた。
 奇妙なものが映っていたからだ。
「あっ! また出たんだ! あのヘンテコなゴムみたいなの……昔、空京大学で見た覚えがあるよ! あの時はお菓子をとられそうになってびっくりしたよ〜」
 それがなにかスイッチになったらしく、ノーンはまた回想する。
「それに鍋といえば、鍋の具っぽい敵を戦ってゲットして鍋パーティーしたこともあったなぁ〜(※参照)
「え、なになに思い出話?」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は鍋をつつきながら乗ってきて、しばし、回想話に花が咲いた。
 食べ終わったところで、舞花も思い出したようだ。
「思い出といえば……私もロイヤルガードのコスプレをしたことがありましたね。(※参照)
「見ます? そのときの写真?」
 陽太が立ち上がってアルバムを出してくれた。
 懐かしい写真がいっぱいだ。一昨年のハロウィンでコスプレしたときのもの(※参照)、プールサイドの写真、諸外国に出かけたときの風景などなど……。
「みんなスゴイねー!」
 と言うノーンに、
「スゴイといえば、こんな秘蔵写真もあるのですわ」
 ふふっと笑ってエリシアが、パソコンをつないである写真データを表示させた。
「これ陽太……! と、エリシアよね」
 環菜が最初に気づいて目を丸くした。
「そう! 中学時代の陽太ですわ! 私は魔女だから歳をとりませんけどね」
 当時は独身だったので旧姓、影野陽太がそこにいた。緊張気味の表情でこちらを見ている。どんな状況で撮影した写真だろうか。
「うわっ、恥ずかしいっ! やめてくださいよ」
 陽太は慌てるが、環菜は目を細めるのだった。
「そうそう、こんな感じだったわね。この頃よね、私たちがはじめて会ったのは?」
「環菜、覚えてたんですか?」
「もちろん。印象的な子だったもの。ま、あのときは将来結婚する相手だなんて夢にも思わなかった」
「えー! 聞きたい聞きたいその話−!」
 ノーンも、また舞花も、陽太を取り囲むようにしてせがんだのである。
「勘弁してくださいよ……」
 と真っ赤になりつつ、ぽつりぽつりと、陽太はその頃の思い出話を語るのだった。(※素敵な話なので、どうかこちらを参照してほしい)
 そんな彼を眺めながら、また、懐かしい思いにひたりながらエリシアは思った。
 ――本当に地球人はすぐに成長しますわ。あの駄目駄目な臆病者が今では結婚して、もうすぐ父親になるくらいですしね。
 きっと陽太と環菜の娘も、すぐに大きくなるのだろう。
 それが楽しみだ。