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海開き中止の危機に!

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海開き中止の危機に!

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「ムフゥゥゥゥ♪」
 蒼空学園の制服を程よく着崩している、セイバーの天津 諒瑛(あまつ・りょうえい)はパートナーであるウィザードのサイカ・アンラック(さいか・あんらっく)の姿を見つめて口元を緩めすぎていた。
「やっぱりポニテは海でも映えるんだなぁ」
 乳白金のポニーテール、サイカは天津が選んだ水着を着て砂浜を駆けている。豊かな胸元やお尻、程よく引き締まりくびれのあるウエスト、すらりと伸びる手足、整った肢体。それらを競泳タイプの水着が美しく演出しようとも、ポニテの魅力には敵わない、そう、サイカが走り跳ねる度に揺れる毛先の美しさと柔軟性。
「美しすぎる」
 まぁ、不覚にも水着姿にも見惚れてしまったわけだが、それは、まぁ、サイカには言う必要も知られる必要もないわけで。
「待てぇぇぇい」
 そのサイカは何故に砂浜を駆けているのかと言えば、全裸の変態変熊仮面(へんくま・かめん)と浜での相棒カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)を追い駆けているのである。
「誰がこんなオッサンの相棒だ!」
「だから俺様はまだ未成年だと言うに」
 サイカの火術を避けながら、2人は必死に逃げている。
「大体、何で俺まで逃げてんだ、関係ねぇだろ」
「貴様、この世に自分と関係の無い者など、おらんのだ、地球に生きとし生ける者みな兄弟なのだ、弟よ」
「誰が弟だ!つーか服を着やがれ服を!」
 2人を追ってサイカは駆ける。天津が見ても考えても、しばらくは続きそうだなと思って取れた。
 そんな天津がふと気付く。2人の逃げる先にいる2人の生徒、一人は繭の影に隠れていて、もう一人は繭に顔を寄せている。
 繭の影に隠れているのは、ロングウェーブで長身のバトラー、リオール・バイロン(りおーる・ばいろん)である。シルクの袋の中を見て、笑みを零している。
「これだけあれば良いだろう。さてと、そろそろ撤退するとしようか」
 袋の中にはサラマンダーのウロコが幾つも入っている。戦闘中のサラマンダーや気絶した後のサラマンダーから頂戴したものだ。
「人間にも化け物にも隙はある。見極めれば何を成すにも容易なのだよ」
 大きく息を吸って吐き出して、呼吸を整えてから。
「ん? 何だ? 騒がしいな」
 リオールが物音に気付いて振り向く、少し前、繭に顔を寄せているのは沢 スピカ(さわ・すぴか)、ベリーショートの白髪が似合うローグである。
 スピカの周りには繭が幾つも並んでいる。思っていたよりも繭が大きくて搬送手段に困っていたが、大きいなら大きいでチャンスが広がると転換した。
「元手がタダ… ふふふ、大儲けができますね」
 砂浜での騒ぎを尻目に、陰気な顔をしながら孵化し終わった繭のみを集めていたのだ。
「切り刻んで小分けにして売る。空京砂浜名物。ふふふ、恐るべき商才ですね。けほっ、けほっ」
 嬉しさで油断したスピカが咳き込み始めた。持病が出たなら放置する、しばらくすると復活するからだ。
「さぁ、屋台の準備を始めなきゃ。金が私を待ってるわ」
 繭の影に座り込んで、ゆっくりと呼吸を整えていた時、スピカも騒がしい物音に気がついた。そう、サイカに追われる変熊とカーシュが2人の元へ走り逃げて来ていたのだ。
「誰だ! こんなところにサラマンダーの繭を捨てたやつは!」
「んな事より、あの女をなんとか、っておい、デケェの構えてんぞ」
 苛立ちが最高潮に達したサイカは特大の火の弾を作り構えた。
「これで、終いよ」
 サイカが放つ、火の弾を。逃げても逃げ切れぬ、その威力。逃げ走る先にはスピカが集めた繭の数々、そして繭の影にはスピカとリオール。2人が振り向き見上げた時には既に火の弾は放たれていて。放つサイカも本気である、変熊とカーシュが走る先、到達位置を予測して、そこはスピカとリオールの居る場所、つまりに。
「ダワァァァァ」
「ちっきしょおぉぉぉぉ」
「あぁっ、私のウロコがっ」
「げほげほげほげほ、かはッ!!」
 変熊、黒コゲ。カーシュは、半コゲ。リオールはウロコに別れを、スピカは粉々の繭に涙した。
「あぁあぁ、やっちゃった」
 サイカが焼き跡に背を向けて歩きだしたのを見て、天津も腰を上げて背中を伸ばした。満足したのか、いや、アホらしさに気付いたんだろうな。そんな風に思って天津は、
「ようやく露店の準備ができるな」
 そう呟いて、浜を歩き出した。


