リアクション
◇ ◇ ◇ その頃、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はイルミンスールの大図書室にいた。 ジュデッカの書について調べる為だ。 「ジュデッカの書ってのには、どんな内容が書かれてんだ? それを調べれば、婆さんの狙いがある程度は絞れる筈だろうよ」 そう思い、とりあえず『書』が収められていた大図書室に来てみたのだ。 「ジュデッカの書について知りたいんだけど、どこを調べたらいいんだ?」 司書に訊ねると、少々お待ちくださいと言って、何かを調べる。 そして、魔法で自動筆記された用紙を恭也に差し出した。 「こちらが、ジュデッカの書について、図書室で保管している資料の転記です」 「どーも」 近くの席について、それを見てみる。 書かれていた内容はこうだった。 かつて、『書』を得ようとする争いの中で、守護者を名乗る一族が絶えた。 その後ガーディアンゴーレムによって迷宮の深部にて護られるも、やがて『書』の存在をかぎつけた鏖殺寺院にも狙われるようになる。 そこで『書』は2000年程前、自ら保護を求めてイルミンスール大図書館に収納されることになったという。 「鏖殺寺院までが狙ってたのか? 何でまた、そんなに大人気なんだ、『書』は。 ん、『記録される、魔道書ジュデッカと犠牲者の会話』?」 呟きながら、恭也は読み進める。 『その魔術師は、魔道書ジュデッカに願いを伝えた。 魔道書ジュデッカは答えて言った。 “その願いを叶えるには、私の力はまだ足りない。そう、貴方の魔力の500人分ほど。 さあ、私に魔力を供給しなさい。貴方の半分の魔力ならたったの千人。 自分より弱い人間を千人屠ることくらい、造作もないことでしょう” その者は、105人の魔術師を殺し、106人目の魔術師によって殺された』 記録はそこで終わりだった。 「…………」 恭也は用紙を見つめ、ふっと溜め息を吐いた。 ▽ ▽ ディヴァーナ、瑞鶴。 それが恭也の前世の名前だった。 彼は祭器のローエングリンと共に旅をしていた。 ローエングリンは、緑色の石が嵌めこまれた指輪だった。 瑞鶴は生まれつきの片翼に加え、その色が灰色で、周囲から奇異の目で見られることに嫌気がさして、剣の腕を磨く為と称して旅に出ることにしたのだ。 「あいつ等全然駄目だな。灰色片翼なんざ、ちょっとハイカラで個性的なだけじゃねえ?」 難は飛べないことくらいか。 「そうですよ」 瑞鶴の言葉に、ローエングリンは笑って頷く。 「私はその色、大好きですよ。 こうして陽の光を弾いたら、銀色にも見えて、とっても綺麗です」 「お、おう……サンキュ」 瑞鶴は照れてしまってから、気を取り直すように腰の剣を握った。 彼は魔力も弱かった。だから、剣を選んだのだ。 「あれだよ、魔法系なのにあえて剣を選ぶのもアリだよな」 「勿論アリですよ! 応援します!」 ローエングリンの励ましを受けて、瑞鶴はうん、と気合を入れなおす。 「ところで瑞鶴くん、この森を抜けると町があるみたいですよ。 ちなみに名物は、鹿肉の煮込みだそうです♪」 「……便利だけど、それって能力の無駄遣いのような気がするよなあ……」 はしゃぐローエングリンに、美食家の祭器ってどうなんだ、と瑞鶴は苦笑した。 △ △ 「つまり、ジュデッカの書には、願いを叶える力がある、ということなんですね」 ザカコの言葉に、そうよ、とジュデッカは言った。 「私を開くと、その人の望みを叶える魔法が書いてあるの。 あんた達の知らない古代魔法から、禁呪まで、おおよそどんな魔法も揃ってるわよ。何でもできるわ。 本人に魔力があるかどうかは関係ないわ。私の魔力を使うからね。 ただ、その魔法を使うだけの魔力がチャージされてないと無理だけど」 「チャージ? どうやって?」 「決まってるでしょ」 ジュデッカは笑った。 「魔力を持ってる奴からチャージするのよ。命ごと」 「……今はどれくらいチャージされているんです?」 「内緒よ」 ジュデッカは意味深に笑った。 「何か、叶えたい願いでもあるの?」 「アニスさんの目的を探っているんです」 「無理しなくてもいいのに。欲望くらい誰にでもあるでしょ。私を開いてみる?」 深い笑みを浮かべながら、ジュデッカはザカコに迫る。 「あなたとアニスさんの間には、一体何があったんです?」 問いを続けるザカコに、ジュデッカはつまらなそうな顔をした。 「理性的な奴ってつまらないわね。 私を狙ってた奴なんて多すぎて憶えてないわ。 アニスも死んだと思ってたけど生きてたのね。最も私が知ってるアニスは、ロリロリのガキ魔女だったけど」 「……成長したんですか? 魔女が?」 「知らないわよ」 ジュデッカは興味もなさそうに言う。 「では、あと一つ」 ザカコは、最後に訊ねた。 「あなたは今迄、どれくらいの願いを叶えてきたんです?」 その問いに、ジュデッカはくすくす笑い出した。妖艶な笑みを、ザカコに向ける。 「ふふ。ふふふっ。それはね、内緒よ」 「ふむ。リンネさんやら『書』の護衛の方は、問題ないかな。 ワイは隠れておいて、魔女の退路を断つとするか」 七刀 切(しちとう・きり)はリンネと『書』を護る為に集まった者達の顔ぶれを見てそう言った。 「まあ保険みたいなものだし、ワイの出番は来ないことを祈ってようかねぇ」 「うん、わかった、こっちも頑張るね」 リンネが頷く。 「ただ撃退するんじゃなくて、次はないようにしなきゃだもんね。 とりあえず、捕まえないとねっ」 「そういうことだね。 臨機応変に対応できるよように、位置取りには気をつけておくわ。じゃあな」 周囲の様子を見に行く切に、リンネが「よろしくねっ」と手を振った。 ▽ ▽ ヤマプリーを追放されたレキアは、ひっそりとスワルガのとある村に隠れ住んだ。 スワルガの民に紛れる為に翼を切り落とし、ローブを目深く被った姿で、僻地の方に家を建て、村には、買出しなどの必要な時にしか訪れない日々。 だがある日、久しぶりに村へ訪れて、レキアは愕然とした。 多くの家々は焼け落ち、村人は累々と、死骸となって転がっていたのだ。 「……剣の傷……」 死体を調べて、レキアは呟く。 この村は、何者かの襲撃に遭ったのだ。 △ △ |
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