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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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第七章 扶桑のかけら1

 葦原守備隊と瑞穂藩士たちの戦いは膠着状態のまま、縺れ合うようにじりじりと『扶桑』に近づいていた。
 激戦は半日続き、やがて御門が突破される。
 大地が激しく揺れ、火の手があがったからである。
 都の街に火が回らないよう火消しに努める一歩で、郊外では季節外れの桜を見ようと人々が押し寄せてた。


「扶桑……天子」
 扶桑の元へ駆けつけた葦原、瑞穂の双方が固唾を呑んでその瞬間を見守っていた。
 再び地面が揺れ、ぽつぽつと桜の花が開いた。
 桜の木からぼんやりと、人の姿が浮かびあがる。
 男のような、女のような、少年とも少女とも、青年とも婦人とも見える。
 そのお姿は相手にいかようにも見える印象をもたらしていた。
「天子、マジで美しいな……!」
 瑞穂の中で日数谷現示の隊とは別に、単独で動いていた蒼空学園トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、感嘆のため息を漏らした。
 彼の目の前にはゆらゆらをほのめく、美しい人が立っている。
 半透明で実体化はしてないが、それは紛れもなく、桜の世界樹扶桑の化身である天子であると思われた。
 トライブは臆することなく天子に近づくと、仮面を外す。
 彼は天子の手の甲にキスをして挨拶したかったが、半透明の天子はいくらやっても手に触れることはできなかった。
「ま、まあ仕方ないよな。天子様だしな。俺は、このマホロバで瑞穂藩に手を貸してるものなんだけど、知ってるよな。二千五百年前にアンタが『選ばなかった』方だ。で、今回ばかりはその瑞穂に力を貸してやって欲しいんだ」
 しかし、天子は答えない。
 かすかに微笑みをたたえているだけだ。
「あれ、俺の言ってること、聞こえてねえのかな。ともかく、天子様がどこまで現状を把握してるか、知りたいんだけど……」
「それ以上、天子様に寄るな! 怪我をしますよ!」
 鋭い声がトライブに投げつけられる。
 見ると、波羅密多実業高等学校ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、彼にに大剣を向けていた。
「あんた、誰だ。俺の邪魔をしてくれるなよ」
「私はただの傭兵ですよ。葦原や天子に加勢する理由は別にないのですが、身体がね。勝手に動いてしまうので、刃向かわない方がいいですよ」
「面白えこというな。俺は今、このお方を情熱的にお誘いしようという訳だ。妨害するなら、排除するまでだ」
 トライブも身を低くして戦闘態勢を取る。
 ウィングのパートナー魔鎧ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)が素早く警告した。
「待ってください、天子様は争いを望んではおられないわ」
 彼女の言うとおり、半透明だった天子が薄くなり、消えかけようとしている。
 ウィングは大剣を収め、天子に問いかけた。
「聞きたいことがあります、この世界でいま何が起こっているのかを。貴方は知ってらっしゃるのでしょう?!」
 葦原明倫館橘 柚子(たちばな・ゆず)も、桜の世界樹を前にして言いようのない感覚に襲われていた。
 彼女の側にぴたりと寄り添う剣の花嫁木花 開耶(このはな・さくや)も、しきりに頭を押さえている。
「なんやろ……何か思い出しそうやけど」
 柚子のパートナー英霊安倍 晴明(あべの・せいめい)が、呪符を使い天乙 貴人(てんおつ・きじん)を呼び出した。
「晴明様、お呼びでございますか」
「ああ、扶桑から強い霊気を感じる。それ以外にももう一つ……」
 晴明が周囲を探っている。
 この場に誰かが来ようとしている。
「探して連れてきてほしいんやわ、貴人」
「はい、柚子様」
 貴人が振り向いたとき、瑞穂藩の日数谷現示たちと、鬼城貞継の一行が姿を現した。
「将軍様……?」と、柚子が目を見開く。
「鬼城……貞継だと!? なぜここに……」
 現示たち瑞穂藩士とっても、まったく予想していないことだった。
 唐突な鉢合わせに瑞穂藩士が浮き足だった。
 篠宮 真奈(しのみや・まな)達が将軍を警護しながら扶桑の前に立つ。
「貞継様!いらしていたとは……それならば話は早い。貴方と天子様の力。ここで決着をつればいい」
 蒼空学園に所属する樹月 刀真(きづき・とうま)は、この場に揃った面々を見て、普段は冷静な彼も気持ちが高鳴るのを感じた。
 マホロバの貞継将軍は恭しく礼をする。
 扶桑に触れたとたん、桜の木は再び活気づき、天子がまたゆらゆらと姿を見せた。
 その場にいたものは全て、その声を聞くことができた。
 静かで堅固な岩にも染み入るような、美しい声色だった。

【久しぶりですね……鬼城の血を引くものよ】

 それは声と言うよりも意識のようなものだった。

【貴方に預けた力を少しだけ返して貰い、今、話しかけています。完全な『私』ではありません。こうしているのもごく僅かの間だけです】

「貴方様には沢山お聞きしたいことがある。まず、なぜご自分でマホロバを統治されなかったのか、そして鬼城家に力を与えたのか。将軍は強すぎる力に身も心も蝕まれ、多くの人が苦しんでる!」
 刀真は貞継の心の叫びを代弁するかのように天子に問いかける。
「その貴方の力を、複数に与えることはできないのですか? 一人の負担を減らすことは?!」
「そうですわ。今、鬼城将軍に渡している力の為に、将軍も周りにいる人も心身に様々な影響がでているのです。これを抑えるためにも、お力添え頂けないでしょうか」
 刀真のパートナー、守護天使封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)も切々と訴えていた。
「このままでは皆が不幸になります。ぜひお力を……!」
 柚子もはっとしたように、天子も前にひざまずく。
「この地の、パラミタの種族は、地球人と契約をくくることができますえ。天子様もそないでいらしゃるなら、うちと、契約をお結びおくれやす。さすれば、瑞穂藩のような不こしらえな者に貴方様の力が渡ることはあらしまへん」
 柚子の言葉に瑞穂藩士たちは意義を唱え、喚きだす。
「お黙りよし。瑞穂が国家神をどないこうでけると思うのか」