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リアクション
chapter.3 蒼空学園防衛戦(1)・攻防と光芒
時計の針が、真上でひとつに重なった。
涼司が依然校長室でパスワードの解析に頭を捻らせている中、校舎の外でも問題は起きていた。
「みんな、私が生徒会に入ったら、今までの演説で言ってきたこと全部達成できるように頑張るから、よろしくね!」
校門前で、ミニスカートを風になびかせながらメガホン片手に演説をしていたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。よく見れば、他の候補者も雨の中グラウンドなどあちらこちらで選挙活動を行っている。投票日ということもあって、それぞれが声の枯れそうなほど熱心に生徒たちへ話しかけていた。しかし、これから訪れる危機が今日を投票どころではなくさせてしまうことを、この時点で彼女たちは知らない。
時間は少し正午を回った頃。
その異変が、叫び声と共にやってきた。
「み、みんな大変だ! 学園に向かって、アンデッドの大群が押し寄せてる!!」
それは、学外から走ってきた生徒数名の声だった。最初は何の冗談かと思っていた生徒たちだったが、その直後、校門のところにいた美羽がそれを視認し大声を上げたことで、嘘などではないことを認めさせられる。
「なに、アレ……!?」
美羽が、視界に入ったものを見てぽろりと呟く。彼女の目に映ったのは、発見者が口にした通り、500は優に超えているであろうアンデッドの大群だった。意識を強引に引き戻した美羽は、メガホンを口に当てて言葉を発した。
「大変っ! 大変だよ!! もうすぐそこまで来てる!!」
美羽のアナウンスを聞き、周囲にいた生徒たちは一斉に散り始めた。慌てて校舎に逃げ込む者、その場に残り迎え撃とうとする者、バラバラに彼らが行動する中、美羽は乗っていた台からぴょん、と降り、その体を校門の外――アンデッドたちが来る方角へと向けた。ロイヤルガード制服のマントが、ひらりとめくれる。敵を射抜く瞳からは、戦おうという強い意志がありありと感じられた。それを美羽は、言葉にして外へと出した。
「アンデッドだろうとゾンビだろうと、ここは汚させないよ!」
言うが早いか、美羽はダッシュし校門を出ると、黒々とした集団に突っ込んでいく。目標物までの距離は、もう100メートルを切っていた。
「蒼空学園は……私たちが守ってみせるんだから!!」
すべての敵を相手にしそうな勢いの美羽だったが、1と500というその数には、圧倒的な差があった。いくら何でも無茶だ。周りの生徒がそう思った時、美羽を追いかけるようにして彼女のパートナー、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が彼女の元へ駆け寄っていった。
「美羽さん! いくら美羽さんでも、ひとりでは無謀ですっ!」
「僕も、蒼空学園を守るよ!」
ふたりは美羽に追いつくと、各々の武器を構えた。ベアトリーチェの銃口とコハクの槍の先端が、大群に向く。
「大丈夫、ちゃーんとふたりが追いついてくれるって思ってたもん! よしっ、揃ったところで、いっくよー!!」
背中に心強い存在を感じた美羽は、より元気さを増す。手始めに美羽が標的にしたのは、大群の先頭にいたアンデッドだった。
「いっぴーきめっ!」
右手に握りしめたメガホン、それを美羽は全力で振り上げる。背の小さい彼女が放ったそれはボクサーが放つアッパーのように的確に敵の顎を捉えた。怪力の籠手で腕力が強化されていたからか、アンデッドはその一撃で地に膝をつきそのまま前にどう、と倒れた。さらに美羽は、その後ろに立っていた敵も続けざまにメガホンでノックダウンさせる。
「二匹目っ! えーっと、これで残りは……」
「美羽さん、残りを考えていたら切りがないですよ!」
覆い被さってきそうなほどの群れを見て、ベアトリーチェが言う。美羽の言葉に反応しつつも、その銃口はしっかりと敵に標準を定めていた。
「このままでは群れに飲み込まれてしまいます、ここはとりあえず校門まで戻りましょう!」
「うー、でも、でも!」
「少しだけ足を止めますから、その隙に行ってください、コハクくん、美羽さん!」
言って、ベアトリーチェは両手の魔道銃をすっと前に出した。自分が駄々をこねていては、ベアトリーチェを危険に晒してしまう。瞬時に悟った美羽は、やむを得ずコハクと後退する。それを追撃しようとする集団、その一群の中に光が放たれる。ベアトリーチェの銃から発せられた、魔力による弾丸だ。彼女はスプレーショットでそのまま一群に弾幕を浴びせる。当然、自身も後方へと下がりながら。
