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●長い夜へ……

 空京ロイヤルホテル。24階の一室。
 窓の外は夜。2024年1月1日も、あと数時間しか残っていない。
 大晦日から本日にかけ、ゴム怪物が出たというニュースを聞いた。
 あれから三年も経っているのになぜ――という気持ちもあったが、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は調査に出るのを控えた。
 三年前、ゴム怪物とかかわったあの日の経験が与えたものは少なくなかったが、もうそれは、小夜子にとっては古いアルバムの一ページでしかない。たまに思い出すのがせいぜいだ。それどころかもう一度かかわろうとすれば、記憶が色あせるおそれがあった。
 ――今は恋人とのひとときのほうが大事です。
 手早く服を脱ぐと、「入るわ」と声をかけることもせず、水音のするシャワールームへと小夜子は姿を消した。
 数分後、まず泉 美緒(いずみ・みお)が、つづいて小夜子が薄いバスローブを巻いて出てくる。
「美緒、今日は楽しかったですね。夕食も食事はおせち料理も頂きましたし」
 どさっと長い脚を投げ出すようにして、小夜子は籐の椅子に腰を下ろした。
「あ、は、はい……とても結構でしたわ」
 美緒は言葉を返すが、どうも、上の空のような印象が拭えない。顔を上気させて両足を固く閉じ、ぎこちなくベッドに腰掛けた。シャワールームでなにかあったのだろうか。
 ところが小夜子は、美緒のそんな様子すら楽しくて仕方がないといった口調だ。
「あら、なにか硬いですわね、美緒。今日は疲れたのかしら? 一泊して明日はお参りだというのに」
「いえ……あの……」
 言い淀む彼女に、わかってるというようにうなずいて見せ、
「やはり強張っておいでですね。マッサージしてさしあげますわ」
 小夜子は立ち上がってベッドに登り、美緒の背後に回った。
「肩をマッサージしてあげます」
「え……はい、あ、ありがとうございます」
 小夜子が優しく告げるほどに美緒は緊張するように見えた。そういう反応も初々しくていい。小夜子は舌なめずりしたいような気持ちだ。両の手で、美緒の肩から首筋を揉む。
 美緒があまりしゃべらないので、自然、小夜子が話し続ける格好になった。
「おせち、美味しかったですわ。美緒の口にもあったかしら。栗きんとんとか色々ありましたよね。雑煮とか……」
 などと話しながら小夜子は、猫が獲物をもてあそぶときのような目で恋人を眺めている。美緒の長い髪はタオルにくるまれ、薄すぎるバスローブから、白い肌が透けて見えるようだ。
 いたずらっぽく笑んで小夜子は言った。
「……そういえば、私の前にもお餅みたいのがありますわね?」
「あっ」
 美緒の躰がびくんと跳ねた。小夜子が手をするりと滑らせて、ローブの上から美緒の膨らみを揉みはじめたのだ。隠そうとしても隠しきれないその大きさ。こねればこねるほど手になじむ。つきたての餅のようでもあり、空気の抜けた鞠のようでもあった。
「あいわらず大きくてお餅みたいに弾力がありますね」
 小夜子もまた、その温かさと感触に顔を上気させていた。いつの間にか手は、バスローブの外側からその内側にシフトしている。
 ずっと味わっていたいその感触だ。優しく触れるとふるると揺れた。
「あっ……やめっ!」
 先端を探り当てて刺激すると、我慢できなくなったか美緒は甘い声を上げ始める。
 さあ、果実を剥く時間だ。
 小夜子の両手は、一気に美緒からバスローブを奪っていた。頭のタオルも取って足元に落とす。ぐっと押し倒して彼女をベッドに横たえ、それでも『お餅』を味わった。両の手で、ときに、舌で。
「さ、小夜子……だめ」
 なすがままだった美緒が、手を伸ばして小夜子の頬に触れた。
「なにが駄目ですの?」
 小夜子は美緒の匂いを嗅いだ。甘い香り……桃のような香りがする。
「まずはキス……してくださいっ……」
 ふふっと小夜子は艶やかに笑った。言うようになったものだ、美緒も。
 小夜子は美緒に唇を与えた。呼吸が絶えるくらい……溺れるくらいに。
 荒い呼吸の中、小夜子は美緒の手を取る。その手を、すでにバスローブを取り去った自分の胸に当てさせる。
「美緒もこねてくれていいんだからね……? 私の、お餅」
「小夜子……ああ、小夜子っ……!」
 美緒は応じた。 
 二人の長い夜は、まだ始まったばかりだ。