イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

白砂の砂漠のお祭り騒ぎ

リアクション公開中!

白砂の砂漠のお祭り騒ぎ

リアクション


■第六章 VS武装スリ集団 そして【Fairy ring】
「ふーん? 武装スリ集団? って、スリ? あははははっ」
 ちゃっちいわねー、とクリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が綿菓子を片手に笑う。
 呑気に笑っている彼女を横目に、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)は、店主に代金を払いながら、嫌な予感を感じていた。
 駿河 北斗(するが・ほくと)が不機嫌に顔を顰めている。
「……警戒してねえ奴を武器で脅す、なんつーのは下衆のやる事だろ」
 ベルフェンティータの予想通り、雲行きが怪しい。
 クリムリッテがケタケタ笑いながら片目を傾げる。
「今時スリで生計立ててるんだとしたら可愛いもんじゃない」
「美学のねえ悪は許せねぇんだよ……」
「北斗って……善悪に拘らないくせに、そういう弱い物いじめみたいなのって嫌いなんだよねぇ? 変なの」
「あー、ムカついて来た。良いぜ。奴らが無法を振りかざすってなら、こっちも同じ土壌で相手してやろうじゃねえか!」
 北斗がグッと拳を握って踵を返す。
「飛空艇を取りに戻るぜ。まずは空から見つけ出してやる!」
 ベルフェンティータは、小さく「ほら」と零した。
 彼女の耳には、折角の休暇がパタパタと飛んで逃げていく音が聞こえていた。


 譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は悩んでいた。
 今日、恋人の歌菜がアイドルを目指してステージに出る。
 聞けば、今日、ここに芸能プロダクションのスカウトマンが来ているのかもしれないというのだ。
 もし今日スカウトされれば、歌菜は――。
 いや、それが例え今日ではなかったとしても、歌菜が本気で目指している以上、いつかはその日はやってくる。やってきてしまう。贔屓目なしで考えても、歌菜にはその才能がある、と思う。
 問題は……アイドルに恋人がいて良いのか、ということ。
(俺は……彼女の為に身を引くべきなのでしょうか? ……でも、俺は彼女と幸せになりたい……いや、しかし、彼女の幸せは……)
「あーもう、むしゃくしゃします……っ」
 大きく声に出したい所をこらえて、小さく呻く。
 大和は今、なるべく気配を消していなければいけなかった。
 視線の先には、お金持ちの子供っぽく着飾ったラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が一人ぷらぷらと歩いている。
 ラキシスを囮にスリをおびき出し、捕まえようという作戦だった。功を奏して、人混みの中のラキシスが数人の男に囲まれる。
 大和は小さく息をついて、
「折角ですし……八つ当たりさせてもらいましょう」
 眼鏡を取った。

 鞄に手を掛けた男が、
「ぴぎっ!?」
 ディテクトエビルであらかじめ悪意を察していたラキシスの雷術に痙攣する。
「ごめんねぇ〜ボク静電気すごいんだよ!」
 逃げ出そうとする他の男たち。
 そこへ、
「悪を砕け! 正義の拳、シャイニングカナラヴナッコォ!」
 大和が封印解凍した光術を拳で放って、逃げかけた男たちの一人を叩き飛ばす。
「大和ちゃん、愛の拳じゃなくて?」
「良いんです、決めました。ラキ、俺は俺と彼女の幸せが正義です。正義すなわち愛なんです。邪魔するんなら世界だって敵に回しますよ?」
「はいはい。誰も邪魔しないから隅っこで一人でやっててね〜」
「シャイニングカナラヴナッコォ!」
「ぎょへぇえ!?」
 大和に吹っ飛ばされた男が、そばに居た一般人らしきサングラス男を巻き込んで地面を転がる。
『――あ』
 と、大和とラキシスがそちらに気を取られている隙に、残りの男たちが逃亡していく。


「いやがった!!」
 上空から探索していた駿河 北斗(するが・ほくと)が、逃亡するスリたちを見つけて、小型飛空艇を急降下させていく。
「あいつら、ね――燃やしちゃっても良いんでしょ?」
 クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が空飛ぶ箒で後を追う。
「……一度言い出したら聞かないんだから……あの馬鹿」
 ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)は、小さく溜め息を零して二人の後を追った。
 
