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白砂の砂漠のお祭り騒ぎ

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白砂の砂漠のお祭り騒ぎ

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「――よし、と」
 五条 武(ごじょう・たける)はポスターを貼っていた。
 静かに冷えた砂漠の朝。
 会場の外側の何も無い白砂の砂漠では、緩やかな起伏にかかった朝日が白い光と長い影とを静かに作っている。
 対照的に会場内では、準備に追われた人々が様々な機材と共に、忙しく行き交っていた。
 いくつものテントやステージ、露店の建ち並べられたチェイアチェレンの会場の方々では、すでに火が焚かれており、時折り、そこで暖を取る人の姿も見られた。
 そういう風に、そこにはあったのは、もうすぐお祭りが始まる気配だった。
 静かな活気と、ほんの少し胸がウズウズするような予感。
 武は口端で笑んで、引き続き他の場所へポスターを貼るべく荷物を抱えて歩き始めた。

 武の去った場所に貼られていたポスターにあったのは、『砂漠のお祭り 大人の夜の部』という文字と武と明智 珠輝(あけち・たまき)が妖しく寄り添う写真。
 そのポスターの前に立った騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、ふぅんと小首を傾げる。

■第一章
「――はぁっ!?」
 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔、とはよく言ったものだなぁ、と感心しながら張 飛(ちょう・ひ)はパートナーである月島 悠(つきしま・ゆう)の顔を眺めていた。
 白砂の砂漠に仕切られたチェイアチェレンの会場。
 その北側に設営された大きなライブ会場の裏側に設けられた控え室だ。
 中では、各々ギターやベースを抱えたシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)向山 綾乃(むこうやま・あやの)エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が悪戯げに、あるいは楽しげに、もしくは申し訳無さそうに、悠を見ていた。
 悠が今にも泣き出しそうな顔をしながら、目の前で和風ロリータな衣装を広げる麻上 翼(まがみ・つばさ)に縋りつく。
「そ、そんな恥ずかしい格好で、みんなの前になんて出れないよぅ〜」
「違いますよ、悠くん。今回の任務はこれを着て、ステージで歌うことです!」
「ももももっと無理ぃ!! そんなこと聞いてないよぅ〜。私はただ応援しに来ただけなのにぃ〜!」
「先に言ったら逃げちゃうくせに」
「当然!」
「とにかく。隊長命令ですよ。ね、隊長?」
 翼が振り向いた先で、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が一枚の紙を悠に差し出した。
 悠がそれを受け取りながら首を傾げる。
「歌詞だ。作詞を頼まれた」
 更に悠の手に翼からディスクが渡される。
「曲はこっちですよ」
「二時間後、武神より振り付けの指導がある。なお、本ステージは佐野によって記録され、今後、広報に活用される可能性がある。無様な姿を残したく無くば死ぬ気で覚えろ。以上だ。復唱はいらん」
 悠は、泣いた。
 
 一方、ライブステージ。
 メロディとリズムが重なり溶け合って、やがて止まる。
 佐野 亮司(さの・りょうじ)はヘッドフォンを下げ、録音ミキサーと録画モニターから客席の方へと顔を上げた。
 客席の方々に立っていたヨマのスタッフがそれぞれ腕で作った大きな丸を見回す。
 亮司は、うなづいて拡声器を手に取った。
『こっちは、これで問題なさそうだ。そっちは?』
 ステージの上に立つ遠野 歌菜(とおの・かな)たちへと聞く。
 ギターを下げたヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が片手を挙げ、
『ギターの返しを下げて、ベースを少し上げてくれ。後はそのまま』
 ヘッドセットのインカム越しに、スピーカーを通して言う。
『了解』
『私には歌菜のかわいい声をもっと』
 キーボードの前に立つ島村 幸(しまむら・さち)が続ける。
『そっちは既にMAXだ、諦めろ。他は大丈夫か?』
 佐野の問いに、マイクを持った歌菜が笑顔で「はい」と返して、ドラムの椎名 真(しいな・まこと)七枷 陣(ななかせ・じん)が「問題ない」と笑顔で手を振った。
『了解。ではもう一度、1コーラスだけ』
 再び鳴り始める音楽。

 リハーサルの行われるステージの端では、ケンリュウガーの格好をした武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がヨマのスタッフたちと演出の打ち合わせをしていた。
「やはり、これ以上こちらには回せないみたいで」
「そうか……どうするかな」
 どうにも人手が足りない。
 少し演出を削る必要があるかもしれない、と牙竜が思案し始めるのとほぼ同時に、可愛らしい声が響き渡った。
「見つけたよ、ケンリュウガー!」
 グロロリ衣装と鎧をミックスした衣装に身を包んだ
リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が、客席の、少し高くなっているところからケンリュウガー(牙竜)を見下ろす。
「今日こそ、この暗黒卿リリィと決着を付けてもらうからね!」
 そちらの方を見ていた牙竜が、ぽむ、と胸元で手を打って、スタッフの方へと向き直る。
「ライティング役が見つかった。これで演出プランは変更しなくて済むな」
「え、あの、ねぇ、ケンリュウガー……? ちょっと、ね? ね? おーい」
 いきなり無視されたリリィが不安げに近づいてきたところで、牙竜はリリィへと演出指示書を渡した。
「へ?」
「それじゃ、演出リハ始めるぞー!」
「え? え?」
 持ち場に向かうスタッフに促されて、リリィがスポットライトの方へと流されていく。