「お嬢様っ」
 サラマンダーの突進に、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は剣で受けて進路を逸らした。
「ミルフィ!」
「大丈夫です。さぁ、繭から手を離さないで」
「うん」
 サラマンダーと目が合うミルフィ。睨み合って負けないで、急に逸らして繭に駆け寄った。
「お嬢様っ」
「うんっ」
 繭を抱えて「バーストダッシュ」を同時に発動、サラマンダーから見事に離れ離れて粒の如くに。
「上手くいきましたね」
「うんっ、ミルフィの言った通りです、凄いです」
「そうでしょう、そうなのですよ、お嬢様、わたくしのいう事に間違いも無茶も無いのです」
「うんっ、うんっ、頼りにしています」
「ですから、安心して、このスク水を!」
「それだけは嫌ぁぁぁぁ」
 繭を放って逃げる神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)。それをミルフィが追うもんだから。撤去作業は進まないナイ。


「面白くない、というのが結論だな」
 士 方伯(しー・ふぁんぶぉ)は大八車を引きながら、結論付けた。心なしか、いや確実に足取りが重い。
 荷台には繭が4つ乗っている。パートナーのジュンイー・シー(じゅんいー・しー)は荷台を支えながらも方伯の表情を読み取っていた。
「何を言うか、貴様が、面倒事は嫌いなんだ、などと言って繭を集める側に回ったのだろう。文句を言うな」
「繭が重過ぎる、そして積み過ぎだ。作業が単調過ぎる」
「ダラダラ運んでいるなら、カキ氷はお預けだ、喰わずに帰る」
「卑怯な、まさか卑怯者だったとは」
「働かざるもの… だ。ほら、力を入れろ」
 方伯はため息をついて力を込める。砂浜に車輪は、手強すぎる…。


 薔薇の学舎の制服を着た柳生 匠(やぎゅう・たくみ)はようやく、ようやくに砂浜にやってきた。
「だいぶ遅くはなったけど、ま、いいか」
 金色の瞳で浜を見渡す。孵化したサラマンダーは、戦闘中の生徒達もいるが、おっ、気絶させた。孵化していない繭は、岬の方へ運んでるな、残り数も少ないみたいだし。
「ふぅむ、大丈夫そうだな」
 遠くに見えた生徒達、戦う者あれば運ぶ者あり、どちらも汗も血も流しているのだが、匠の位置からは想像するより他になかった。それでも事態は収拾しつつある、と彼は感じたのだった。
 5メートルも離れていない所に、こちらも今し方の到着であろうか、浜を見渡して頷いている、祢夢 神音(ねむ・かむね)はビキニ姿で立っていた。
「泳ぐつもり?」
「ん? そうだけど」
「いや、海開きは明日だから、今日は入れないと思うけど」
「あぁそうなの。知らなかった」
 知らない? そんな事があるのか? そんな事だからビキニを着て来ちゃったなどと言うつもりなのだろうか?
「ねぇ、明日は海、開けるの?」
「分からないな、これから主催側に確認に行こうとは思ってるけど」
「私も行く。私は泳ぎたいの」
 海に入りたいと直談判するつもりだろうか。まぁ、実害も何もなさそうなので匠は神音と共に歩き始めた。ゆっくりと、歩幅を合わせて歩んだ。
「ねぇ、匠は屋台とか出すの?」
「出すよ、かき氷の屋台を出そうと思ってる」
「ふぅん、あ、そう」
 確かに互いに名乗りはしたけど、いきなり名前を呼び捨てにされるとは思わなかった。匠は驚きもしたが不思議と嫌ではなかった。
 匠と神音、2人並んで浜を横断した。


