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横山ミツエの演義(第1回/全4回)

リアクション公開中!

横山ミツエの演義(第1回/全4回)

リアクション


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 新潟は佐渡。佐渡金山入口に清泉 北都(いずみ・ほくと)は訪れていた。
 この入口は江戸時代に実際に使われていた坑道跡だ。見上げれば道遊の割戸がそびえている。
 終わったらゆっくり観光しよう、と北都は目の前に酒瓶片手にふんぞり返っている笹団子番長を静かに見据えた。
 しかしこの番長、笹団子番長と名乗っておきながら酒瓶を持っていたりして意味がわからない奴である。笹団子番長と言うなら、首に数珠繋ぎにした笹団子でもぶら下げていればいいものを。おまけに世間の番長のイメージとは違い、背丈のわりに細く、目の下に隈があったりして顔色が悪い。ヘラヘラと始終浮かべている薄ら笑いも不気味だ。
「おやおや、ずいぶんな優男が来ましたなァ」
「……どうも。君も充分に僕の番長イメージから外れてるよ」
「ククク……お互い、見た目でなめてかかると痛い見るぜというタイプかい?」
 いやらしく笑う笹団子番長。
「それじゃ、ぼちぼち始めようかァ」
 のんびり告げた番長は、おもむろに酒瓶を掲げた。
 まさか投げるのか、と身構えた北都だったが、笹団子番長は瓶の口を開けるとニヤリとして突如ラッパ呑みを始めた。
「……えっ?」
 戸惑う北都。
 しかし番長の喉が動いたのは始めの一口二口ほどで、次に酒瓶を下ろした時には口いっぱいに酒を含んでいる状態だった。
 何のつもりかと不審に思った直後。
 プシューッ、と笹団子番長の口から霧吹きのように酒が噴き出された。彼はこの技で数々の不良達をヘベレケにさせてぶちのめし、新潟を支配下に置いたのだ。
 相手の行動がわからなかったために出遅れた北都は、それをまともに浴びてしまった。
「ふみゅ〜」
 酒に免疫がなかったのか、北都はたちまち顔を赤くさせてヘニョヘニョと座り込んだ。
 笹団子番長が愉快そうに笑う。
「ハッハハハハ! 他愛もないものですなァ。どれ、今度は直接飲ませて日本海に放り込んであけようかねェ」
 フラフラと歩み寄ってきた番長は、北都の前に膝を着くと顎を掴んで無理矢理上を向かせ、酒瓶の口をあてた。
「ばんちょーさん……もうだめ、ですよぅ〜。だってぼくは、みせいねん、なんだよぉ〜」
 とろんとした目と呂律の回らない口調で番長にもたれかかる北都。
 この有様に番長はすっかり気を抜いた。
「やれやれ、マジで下戸かァ?」
 しかし、それが彼の命取りとなる。
 気づいた時にはもう遅く、笹団子番長は押し当てられたデリンジャーによって倒されていた。
「てめぇ……」
「ごめんね。うちはザル家系なんでねぇ」
 とはいえ、北都がふだん口にしているのはブランデーをたらした紅茶やウイスキーボンボン程度だ。
「チッ、油断したか。……よォ、横山ミツエってのはそんなにいいのかい?」
 北都はわずかしか知らないミツエの印象を思い出す。
 あの人は。
「興味ないかなぁ。というより、いきなり現れてでかい態度で暴れる人は好きじゃないなぁ」
「なるほど、一枚岩じゃねぇってことかい。まぁ、負けた俺にはもう関係ねぇけどなァ」
 最後の方は呟くように、笹団子番長は気を失った。
 ここに放置しておいても他の人の迷惑になるので北都は番長を隅に移すと、ようやく修学旅行を楽しむ時間を持てたのだった。

ミツエ陣新潟県制覇!