 北斗の氷術が先頭の男の足元を凍らせて、男たちが北斗たちに気づく。
 各々がナイフだの銃だのを構える前へと、ベルフェンティータから光条兵器を受け取った北斗が降り立ち、
「てめえらがこの辺を騒がしてるスリ集団か――ったくつまんねえ事しやがって、やる事がちいせえんだよ! 俺はパラミタ実業、駿河北斗。てめえらを倒す男だ覚えとけッ!」
 その気魄と共に、ナイフを振りかざした男の方へと踏み込んで、光条兵器でザウンッと斬り払う。
「ぎゃぁああ――……って」
 斬られた男の体は無傷だった。
 その代わりに、ずんばらりんっと斬り散らされたのは服。
「のわぁああ!?」
 男の裸体が青空の下にさらされる。
 一方、ベルフェンティータの氷術が、銃を構えていた男の手元を凍らせていた。
「……私の名前は覚えないで良いわ。その代わり、八つ当たりさせなさい」
 言って、ベルフェンティータが有無を言わさずに男へと氷術を連発していく。
「……ごめんなさいね、でもあなた達が悪いのよ」
 手元に残る冷気を振って、ベルフェンティータは体中を凍りつかされた男へと冷ややかに続けた。
「静かにひっそり生きてれば、誰も好き好んで関わらなかったのに」
 更にもう一方では、地面に降り立ったクリムリッテがギャザリングヘクスで強化した火術を練り上げていた。
「あっはははは、因果応報って奴よ。悪人に人権は無い訳。オッケー?」
「ひぃいいいっっ!」
 男が、クリムリッテの手元に産み出される火球の熱量に、喉を引き攣らせた悲鳴を上げる。
「あっはははははは」
 クリムリッテが哄笑を上げ、ゴォオオウッと火音を唸らせながら構え――
「この紅蓮の魔女、クリムちゃんの恐ろしさに慄くが良いわっ!!」
 火球を放とうとした瞬間。
「ストップ」
 くいん、とクリムリッテの後ろ襟を後ろから引っ張る者が居た。
「んあっ!?」
 傾いたクリムリッテの手から、火球は空に向かって飛んだ。
 その間に男が人混みの中へと潜り込んで逃げていってしまう。
「何っ!」
 むきーっ、と振り向いたクリムリッテの襟を摘んでいたのは、黒崎 天音(くろさき・あまね)だった。
「あのまま撃ってたら、巻き込んでたよ。あの人達を」
 天音が微笑を傾け、視線で前方の一般人たちを示してから、クリムリッテの襟を離す。
 その向こう。
「……これは」
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、北斗たちが倒した男の持ち物を探り、靴の裏から折り畳まれたメモを見つけていた。
 それを開いて――
「…………字が汚い」
 ブルーズは、一つ、指摘した。
 

(ボクはお金持ちのお上りさん、ボクはお金持ちのお上りさん……)
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、百合園女学院の制服を着て人混みの中をうろついていた。
 手には、いかにも無防備そうにバッグを持っている。
 そのバッグの中身は適当な紙切れや石ころ。
 カレンから少し離れた場所では、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がこっそりと後をつけてきている。
 つまり、カレンは囮だった。
 このカバンをわざと盗ませて、盗っていったスリの後を追う。
 そうして連中の本拠地を探り出す、というのがカレンの作戦だった。
 と。
(――来た)
 ディテクトエビルで害意を察する。
 しかし、それは顔に出さずに、相変わらずふらふらふわふわと祭りを楽しんでいるように装う。
 そして、ぎゅぅっと人混みの中で男達に挟まれる。
 しばらくして、息苦しさから開放される。
「――はぁ」
(……すっごい、乱暴なやり方……)
 手に持っていたバッグは持ち手の部分をナイフで切られ、持ち去られていた。
 が、わざとそれに気付かないフリをする。
 さり気なく視線をめぐらせれば、ちゃんとスリ達の後を追っていくジュレールの姿を見掠った。


