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リアクション
10.あちらの世界です
まるで映画館のように、目の前に巨大なスクリーンが映し出された。
「え? ええ? どうなってんのこれ?」
真希は辺りをきょろきょろと見回す。
辺りはただ闇に包まれ──目の前に白い大きなスクリーンだけが浮かび上がっている。
「ふぇええ〜どうなってんの、これ? 確かタネ子さんの悲鳴を聞いたまでは覚えているんだけど……あれ」
気付くと。
周りにはたくさんの人が集まっていた。
「うわぁ、なんだここはっ!? 俺たちの! 俺たちのヒーローデビューは??」
悪食丸が頭を抱えて叫びまくる。
「もしかして、タネ子の叫びを聞いてしまったからじゃないだろうか」
「タネ子の!?」
「耳栓しなかったのが原因だ!」
ジョージの冷静な考えに被せて、悟狼が非難の声を上げる。
「うるせぇっ!」
「──なんだこれなんだこれ!? タネ子にやられた? …俺、自作の耳栓持ってきてたのに……意味ないじゃん…」
祐太はがくりと肩を落とした。
どうすりゃいいんだ? 元に戻るのか? 死んだんじゃねえよな??
泣きたい気分の祐太だった。
「果物食べようとしてただけなんですが……もしかして、あの果物を口にしようとした罰ですか??」
ガートルードは胸を押さえた。
こんな暗闇の中で──生き続けるのは地獄の苦しみだ。
「何か脱出が出来る手立ては……」
「あれ? あれれ? 持ってた果物が消えちゃったよ!?」
乃羽は辺りをきょろきょろ見回した。
闇の中に落としたとでも思ったのか、目をこらしながら必死に探す。
「わ〜ん。絶対超珍種だったのに〜〜〜〜食べれなかったよ〜〜〜!」
「……めっちゃポジティブなんだな、おまえ…」
祐太は溜息をついた。
◆
「──タネ子の声で、石になったであります!」
「大変です! 至急みんなの救助を!」
剛太郎とコーディリアが、石化したガートルードと乃羽、そして祐太を抱えて温室から出てきた。
狐月は目を丸くする。
「何……それ?」
「よく分かりませんが……恐らくタネ子さんの雄叫びを聞いたせいであります。自分達は耳栓をしていたので大丈夫だったのですが、気付いたらこのような結果に……」
「タネ子さんは、石化させる能力も身につけてるってこと??」
「多分。中にまだ石化している人達がいます、こっちまで引っ張ってきましょう」
狐月は大きく頷くと、温室の中へと駆けて行った。
皆も慌てて後に続いた。
──数十分後。
整然と並べられた石像からは、なんとも言えない空気が漂っていた。
「なんか……すげぇな圧迫感」
カオルが引きつった笑みを浮かべる。
「皆、石になっちゃったよ。はは…」
マリーアも笑うしかなかった。
「どうやったら元に戻るんでしょうか? 管理人さんにお聞きすれば何か分るかもしれませんが」
フィルは顎に手を当てて考え込んだ。
その横で、シェリスが難しい顔をしながら答えた。
「あの様子ではしばらくは無理そうじゃな。──水でもかけてみたら戻るかのう?」
「水、ですか。あ、でも……果汁がたくさんついています。これで戻っていないということは、水では駄目なんじゃ?」
「なるほどなぁ……」
◆
いきなり。
ぶんっという音と共に映し出された大きなスクリーンの映像。
映されているのは……どうやら外の様子らしい。
目の前で起こっていることを、色々な角度から映し出してくれる。
並べられている何体もの石像。あれは──
「あ、あたしだ!」
「……俺もいるぞっ!?」
固まったままのポーズで、石と化している。
「石化? 石化してんのかっ? なんだよ一体!??」
何故あんなことに!
『──どうしはります? 皆このままじゃ死んでしまうどすぇ』
エリスのどアップが目の前に現れる。
安否を心配している瞳には、皆を励ます力が含まれていた。
『えぇ? 死にはしないんじゃないです? このままの状態で……誰かが壊さない限りずっと生き続けるんですわ』
『わたくしの占いでは、あまり良い結果は出なかったでございます』
恐ろしいことを言っているティアと壹與比売に、皆はブーイング。
ハッとすると、柚子は言った。
「外の声も聞こえる……ということはもしかして、こっちの声も聞えるんどすか?」
その言葉を聞き終わらない内に、アピスが叫んだ。
「たすけて〜〜〜!」
「……たすけて〜〜〜〜〜!」
シリルがアピスの顔を見てから声を出した。
なぜこんな目に。
皆を守るためにアピスは長槍(1.5m程のランス)を振るって応戦し、あたいは機晶キャノンで迎撃……
迎撃しつつ、加速用ブースターで離れる…離れていたはずだったのに!
皆の声が絶叫に変わった。
助けて欲しい! 助けて助けて助けて!!!
だが。
『どうする〜先生呼んでこようか?』
外では呑気な会話が続けられている。
「全然聞えてないよ」
「一体どうすればいいの? 元に戻れなかったらどうすればいい!?」
アピスの不安が外へと届いたのか、一輝が動き出した。
『もしかして……』
「?」
『もしかしてだけど……助けられるかも』
その言葉に、皆はスクリーンにかじりついて涙を流した。
助かるかもしれない!?
