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海開き中止の危機に!

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海開き中止の危機に!

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第三章  運搬、そして明日の海開きに向けて

 浜の外れにある岬。波間には集められた大量の繭が網で囲われて浮かんでいて、孵化したサラマンダーは気絶した状態で捕獲、体の炎は消えた状態で砂浜に並べられていた。
 ビーチバレーボールのルールを樹月 刀真(きづき・とうま)はパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に教えていた。刀真が腕を振りあげた時、その手の向こうに巨大な船が姿を現したのが見えた。
 目を細めて見つめてみれば、甲板に立っているのはエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)、そしてイルミンスール魔法学園生徒会役員の マルティ・ラミールとそのパートナー イリス・ウッドであった。
「船の手配をしようと考えたのですが、すでにマルティ嬢が動いてると聞いたので合流させてもらいました」
「で、結局、繭は曳いて運ぶのか?」
「任せておけ」
 そう言ってラベル・オバノン(らべる・おばのん)姫神 司(ひめがみ・つかさ)緋桜 ケイ(ひおう・けい)の2人を前に出した。
「この2人に働いてもらうのじゃ。まぁ、見れば分かる。早速船を出すとしよう」
 船に繭を囲った網を取り付けて、サラマンダーたちも船に乗せて、出航させた。ファイアサラマンダーを火山島に帰すのを見届けたいとレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)も乗船した。
 

「氷の若者、氷術じゃ」
 ラベルの呼びかけに、緋桜はギャザリングヘクスを唱えてから、小さく静かに氷術を繭に向けて放った。それは蝋燭の炎を消さないように、それでも炎を揺らし続けるべく息を吹き続けるような小さく細い吐気のような冷気の風だった。
「濡れた布に彼の氷術で繭の温度が上がる事を避けられるが、氷術は長いこと唱えている事は困難じゃ。そこで、」
 ラベルが上空を見上げた時、空飛ぶ箒に跨った姫神とそのパートナーグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)がバケツを持って宙を舞っていた。
 姫神とグレッグが繭の向けて海水を散布、その水をラベルの火術が蒸発さればドライミストの完成である。あとはレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)が作った空繭の籠で覆ってしまえば、これも温度上昇を抑える事ができる。
「交互にしておれば時機に到着する。使えるモノは全て使うのじゃよ」


 二度三度の交代で船は火山島へと辿り着いた。
 乗員総出で繭とサラマンダーを運び込む。繭は再び流されない場所に配置、砂の食べ過ぎで腹の膨れたサラマンダーも繭から遠く離れていない箇所にまとめて集めた。
 刀真はサラマンダーに声をかける。レイディスは繭に声をかけた。
「ココなら安全だ、強く生きろよ」
「家に帰れてよかったな。もう流されるなよ」
 かけた言葉は優しく温かい。浜に打ち上げられたファイアサラマンダーの繭。サラマンダーと戦闘を行った生徒もいたが、憎くて戦ったわけじゃない、乗船した生徒も浜に残っている生徒達も、誰もサラマンダーに敵意は無い。海開きを行うのに妨げになるから撤去した、それだけのことなのだ。
 静かに眠っているファイアサラマンダーとその繭たち。陽が沈む。このまま朝まで、おやすみなさい、そして、おかえりなさい。火山島はそう言ってくれているかな。


 冥土戦技を使いこなすツインテールの乙女っ子ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は瞳を閉じて覇気を滾らせて呟き唱える。
「夏の海、綺麗な砂浜が心を癒す」
 呼吸を整えて力を抜いて。
「みんなが綺麗にしてくれた。でも私だから見つけられるゴミがある」
 心臓の音に体を預ける。自然にビートを刻み動き出す。
「魔術とメイド技術を融合させた、そう、名づけてお掃除無双始めます♪」
 目を見開いて跳び出した。ナナは走りながら砂浜に埋まり隠れているゴミを見つけては袋に詰めてゆく、そう、もちろんに分別も完璧に。浜の隅から隅まで順に駆けて掃除してゆく。
 そんなナナの姿を見て、頬を膨らませているのはパートナーの魔女、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)である。
「折角覚えた雷術が試せると思ったんだけどなー」
 ナナは始めから浜の掃除の仕上げは自分が、と言っていた。確かに今の姿を見れば、誰もが任せると言うであろう事は容易に想像ができた。それにしても。
「ズィーベン、お願い!」
 ナナは集めた燃えるゴミを宙に投げる、それをズィーベンが火術で焼き払う。
「何かボクだけ楽だなぁ、いいのかなぁ」
 広大な浜を駆けているナナ、それを見て、たまに火術を使う自分。
「よし、次は思いっきり全力でやろう」
「ズィーベン、ちょっと来てぇ」
 呼ばれてズィーベンは駆け寄った。そこには人型に見えなくもない黒コゲのものが落ちていた。
「これは大きすぎて運べないから、ここでお願い」
「あれ? 何か今ゴミが動いたような気がするけど気のせいだよね〜」
 そう全力で、思いっきりに火術がゴミを燃やしゆく。
 ナナが再び走り出した、その瞬間、黒コゲ人型が炎の中から跳び出してきた。
 そう、燃やされていたのは変熊仮面(へんくま・かめん)その人だったのです。
 海に飛び込み消火で起立。今日は良く燃える日だ、などと言ってはいるが、今も昔もこれからだって、彼は全裸なのである。
 顔を赤らめてナナは逃げ出し、ズィーベンは再び火術を放つ。本当に火に追われる日のようだ。変熊は波をバシャバシャ、海の中へと駆けていった。