リアクション
その後。 〇 〇 〇 白百合団に潜入していた御堂 晴海(みどう・はるみ)と、団には所属せず目立たない一般百合園生を装い百合園に潜入していたクリス・シフェウナは、怪我が完治した後、留置場へと送られた。 彼女達の処分はまだ決定していなかった。 ソフィアとパートナー契約を結んだ桐生 円(きりゅう・まどか)は概ね被害者として扱われた。 円は回復後しばらくして、ヴァイシャリー家を通してクリスとの面会を求めた。 護衛と監視付きではあったけれど、その申請は許可されて、円はその日、留置場の面会室でクリスと顔を合わせることが出来た。 「ボクはソフィアのパートナー、桐生円。クリスくんにお願いがあって来たんだ」 「知ってるわ」 警戒心溢れる目と声でクリスは答える。 「ごめん、他に聞けそうな人思いつかなくて」 不機嫌そうな彼女にそう断ってから、円は問いかけ始める。 「ボクはソフィアのパートナーなんだけど、実はソフィアの事、何一つ知らないんだ。好きな食べ物や、好きな飲み物、好きな花も何も知らないんだよ、情けないことにね」 「私も知らないわよ」 「でも、それを知りたいわけじゃ、ないんだ。クリスくんは、ソフィアの事どう思ってたの?」 円の問いに、クリスは「別に」とだけ答える。 「ボクは好きだった、不器用で頑固で融通が利かなくて。自分で物事を抱え込む真面目なタイプで、最後まで抱え込んで行っちゃったのかな?」 「……」 クリスは何も答えない。 「お願い教えてほしい。ソフィアの事、組織の事じゃなくて、ソフィアのやりたかった事。どんな世界にしたかったか、今や昔のどんな事が不満だったり。変えなきゃいけないことだったのか。教えてくれないかな?」 「知らないわ。仲良かったわけじゃないし」 「それでも、ボクよりは長く付き合っていただろうから。同じようなこと考えていたんじゃない? ソフィアは言ってた、優しく強い国家神に統治された安定した世界。地球人に支配されるのは絶対嫌だって」 クリスは黙って円の言葉を聞いている。 円はクリスに彼女が知らないソフィアの最後について、苦しみを感じながらも説明していく。 「解らないんだ、ソフィアに最後まで一緒に行くって言ったのに。連れて行ってくれなかった意味が、残された方だって辛いのに、護ってくれたのかな? それとも役立たずだったのかな?」 円は次第に必死になって、クリスに哀願するように話していく。 「ソフィアの見てた世界で、今の世界に受け入れられる案はなかったのかな? それを叶えればソフィアも安心して眠れるのかな?」 一通り疑問を投げかけた後、円はクリスを真剣な目で見つめて、返答を待った。 しばらく、クリスは何も言わなかった。 円とは目を合わさずに何かを考えいた。 だけれど、円がじっとクリスを見つめ続けていると……観念したかのように、口を開き出した。 「ソフィアさんのこと、私もそんなに詳しく知っているわけじゃない。だけど……迷いがあったんじゃないかな、と思う。私と違って、自分から入ってきた人だし」 ゆっくり、クリスは語っていく。 「何が正しいのか、間違っているのか私には関係がない。親であり家族であり、家庭である組織からの命令は私にとって正しいことだから。でも、晴海は違う。だから晴海は私より少し弱かった。組織は神楽崎副団長の殺害を命じたけれど、魅了の方がいいと言い張ったのは晴海で……出来れば殺したくなかったんだろうな、組織に疑問を感じていることもあったんだろうなって思う。あなたとソフィアさんもそんな微妙な関係のパートナーだった」 クリスはソフィアが組織の男性に惚れていたこと、彼女は常に監視されたいたことを円に説明した。 「そんなソフィアさんがあなたとパートナー契約を結んだ理由は、あなたにヴァイシャリーを救う希望を託したんじゃないかなって私は思う。つまり……地球人のあなたが今のヴァイシャリーを守ることが正しいと思うのなら、命を賭せばそれをあなただけが行えたということ。組織を裏切ることが出来ない彼女が組織に怪しまれない範囲で、ヴァイシャリー側……地球人に希望を与えたんじゃないかと……思う」 「よくわからない」 首を左右に振る円に、クリスはこう言うのだった。 「ソフィアさんは、自分が間違っているというのなら、殺してほしかったのよ、あなたに。……なんて、私の妄想でしかないけど、ね」 ソフィアの言動が円の頭の中でぐるぐると渦巻いていく。 円は、ソフィアに刀剣類のチェックはされたが、装備をしていた銃器類を取り上げられることはなかった。 拘束もされなく、放送や携帯電話の使用の許可もされた。 それらは策略のようで、策士にしては穴だらけでもあって……。 「あ……本当の、こと……教えて」 ソフィアの姿が目の前に見えた気がして、円は手を伸ばした。 酷いめまいに襲われて、ぐにゃりと世界が捻じ曲がっていき――円の意識は暗転した。 気付いた時は、病院のベッドの上にいた。 わからない。 本当のことなんて、わからないのに。 涙が一粒、二粒、零れ落ちていく。 |
||