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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

リアクション

「お前がバズラ・キマクか!」
 探し物がまだ見つからないバズラの前に、またしても挑んでくる者が現れた。
 面倒くさそうに振り向いたバズラの眼前に切っ先が迫る。
 バズラはとっさに剣で弾いた。視界を銀色にきらめく長い髪が横切っていく。
 バイクをターンさせて止まったイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が、高周波ブレードをバズラへ向けていた。
「お前を倒すまでの短い間だけ見知り置き願おう、イリーナ・セルベリアだ」
「相手にしてる暇はないよ。五果将、そこにいるね? 頼んだよ!」
 誰もいないように見えたバズラの周囲に、一瞬だけ果物のゆる族の姿が浮かぶ。カリンを止めてから追いついてきたのだ。
 待て、というイリーナを無視してバズラは馬を走らせた。
 追いかけようとしたイリーナだが、囲まれた気配に反射的に足を止めた。
「止められると思うなよ!」
 とは言うものの、見えない相手との戦いは不利だ。
 足音や気配を頼りに剣を振るうが、ほとんど手応えは得られない。
 どう対処しようかと表情を険しくさせた時、けたたましいバイクの音が急接近してきて、イリーナの周囲をかき回した。
 新手の敵かと思ったが、それはガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)達四人と集めてきた同士達だった。
 いくら光学迷彩で隠れていても、これには手を出すことはできずに、
「引くわよ!」
 と、見えないどこかからの声と共に五果将の気配は遠ざかっていった。
 バイクを止めたガートルードが、バズラの居場所をイリーナに尋ねた。
「向こうへ行ったが、何かを探しているようだった。私も行こう」
 イリーナとハーレック一家はバズラを探しにバイクを進ませた。
 そうしてようやく見つけたバズラと、しばらく追いかけっこをするのだった。


 バズラが予想外の鬼ごっこをさせられている頃、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)国頭 武尊(くにがみ・たける)が睨み合っていた。
 ラルクがここに駆けつけた時、校舎周辺の警護に当たっていた分校生達はすでに倒れていた。
 ピリッと肌を刺すような感覚に、毒性の攻撃でも受けたかとラルクは推測する。
 それは当たっていて、バズラ騎馬隊と共に乗り込んできた武尊はまっすぐ拠点であるピラミッド校舎を目指した。
 そして、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)の『毒虫の群』と猫井 又吉(ねこい・またきち)のアシッドミストであっという間に校舎前の壁を消してしまった。
 二人は今、校舎の破壊に取り掛かっている。
 シーリルの操る六体のゴーレムを横目に、ラルクが舌打ちする。
「自分が何やってんのかわかってんのか……?」
「オレは正気だぜ」
 無表情に言った武尊にラルクの苛立ちが募る。
 ルカルカ達と主に行動を共にしている曹操に、ラルクは心の中で無事を祈った。
 戦闘になる前に交換したメールアドレスを使う機会はあるだろうかと、ふと思う。
「武尊! 早くこっちを手伝え!」
 校舎への攻撃を知った分校生が次々集まってきてゴーレムやその主のシーリルに集中攻撃を始めている。又吉一人ではシーリルの護衛の手が回りきらないかもしれない。
 とはいえ、武尊の相手のラルクは簡単に倒れてくれるわけもなく。それはラルクにも言えることだったが。
 武尊の剣に対し拳で対応するラルク。
 味方と思っていた者の裏切りにラルクは怒りを抑えられなくなっていた。ドラゴンアーツに身体強化のヒロイックアサルトを上乗せした破壊力で武尊の急所をためらいなく狙う。
 一方武尊もラルクの攻撃を受け流し、かわし、足を狙ったり時には喉へ切っ先を突き出したりと手加減はない。
 自分は正気だと言った武尊は本当に正気だった。正気だったために心の中はひどく荒れていた。どうしてこんなことになったのかと考え込むと、剣が鈍りそうになってしまう。
「君に守りたいものがあるように、オレにも大事にしたいものがあるんだよ!」
 迷いを断ち切るように武尊はラルクの拳に突き刺すように剣を繰り出した。
 剣は、とっさに拳の軌道を変えたラルクの腕をかすっていき、わずかに鮮血が飛ぶ。
 ラルクは踏み込んだ足にさらに力を込めると、武尊の側面へ蹴りを叩き込んだ。
「……そうかよ」
 ラルクの冷えた声は、必死に表に出さないようにしている武尊の苦悩を引きずり出すかのようだった。

 破壊音と振動に、眠りこけていたエル・ウィンド(える・うぃんど)は飛び起きた。
 何事かと外に飛び出すと、ゴーレムがドカーン、ボカーンと校舎を破壊しているではないか。
「な、何をしているんだ!」
 すぐさまゴーレムを引き剥がしに行こうとした時、唸るような声で名を呼ばれた。
「てめぇ……エル・ウィンドだな……?」
 ゆらり、とまるで幽鬼のようにそこにいたのは、トゲトゲショルダーに悪魔のような角の何者か。うつむいているので顔はわからない。
「い、いや、違うぞ。ボクは」
「いいや、エル・ウィンドだ。ずいぶん地味に変装してるが……においがする」
「におい!?」
 思わず腕のあたりのにおいを嗅ぐエル。
「てめぇを突き出して……エレキを手に入れる……!」
 突如、顔をあげた不審人物が狂気の表情でエルに迫った。
 何をされたのか、エルの絶叫が響き渡った。
 気絶したエルを仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)が担ぎ上げた時、ギャアギャア騒ぎながらネズミ公爵 マルチ(ねずみこうしゃく・まるち)が転がるように駆けてきた。
 マルチの後ろからエルの契約者であるホワイトとギルガメシュが追いかけてきている。足止めをしていたのだが二人相手はきつかったのか、明彦が思っている以上に来るのが早かった。
「桐生ひなはここにはおらん!」
「何ィ!?」
「ひとまず逃げるぞ」
 二人は激化してきた戦場へ駆け込んだ。
「一人分で1万G……エレキにはちと足りんな」
 マルチの呟きは銃撃音にかき消された。