そうして3人が校門付近まで戻ってきた時、群れの中から一際大きなアンデッドが飛び出してきた。体長3メートルを超えているそれは、明らかに人の形を成していなかった。所々が腐敗しているが、イノシシに近い生き物のようである。
ぶおお、と鼻息を荒くしてその巨大なアンデッドは美羽に襲いかかる。それを間一髪防いだのは、コハクの槍だった。
「美羽は、僕が守るんだ」
龍殺しの槍、と呼ばれるその武器から生まれた炎が、敵を牽制し、足を止めていた。
「このアンデッドは、炎に弱いのかな? なんか怯んでるみたい……ってことは、今がチャンスってことだよね!」
これを好機と踏んだ美羽は、バーストダッシュで正面からアンデッドに突撃する。それをフォローするべく、コハクが美羽に並走するようにダッシュした。炎の間を縫うようにして猛スピードで迫ってきたふたりに、巨大アンデッドは対応しきれずその巨躯をただ晒すのみだ。そしてそれは、ふたりにとって格好の餌食である。
「燃えちゃえーっ!!」
速度がついたまま、美羽はレガースを装備している脚から蹴りを放つ。同時に、コハクが持つ2本の槍が、敵の脇腹に刺さった。叫びに似た鳴き声が上がった時には、もうその体は美羽の脚とコハクの槍から共に放たれた爆炎波に包まれていた。
土埃を上げながら倒れるそのアンデッドを見て僅かな達成感を覚える美羽だったが、ベアトリーチェの声が一気に彼女を厳しい現実へと引き戻した。
「美羽さん! 加勢はまだですか!?」
美羽たちから少し遅れて校門付近まで後退したベアトリーチェは、未だ迎撃する生徒がほとんど近くにいない様子を見て焦りの声を上げた。先頭にいた十数匹は彼女たちの手で倒されたものの、前を見れば気が遠くなるほどの数の敵が迫ってきている。さすがの美羽も、これには危機感を抱かずにはいられなかった。
そこに駆けつけたのは、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)だった。美羽のように校門から比較的近いところで選挙活動をしていたことが功を奏したのだろう。
「ものすごい数ですね……微力ながら、僕も足止めのお手伝いをさせてもらいます。他の皆が来て、態勢が整うまでの」
そう言うと、優斗は校門のところに勢い良く水を撒いた。
「えっ? そ、それってもしかして聖水とかなんかそういう……」
「いえ、これはただの水です」
「ええっ、何それっ! 猫じゃないんだよ!?」
慌てる美羽をよそに、優斗はその手を水たまりに向ける。すると、その水たまりが一瞬にしてスケートリンクかと思うような氷の地面へと変わった。そう、彼が使ったのは氷術だった。この雨天で元々小さな水たまりが出来つつあったこともあり、校門前に広がった氷の面積はなかなかに広くなっていた。
「わっ、すごいすごい!」
「これで多少侵入を防げれば良いんですが……」
優斗の思惑通り、集団の先頭を走っていた者たちはその氷に足を滑らされ、思うように前へ進めずにいた。が、それも少しの時間稼ぎにしかならなかった。氷の上に倒れたアンデッドを踏みつけながら、後続軍が次々と校門目がけなだれ込んで来たのである。またある者は、門の近くからはみ出すような形で周囲の塀をよじ上り、校庭へと入り込もうとしていた。
「さすがに、この量の前では上手くはいきませんか……」
それでも優斗は、諦めない。大切な人、大切な場所を守りたいという気持ちが、彼を支えていたのだ。優斗はもう一度、手をかざす。次にそこから発せられたのは、冷気ではなく輝かしい光だった。幾つかの光の筋は、真っすぐに伸びていきアンデッド数対の体を貫いた。聖なる力、バニッシュによる一撃だ。
「私たちも負けてらんないよね! もっかい行くよー!」
それを見た美羽が再びアンデッドたちに突っ込もうと走り出す。図らずも、優斗のバニッシュがそれを援護する形となり、咄嗟のコンビネーションはそれまでよりもアンデッドの侵攻を僅かばかり遅らせることに成功した。だが、その一方で優斗の魔力は確実に減り続けており、それは疲弊という目に見える形で現れ始めた。
「はぁ……はぁ……」
無意識に、膝に手を置く優斗。
「まだ私はやれるから、とりあえず後ろに下がっててっ!」
優斗に告げる美羽だったが、彼女とて絶えず動き回っているのだ。いつ体に限界が来てもおかしくはない。力を振り絞ろうと優斗が膝から手を離した時、彼は着信に気付いた。
「……もしもし?」
それは、パートナーである諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)からの電話であった。本来であれば戦闘中に電話をとることなど無いのだが、彼は孔明にあることを頼んでいた。そしてそれが学園の危機に直結することであったため、現状を把握するにはその着信に応えることが必要だった。
