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白砂の砂漠のお祭り騒ぎ

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白砂の砂漠のお祭り騒ぎ

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■第八章 絶頂ライブステージ そして、祭りの終わりに
 明智 珠輝(あけち・たまき)は、黒いエナメルホンテージに身を包み、猿ぐつわと手錠を掛けられ、そこに居た。
 といっても、目隠しされているから珠輝には、『そこ』がどこだかは分からない。
 ただ、五条 武(ごじょう・たける)に命ぜられるがままに、こんな格好をして、促されるがままに『そこ』に居た。
 ざわざわと大勢の人の気配を感じる。
 猿ぐつわがずらされて、口端をうっつらと唾液が伝う。
「五条さん、こんな激しいことを……」
 やや恍惚めいた口調で零している間に、目隠しが外され、視界が開ける。眩しい。
 少しばかり時間を掛けて、ようやく開けた視界に映ったのは、ガスマスクを被った上半身裸の黒レザーボンテージパンツ男だった。
 ガスマスクの向こうにわずかに見える目元から、これが武だと分かる。
「ここは……ステージ?」
 周囲に視線を巡らせ、己が立っている場所をぼんやりと把握する。
 ステージの下には大勢の人々、後ろにはドラムとベースを頼まれたらしいヨマの民が居た。
 武が無言のまま珠輝へとメモを渡し、ステージ端に立て掛けてあるギターの方へと向かっていく。
 ジャラリと手錠の鎖を鳴らしながら、受け取ったメモを開く。
「……これを、歌う? ……了解です」
 そうして、珠輝はステージ中央に設置されたマイクスタンドへと向かった。
 その向こうで、ギターを構えたガスマスク男(武)が、ノイズと歪んだ音をわずかに零す。
 手錠された両手でマイクを持つ。
『あの……Z’cho(絶頂)です。目立つと、なんか凄いテクニシャンからスカウトされると聞きましたので……頑張ります』
 ざわめきが、しぃ……ん、と静まる。
 ゾクゾクと珠輝の中で沸き立つものがある。
『観客、そしてバックバンドの皆さん……そんなさげすんだ目で……』
 抑えきれず息が荒くなる。
『私、感じてしまいます……ッ!』
 その告白と同時に、爆音が叩き出される。
 低音で刻まれる十六分音符と、怒涛のバスドラム、ガスマスク男(武)が有り得ないくらい上半身を揺れ動かしながら歪みとノイズを撒き散らす。
 
 それを。
 板東 綾子(ばんどう・りょうこ)ナレー・ション(なれー・しょん)は最前列で見ていた。
 ステージの上では、珠輝がマイクスタンドに腰を擦り付けて、ポールダンスよろしくグィングィンと蠢かし捲くりながら、激しくロックに、しかし、いやらしくねっとりと歌っている。
「……うわぁ……うわぁあ……うわあああああ」
 もう、それしか出てこない。
 そうして、曲は今や最高潮とばかりにサビへ突入していく。

『痛覚と悦楽の狭間
 倒錯の階段駆け上がり
 理性と情欲の背反
 退廃の彼方へ堕ちていく』

 そのサビが始まると同時にステージ前方へと出てギターを股の間に立たせていたガスマスク男(武)が、そそり立ったギターネックへと這い回らせる指の動きを激しく激しく加速させていく。

『果てなき奈落の中で
 漆黒の愛で締め上げて
 遥かな高みの中で
 白濁の愛で染め上げて――』

 そして。
 サビが終わると同時に――
 会場の興奮の行く先を代行するかのようにガスマスク男(武)はビクンビクンと激しく体を痙攣させた。 その後はなにやら、ぐったりとした動きになりながらステージの奥へと戻っていく。
 と――。
 マイクスタントに腰を擦り付けていた珠輝の体が横へ吹っ飛んだ。
 ステージの上へ転がる珠輝。
 その後ろから現れたのは、思い切り蹴りを入れた格好の――騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だった。
 妹系の可愛らしいメイド姿で、強烈にドSな笑みを浮かべている。
 爆音で音楽が続いていた。
 ついでに、なんか知らないけど珠輝はとても嬉しそうだった。
 そして、詩穂が珠輝を踏み付けながらマイクを握る。

