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リアクション
「インターネッツ!」
外でゼスタのサポートをしているファビオ・ヴィベルディの前に、全裸に薔薇学のマント姿の男が現れ、ポーズを決める。
そこに、ぴゅぅぅと冷たい風が吹き抜ける。
「……変熊さん風邪引きますよ」
ファビオは真面目な顔でそう言った。
勿論、その全裸の男は変熊 仮面(へんくま・かめん)だ。
ファビオはかつて、仮面を被り、怪盗舞士としてヴァイシャリーを騒がせていたことがある。
変熊はかつて、偽怪盗舞士としてミルミ・ルリマーレンの家の別荘を騒がせていたことがある!
つまり同類。同じ穴の狢だ。
……?
「風邪の心配など不要。今しなければならないのは、掃除だ! まったく……こんな汚い所でねどまりできるかっ!」
変熊はマントの後ろから取り出した割烹着、三角巾、マスクを素早く装着。手にはハタキを持ちながら、もう1セットをファビオに差し出す。
「……汚れて困る格好してないので、いいですよ。それじゃ、俺はこれで」
「何を言う! 俺達、学友だろ?」
変熊はファビオの肩に手を置いて、ニヤ〜ッと笑みを浮かべる。
「うん、まあ……えーと。服を着ている時だけ友達ということでどうかよろしく」
ファビオはくすりと笑みを浮かべる。
つまり、服を着ていない時は近づかないでほしいということだろうが、勿論それは変熊的に却下である。
「あっ、ミルミおねえちゃん、ライナちゃん、こんにちはです」
ティータイムを楽しんでいたミルミとライナに、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が近づいて、微笑みかける。
「ごきげんよー!」
「こんにちはー!」
ミルミとライナが元気に挨拶を返してくる。
「ミルミおねえちゃん、白百合団としてボクに出来るコトは何でも言ってくださいですっ」
そう言うヴァーナーは大きな袋を抱えている。中に入っているのは、草などの燃えるゴミだ。
「うん、お掃除頑張って偉いね。ミルミも鈴子ちゃんへの連絡っていうお仕事頑張るよ!」
「私は、ヴァーナーおねぇちゃん達と、いっしょにおしごとしたいな。でも……」
ヴァーナーが運んでいる重そうなゴミ袋はライナには持てそうもなかった。
「ムリはしないでなんでもいっしょにがんばりましょうです」
ヴァーナーはライナにそう声をかける。ライナは白百合団の見習いなったそうだ。
「皆から離れてはだめですわよ」
ヴァーナーのパートナーのセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)もライナにそう声をかける。
「はいっ、班長さん! またさくせんでいっしょにがんばれたらうれしいです」
ライナはにこにこっと笑みを見せる。
「そんなに危なくないことからがんばるですね〜」
いつものようにぎゅっとハグをして、ヴァーナーはライナ達と別れる。
「ゼスタおにいちゃんせんせー!」
続いて、ヴァーナーは屋外で指示を出しているゼスタを見つけて、ゴミ袋を抱えながら近づいた。
「ロイヤルガードに入ったヴァーナー・ヴォネガットです。よろしくおねがいします!」
ゴミ袋を下ろして、ヴァーナーはぺこりと頭を下げた。
「おー、聞いてる聞いてる。ヴァーナーちゃんは凄く優秀な女の子だってな! よろしく」
にこにこと笑顔が返ってくる。
「ありがとです……。あ、この燃えるゴミはドコもっていくですか?」
「燃えるゴミは落ち葉を集めてるあの辺りに持っていって、いっしょに燃やしちまうおう。サツマイモや魚なんかが採れたら、一緒に焼くとよさそうだよなー」
「やきいもですか。たのしみです」
ヴァーナーは嬉しそうな笑みを見せる。
「出ましたわね!」
突然、セツカの炎の聖霊が現れて、一角を焼き尽くす。
「何かいたですか?」
「黒い悪魔がいたようですわ。森の中に生息しているようですわね」
「このあたり、いるですか……。だ、だいじょうぶです。やっつける道具もってきたですから」