 微動だにしないピエロのパフォーマーと、ゆる族を五人組による組体操との間で。
 蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)はギターを弾きながら歌っていた。
 ヒメナの軽快なコード進行に路々奈の印象的なリフと歌声が重なる。
 人はそれなりに集まっていた。
 路々奈は笑顔で歌いながら、集まっている人たちを注意深く観察していた。
 ほとんどの人が、彼女たちに視線を注ぎながら歌に聞き入ったり、リズムを取ったりしている。
 だが、そうではなく、路々奈たちではなく、そこに集まっている人ばかりを見ている者も居る。
 ヒメナもそれに気づいたらしく、短く視線で伝えてくる。
 路々奈は、そちらの方に片目を瞑って見せてから、次に歌うべき歌詞を頭に並べた。
 
 路々奈の歌った『歌詞』を受けて。
 隠れ身を使って気配を殺した比島 真紀(ひしま・まき)は、人だかりの中をすり抜けて目標を探していた。
 歌詞に潜ませる暗号は、あらかじめ決めてあった。
(見つけた……二人)
 目標を発見して、真紀は、人と人との隙間の奥に見えサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)へと目で合図を送った。
 サイモンの頷きを確認してから、視線を戻した先で、男が女性の鞄に手を伸ばしているのが見えた。
 後ろから近付いていって、背中に武器先を押し当てる。
「死にたくなければ……声を出すな、動くな、こちらを向くな」
 静かに警告して、男のポケットから銃を取り上げる。
 そうして、男の腕を掴み、人混みの外へと連れ出していく。
 一方、仲間の異変に気付いたもう一人のスリが人混みをこそこそと抜け出していった先で。
「悪事ってのは巧くいかないもんだよな」
 サイモンが男の腕を取って、手早く組み伏せてしまう。
 そして、男の懐からナイフと、盗ったばかりの財布を抜き出した。
 路々奈たちの演奏が終わり、拍手が起こる。

「お疲れ様。今回は釣れたねー」
「なんだかゲームみたいですね」
 ギターを仕舞った路々奈が言って、ヒメナが苦笑めく。
 彼女たちと真紀らは、会場の様々な所へと移動しながらスリを捕らえて回っていた。
 ちなみに、路々奈とヒメナのパフォーマンスを装った魔法打ち上げは、スリを捕まえるために連携している仲間たちへの合図にもなっている。
 真紀がマイクの片付けを手伝いながら息を零す。
「しかし、思っていた以上に数が多いであります」
「なんだかキリがないな」
 サイモンがやれやれと肩をすくめる。
 と、ちょうど祥子とケイがこちらを見つけて寄って来る。
「お疲れ様。調子はどう?」
「まあ、ぼちぼちかなぁ。そっちは?」
 路々奈が言って、小首を傾げる。
 ケイが、ばつが悪そうに少し顔をしかめて。
「悪い、一人逃がした……」
「こう人が多くては仕方ありませんよね」
 ヒメナが軽く首を振る。
 ふむ、と真紀が頷き。
「やはり、対処療法では限界が……」
「天音組とカレン組に期待、かな」
 サイモンがボヤいて、首を鳴らす。
「……ん? もう一組いなかったか?」
 聞いて、路々奈が「え?」と首を傾げる。
 ヒメナが頷いて、人差し指を立てながら路々奈に伝えようとして、固まる。
 そのまま、んっと考えるように眉根を寄せ。
「ナレーさんの組ですよね。その、もう一人の方が……」
「もう一人……なんというか……こう、印象がとても薄いというか……」
「……思い出せない」
 真紀とサイモンがお互いに、考え込むように腕を組み――路々奈が助けを求めるようにケイと祥子を見たが、二人の目も困ったように泳いでいた。


