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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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 バズラ騎馬隊には、これまでのようにミツエ側の者達が混じったりもしていたが、別口の人物も紛れ込んでいた。
 残虐憲兵青木である。
 青木は分校内のどこかにいる三人の英霊の命を狙っていた。
 捕らえろという命令だったのだが、自らの力の誇示にこだわる彼は殺すことで強さを証明できると信じている。
 S級四天王の地位を得る条件から外れていることにも気づいていない。
 青木はまず初めに曹操を見つけた。が、ルカルカ達がしっかり護衛についている。
 次に劉備を見つけたが、こちらは張飛が片時も離れない。
 そして孫権。
「よし……」
 凶暴な笑みを浮かべ、青木は試作型星槍を握り締めた。
 分校のパラ実生と戦っている孫権の背後に回り込むように、慎重に歩を進める。
 この時青木は孫権に気を取られるあまり、周囲への注意が散漫になっていた。
「そこにいたか青木!」
 大声で名前を呼ばれ、ビクッとして声のしたほうを振り向くと、怒りの形相の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が立っていた。
「てめぇ、この前はよくもオレとガイアの勝負を邪魔してくれたなァ!」
 竜司は、青木が卑怯な手でガイアを倒したことに怒っているわけではない。一対一の勝負に横槍を入れられたことが我慢ならなかった。
「しかも、賞金首だと? そんなにこのオレが怖いか!」
「きさまが怖いですって? 笑わせてくれますね」
「それなら、オレとサシで戦え」
 青木はちらりと孫権を気にしたが、竜司を先に血祭りにあげてやろうと付き合うことにした。
 決闘の場所は前もってアイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)が用意していた。
 アインは青木の居場所を見つけるために、光学迷彩で姿を隠して敵陣で聞き耳を立てたり、キマク周辺のバーまで出向いて情報収集をしたりと、あちこちを奔走していた。
 そんな献身的な彼が、実は竜司を生徒会へ売り飛ばそうとしていたのは内緒である。
 携帯を取り出して連絡する直前までいったが、パートナーである竜司にもしものことがあったら自分の身も危なくなるということを思い出し、踏み止まったのだ。
 身が滅んでは夢を叶えることもできない。
 竜司と青木は決闘場で間合いを取り、武器を手に向き合った。
「ガイアと同じように息の根を止めてあげますよ!」
「あいつがてめぇ程度に殺られるわけねぇだろ!」
 青木の突きを受け流す竜司。そして、その力の流れのままに体を回転させて血煙爪で青木を切り刻もうとするが、彼はしゃがんでそれをかわした。

 竜司と同じく青木を狙っていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、離れたところでの二人の戦いに気づくと、ダリル、カルキノス、夏侯淵に連絡をとってすぐに駆けつけた。
 竜司に加勢しようとしたが、アインに止められる。
「邪魔しないでくれますかな」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「集団での戦いを得意とするおぬしらわからないかもしれませんが、わしらはサシの勝負を大事にするのですよ」
 パートナーを売ろうとしていた者の言うセリフではないが、そのことはルカルカは知らないので、今は見守ることしかできなかった。
「彼が倒れたら手出しするから」
「お好きにどうぞ」
 竜司は善戦していたが劣勢だった。
 試作型星槍を先に破壊してしまおうと、青木の攻撃の隙を突いてチェインスマイトを繰り出すが、なかなかうまく当たらずかすり傷くらいしか与えることができなかった。
 ほんの少しの間にどうやったのか青木は飛躍的にパワーアップしていた。
 とっさに竜司は光精の指輪で目くらましをかけようとしたが、指輪がまばゆい光を発した直後に青木の槍に肩を貫かれていた。
「目くらましくらいでは、止められませんよ」
 とうとう、ルカルカ達は飛び出した。
 今度はアインは止めなかった。
 青木の配下も乱入してくるが、そちらには罠が仕掛けられており地中から飛び出した狩猟用罠にかかっていき、ほとんどがその場にくず折れた。
 それなりの実力者である竜司を倒したことで、ルカルカ達四人を余裕の笑みで迎えた青木だったが、そのわずかな自惚れが命取りになった。
 彼女達が同等レベルの者だと気づいた時には、武器を手から弾き飛ばされ、利き腕は氷づけにされ、矢と魔法で足は使えなくなった。
 自爆でもされたら厄介だからと、さっさと気絶せると青木を縄で縛り上げる。
「どこか遠くに繋げておくよ」
 ルカルカはアインに告げると、カルキノスが青木を引きずり四人は去っていった。
 アインもさすがにここに竜司を放置はできず、校舎まで運ぶことにした。


