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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

リアクション

「ルカルカ! グライダー部隊だ!」
 後方のカルキノスの声にハッと空へ目をやるルカルカ。
「ダリル、行って」
 ダリルは頷いてそこから去っていく。
 火炎瓶や火矢の応酬であちこちが燃えて煙や何かが焼けるにおいが立ち始めている。
 ダリルの向かう先には、エレキギターを抱えた赤毛の三つ編の女がいた。

「グライダー部隊への攻撃はワタシの合図に従うであります!」
 チューリップのゆる族であるトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)の声に、エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)をはじめ、対グライダー部隊の面々が応と返す。
 軽く調律をするエレーナの傍に星輝銃を持ったダリルが立った。
「援護する」
「よろしくお願いします」
 エレーナにはかすり傷一つ負わせない、とダリルは決心した。
 やがて、接近してきたグライダー部隊のハッチが開き、搭乗者が上半身を乗り出した。
「今であります!」
 空へ向けて機関銃を撃ち始めるトゥルペに続き、エレキギターをかき鳴らして雷撃を降らせるエレーナ。
 ガイウスは分校整備の際にたまった大きめの石を、次々とグライダーに投げつけた。
 緋月・西園(ひづき・にしぞの)イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)も雷術でグライダーを破損させていく。
 それでも、火炎瓶や手榴弾が雨のように降り注いできた。
 玲の身を案じて振り返ったイルマに孫権が叫ぶ。
「よそ見するな! こっちは任せろ!」
 休憩を終えた玲達や劉備が消火活動にあたっていた。
 それでもやはり玲が心配で、イルマは彼女の傍に駆け寄った。そして、そこからグライダー部隊を迎撃する。
 その時放った雷術が見事に一機のグライダーを破壊し、イルマは玲に向けてほわっと笑った。
「悪しき魂は成敗! どすなぁ」
「後でおいしいお茶を淹れましょう」
 会話はのほほんとしているが、玲の手は的確に動いていた。
 トゥルペの合図もまた的確で、分校内の被害は最小限に抑えられたといってもいいだろう。
 たまたまエレーナの真上に落ちてきた手榴弾は、ダリルの星輝銃から撃ち出されたエネルギー弾で破壊し、ダリル自身が盾になって余波からエレーナを守った。
 一方緋月は、多少の火傷も気にせず、むしろ傷を負うごとに好戦的になって魔法を放っていた。
 その危なっかしさに、消火に勤しんでいたはずの劉備が思わず止めに入ったほどだ。
「前に出すぎてはダメであります! グライダー部隊はまだ終わりではありません!」
 トゥルペの飛ばした注意に、少しずつ前進していた彼らは我に返って後退した。

 空爆に加え、地上部隊の攻撃も凌いでいる分校生達の戦いを悲しげに見やり、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は携帯のボタンを押した。
「……この間、砕音先生と一緒にみんなが手伝いに行ってたパラ実のイリヤ分校ってところがあるじゃないですか」
 歩は電話の向こうの人物に、精一杯さりげなさを装って話す。戦闘音が聞こえないよう、校舎内にいる。
「どうも最近、ヘンな噂があるんですよね。あそこの授業は良い社会勉強になりますし、できれば続けていきたいんですが……パラ実の生徒会長があの近くにいるって話ですし、ちょっと通いにくいです」
 遠まわしに、対応をシャンバラ教導団に頼めないかという話だ。
 けれど、千石 朱鷺(せんごく・とき)と同様、今の教導団は他校の揉め事にまで手を伸ばす余裕はなく、もちろん救援部隊として白百合団が動く余裕もないと告げられた。
「けれど……」
 と、ラズィーヤは笑みを含んだ声で続ける。
「劉備さんが関羽さんへ援護を要請すれば、動くかもしれませんわね。それか、教導団の背後にいる中国国家主席から要請を受けるか……」
 ──きっと、彼女には自分がどこにいるかバレている。
 歩は苦笑して通話の切れた携帯をポケットに戻した。
 ゆっくりと校舎の外に出て、怪我人をレオポルディナのもとへ運んでいる劉備を見る。
 ラズィーヤの助言を実行しようとして、ふとミツエを思い出した。
 ミツエと金鋭鋒は仲が悪い。嫌、ミツエが一方的に軽蔑しているというのが正しい。
 もし歩の頼みを聞いて劉備が関羽へ助けを求めたら、ミツエと劉備の関係にヒビが入るのではないか?
「うぅ〜」
 歩は頭を抱えた。
 しかし、歩はこの分校を守りたかった。
「劉備さん、ミツエさんと仲が悪くなったら、あたしがとりなすから……!」
 歩は決意して劉備のもとへ向かった。

 グライダー部隊の襲撃で手傷を負った夏侯淵を無理矢理後ろに連れ戻し、手当てを頼んだ曹操が何か飲み物でも持って淵を休ませようと思い校舎のほうへ向かうと、長い金髪を揺らせて女が小走りにやって来た。
 彼女は曹操の前で足を止めると、とたんにもじもじしながら小さく「あの……」と呟く。
「どうした? 無防備にウロウロしていると危ないぞ」
「ごめんなさいっ。あの、これっ、これを受け取ってくださいっ。で、できれば、一人の時に開けてください。それでは……!」
 ギュッと後ろ手に持っていた、綺麗にラッピングされた箱を曹操に押し付けると、彼女は顔を真っ赤にして駆け去っていってしまった。
 箱を見つめた曹操は、ハッピー・バレンタインとシールに英語で文字が綴られているのに気づき、ふむ、と頷く。
 けれどすぐに前線からおろされて不満顔の淵を思い出し、校舎へ向かった。
「あの娘には申し訳ないが……」
 曹操は呟くとチョコレートの箱を棚へ置き、ペットボトルを持って外に出たのだった。
 この状況で、初対面の相手からもらった食べ物を口にすることはできなかった。
 万が一、毒でも入っていて倒れればミツエにも被害がおよぶのだから。
 曹操のそんな警戒心など知らない葛葉 明(くずのは・めい)は、校舎であるピラミッドのてっぺんで、チョコレートを渡すよう頼んだシェリル・メラク(しぇりる・めらく)は無事に三人の英霊に会えただろうかと思いを巡らせた。