「他の人の屋台を見てくる」
 そう言って晃月 蒼(あきつき・あお)は駆け出した。パートナーのレイ・コンラッド(れい・こんらっど)はフライパンを片手に蒼の行く先方向を目で追った。
 駆ける蒼がふと海に目を向けた時、波打ちに近い浜に座り込んでいるカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)を見つけた。パートナーのメイ・ベンフォード(めい・べんふぉーど)がカリンの顔を覗き込んでいる。
 蒼も駆け寄りてカリンの顔を覗き込んだ。
「あぁっ、火傷してるっ!」
「何なんだぃアンタは、誰だぃ」
「うぅ〜、レイぃ」
「お呼びですか?蒼様」
「レイっ」
「いったい何なんだぃアンタたちは、急に現れて」
「火傷ですか、サラマンダーと戦われたのですか?」
「あぁそうさ、あいつら、みんな私が気絶させたんだ」
「… 吸精幻夜ですか、それで火傷を」
「分かるのかぃ」
「傷を見れば推測はできます」
 そう言ってレイはカリンの顔を覗き込んで火傷をした頬へと近寄りた。
「うっ、近ぇよ」
「近くで見なくては診察できません」
「頼んでねぇだろ」
「肌理の細かい肌です、きちんとした処置をすれば元通りになります」
 余計に頬を赤くして、カリンが俯こうとした所を、レイに顎を持ち上げられた。カリンの目の前にレイの顔があった。
「何しやがる」
「頬を見せて下さい。すぐに済みます」
「… 早くしろよ」
 蒼は微笑んで、メイは不思議そうに二人の様子を見ている。
 カリンの赤は、頬だけに留まりそうになかった。


「イチゴにメロンは定番すぎる、そうだなぁ、桃にレモンを少し加えれば味が締まるかな、あとはパインに練乳を混ぜると甘さが増す、か」
 並べたシロップの瓶を前にして、研究家のように緻密な瞳をして開発しているパートナーの吸血鬼、龍崎 蒼(りゅうざき・そう)を細めた瞳で虎崎 千乃(とらさき・ちの)が見つめていた。
「あたしよりも蒼ちゃんの方が気合い入ってるような気がするんだけど…」
「ん? あ? ちょっと待て、後で聞いてやるから」
 怒りが額に十字を浮かべる。
「明日の海開きは楽しみですね」
「明日? おうよ、水着の姉ちゃん達がたくさん来てくれるように、な、準備に妥協は無しだぜ」
 怒りの十字が増えてゆく。水着の姉ちゃん達が、の辺りが爆弾だったのかもしれない。
「蒼、氷を持っていってあげて下さい」
「はぁ? 今か?」
「そうです、今です。サラマンダーとの戦いで火傷を負った人もいるはずです」
「だから氷を運べってか、どうして俺が」
「火傷には早期対応、氷が一番なんですっ」
「嫌だね、俺は今、モテシロップの開発に忙しいんだ… ってオイ、千乃、蹴るなっ。わあったよ、行くって!」
 尻を蹴る蹴る足も蹴られる。千乃は怒りの十字の数だけ、蒼にぶつけて追い出した。
「まったくっ」
 蹴りだして追い出して氷を投げ渡して、鼻息荒く千乃は仁王立ち。それでも怒りが占めてはいても、蒼の後ろ姿を淡く見守っていた。