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 岸壁を砕くように打ち寄せる荒波。髪を逆立てる強風。
 福井県東尋坊。悲しい恋の伝説の残る地だが、自殺の名所としてのほうが有名である。他にも多くの見所のある福井県に今、大迷惑な番長がのさばっている。その名も越前ガニ番長。
 カニの足のような髪型とボディには鉄鎧が装備。ナックル、角材、鉄パイプが基本装備のそこいらの不良達はたちまち配下に組み込まれた。何より、越前ガニ番長の必殺技『原子力発電所メルトダウンアタック』は無敵の技だった。
 その恐怖の番長に果敢に挑んだルカルカ・ルー(るかるか・るー)だったが……。
「へっ、もう逃げ場はないぜ。観念するんだな」
 崖っぷちに追い詰められてしまっていた。
 鉄鎧を装備しているのだから雷術に弱いはず、と間合いをしっかり計りながら魔法を打ってきたルカルカだったが、番長の耐久力は並ではなかった。実はパラミタのパートナーがいるのでは、と思わせるほどだ。
 おまけに手下達がどこからともなく集まってきて、休む暇を与えない。
 始めのうちこそドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の姿や火術に恐れ戦いたりもしていたが、三回目くらいで慣れたらしく、
「ドラゴンの肉ってうまいのか?」
「皮をはいでバッグにして、たまには親孝行でもするか?」
「アメリカの研究所に高額で売りつけてやろうぜ!」
「俺が飼う。大事にするぜぇ〜ヒヒッヒヒヒヒ」
 などなど、欲望まみれなことを言いながら目をギラギラさせてカルキノスに迫ってきた。
「何だこいつら、どういう頭をしてんだ!?」
 魔法力が尽きてきたため、ドラゴンアーツを発動させて長い尾を振り回して不良達を追い払うが、またすぐに追いかけてくる。まるでゾンビだ。
 カルキノスはついに言った。
「ルカルカ、こいつら喰っていいか?」
「だ、ダメだよ! ルカルカ達は正義の戦士だよ。殺しちゃダメっ」
「だったらヘタな芝居はやめて、さっさと倒してしまえ」
 正義の戦士は一度ピンチのなるの、という筋書きの元にわざとここまで追い詰められたルカルカだが、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)としては心配で仕方がなかった。
 ダリルにパワーブレスをかけられたルカルカは、素直に返事をして片手剣タイプの光条兵器を番長に向けた。
「越前ガニ番長、キミの時代はもう終わりよ! 今日からはこの【禁断の女帝】ルカルカが福井を支配する!」
 正義の戦士はどうした、と言う気力はもはやダリルにもカルキノスにもなかった。恐ろしくタフな越前ガニ番長軍団から早く解放されたかった。そんなことは表には微塵も出さないが。
 そして、ピンチにも関わらず威勢だけは良いルカルカに、ついに番長がキレた。
「終わるのはキサマだ愚か者! どうやらその軽いオツムは死なないとわからんようだな!」
 番長の顔がみるみる真っ赤になっていき、体から高熱を発し始めた。ゆらゆらと蒸気で番長の周囲の景色が歪む。
「原○○発電所メル○○ウンアタックだ! 巻き添え食う前に逃げるぞ!」
 手下達はあっという間に引いていった。
 そんなことよりもルカルカは別の問題に大慌てだ。
「ちょっと! 福井の誤解を生む技は、否っ、断じて否っ!」
「関西電力の多くは福井から来ています」
 さっきまでのルカルカに対する心配はどこへやら、台本片手に冷静な棒読みで解説を入れるダリル。
「そんな奴に番長を名乗らせておくわけにはいかないわー!」
「安心クリーンなエネルギー、原○力」
 もはや冷静を通り越して投げやりなダリルだった。
 そんな二人の態度がますます越前ガニ番長をいきり立たせた。
「溶けて死ねやァ!」
 鉄をも溶かしそうな灼熱の両手がルカルカに掴みかかる。
 相手の動きを見極めるように集中したルカルカは、熱気を放つ手を身を捩ってかわし、がら空きになった脇腹へ体重ごと勢いをつけて剣を突き立てた。
 この程度じゃこいつは倒せない、と踏んだルカルカはさらに押し込んだ。
 グラリ、と番長の体が揺れ──。
「ルカルカ!」
 崖から落ちていくルカルカに手を伸ばすダリル。
 手は掴んだがダリル自身も空に舞う。
 ダリルは少しでも衝撃をやわらげようと、ルカルカをしっかりと抱き込んだ。
 番長はもうだいぶ下にいた。
「ルカルカ。お前は……どこに落ちたい?」
 答える頃には大飛沫の日本海が待ち受けていた。

 細く伸びるわずかな浜辺でカルキノスは海を眺めていた。
 傍にはびしょ濡れのルカルカとダリル。
 助けた時には気を失っていた。水は飲んでいないようだ。
「戦争がなくなりますようにとでも、祈っとくかな」
 カルキノスの呟きは、波の音にさらわれていった。

 《秋の二時間スペシャルドラマ 決闘! 越前ガニ番長、東尋坊に散る!》完!