 首尾良く合流に成功したカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、バッグを盗った男たちを尾行し、会場外れの人気の無いトイレ近くまで来ていた。
「……あれ?」
 男たちの一人がトイレに行ってから数分後、トイレから出てきた男の手には何も無かった。
 その男は確かバッグを持ったままトイレに入ったはずである。
「てことは……」
 カレンとジュレールが物陰で顔を見合わせる。
「中に潜入してみなきゃ駄目? ……い、嫌だなぁ」
 カレンが心底嫌そうに顔をしかめ、ジュレールが軽く首を振った。
「裏手にキャラバンのテントがある」
「ん? あるね」
「おそらく、カバンはトイレの中からそちらに渡されたのだろう」
「ええと……あっちのテントの方が、あいつらのアジトってこと?」
 そこで、「ふぅん」と黒崎 天音(くろさき・あまね)の声が混ざる。
 見れば、天音とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)がカレンたちと同じように、物陰からトイレの方を見やっていた。
「黒崎 天音」
 ジュレールの声に、天音が視線を向けて笑む。
「仕事帰りのスリをつけてきたんだけど、途中で見失ってね」
「どうするか、と困っていた所でお前たちを見つけたのだ」
 その隣でブルーズが頷きながら言って、トイレとテントの方へと視線を返す。
「……なるほどな。トイレを使っているのは、人の出入りが多くても目立たないため、か」
「とにかく! みんながお祭りで楽しんでるのに、スリとか許せないよ! そう言う人達には、まとめて天罰を下さないと」
 カレンが、ぐぐっと拳を握りながら息巻いて、ジュレールが目を細める。
「同感だ。精霊を鎮める神聖な祭りを汚そうなどという輩は……我がこの手で懲らしめてやろう――しかし、どうする? ここで待っていれば、いずれ全てのスリを捕らえることができるかもしれんが……それでは余りに後手過ぎる」
「良いものがある」
 言って、天音が、先ほどスリから手に入れたメモを見せた。
 カレンが小首を傾げる。
「なに? それ」
「暗号表。連中も僕たちと同じように、合図にパフォーマンスを使っていたらしいね。それで――」
 板東 綾子(ばんどう・りょうこ)の名前が挙げられる。
「彼女に確認を取ってみたら、連中に合図を出しているらしいパフォーマーの検討もついた」
「アジトの場所も確認出来た事だし……後は皆に伝え、偽の合図でここに集めた連中を全員で取り抑えるだけだな」
 ブルーズが、やれやれといった調子で言う。
「良かったね、ブルーズ。ちゃんと祭りを回る時間がありそうだ」
 天音が少しからかうように言って、ブルーズが小さく鼻を鳴らした。
 と――。
 天音とカレンがほぼ同時に、お互いのパートナーの腕を引っ張りながら身を翻した。
 四人が立っていた場所に銃弾が走る。
 銃を持った男が、チッと吐き捨てるように言う。
「……今時の学生のカバンだってのに、石ころと紙束しか入ってねぇから、おかしいと思ったんだよ――案の定、つけられてんじゃねぇか」
 天音がブルーズと共に素早く態勢を立て直しながら、視線を走らせる。男たちの数は五人。
 その内、リーダー各っぽいのを合わせて三人が銃持ち。残り二人がナイフ。
 天音の鬼眼で怯んだ所へと、ブルーズがドラゴンアーツで銃持ちの一人を叩き飛ばす。
 次いで、
「ジュレッ!」
「――ああ」
 カレンのファイアストームが男たちの鼻先を焦がし、その隙にジュレールが則天去私を放つ。
 一気に崩された男たちの死角を縫って、天音がリーダー格の懐へと滑り込む。
 そして、男の首元に軽く触れた切っ先。
「降参、するよね?」
 天音が微笑を傾ける。

 そして、しばらくの後――武装スリ集団は一斉に捕縛される事となった。


 会場内の北側に設営されたライブステージ。
 その裏の控え室。
「そろそろ時間ですね」
 遠野 歌菜(とおの・かな)が控え室の時計を見上げて言う。
「それじゃ、行きますか」
 島村 幸(しまむら・さち)が立ち上がり、続いて、七枷 陣(ななかせ・じん)ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)椎名 真(しいな・まこと)が立ち上がる。
 幸が歌菜の片手を取って、五人の真ん中に差し出す。
 それに真、ヴィナ、陣の手が重なり。
「やるなら全力、精一杯楽しんでやらなきゃね……!」
 真が言って、ヴィナがうなづく。
「せっかくの機会だしね」
「ま、練習もするだけしたし。後は、なるようになるんやないの? ていくいっと、いーじー。さあ、楽に行こうよっとー」
 陣の言葉と一緒に五人が合わさった手をぽーんっと上に挙げた。

