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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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金剛襲撃


 イリヤ分校が本格的に襲撃を受けている頃、移動生徒会室金剛に攻撃を仕掛けようとしている者がいた。
 険しい岩場の下方に金剛はあった。
 金剛を牽く巨獣は物語の中に出てくる凶暴な巨獣ビヒモスに似た外見をしていた。体長五百メートルほどのそれと空母を鎖に繋いで移動しているのだ。
「空母に車輪がついてる。御者、いないんだ……」
 どうやって行く先とか命令してんのかな、と夏野 夢見(なつの・ゆめみ)は疑問を覚えたが答えてくれる者はここにはいない。
 金剛の甲板に見張りの姿もないのがさらに疑問だ。
 それなら、と夢見は身を隠している岩場から銃の照準を巨獣の頭に合わせてのぞかせた。
「こんなライフル弾じゃ蚊に刺された程度にもならなさそうだけど」
 暴れて空母の中がめちゃくちゃになるとか、と淡い期待を抱き夢見はスナイパーライフルの引き金をひいた。
「……ああ、うん。やっぱりね」
 数発撃ち込んだが巨獣はまったく気づいていないようだ。
 悔しいというより呆れるしかない。
 だが、その行為に気づいた者はいた。
 昼寝でもしてさぼっていた見張りだろう者が、甲板から顔をのぞかせてキョロキョロしている。
 夢見がいるところは金剛を見下ろす位置で、賞金稼ぎっぽいモヒカンに「賞金首の通報しに来た」と言ったら案内してくれたのだ。最初は訝しげにしていた彼も、夢見が「北方みのり」だと名前を告げ、賞金首が屯していたところを適当に教えるとここへ連れて来てくれたというわけだ。今頃は居もしない場所へ走っているだろう。
 夢見は狙撃の際、見つからないようにベージュ尽くめの服装にベージュの被り布をかぶり、銃もベージュの塗料を塗るというほどに念を入れていた。
 それでも自身が賞金首だという自覚のある夢見は、見つかる前にさっさと引き返すことにした。
「ミニマジケ、どうなってるかな」
 夢見はそのイベントに出るサークルに、三国志ゲームのBL同人誌を委託していた。ちなみに曹操が誘い受けである。


 見張りをさぼっていたパラ実生は、二機のグライダーが帰還したのを見た。
 反撃にあって負傷したので戻ると連絡のあった二機のはずだ。
 怪我をしているなら人手がいるかと思い、彼は停まったグライダーのハッチの前に出た。
 そして、中から怪我人が出てきたところで彼の記憶は途切れた。

 グライダーから出てきたのはカーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)で、別の機体からはエリザベート・バートリー(えりざべーと・ばーとりー)が降りた。
 二人は目配せしあい、艦内への鉄扉へ向かう。
 侵入者の想定はしていなかったのか鍵をかけ忘れたのか、カーシュがピッキングの技を披露するまでもなく扉は開いた。
 角、くぼみ、甲冑の置物などを利用して進むカーシュの後に続くエリザベート。
 カーシュは最初の目的地であるトイレを目指す。
「我慢できませんの?」
「黙っとけ」
 時折こんなやり取りをしながら運良く見つけたトイレの個室に、カーシュは手早く釘爆弾を仕掛けていった。
 それから十数分後、艦内に数箇所あるトイレのいくつかで爆発音と悲鳴があがり、別の場所で火の手と銃撃音が響いた。
「賞金首だァ? ふざけやがって。安すぎんだろボケ!」
 角から半身を出してパラ実生をアーミーショットガンで倒すカーシュ。
 侵入者だ、と叫びながら発砲した弾丸がカーシュの頬を掠め、血が吹き出る。
「あなた達の下品な血など興味ありませんが……」
 不気味に微笑むとエリザベートはヒロイックアサルト『鉄の処女』を発動させた。
 かつての残酷な拷問器具に捕らえられ、血まみれになって吐き出されるパラ実生達。
 しかし、そんな彼女も何回か氷の礫を浴びたりしている。
 二人はここで捕まっても構わない覚悟で乗り込んでいた。

 お人形とおもちゃの車。どちらもエリザベートが持っていたものだ。
 それらと気絶している敵兵を見て、ハルトビート・ファーラミア(はるとびーと・ふぁーらみあ)は間に合わなかったかと肩を落とした。
 怪我を心配され分校に残された彼女だが、どうしてもカーシュが気になって追いかけてきたのだ。
 ここからは見えないが、この先険しくなっていく岩場のどこかに金剛があるのだろうと思ったハルトビートは、乗ってきた軍用バイクを再び走らせカーシュを助けに向かうのだった。