ヴァーナーのポーチの中にも駆除剤が沢山入っている。
「けむりモクモクしてからじゃないと、ねむれないですね」
「そうですわね。でも、他に嫌な気配などはないようですわよ」
ディテクトエビルで警戒していたセツカだけれど、この辺り、そして参加者の中には今のところ自分達に害をなそうとしている人物の存在は感じられなかった。
「これをはこんだら、くじょです」
ヴァーナーはうんしょうんしょとゴミが沢山入った大きな袋を運んでいく。
「足元に注意ですわ」
手を貸しながら、セツカはヴァーナーを常に見守っていた。
「怖いものとか出ませんように〜」
皆川 陽(みなかわ・よう)は祈りながら、床掃除をしていた。
臆病者で、引っ込み思案で、自分に全く自身の無い陽は、皆のいない部屋をこつこつパートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)と磨いているのだった。
魔術結社の拠点として使われていたといわれている建物だ。
「この床とか、壁とかにも仕掛けがあったりするのかな……」
ぶるっと震えて、妄想を追い出そうと頭を振り、床磨きを続けていく。
「汚いへやだなー。でも、2人で一緒に掃除すれば、どうにかなるか〜。ここで一緒に暮らすのも悪くないかなあ」
対照的にテディの方はとても元気でやる気満々だった。
男の子だが、瀟洒なメイド服を着て、ホワイトブリムまでつけている。見えはしないが下にはアリスのドロワーズ着用だ。
テディは完全に可愛らしい女の子と化している。
別に深い意味はない。掃除といったらメイド、メイドといったらこういう服装だからというだけのことだ。
「友達が出来るかなって思って、合宿に来たのに……」
どうしてパートナーと2人で作業をしているんだろうと、陽は軽くため息をついた。
「ところで、この辺なんか変、だよね……。床の色が違うっていうか」
磨いているうちに、タイル張りの床の色が違う部分を見つけた。
「触った途端に、ゴーレムとか出てきたりして。いやまさかっ、ああ、そんなこと考えてる場合じゃなーい」
一人で騒いで、また首を振って移動しようとした陽は、その色の違うタイルに足を乗せてしまう。
途端。
「う、うわーーーっ」
「なんだ? なんだ!?」
光が床から湧いてくる。その光を浴びた陽とテディは動けなくなってしまった。
「どうしました!?」
危険な場所の対処に当たっていた野々達が駆けつける。
「リーア先生かグレイス先生いらっしゃいますかー!」
状況を見てすぐ、野々は外に向かって大声を上げる。
「うう、うううっ」
陽は涙目で必死に体を動かそうとするが、うめき声を上げるだけで精一杯だった。
「ぐーん、うごげないいい」
陽よりずっと体力のあるテディもまともに話すことが出来ない。
「どうした?」
外で作業に勤しんでいたグレイスが、窓から顔を見せる。
「魔法の罠にかかってしまったみたいなのですが、解除方法わかりますか?」
野々の説明を聞きながら、グレイスは部屋の中を見回す。
「単純な鳥もちのような罠だよ。光が発生していない部分があるだろ。そこに何か重いものでも乗せれば解除できると思うよ」
「そうですか。ですが、折角ですから他の皆様にもお見せしたいですね。しばらくそのままでいてくださいます?」
「いやだー」
「うーうー」
野々の言葉に、テディが首を左右に振る。
陽は怯えた表情で精一杯唸り声を上げた。
「冗談ですよー。解除します」
にっこり笑って野々は近くの台を、光が発生していない床の方へと押して、罠を解除したのだった。
「助かった……」
ぱたりと陽は倒れる。
「不思議な仕掛けだよね。他にも何かないかな! やっぱりこの部屋僕達の部屋にしようよ」
「きっともっと凄い仕掛けがってどかーんと爆発しちゃったりするんだ……ううっ」
テディはけろっとして、更なる仕掛けを探し出す。
陽は妄想に襲われて、苦しそうだった。
「今度は触らずに、ご報告くださいね」
野々は笑みを浮かべながら『魔法の罠アリ。危険触れるな』の張り紙をすると、その部屋を後にする。
「見取り図できました。ここに張っておくよ」
エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)が、建物の見取り図を廊下に張り出した。
「さて、壊れた家具類の運び出しと、修理を終えた家具類の運び入れをないとね」
「おし、任せろ! お嬢さん達は下がった下がった」
いいところを見せようと、アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は女性達を下がらせて、窓枠を外し、窓から受け取って、椅子やテーブルを運び入れていく。
「この部屋は皆の集まる居間となりますから、会議なども出来るようにテーブルや椅子を多めに入れておきたいところだな」
エールヴァントは寝室、食堂、風呂トイレ、居間の4箇所を早急に使えるようにしなければならないと提唱した。
そのうち、食堂とトイレについては優先して掃除が行われていた。
寝室は一番大きな部屋をとりあえず片付け、女性や子供を優先にそこで休むことになるようだ。
入りきれない人物は、外でテントや寝袋を利用して休むことになる。
また、この居間は夜間は教職員の立場にある者達が寝室として利用することになっている。
「アルフ、僕達も外だぞ、いいね?」
「わかってるぜ」
「夜這いをかけようなどという不届者がいるかもしれません。僕達はそれを防ぐ側だからな?」
「……わかってるよ」
アルフは不満げに答える。
「俺用に、作ってくれ」
ゼスタが窓の外に現れ、大量の草をその部屋に運び込むように指示していく。
「なんだ? 草はいらねぇぞ……ってああそうか、ソファーやベッドに使うのか」
アルフはシートの上に乗せられた大量の草を受け取って、部屋の中に積み上げていく。
簡易ソファー兼ベッドを作るために必要なのだ。
干し具合が全く足りないので、後日きちんと作り直す必要があるだろうけれど。
「僕達も自分達用に草を用意しよう。この建物内にベッドはあまりないしね」
エールヴァントはそんなことを言いながら、ふと、皆に指示を出しているゼスタへ目を向ける。
彼はそう重要な立場についているわけではないが、東シャンバラ政府に関わりのある者だ。
(東シャンバラ政府の企画であるこの合宿に、西側も参加可としたのはいかな意図があるのだろうか……)
そもそも、東政府はこれからどの方向に行こうとしているのか。
帝国に寄り添い属国として長らえるか、あるいは混乱のリスクを背負いつつも帝国と同等の国家として自らを引き上げようとするのか。
その場合西シャンバラ政府をどうするべきだと考えているのか……。
エールヴァントは考えをめぐらせていくが、まだこの世界に来たばかりの自分に問えることでもなかった。
いや、機会があれば聞いてはみたいが、軽そうな彼から誠実な答えが返ってくるとも思えなかった。
(シャンバラの統一を帝国の後ろ盾の元に推し進めたいのか、あるいは帝国からの支配を払拭したいのか、その辺りをヴァイシャリーに存在する百合園女学院の中核の人達とかはどう考えているのか……)
気がかりなことばかりであった。いつか聞くことが出来るようになればと思いつつ、エールヴァントは手を動かしていく。
「こんくらいでいいかー? お嬢さん達の分は揃ったかな。他にお嬢さん達に必要なものはないかー!?」
アルフが掃き掃除、拭き掃除をしている少女に声をかけていく。
「女の子だけの部屋がほしいです」
「女の子だけの浴室もあったらいいな」
「……うーん、それはそうだけど、そうなんだけどなー!」
そこから出てこなくなったら、自分が楽しめないのでアルフとしてはあまり協力はしたくなかったけれど。
「それじゃ、抜け出して優先して作るか、一緒にな。俺のことは特別に入れてくれよ、警備の為だぜ、警備の〜」
「こらこら」
「あててっ!」
エールヴァントは苦笑して、アルフの耳を引っ張って作業に戻らせる。
掃除や快適に合宿を行うための準備は、今は東西関係なく仲良く行えていた。
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