ミツエ陣福井県制覇!

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 長ランの背に金の龍を背負うは石川県の金箔番長。龍のバックには吹雪のように銀箔が散らされており、とにかく派手だ。方向性は違うが薔薇の学舎の校長といい勝負かもしれない。反射度なら金箔番長が上か。
 その番長を、マリア・ペドロサ(まりあ・ぺどろさ)がランスを振り回して挑発していた。
「あなたなんか金箔のようにペラッペラにしてあげるわ!」
「てめぇ、金箔なめんなよ! 知ってるか? もっとも利用される金箔は四号色と言う規格だ! そいつは金94.43%、銀4.9%、銅0.66%を厚さ0.0001ミリメートルに伸ばしたものだ! つまり、1立方センチメートルの金からは……」
「ちょっ、ちょっと待って。金箔の薀蓄はいいけど携帯見ながら言われても凄くも何ともないのよ!」
 マリアのこの言葉は、金箔番長には何故か痛恨の一撃だった。
 続く言葉を失い、ただ口をパクパクさせている。
 こんな間抜けが繰り広げられているのは、日本三名園の一つ、兼六園の霞が池を臨める場所だったりする。観光客の視線が痛い。
 しかしこれはシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)にとっては絶好のチャンスだった。
「次からは、暗記してくるんだな!」
 カルスノウトで一気に片をつける、と地を蹴り距離を詰めるシルバ。
 ハッとした金箔番長は振り下ろされる剣を懐から出した黒い何かで受け止めた。
 それは。
「輪島塗爆弾!」
 マリアがこうしてうまく足止めしてくれるまで、シルバ達をまったく近寄らせなかった金箔番長の必殺アイテムだった。
 その爆弾の半ばまでシルバの剣は食い込んでいた。
「……大丈夫なのか、それ」
「たぶんな。ハ、ハハハ……」
 番長とて、爆弾で剣を受け止めたことなど初めてだ。どうなるかなど想像もできない。
 シルバも番長も緊張した面持ちで輪島塗爆弾を見つめたが、特に何かが起こる様子はない。
 同時に二人が安堵の息を吐いた時。
 パシッ、と小さく乾いた音が鳴った。
 直後、目の前がカッと光り爆音と爆風にシルバもマリアも金箔番長も、もみくちゃにされて吹き飛ばされた。
 カルスノウトの何かが爆弾と反応したのだろう。それ以外に考えられないが、詳しいことはわからない。
 土煙が晴れるとむき出しの地面には三人分の死体が──。
「か、勝手に殺すなよ……っ」
「あら、それはいけませんね」
 自分の爆弾にはそれなりに耐性があったのか、ボロボロになりながらも立ち上がろうとする番長の前に、大人びた雰囲気の美しい女性が立った。
 憂いを帯びた表情に、金箔番長は思わず見惚れた。
 が、一呼吸のちには驚愕の表情に変わる。
「シルバ、マリア、仇は討ちますよ」
 勢い良く振り上げられるホーリーメイス。
 戦いとは無縁にしか見えない細い腕のどこにそんな力があるというのか。
「金箔のようにペラペラにして差し上げます」
 マリアも言っていたことを実行する雨宮 夏希(あまみや・なつき)
 ちなみに作戦を考えたのはシルバ。『本物の金箔のようにぺらぺらにしてやるぜ作戦』である。
 ここまで「ぺらぺらにしてやる」と言われてしまえば、きっともうこれは運命だったのだ。
 金箔番長が果たしてどこまでぺらぺらになったのか、夏希と気がついたシルバとマリアしか知らない。

ミツエ陣石川県制覇!