『私はサディスティックメイドさん
 だーから可愛いのっ』

 激しい曲調に乗っかる可愛らしい歌声とウインク。
 詩穂の足が珠輝の背から退いて、爪先でその顎をつんっと上げる。

『そんなにご奉仕してほしいのですか?
 ならば私のブーツを舐めていただけますか
 あははっ 舐めながら私の下着を覗き見していますねっ』

 再びウインクして、恍惚と舌を出しかけていた珠輝の頬をたんっと足で蹴り弾く。

『黒のレースの下着はご主人様のため』

 そこで、珠輝を蹴った足をそのまま少し上げながら、スカートの端を摘み上げて、黒レースの下着をチラリ。

『M男クンたちの心をくすぐるの
 満足されましたか、ご主人様?
 私からは逃れられませんよ
 だって 男の方はみんな潜在的にMなんですから――』

 ステージが揺れていた。
「……………………」
 綾子の背後、観客席から沸き起こっている燃え上がった一部の人々による熱くドス黒い歓声が、ステージを揺るがせ続けていた。


 黒っぽい熱狂遠く、フリースペースの広場。
「いっくぜー! 『ミルキーウェイ・スプラッシュ』!」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)の声が弾んで、ヨマの民による演奏が始まる。
 音楽に合わせてミューレリアが踊り――

『見上げてみなよ 輝く星を
 手を伸ばしたら きっと届くよ 
 夜空に光る 白銀の海へ
 地面を蹴って さあ飛び込もう』
 
 歌いながらステップを踏んだミューレリアの体が、バーストダッシュでポーンと夜空に舞って、空中でひらりと一回転。
 そして、空中に光術の光が咲く。

『ラララ ミルキーウェイッ
 ダンス・ウィズ・スターズ
 ラララ ミルキーウェイッ
 ダンス・ウィズ・スカイ』

 楽しく跳ね回るメロディのキメに合わせて、ミューレリアが元気の良いポーズを取っては光術を放っていく。
 見物客に混じっていた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、その軽やかに空中を飛び回りながら光と音楽を振りまいてく姿に魅入って、ほぅと溜め息を洩らした。
 他の見物客も、ミューレリアの歌とダンスに合わせて体を揺らしたり、歓声を上げたり、一緒にメロディを追ったりしている。

『星と一緒に 銀河を駆けて――』

 やがて、歌は終わり、曲の終わりまできっちりとダンスを決めたミューレリアに喝采。
 優希もワァと惜しみない拍手を送った。
「器用なもんだな」
 優希の隣に立っていたアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が呟く。
 ミューレリアが見物客たちの賞賛に応えてから端の方へと抜けていく。
 そして、アレクセイが端で休憩しているミューレリアの方へ行ったので、優希は慌てて彼の後を追った。
「微妙に落下速度を変えたりもしてただろ? 重力制御か何かで」
 いきなり言われて、ミューレリアがぱちくりと瞬きしながらアレクセイを見上げる。
 それから、にぃっと笑った。
「効果出てたか?」
「本当にほんのりとだけどな――しかし、あれだけ色々とやって良く体が持つ。素直にスゲーよ」
「おかげで、もうヘトヘトだぜ。ま、芸能プロダクションのスカウトの目を引こうったら、こんくらいは――」
「スカウト?」
「目指せアイドル、ってね」
 にひひ、と笑ったミューレリアの視線がアレクセイの後ろに隠れていた優希を見つける。
「彼女?」
 ミューレリアが小首を傾げ、優希は慌てて両手をぶんぶんと振った。
「あ、あの、私、その、違うんですっ、ええとっ――あ、さっきの、すごく、良かったです……感動しました。可愛くて、元気一杯で……」
 それを聞いたミューレリアが屈託無く「ありがとな」と笑ったのとほぼ同時に、後ろで音楽が始まる。
 振り向けば、フリースペースではヨマの民の演奏に合わせて人々が踊っていた。
 自由参加らしく踊っている人の多くは、先ほどまで見物をしていた人たちだった。
「っと、負けてられないな。やっぱ最後の最後までアピールしないと!」
 ミューレリアが、パシッと掌に拳を打ち付けて踊りが行われている方へと向かっていく。
 と――途中でくるりと振り向いて。
「せっかくだしさー! あんたらも踊っとけよー!」
 口元に手のメガホンを作って言ってから、ミューレリアは踊りの中に入っていった。
「だ、そうだ」
 アレクセイが言って、優希は「えっ!?」と身を揺らした。
「どうせミラと待ち合わせてんのはここだし――結局、今日はミラを探してて、ほとんど祭りらしいことしてねぇしよ」
「あ、あのっ、でも私、踊りなんて――」
「いいんだよ、楽しけりゃなんでも。だって、これはそういう祭りだろ?」
 アレクセイが笑んで、促すように優希の手を取った。
「あ……あのっ――」
 やっぱり少し戸惑って。
 でも。
「……よろしく、お願いします……その、精一杯頑張りますからっ」
 優希は彼の手を握り返し、歩き出した。