 竜司と青木が決闘していた頃、ヴォルフガング・モーツァルト(う゛ぉるふがんぐ・もーつぁると)は村のとあるところにいた。ここは戦場からは距離がある。まだ安全だ。
 ガイアはふつうの家には入れないので、通りに村人がかき集めてきた藁の上に横たわっている。
 彼女は竜司からの手紙を読んでいる。
 そこには、決闘のやり直しと一緒に野球をやろうということ、改造科による再手術を勧めることが書かれていた。
「昔、少年野球をやっていたらしくて、またやりたくなったそうです」
「そうか……」
 これといった返答はなかったが、不快に思ったわけではないことはヴォルフガングに伝わった。
 しばらくして、そういえばとガイアが口を開く。
「ここの生徒会長も、そんなことを言っていたな。姫宮といったか。波羅蜜多タイタンズナインの……」

 その生徒会長姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、ミツエの変装でさんざんパラ実生徒会の騎馬隊を引っ掻き回した後、いったん分校に戻ってきていた。
 バズラ達の侵入を許しているため、英霊達や非戦闘員を気にしたのだ。
 スパイクバイクを徐行運転させて見回っていると、どう頑張って見ても学生には見えない──もしかすると人間にも見えない者が和希を呼び止めた。
「ここにおられましたか。実は貴公に相談したいことがありましてな」
「いいけど、ここはちょっと危ないからあっちに行こうぜ」
 校舎の近くに場所を移すと、さっそく彼、楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)は話し始めた。
「唐突ですが、僕の経営する店『機人三原則』を分校のスポンサーにさせていただけないでしょうか?」
「は? ちょ、ちょっと待て、今それどころじゃ」
「こちらが試食品です」
 先ほどから何を抱えているのかと思えば、ナプキンを取られた銀盆の上には小皿に盛り付けられたカレーライスがあった。
「こちらが条件となります。貴公らには当店の新メニュー『乙(ゼット)カレー』の開発に協力していただきます! 乙(ゼット)カレーとは、具財にパラミタトウモロコシを使用した激辛カレーです。ルーには体力回復効果のあるみかんを溶かしているので、その効果を得られる可能性があります。どうです?」
「どうですって言われても……んぐっ!?」
 まずは食べてみてください、とカレーをスプーンですくって和希の口に突っ込むフロンティーガー。
 反射的に咀嚼して飲み込んだ和希は……。
「かれぇ!!」
 口から火を噴くような辛さに涙をにじませた。
 が、何となく疲れがとれたような気がする。
 しばらくヒーヒー言った後、和希はにじんだ涙をぬぐいながら言った。
「こんな状況だから何とも言えねぇけど、無事この戦いを凌いだらOKだ」
「それでけっこうです。ではその時は、ここで栽培したパラミタトウモロコシを使用させていただきましょう。もちろん、お店の売り上げの一部はこちらへ寄付いたします」
 和希が頷くと、フロンティーガーは試食品をもっと多くの人に広めるのと店の宣伝のために、その場を後にした。
 フロンティーガーは、怒号や剣戟を素知らぬ顔で通り過ぎ、一息入れている者、動けなくなって倒れている者、果ては青木や、校舎内のマゼンタ校長や非戦闘員、ガイアにヴォルフガングと敵味方問わず食べさせていった。
 辛さにのたうつ者、闘志がわく者……反応はさまざまだった。