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 こんにゃくは秋に掘り返し、翌春に植え直すらしい。
 が、今はそれはどうでもいい。
 群馬県のこんにゃく畑を背景に明智 珠輝(あけち・たまき)は二人のパートナーに着替えを勧めていた。
「何で着替えるの? ていうか、ここで?」
「服、着替える? 強く、なる? わかった」
「騙されてる! 騙されてるぞポポガ! 修学旅行に来ただけなのに強くなる必要がどこにある!」
 ウキウキと着替えを始めるポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)に止めようとするリア・ヴェリー(りあ・べりー)
 その様子を楽しそうに眺めながら、やはり着替え出す珠輝。
 リアは諦めた。
 誰もいなくて良かったな、と着替えが終わってみれば。
 珠輝は緑の髪のツインテールに何だかサイバーな衣服、片手には下仁田ネギ。
 リアは頭頂部が一本に結われた金髪に何やらサイバーな半ズボン。
 ポポガは金髪ウィッグに白いリボンどことなくサイバーな半ズボン。
 わかる人にはわかる格好になっていた。
「この格好で観光を?」
「ふふ。そうですね、元気に番長観光といきましょう。ほら、来ましたよ」
 珠輝が示す方からやって来たのはこんにゃく……ではなく、こんにゃく色の長ランを羽織ったこんにゃく番長だった。
 気だるそうな歩を、約三メートルほどの間をあけて止めたこんにゃく番長。
「逃げずに来たのは褒めてやろう……」
 呟くように言った番長の視線はまるで不審なものを見るようなものだった。
 何もかもコスプレのせいなのだが、そんなこと珠輝は気にしない。
 妖艶な微笑みをこんにゃく番長に返す。
「こんにゃくにはいろんな意味でずいぶんお世話になっていますので、あなたには負けませんよ。ふふ……!」
「何だかさっぱりわからないが、挑まれたからには受けて立つ! こんにゃくは……食べるだけじゃないんだぜ!」
 こんにゃくゼリー固め!
 珠輝の視界がこんにゃく色に染まる!
「珠輝っ」
 珠輝は頭だけ残して他はすべてこんにゃくゼリーに包まれていた。
 何がどうしてこうなったのか、まったく悟らせない恐ろしい技である。
 リアがオロオロと慌てているが、珠輝は平然としたものだった。むしろ楽しげでさえある。
「リア、ポポガ、ゼリーは好きですか?」
「食べ物、美味い、好き」
「ゼリー? そりゃあ食べ物は好きだけど……!」
 リアは珠輝が言いたいことに気づいた。気づきたくなかったが気づいてしまった。
「さあ、お食べなさい。ふふ。こんにゃく番長、この二人がこのゼリーを食べ尽くした時があなたの敗北の時です。ふふ……!」
「馬鹿か! そうなる前に三人まとめて沈めてやるよ!」
「ポポガ、掃除!」
 珠輝の命によりポポガはゼリーはひとまず置いておき、番長の相手に回る。その間にリアがゼリーを食べるのだが……。
「味はいいけど複雑な気持ちだよ、珠輝」
「ゼリー、食べる」
 番長をハタキであしらいながら、こんにゃくゼリーを鷲掴みにして食べるポポガ。
 その間、珠輝は怪しく笑っているだけ。
 番長のこめかみに青筋が立った。
 その時、リアが珠輝にパワーブレスをかけた。
「さあ、約束です」
 動けるようになった珠輝が下仁田ネギを振り上げる。このネギ、芯はランスだったりする。
「ふ、ふふ。くふ、ふふふ、ふはははははははははああぁあッ!!!」
 気でも狂ったような勢いでネギランスで殴りかかる珠輝に、こんにゃく番長の背筋に悪寒が走った。
 目がイッてる!
 番長が相手にするのは、だいたいが正常人である。
 やたらと痛いネギで打たれながら番長は、しかしどうやって大人しくさせようかと作戦を練りながら応戦していた。
 が、その迷いがいけなかった。
 ふと、珠輝が視界から消えたかと思った直後、真後ろで声がした。
「風邪をひいた時には尻にネギですよ……!」
 こんにゃく畑にこんにゃく番長の最初で最後の悲鳴が響き渡った。

 尻からネギを生やした番長の傍らで、呆れ顔で珠輝をヒールで癒すリア。戦闘中もヒールやパワーブレスでサポートしていたので、そういう意味では疲れていたが、それ以外の疲労の割合の方が圧倒的だった。
 うつろな目でもう一度ヒール。
「リア、元気、出す」
 無邪気なポポガがリアを励まそうと頬に優しくアリスキッスをすると、ようやくリアの目に生気が戻った。
 リアはポポガを見て、くすぐったそうに小さくお礼を言った。
 風邪をひいた時は、尻にネギではなく首にネギを巻くのだということに気づくのは、もう少し先のこと。
 もっとも、こんにゃく番長は風邪などひいていなかったのだが。

ミツエ陣群馬県制覇!