「優斗殿、先程校長室へ行ってきました。外のアンデッドについての報告を兼ねて、例の件についても話を聞いてきました」
「それで、どうでした?」
「……残念ながら、データの流出先が多岐に渡っているせいか、特定は出来ませんでした」
孔明が頼まれていたこと、それはデータの流出先を調べ、ウイルスを仕掛けた張本人を特定することだった。しかし、その言葉通り、既にデータは部分的にではあるが方々へと流れてしまっており、特定は不可能となっていた。唯一の救いは、凶司の助力もあって、大事な内部データまではまだ流れていなかったことだ。
「分かりました、引き続き、テクノコンピューターで調査をお願いします」
「……はい」
その呼吸から、相当な疲労を蓄積させているのだろうと孔明は察していた。「大丈夫ですか?」本当なら、短い返事ではなくそう聞くはずだった。孔明がそれをしなかったのは、優斗の気持ちも察していたからだろう。各々のやるべきことをまっとうするのだという、彼の強い気持ちを。
美羽や優斗らが校門付近でどうにか足止めを続ける中、その戦地へと近づいてくるふたつの影があった。剣を手にしているその影の主は、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)とそのパートナー、織田 信長(おだ・のぶなが)である。
「数が約500体……あれだけの数を相手に、信長ならどうする?」
「ふん、たかが屍500体、私がかつて戦った桶狭間の時に比べれば少なすぎるくらいじゃ」
信長は不敵な笑みを浮かべてそう言った後、忍の問いに答えた。
「相手は所詮屍、炎に弱いことはお前でも知っておるじゃろ。もし状況がヤバくなったら、私の力でヤツらを片付けてやろう」
一歩、そしてまた一歩と前進する信長。その背中から発せられていたのは、黒い炎が沸き立っているような不穏なオーラだった。
「この、第六天魔王の力でな」
「……もしヤバくなったら?」
目の前の信長が告げる言葉をじっと聞いていた忍は、その一部を拾い上げ、歩幅を大きくして歩く。数歩先にいたパートナーを追い越すと、忍は振り返ってはっきりとした口調で言った。
「ヤバい状況にならないよう、俺たちや皆で蒼空学園を守るんだろ」
「ほう、言うではないか、忍」
「数が多いくらいで、諦めたりするわけにはいかないだろ?」
「うむ、悪くない返事だ」
信長が、忍の横に並ぶ。既に忍は、大剣を構え臨戦態勢に入っていた。2メートルはあるであろう白銀の刃は、雨粒に透けて輝いている。その透過能力は、忍が持つそれが光条兵器であることを示していた。
「俺は、蒼空学園を守ってみせる!」
気合いと同時に、忍が走り出した。細身なその体からは想像できないほど軽々と大剣を振り上げ、そのまま彼は校門の周りにいるアンデッドの群れの中へと飛び込んでいく。
最初に聞こえたのは、剣が振り下ろされる音。その直後聞こえたのは、忍の正面にいたアンデッドの腐肉が裂ける音だった。ぶちゅる、と気色の悪い音が耳に届いたが、忍は気にも留めず手にした光条兵器でアンデッドを切り倒していく。
「忍に全部取られてはたまらんな。ここからは私の番じゃ」
塀から這い上がってきたアンデッドの方へと移った信長は、爆炎波と炎術を片っ端から放ち、視界に入ったアンデッドを次々と焼き払っていった。
ふたりの加勢により、校門付近に固まっていたアンデッドたちは見事に一蹴された。
が、後ろに控えていた第二陣、第三陣が息つく暇もなくなだれ込んでくる。
「キリがないな……!」
忍はそれを見て小さく呟く。一体一体目の前のアンデッドを切っていったのでは、到底迎撃が追いつかない。「それなら……」と、忍は持っていた剣を縦ではなく横へと構え直した。その構えのまま、彼は単身、蠢く群れの中へと突入していく。他の生徒たちが驚き、止めようとした時にはもう彼は群れの中に飲まれかけていた。
ついに、犠牲者が。
それを見ていた生徒たちの頭を、そんな考えがよぎる。しかし、空中へと投げ出されたのは忍ではなくアンデッドの方だった。それも、数匹が同時に、である。
「……一体、何が?」
思わず優斗が口にする。その答えは、じき目の前に現れた。
次々と宙に肉片を散らばらせていくアンデッドたち。周囲を囲んでいたそれらが取り払われたことで、姿の見えなくなっていた忍が何をしていたのかが露になる。忍は、なんと素早く回転を続けながら、横にした大剣で自身を囲んでいたアンデッドたちを薙ぎ払っていたのだ。
やがて忍の周りからアンデッドが綺麗に消え、彼は剣を地面に突き刺した。
「名付けるなら、竜巻閃空剣……ってとこかな?」
校門を超え侵入しかけていたアンデッドたち――侵攻順で言うなら第二陣の先頭グループも、忍の剣技と信長の炎で一旦は排除された。とはいえ、言うまでもなく敵はまだまだ後ろに控えている。忍は押し寄せてくる大群を前に、もう一度今の技を繰り出そうとした。
