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リアクション
アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)がバズラ・キマクに紹介した司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)の献策により、持久戦を始めた生徒会側だったが、そろそろ我慢の限界が近づいてきていた。
もともと血の気の多い連中である。我慢して戦えというのは無理があった。
その証拠に。
「おいおい、ここはいつから教導になったんだ? いつまでこんな後ろでじっとしてりゃいいんだよ!」
と、ジャタ森から加勢に来たという馬賊の一家が不満の声を盛大に上げている。
それに触発されたのか、あちこちがざわつき始めた。
その傍では同じ一家のラジー・ソルデスがしょんぼりと肩を落とし、
「お腹すいたー、退屈ー、お腹すいたー」
と、うっとうしい言葉を繰り返していた。
そのうちに最初に不満をたれたフル・ソルデスという者に、うるさいと拳骨をもらいさらに騒ぎ出す。
そうかと思えば暇を持て余したフルと同じ一家のアリ・ソルデスは、部隊の小隊長に、
「快く隊に加えてくれたお礼ですわ。もちろん本当のお礼は戦場でお返ししますけれど」
と、愛想と色気をふりまいていた。
規律の緩いパラ実生の集まりだ、アリの周りはとたんに華やいだ。
「ふふ。チョコはまだありますわよ。焦らないで」
こうして後方から乱れは広がっていった。
焦れているのは何も生徒会側だけではない。
いつまでも続く小競り合いに、分校側も苛立っていた。
飛び出さないのはミツエの英霊が防衛に徹していることと、ガイウスが必死で抑えているからだ。
「もうっ、じれったいのよ!」
とうとうバズラ・キマクのイライラも頂点に達した時。
分校のバリケードの前にスパイクバイクに乗ったミツエが姿を現した。
バズラの目が驚きと歓喜に見開かれる。
分校を潰し、ミツエとその仲間を一気に捕らえるチャンスだ。
直後、軍のあちこちから「賞金首情報だ!」という声が上がった。
「おい! 姫宮 和希(ひめみや・かずき)とエル・ウィンド(える・うぃんど)だぜ! 姫宮和希はのぞき部部室に潜伏中で、エル・ウィンドはイルミンの和食処で呑気にメシ食ってるってよ!」
一番騒いでいたのはソルデス一家の最後の一人、ミセリャ・ソルデスだった。暇を持て余して携帯で賞金首情報サイトを開いていたら見つけたのだ。
「油断しすぎもいいトコだ、ちょっくら行ってとっ捕まえてこようぜ! どうせミツエはバズラ様が捕まえてくれるさ!」
と、周りを誘っている。
軍が分裂しそうな気配を悟ったバズラは、そうなる前に分校へ突撃を仕掛けることにした。そうするしかなかったというべきか。長い待機時間に募ったうずきは、爆発寸前だ。
司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)がため息をついた時、バズラの騎馬隊は津波のように分校へ襲い掛かった。
隊の前の方が戦闘を始めた少し後、隠れていたのだろう分校側の者が両側面から攻撃をしてきた。
バズラ騎馬隊の後方にいたミセリャはニヤリとすると、
「危ない!」
切羽詰った声を上げて小隊長に向けて火術を放った。
自慢のモヒカンを台無しにされた小隊長は、頭頂部を火傷で赤くさせて鬼のような形相で振り向く。
「誰だコラァ!」
「敵襲だよー! 小隊長を守るー!」
「あぶねぇ! 守ってねぇよ!」
ラジーがブンブンと振り回すライトブレードをギリギリでかわす小隊長。
また、別のところではアリが一人の小隊長の馬に共に乗り、必要以上にくっついてキュアポイズンをかけていた。
「まさか傷んでいたチョコがあるなんて……ごめんなさい。わたくしが責任持って治しますわ」
「アリちゃん! オレも腹いてぇ!」
「お前ばっかりずるいぞ! 絶対仮病だろ!」
「アリ、こっちのバイクのほうが気持ちいいぜ!」
愛想と色気で小隊長や他の兵隊をすっかり虜にしていたアリの周りは、もう仲間割れ寸前だ。
とどめは側面からの攻撃にソルデス一家で最初に巻き込まれたフルで、
「敵の首はあたしがもらう!」
と、威勢良く叫びながらチェインスマイトを味方も巻き込んで放っていた。
「このノーコンが!」
どこからか罵声が飛んでくるがフルの耳には届いていないようだ。
元気のあり余った、おそろいのモヒカンのソルデス一家は味方を混乱に叩き落しながら分校へ雪崩れ込んでいくのであった。
こうして一万人近くにふくれあがっていたバズラ騎馬隊の後方部隊は、ほとんど機能しなくなった。
最後までお騒がせなソルデス一家の正体は、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)、フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)、ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)そしてアルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)なのだが、この戦いが終わる頃には四人はしっかりと抜け出し難を逃れていたりする。
ソルデス一家が行動を始めるきっかけとなった両側面からの攻撃を仕掛けてきたのは、水橋 エリス(みずばし・えりす)と夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)とリョフ・アシャンティ(りょふ・あしゃんてぃ)の二組だった。
ほぼ同時に仕掛けてきた二組だが、綿密な作戦の上の息の合った同時攻撃……ではなかった。
共闘関係を結んだが、夏候惇とリョフは仲が悪い。夏候惇が一方的に敵視していると言ったほうが正しいが。
そんなわけで。
「他の誰に負けてもかまわぬ! だが、あやつには負けぬ!」
持てる剣技の全てを駆使して剣で敵騎馬兵を斬り伏せていく夏候惇の暴れっぷりに、エリスは、
「元譲さん、少し気を静めてください!」
と、呼びかけたがまるで聞こえていなかった。
空飛ぶ箒で夏候惇を追うエリスは、仕方がないとため息をつくと、せめて彼女の背は守ろうと得意の魔法で援護をするのであった。
その代わり、後で一言いっておこうと心に決めた。
そんな二人の姿は見えないが、闘気は感じたリョフも心を躍らせてヒロイックアサルトで召喚した『纏卦武槍』という矛を自在に振り回していた。
だが、ふと何か名案を思いついたような顔をすると、
「元譲まで届けー!」
空気さえも切り裂くような速さと力で矛を薙ぎ、それは真空波を生み出した。纏卦武槍による『天下無双』という技だ。
クルードが気づいた時は手遅れだった。
「リョフ……味方に攻撃するなとあれほど……」
「してないよ! ちゃんと敵に攻撃したもん」
「……先ほど言ったことを……もう一度言ってみろ……」
「敵の向こうまで届けー!」
しれっと言ったリョフに、クルードは頭を抱えたくなった。
少しして。
「私を盲夏候と呼ぶ者は誰だ! その首、切り落としてくれる!」
「誰も言ってませんから!」
敵騎馬兵の向こうからエリスと夏候惇のこんなやり取りが聞こえてきた。
「……行くぞ、リョフ……」
クルードはいろいろと諦め、併走する敵に集中することにした。
「【閃光の銀狼】の爪牙……見せてやろう……その身に刻め!」
八つ当たりが入っていたかどうかはわからないが、クルードの剣技は敵でさえ思わず見惚れてしまうほどに冴えていた。
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