『どうすれば良いのでしょうか? 教えてください。皆が助かるなら、どんな協力も惜しみません!』
想はまっすぐ一輝を見つめた。
まだ自分にこんな感情が残っていたとは、驚きだ。
『私だって力を貸すよ!』
『わしも微力ながら手伝うぞ』
フィルとシェリスの言葉ににっこり笑うと、一輝は静かに答えた。
『──黄金水をかければ、復活するかも』
「おうごん、す、い?」
「?」
「?」
「??」
「…………………………………!!!」
何かに気付いたケイティが、スクリーンから飛び離れる。
「ど、どうしたの? ケイティちゃん」
真希が驚いた顔をして尋ねる。
「い、いや、絶対にいやです! そんなのかけられたら皮膚が擦れるまで身体を洗い続けなくちゃいけなくなりますー!」
「?」
「黄金水って一体なん……、!!」
真希の顔が、恐怖に引きつる。
『……黄金水か…なるほど〜、蜂に刺された時にかけると良いって聞くもんね』
秀の言葉に、理解した全員がスクリーンから飛び離れる。
「や、やめて……」
プレナはいやいやをするように首を振る。
「怖いよぉ、波音お姉ちゃん……」
プレナと波音はしっかりとお互いを抱き締めた。
「馬鹿な考えは起こしちゃ駄目です!」
ガートルードは画面に向かって叫んだ。
悪食丸達が声を限りに喚きまくる。
「それは間違った知識だ! ばい菌が繁殖する!!」
「そんなので元に戻れても全然嬉しくない! かけてみろ! ただじゃおかねえからなっ!!」
「ふざけるなぁ!」
皆の罵詈雑言が飛び交う中──
『じゃあ、僕も一緒に手伝うよ。さすがにこれは女の子じゃ無理だからね』
秀の手がファスナーにかかる。何故かそれが大画面で映し出される。
「やめて〜そんなアップ見たくない!」
『よしっ、俺の黄金水、浴びせてやるぜ!』
続いて一輝のズボンが──ファスナー部分が画面いっぱいにアップ!
「何ですか、このコマ割りは〜〜〜〜!」
発狂寸前の皆は、頭を抱えてその場を走り回る。
『誰にしようかな〜〜〜』
悪魔の囁きが聞える。
「い、いやよ、やめて来ないで……」
やだよ、たすけて。
『──OK、決めた!
柚子
にする』
「ぎゃっ……」
『そっかぁ、じゃあ僕は……君だ!』
秀が真っ直ぐ指差したのは──…
波音
だった。
「いあやああああああ…」
指名された二人の意識が遠のく。
「あああ〜〜〜柚子ちゃん、大丈夫!? 気をしっかり持って!」
「波音お姉ちゃん〜〜〜」
「い、いや……こない、で、おくれませ…」
うつろな顔で呟く柚子。
だが。
二人以外は安堵の吐息をこっそりもらしていた。
「……よ、良かったね。かけられなくてすむよ」
「本当、ラッキーだったね」
真希と乃羽が隠れて手を握り合う。
使命された二人には申し訳ないが、元に戻らなければ、きっとやめてくれるはずだ。
──しかし。
またしても悪魔の囁きが、ルイとリアの口から発せられた。
『時間差ってこともあるかもしれないから、全員にかけてあげたほうが良いですよ?』
おおおおお、おぉのぉれぇはぁああぁ〜〜〜〜!
『ナイス提案だ。絶対その方が良い』
ふぅざぁけぇるぅぬわぁああぁああああぁああああ!
ルイとリアの目は至って真剣だった。
皆を心底心配している瞳。からかいは、一切含まれない。余計タチが悪い……
そこにいた全員が、がくりと肩を落とした。
『しょうがない、ワタシも手伝ってあげますよ』
また増えた!
や〜〜〜〜〜め〜〜〜〜〜て〜〜〜〜〜!
『さて、それじゃあ』
徐々に下ろされていくファスナー…
(じじ……じじじじじ………)
更に注目される金具と金具のはずれ具合。
「そんなところアップしなくていい〜〜〜〜! 誰だこのカメラアングル調整している奴〜〜〜〜!」
金具が、最後まで行った。
中の下着の色がちらりと見え──
(もう駄目! 誰か助けて!!!!)
べろり。
一瞬画面が真っ黒になった。
真っ黒?
そしてもう一度べろり。
外の様子を映し出すスクリーンには、粘液のようなものが伝い流れ落ちてくる。
黄金水をかけようとしていた二人の姿は何処にもない。
その代わり。
ケルベロス君の巨大な顔があった。
「え? ──あれっ」
一人、また一人と、その場から消えて行く。
「ど、どうしたのみんなっ!」
「なになになに? みんな消えていくよ??」
「みんな〜〜〜どこいくんだよ〜〜〜〜!」
心細く残っていた最後の祐太まで。
その場から──消えた。
◆
「あぁ、解けてます! 溶けてますよ!! ケルベロス君の唾液で、みんなの石化が解け出してきました!」
エルシーは歓喜の声をあげた。
「タネ子さんの石化は、ケルベロス君に舐められると解けるんでございますねぇ…」
ルミが感嘆する。
「ふわぁ〜! 溶けてる……溶け…美味しいのかな?」
ごくりと唾を飲み込むラビ。
「……ラビさん、舐めちゃ駄目でございますよ」
「は〜い」
──目の前の石化メンバーは、解けるとその場に倒れこんだ。
「あれ……ここ……?」
ケイティは頭を振りながら起き上がった。
「良かったね! もとに戻れたんだよ!」
「本当に驚きましたわ…」
葵とエレンディラの優しい目が、皆に向けられる。
「ケルベロス君のおかげなんだよ! 舐めて石化を解いてくれたんだから!」
イングリットの言葉に、柚子とプレナが一早くケルベロスに飛びついた。
「ありがとう…ありがとう……」
「おおきにどすぇ…」
涙を流しながらケルベロスをかき抱く二人の姿に感動して、外の面々は微笑んでいたが。
あちらの世界に行っていた者は知っていた。
彼女達の涙は、元に戻れた喜びではなく……黄金水をかけられずにすんだ喜びのものであることを──
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