 会場の外の砂漠。
 白い月の明かりを返しながら、手負いのシュタルが空中でよろよろと旋回していた。
 それを追って、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)が同時に飛ぶ。
 これまでに倒したシュタルの数は同じ。
 ジーナの剣がシュタルの寸分先を掠める。
 と、章がジーナの肩に手を掛け、ぐぅっと己の体を持ち上げる。
「んぁ!?」
「この勝負、貰った!」
 ジーナの肩に足を掛けて、それを踏み台にした章が更に跳んでシュタルの懐へ飛び込んでいく。
「って、させるかですよー!」
「くぅ!?」
 ジーナが、がっしと章の足を掴み引っ張る。
 そのまま二人で砂漠に落っこちて――先に起き上がったのがジーナだった。
 今にも砂中に隠れようとしたシュタルの方へと、滑り込むように踏み込んで、剣を一閃させる。
 と、同時にシュタルが崩れて、砂と化した。
「へ?」
 首を傾げるジーナの向こうで、ヨマの青年が一息ついてから大きく手を振った。
「儀式が無事終了したみたいでーす!」
 章が手をパタパタと砂を払いながら立ち上がり、ふ、と笑う。
「勝負は引き分け、かな」
「はあっ――何言ってるですかー!?」
「とどめを刺したわけじゃないよね。最後の」
「いいえー刺しましたー、刺しましたですー、ワタシがとどめを刺したですー」
 樹が迎えに来るまでの間、二人は、そんな言い合いを砂漠の上で延々と続けていた。


 会場中央の大きなかがり火の下。
「最後の方、なにやらエグいものが混ざっておったような気もしたが……なんとか、今回も無事終えられたか」
 言って、ところどころ焦げている長老が長い長い溜め息を付く。
 その向こうでは、
「ああ、こんなところに居た!」
 サングラス男がボロ布に包まったロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)へと詰め寄っていた。
「君を探していたんだ!!」
「……なんですの? あなた」
「君ならきっとスターになれる!」
 サングラス男が、がしーん、と手を握ってくる。
 男に手を握られ、少し不快そうに眉を寄せたロザリィヌは、しかしピーンと気が付いた。
「スカウトの方ですわね? おーーーほっほっほ! これでわたくしも芸能界入り! 可愛い女の子達からモテモテなのですわー!」
「ああそうだ! 是非ッ、君をリアクション芸人としてスカウトしたいっ!!」
「おーーほっほっ……ほ?」
「君が火ダルマになって走っている姿を見てピンと来たんだ! 君なら、リアクション芸人界に新風を――」
 とか。
 そんな事があったりしつつ。


 片付けの行われているステージ。
「お、居た居た」
 佐野 亮司(さの・りょうじ)ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)を見つけて駆け寄った。
「そっちのライブのデータだ」
「ああ、すいません。ありがとうございました」
 データを受け取り、ヴィナが礼を言う。
「こっちのついでだったからな。気にするな」
 そんな遣り取りが行われている向こうでは。
「次こそ。戦う。覚えてろ、ケンリュウガー!」
 なんだかんだと最後まで手伝いきってしまったリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が、泣きながらに捨て台詞を吐いて走り去っていく。
 ケンリュウガーは。
 スタッフに呼ばれて、リリィに気付き損ねていた。

 客の去った観客席の端。
「歌菜お姉ちゃん可愛かったね〜」
 ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が機嫌よさそうに『Melty Snow』を口ずさむ。
 その手には、お菓子の入った袋が抱かれていた。
 ヴィナがライブの最後にピックと共に客席へ投げ込んだものの一つだ。
 譲葉 大和(ゆずりは・やまと)はステージの片付けで動き回る人達を遠くに眺めながら、スリ退治に巻き込んでしまって介抱したサングラス男の事を思い返していた。
 ラキシスが少し意地悪な表情を浮かべながら、大和の顔を覗きこんでくる。
「大和ちゃん、ホッとしてる? あの人お笑い事務所の人だったもんね〜」
 大和は、やっぱり複雑な気持ちで、はぁっと溜め息をついた。