 客席スペースには多くの人がいた。
 椅子は無く、立ち見のために実際に人を収容できるスペースはかなり広い。
 それでも、ひしめき合うほどに観客が集まっている。
 観客たちが見上げているステージの中央には、巨大な箱が置かれていた。
 赤と緑のクリスマスカラーで綺麗にラッピングされている。
 真、陣、ヴィナがステージの上に現れる。
 それぞれ、オレンジ、灰、黒のダッフルコートを着て、ヘッドセットを付けている。
 気の早い客から指笛の音や拍手が送られる。
 真がドラムセットの後ろに座り、陣とヴィナがステージに置かれていたベースとギターをそれぞれ肩にかけた。
 そして。
『皆様――お集まり頂き、誠にありがとうございます』
 ホットパンツサンタ姿の幸がステージの端より緩やかに登場しながら、ヘッドセットのインカム越しに言う。
『これより登場するは麗しの妖精――』
 ゆったりとした足取りでキーボードの後ろに立ち、幸が小人の鞄を開ける。
 小人たちが中央の箱の方へとちょろちょろと向かっていく。
『見るもの全てを魅了するのでございます』
 幸の指先がキーボードにかかり、柔らかな旋律が零れる。
『お心を奪われませんよう、ご注意を……』
 小人によって箱のリボンが解かれ、四方に開かれる箱の中からサンタコス姿の歌菜の姿が現れる。
 歌菜が胸元に握っていたマイクを口元に寄せ、微笑む。
『大好きな人へ気持ちを込めて歌います! 聴いてください――Melty Snow』
 真のスティックがカウントを取り、叩き出したリズムにヴィナと陣の弾くギターとベースが踊り出す。
 幸がキーボードに指を走らせて、歌菜が前後左右に軽やかなステップを踏み、片手を伸ばし、透き通った声で――

『貴方は気付かないけど
 このダイスキな想いはずっと前から
 ここにあったんだよ
 雪のようにずっと
 降り積もっていたんだよ

 手と手を繋ぎ
 貴方の温もりを感じたい
 貴方と踊る光のメリークリスマスは
 何よりもの贈り物なの』

 歌菜が手でハートの形を作り、ウインクしてから、それを解くように腕を広げていく。

『この雪が全てとけてゆきそうなくらい
 アツイアツイ想いを込めて――』 

 そこで音楽は段々と盛り上がっていき――ブレイク。
 歌菜が、とびっきり可愛らしく。

『愛しています』

 その一言を機に音楽が一気に弾ける。

『キラキラと光る 雪の結晶
 キラキラと光る 貴方への想い

 ゆっくりと降り積もり 白く染める
 ゆっくりと降り積もり 貴方の元へ

 光に溶けて
 夢に溶けて

 私と貴方 『夢の』 』

 歌菜のメロディを四人のコーラスが追う。

『共に踊るわ 『ダンスを』
 全てをあふれる想いにのせて』

 そして、五人の声が重なる。

『踊るよ――』

 メンバー全員が装備している光精の指輪から光精が飛び出し、ゆらりふわふわと光の雪を演出する。
 間奏が鳴る中に起こる歓声。
 歌菜は大きく手を振って歓声に応えてから、その手の先をヴィナの方へと向けた。
『ギター! Vinaさーん!』
 ヴィナの指先がギターの指板を滑ってメロディーを紡ぎ、艶っぽくウインクする。
『ギターのVina、皆でノろうね?』
『ベース! JINさーん!』
 歌菜が、くるんっと回転しながら陣の方へと手を向け、陣がリズミカルなベースラインを弾き出して、手を振る。
『ベースのJINッス! よろしくぅ』
『ドラムス! MAKOTOさーん!』
 歌菜の紹介に応えるように、真がスティックを回転させ、ハイハットを織り交ぜながらタムからスネアへと音をロールをさせていく。
 そして、シャン、とシンバルを叩き止め、楽しそうな笑顔で言う。
『ドラムのMAKOTO、全力でいくよ!!』
『キーボード! Sachi姐さーん!』
 幸がサビのメロディをアレンジして遊んだものを奏でた。
『キーボードのSachi、よろしく……ふふっ』
 怪しげに微笑んでから、幸がそのまま続ける。
『そして――我ら【Fairy ring】のボーカル、Kana!』
 歓声の中、歌菜がヒラリと舞うように飛んで――