リアクション
シャンバラでも大都市周辺ではインターネットを行う事が出来る。 〇 〇 〇 「しかし、携帯電話が使えないってのは不便だよな」 光一郎は携帯電話の画面に記された圏外の文字にため息をつく。 シャンバラでは大都市と大都市を繋ぐ道くらいでしか携帯電話は使えないのだが、都市部にいることが多い契約者達には電話が使えることが普通であるため、こういった時には、通信が出来ないことが非常に不便だと感じてしまったり、僅かな不安を覚えてしまうものだ。 でもそういった文明の利器に頼らない生活が、この合宿で求められていることでもあるのだから仕方がない。 「特に邪念などは感じないが、十分注意して行くのだ!」 オットーは意気込みながら、光一郎と一緒に建物に近づいていく。 「ご主人様を守るのもメイドの努め! 目指せここのメイド長としては手抜きできぬわ!」 そう言いながら、真っ先に建物のドアへと手を伸ばす。 その石造りの建物は、少し変わった造りの建物だった。 腐った木のドアを開けた先には、広い玄関と思われる場所だ。 しかし、中には雑草が生い茂っており、木の根も床に伸びている。 とはいえ、光が差し込まない所為もあり、背の高い草などは生えていない。 「人の気配はない、し。動物の住処になってもないようだな」 慎重に見回した後、光一郎が中へと入り込む。 「2階建てだな。俺は2階に向かうぜ」 入ってすぐの位置にある階段にレイディスが足をかける。 老朽化が進んでいるが、底が抜けたりはしなかった。 (人が通った形跡は全くないな。とはいえ、2階の窓から入り込むことだってできるし、油断しないでいくぜ……) 足元に注意しながら。また、上の階に盗賊などがいても対処できるよう慎重に進んでいく。 少なくても、この階段は頻繁に使われていることはなさそうだった。 「二階の底が抜けて、落ちてきたら大変ですわね」 くすくすと笑みを浮かべながら、美海も建物の中へと入る。 「やっぱり……薄暗いね。明かりはどうするのかな」 その後ろから沙幸がついてくる。 「燃料にも限りがありますし、魔法もずっと使っているわけにも行きませんから、夜は早めに火を落として、休むことになりそうですわね」 「そっか」 びくびくしながら、沙幸は周囲を見回していく。 調査前に沙幸は美海のアドバイスで、ゼスタとミルミに確認してみたのだが、この建物がいつ頃から存在していたのか、いつ頃から使われていなかったのかは、正確にはわからないということだった。 魔術結社の拠点があったというのも噂話でしかない。 「1階の部屋は4つくらいか。キッチンのような場所に、居間と思える場所が1箇所、普通の大きさの部屋が2箇所」 光一郎は、廊下を進み、左右の部屋を確認する。 「掃除しがいがありそうだな……寧ろ掃除できるんだろうか……いや、不可能はない!」 オットーはそう言って、邪魔な草をぶちぶちぬいて、部屋の中を確認する。 虫や入り込んでいる小動物もたまに見かけはするが、やはり人の姿はなく、長期間使われた形跡もなかった。 「賊も使おうとは思えなかった場所ということか。他に近くに快適な空間があるんだろうか」 言いながら、浩一郎は警戒を解かずに別の部屋を見回していく。 特に変わったところはない。 「あら、沙幸さん、地下もありそうですわよ」 「ええっ!?」 美海は床に蓋のようなものを見つけて、ぐいっと引き上げる。 沙幸は恐る恐る覗くが暗くて何も見えない。 「大丈夫、側にいてあげますわよ。まだまだお子様ですわね」 怯える沙幸にそう言って、美海は光術で地下を照らす。 「離れないでね」 「ええ。後で温泉に言った時はたっぷりとお礼をして頂きますわよ」 「もー……」 沙幸は美海の腕をぎゅっと掴んでおく。 「作業場、のようでしょうか」 美海が中を見回す。 棚や台、大きな釜、何らかの機材のようなものが存在した。 「人はいないみたいね」 美海と一緒に覗き込み、沙幸はほっと息をついた。 2階に上がったレイディスも慎重に部屋を調べて回っていた。 超感覚で警戒しながら、足音を押さえ、物音、空気の流れにも注意して進んでいる。 人の気配はまるでなかったが……2階の部屋には、鳥が巣を作ったりしており、糞で酷く汚れている部屋もあった。 (これは1日2日の掃除じゃ使えるようにならないぞ……) 1階もそうだが『掃除』レベルの話ではなさそうだ。 全員で新たなログハウスを造った方が早い気さえもしてくる。 その後も注意を払いながら、部屋を探っていくが、特に異常はなく、盗品の倉庫になっているなどということもなかった。 (寝床は期待できねぇなあ。せめて温泉は楽しめればいいな) レイディスは懐に入れて連れてきたわたげうさぎを、服の上からそっと撫でて、にっこり笑みを浮かべた。 |
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