 フリースペースの広場。
「お、なんか楽しそうな事やってる! あたしたちも一緒に演らせてもらおう?」
 ギターを背負った蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)の手を引いて駆けて行く。
 その背を見送りながら、
「真紀は踊りの方に?」
 ホットスープを持ったサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が言って、比島 真紀(ひしま・まき)は小さく咳き込んだ。
 その横を、
「楽しそうな音楽が聴こえますわね」
「あ、みんな踊ってます!」
「あれは……アレク様と優希様?」
 ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)鬼灯 歌留多(ほおずき・かるた)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)に手を引かれて抜けて行く。
「あそこで踊っている二人が、おねえちゃんの探してたお友達ですか?」
「ええ……でも――せっかくなのでもう少しだけ、ここで迷子を続けていようと思いますわ」
 ミラベルがどこか嬉しげにそう言って、ヴァーナーは首を傾げた。

 その向こうで。
「ほんと最後の最後になっちゃったけどーシルヴィットさーん、いくよー」
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)がアルミ箔に包まれた大きなボールを、ぽーんっと跳ね上げた。
 それ、を一段高い所に立っていたシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)が、
「きましたよ、ウィル、ちゃんとやるですよー!!」
 更なる上空に向かってトスする。
 そうして――
「最後だし派手に爆ぜるぜ! フレイムシュート!!!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)がアルミ箔のボールに向かって火術を放った。
 その中に入っていたのは、とうもろこし。
 パァーーーンとアルミ箔のボールの中から、ポップコーンが空中に弾け出る。
 それは、明るい月の光に照らし出されて。

「わあ――」 
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が空を見上げながら零す。
 そして、沙幸に後ろから抱きついて暖を取っていた藍玉 美海(あいだま・みうみ)の方へと、沙幸は顔を巡らせた。
 互いに笑む。

「エメネア行こう」
「――はいっ!」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、目を輝かせたエメネアの手を引いて広場へと駆けて行く。
 その二人の背と風景とをファインダーに収め、樹月 刀真(きづき・とうま)はカメラのシャッターを押した。
「刀真さーんっ!」
 エメネアが手を振りながら呼んで。
「今、行きますよ」
 刀真は微笑んで、彼女たちに続いた。

 雨を受けるように翳した手へ、パラパラと触れる感触。 それに鬼灯は首を傾げた。
「これは……」
「ポップコーンです。ポップコーンが降ってます。だけど、白くてふわふわしてて、まるで――雪みたいです」
 ヴァーナーが、鬼灯の手をぎゅうと握る。
 空には、パーン、パーンと何個ものアルミ箔ボールを割って、ポップコーンを夜空にまく音。
「……なるほど、砂漠にも雪が」
 鬼灯は微笑んで頷いた。
「さいきん……たたかいとか、たくさんあって……」
 ヴァーナーがぽつりと零すように言って。
 鬼灯はその続きを静かに待った。
「かなしいことも、あって……でも、今日、ステキなことにたくさんであえたから――」

 祭りの余韻は続き、
 白砂の砂漠にはポップコーンの雪が降っていた。


担当マスターより

▼担当マスター

村上 収束

▼マスターコメント

 シナリオへの御参加ありがとうございました。
 そして、アクション作成お疲れ様でした。

 イベントシナリオなのに、妙に長いです。
 勘違いしてノーマルシナリオのつもりで書いてしまいました。
 書き上げてから気付いたため、削る時間も書き直す時間も無く……今回は特別にこのまま通して頂きました。
 本来、村上のイベントシナリオは、この半分より少ないくらいの量になります。

 あ。あと、何故スリが武装して集団だったのかというと、
 どなたかがアクションの中で呟いてらっしゃった通り、彼らのほとんどがスリ盗る技術に長けていないためでした。
 リアクション内で書いていなかったような気がしますので、ここで。


 今回、『服装欄』に装備したアイテムを扱おうとするアクションがちらほら見られました。
 リアクションで使用できるのは『武装』に装備したアイテムのみになります。
 詳しくは、『マニュアル』内の『プロフィールページの使い方』にあります『装備』の項目をご確認ください。

 あと、アクションの内容と装備している武器の種類が、マッチしていないようなものもチラッと見かけました。
 アクション投稿時には、一度、武装を確認しておくと良いかもしれません。


 なにはともあれ、ありがとう御座いました!
 また機会が合いましたら、宜しくお願いいたします。