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仮初めの日常

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仮初めの日常

リアクション

「みんな、たすけてくれて、ありがとうでした」
 一緒に研究所や闇組織拠点で戦った人達の元に近づくと、ヴァーナーは一人ひとりにぎゅっと抱きついていく。
「むむむ、まだケガが治ってない人いるですね? イタイのイタイのとんでけです♪」
 包帯を巻いている人の姿を見つけて、メジャーヒールで癒していく。怪我を隠している人の傷も一緒に。
「このケーキおいしいわ」
 クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)は、お皿に沢山スイーツを乗せて、ぱくぱくむしゃむしゃ食べていた。
「あま〜い♪」
 サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)は身長が小さいので、羽をはばたかせては、空からスイーツをとって口に入れていく。
「あのプリン、おいしそうね」
「プリン、プリン♪」
 サリスはリストバンドのスズを振って、会場に流れている曲に合わせて可愛らしい音を立てていく。
「はい、プリン」
「ありがと〜♪」
 クレシダはサリスと自分の分のプリンをとった後、持ってきた犬用の皿にお肉を乗せる。
「バフバフにはこのお肉よ」
 尻尾を振りながら、ペット犬のバフバフはお肉を食べていく。
「こっちのケーキがおいしいです〜、みんなでたべるですよ〜」
 ヴァーナーが班員として仕事を手伝ってくれた年少の百合園生達に声をかける。
「わーい」
「私も食べたいです」
「あ、でも数が足りません〜っ」
「あらあら、慌てなくても、向こうのテーブルにもたくさんありますわよ」
 すぐにセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が別のテーブルに向って、皿の上にケーキを沢山乗せて戻ってくる。
「なかなか美味しそうね」
「あたしも、あたしも〜♪」
 クレシダとサリスもすぐに飛びつく。
「落ち着いて食べるのですわ」
 セツカはケーキを2人の皿に乗せると、彼女達の頬をナプキンで拭ってあげる。
 生クリームや、菓子の屑がちょんちょんと柔らかなほっぺについていたのだ。
「ふふ、おいしいです〜」
 ヴァーナーもとても楽しみながらも……ちょっと気になることもあった。
「お疲れ様でした。お腹を壊さない範囲で召し上がって下さいね」
 そこに。
 鈴子が微笑みを浮かべながら、ヴァーナー達のテーブルへと近づいてきた。
「鈴子おねえちゃん……あの、ライナちゃんは分校にいるですか?」
 ヴァーナーはフォークを置いて、鈴子に問いかけた。
「ええ、向こうにハーフフェアリーの友達が来るかもしれないからと言っていましたわ」
「でも、もしかしたら、違うかもしれないです。分校は携帯電話つながらないから、鈴子おねえちゃんにようすをつたえるために向こうのパーティに出るっていったかもしれないです」
 ヴァーナーの言葉に、鈴子は少し驚きの表情を見せた。
「ライナちゃん、分校でずっとさみしいのがまんしておりこうさんだったです」
「そうです、ね……。また本当に小さな彼女にまで負担を強いてしまいましたわ」
「大スキな鈴子おねえちゃんのジャマにならないようにってとってもガマンしてたんです……今もそうかもしれないです」
 鈴子が忙しいということも解っていたけれど、だから今ならと思い、ヴァーナーは訴えていく。
「おつかれさまとかも、ライナちゃんに言ってあげてほしいです。ごほうびにいっしょにあそびにいったりしてあげてほしいです……」
「ライナちゃんともっといっしょにいてあげてなの……」
 サリスも手を止めて、鈴子にお願いをする。
「ありがとうございます。そう、ですね。仕事のことばかりで、自分の身の回りのことが疎かになっていたようです。パートナー達と過ごす時間も必要ですわよね」
「いそがしくてたいへんならせめていっしょにいてあげてほしいです」
「おねがいなの」
 ヴァーナーとサリスの言葉に、鈴子は深く頷いた。
「わかりました。今後はもっと一緒にいられるよう白百合団の活動についても、検討していきたいと思います」
「ありがとです」
 ヴァーナーとサリスは一緒にお礼を言って、ぺこりと頭を下げた。
「いいえこちらこそ、本当に感謝していますわ。もちろん、ライナにも」
 鈴子は丁寧にお辞儀をする。
 ヴァーナー達の話により、鈴子は自分の至らなさを深く反省した。
 寂しい思いをしていたのは、ライナだけではなく、ミルミもだ。
 ミルミには今、一緒にいてくれる大好きな友人がいるから落ち着いてはいるけれど。
 鈴子にしか与えられない愛情がある。ミルミはもう自立をしなければならない年齢とはいえ……。
 一緒に過ごす時間、甘える時間も必要なのだ。

「団長」
 皆の元を回る鈴子に、続いて冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が声をかけてきた。
 彼女は会場の警備をしている。特に命じられたわけではなく、あくまでさりげなく、だ。
 小夜子はこうしてよく、白百合団員として常に自主的に仕事をしていた。
 小夜子は自分に自信がない。
 何をすべきか迷ってしまうことも多々ある。
 だけれど、一連の事件を通じて、どこに力を貸すか、どのように動くか、自分で決定して動いた結果。
 少しは、百合園の期待に副えたのではないかと思うことが出来ていた。
 白百合団の基本方針は『盾』であることが多いけれど。
 『剣』もまた必要であり。
 小夜子は剣として、期待に応える為に動かねばならない……そんな気がしていた。
「闇組織本部襲撃の際はお疲れ様でした。ありがとうございます」
 そう声をかけた小夜子に、鈴子は微笑みを向ける。
「お礼を申し上げるのは私の方です」
「いえ、鈴子団長が的確な指示を与えてくださいましたので助かりました」
 小夜子はそう微笑んで、揺らぐ気持を固めていきながら言葉を続けていく。
「今後、また何か起きた際、気兼ねなくお申し付けてください。力になります」
「ありがとうございます。小夜子さんのこと、頼りにしていますけれど、あまり無茶はなさらないで下さいね。こういった場では、もっとご友人と楽しんで、リフレッシュをしてください」
「はい。先日、花火を友人と楽しませていただきました。警備を任せる形になってしまいましたので、鈴子団長が休まれる時には、代わって私が警備を担当させていだだきます」
「少し真面目すぎますわよ? 肩の力を抜いて」
 鈴子は柔らかな笑みをたたえる。
 それから、どちらからともなく手を差し出して、握手を交わした。
 お疲れ様。今後ともよろしくお願いしますと、思いを通い合わせて。