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8.果物ゲット!

 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は温室の中を走り回っていた。

 季節は冬──暖かい温室でフルーツを食べる贅沢。
 タネ子さんやケロベロス君はそっちのけで、フルーツを食べてやります!

 ガートルードは、とりあえず目に付く果実を一つずつ、片っ端から口にしていた。
 時折聞える悲鳴は無視する。

「何か……ぱっとしないです…」

 珍種のはずが、何故か何処かで食べたような味ばかり。
 もっと他にこれは──!? という果実は無いのだろうか?

「あれ?」

 ガサリと。

 大きな葉を掻き分ける音がしたと思ったら、目の前に神名 祐太(かみな・ゆうた)が現れた。

「どうしてこんな所に……って、考えることは一緒か」

 口の周りがお互いに果汁だらけになっている。

「珍しい果実を見つけたって思ったんだけど、食べてみると、それほどでもなくてさ……」

「そうそう! 私もそう思っていました」

「一緒に……探すか?」

「いいですね」

 笑みを交わすと、一緒に歩き出した。

「──フラフラと歩き回って勝手な行動を取ったら駄目であります!」

「?」

 少し離れた場所から声がする。ガートルードと祐太は声のした方へ向かった。

「……管理人さん探しどころじゃないです。こんな所ではぐれたら遭難であります! タネ子やらゲルベロスやらに襲われたり、適当な果物を食べてアタっても知りませんよ??」

 口調は強くても、言葉の端々に優しさが感じられる。
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、パートナーのコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)に向かって諭していた。

「でも、果物が欲しいです……」

「あなたの護衛をしながら管理人を探すはずだったのに……こんな奥まで来てしまって」

(……えっとぉ、珍種果物で何のお菓子を作ろうかなぁ…)

「フラフラするなんて、まるで夢遊病──…って聞いてるでありますか?」

「え? あ、あぁ、はい」

「嘘ですね……」

「あの」

 途端に鋭い視線を向ける剛太郎に苦笑しながら、話しかける。

「おまえ達も珍種果物探しか?」

「いえ、あぁ、まぁそういうことになるでありますかね……」

「人数は多いにこしたことはない。一緒に──」

 祐太の言葉を掻き消して、笹原 乃羽(ささはら・のわ)が藪の中から飛び出してきた。

「みんな、みんな! こっち来てこっち! すごいよっ!!」

 そう言うと緑の中へと再度戻っていく。何事かと、慌てて後を追いかけた。

  ◇

「──ここ! なんだと思う!?」

 白いテーブル、白い椅子が、いくつも設置されていた。こんな温室の奥深くに。
 五人は周りをうろうろして──…そして、見つけた。

「これ……」

 コーディリアの言葉に皆が集まる。
 見たこともないような葉が茂る小さな木に、まるでクール蛍光灯のような、目にも鮮やかな真っ白い色をした実がなっていた。

「何だろう……食べられるんでしょうか? 食べて……みますか?」

 顔を上げると、みんな同意見だったらしく、各々が手に取ってもぎ取る。
 これこそ、究極の果実!?

 てゅいん…

 もぎ取る際の奇妙な音。
 剛太郎はふいに思い出した。

「コーディリア、せっかく用意した耳栓をちゃんとしなきゃ駄目であります」

「えぇ、そんなものしなくても大丈夫だと思いますが……」

「いいからやるであります!」

 剛太郎に無理矢理セットさせられる。

「みんなのお陰でこの果物にありつけた! 皆のがんばりは忘れないよ!」

 乃羽は、ごしごしと服の裾で表面を拭き口へと持ってい──


ぐげええええええええええぇえ



 この世のものとは思えない、汚い声が辺りに響いた。

 そして。

 耳栓をしていなかった剛太郎とコーディリア以外の意識が、なくなっていった……