しかしその時、彼の持つ剣が、輝きを失い始めた。そう、光条兵器である以上、剣の花嫁がそばにいなければその力は短時間で消滅してしまうのだ。
「まずい……っ」
そしてそれは、幾度となく炎による攻撃を繰り出していた信長もまた同じであった。美羽や優斗も含め、防衛に参加していた生徒たちの限界がついに近づいてきてしまったのだ。
そうしている間にも、アンデッドの軍勢は地鳴りと共に押し寄せてくる。
「皆、まだまだ応援は来るはずです! それまで、もう少し、もう少し頑張りましょう!」
優斗がどうにか気力を振り絞る。しかし、目の前の敵は、彼らの気力をへし折るのに充分すぎる数が残っていた。
現時点での戦闘可能アンデッド、残り390体。
◇
校長室。
「……ちくしょう、俺が加勢にいければあいつらに辛い思いなんか」
孔明から外の報告を聞いた涼司は、苛立を隠せない様子だった。その証拠に、キーを打つ音が先程よりも大きい。今自分が立ち向かっている脅威を放っておくこともできず、かといって外の様子も無視はできない。涼司は、自分の額に汗が浮かんでいるのを感じた。
「なあ環菜。お前なら、こんな時どうするんだろうな」
自嘲気味に呟いても、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)、その人の声は聞こえない。しかし、代わりに涼司に言葉を届かせる者が、ここにいた。
「まぁたカンナカンナ言ってんのかい。あんまり何でもかんでもキリキリ根詰めるなよって、こないだ言ったと思ってたんだけどねえ」
突然、入口から聞こえた声に涼司は振り返る。そこに立っていたのは、東條 カガチ(とうじょう・かがち)だった。カガチは驚く涼司を尻目に、その場所に立ったまま言う。
「なあ、こないだは悪かった。痛かったろアレ。全力だったし」
「こないだ?」
思い当たる節がない風の涼司に、カガチはとんとん、と首を指す。それで涼司も思い出したのか、「あぁ……」と短く声を上げた。どうやらカガチは、先日彼にお灸を据えようとラリアットを食らわせたことを気にしていたようだ。
「確かにアレは効いたな」
「すまんかった。でも、なりふり構わず突っ込んでくのを見てられなかったんだよ。ほら、なんだかんだ言ってもメガネも学園のトップなわけだろ?」
涼司に一撃を見舞った過去や、その飄々とした口ぶりとは裏腹に、カガチはそれなりに涼司のことを評価しているらしかった。そのままカガチは続ける。
「だからさ、さっきも言ったけど、あんま根を詰めすぎないで、メガネは自分の出来ることだけを全力でやってりゃいいんじゃねぇかなあ」
あらゆる危機が一気に襲いかかり、焦りを感じていた彼を落ち着かせるようにカガチは言った。
「……そうだな。一刻も早くこいつを片付けて、外へ応援に向かうぜ」
「おいおい、忙しすぎて耳掃除すらやってねえのかい? 今言ったばっかだろ、自分の出来ることだけ、って。他の面倒ごとは、俺らでやっちまうって言ってんだ。アンデッドだのなんだのは俺らにお任せってえことよ」
「お前……」
言葉遣いこそ雑ではあったが、気を遣われたのだと涼司は察した。だからか、それ以上彼は言葉を口にしない。カガチもそれ以上は会話を広げず、「じゃあなあ」とだけ言い残して廊下を歩いていった。
そのまま廊下を歩き、外へと出ようとするカガチの正面に、ふたりの人影が立っていた。その影は、すぐに輪郭を露にする。それはカガチのパートナー、東條 葵(とうじょう・あおい)ともうひとり。カガチが舎弟として慕っている、七枷 陣(ななかせ・じん)だった。
「もう挨拶の方は?」
「今済ませてきたから、あとはドンパチするだけってとこかねえ。陣ちゃんも、準備は出来てんだろ?」
「もちろんや。なあ、刹貴?」
カガチと話していたはずの陣は、そこにいない人物の名を呼ぶ。すると不思議なことに彼は自身の中から、返事を聞いていた。
――やっと娑婆の血が見れるんだな。早くメインの意識を渡してくれよ、宿主サマ。
それを聞き、はあ、と溜め息を吐く陣。そう、彼が聞いた言葉は、彼に憑依している奈落人のパートナー、七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)のものだった。
「よく分かんねえけど、準備はバッチリみたいじゃないの」
カガチが歩きながら言った時にはもう、陣の体を刹貴が動かしていた。茶色かった瞳が、ほのかに灰色の混じった青色へと変色する。カガチはそのまま葵と陣を連れ、外へと出るドアを開けた。
「さあて。そんじゃ、楽しく踊ろうか」
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