リアクション
9.攻撃します
カオルは手話でマリーアに語りかけていた。
根っこに攻撃しないように気をつけてはいるが、一応耳栓も準備している。
予備の耳栓をマリーアに渡して装着させて──
『管理人さんが大変なことになってたんだぜ? 呑気に果物なんか食ってる場合かよ?』
『……だって美味しいんだもん』(もぐもぐ)
『触手がうようよいるんだぜ。さっさと温室から退却しなきゃ』
『はいはい、分ってるよ』(もぐもぐ)
『…ったく……あ、あ』
『?』
カオルは手話ではなく、声を出して叫んだ。
「い、石になってる! みんなみんな、石になっていっている──!!」
『カオル? 手話で話さなきゃ理解できないわ』(もぐもぐ)
決して食べる手を止めない、呑気なマリーアだった。
◆
触手が再び、アリアの前に襲い掛かっていた。
「これじゃきりが無い……!」
アリアの悲痛な叫びに、助っ人に入った竜牙が笑顔で言う。
「大丈夫かい? お嬢さん。安心したまえ、俺がついてるから大丈夫だ!」
「…………」
作ったような笑顔──仕方なくやっているようにしか見えない攻撃。
(……信用できない)
「で、これが終わったら百合園のカフェテラスでお茶でも……」
アリアは即座に竜牙の隣に行くと。
「え?」
どんっと、触手に向かって突き飛ばしてみた。
「うわわっ! お嬢さん、一体何を!?」
逃げようとする竜牙を、触手が捕らえる。
「え? …………っつ、くぅ……ぁ、ん……!」
執拗に触れてくる触手。
(これじゃあ、これじゃあ……)
イケナイ世界へ足を踏み入れてしまう〜〜〜!!!
「ん……っ、あっ……」
「な、なるほど。これが逆の立場なのね。確かに……興奮するかも」
顔を赤くしながら、新たに芽生えた不思議な感覚を告白するアリア。
「やぁ……」
「──これは……助けた方が、良いんですよね? それとも喜んでいるのでしょうか?」
悠希は、恐る恐る近づいていく。
触手に絡まれている竜牙は、涙まじりに助けを求める。
「い、今助けますよ、腕を…腕を伸ばして下さい……」
震える手を伸ばしていたその時。
死角から別の触手が悠希を襲った。
「うわっ!」
腕に、足に絡みつく触手。
「やめ、だめですっ! ……ふ、…ぁんっ! しず…」
(静香さま……)
触手のタッチを静香の行為と錯覚する。
悠希の頭の中では、既に静香と絡み合う自分自身に変換されていた……
◆
「切り倒すなんて出来ないのに、なんでこんなことにならなくちゃいけないの!?」
攻撃されているタネ子に向かって、瑠菜は叫んだ。
(タネ子のお世話はあたしがするから、切り倒すなんて止めようよっ! 齧られちゃっても、大丈夫なところを身を持って証明するから!)
そう言いたいのに、声に出せない。
管理人さんの血の気の引いた顔。
あれでは、伐採されるのが当然だ。危険な…危険な生物──
「どうして食べちゃったの…タネ子さん……」
「──危ないっ!!!」
レロシャンが今にも襲われそうになっていた瑠菜を突き飛ばした。
「何やってるんですか! 食べられるところでしたよ!?」
慌てて起き上がるレロシャン。
だが瑠菜はそのままの格好で呟く。
「食べられたって、平気だもん…」
「ここで頭の進路を防がないと、タネ子は根の方達の所へ行ってしまいます。塞き止めなくちゃならないんですよ!?」
「でも……」
「……」
一瞬。
なぜかレロシャンが笑ったような気がした。そして──
ぱくっ。
「ぎゃああああああ〜あああ!」
「……何叫んでるんですかー? 食べられても大丈夫なんですよねー?」
「うううう嘘嘘! ジョーク、ちょっとお茶目! た〜すけて〜〜」
足をマッハの速度でじたばたさせる瑠菜。
「イカだ。イカが泳いでいます……はは…ははははは」
レロシャンはお腹をかかえて笑った。
◆
「たすけ……て……」
リアクライスは必死に助けを求めた。
触手の粘液によって溶かされた制服は、どろどろに崩れかけている。
「…っ、んぁっ」
「やっぱり触手は楽しいのう…」
シュテファーニエは、心の底からの本心を吐き出す。
「リアが、ぴ〜〜〜んち!」
いきなり走り出したエステルが、触手からリアクライスを奪取した…までは良かったが──
倒れたリアクライスにのしかかり、胸に顔を埋めまくった。
「おぉ、ずるいではないか。わっちも仲間に入れさせてもらうかのう」
触手を気にせず絡み合っている三人を見ながら、どりーむはビデオカメラを回し続けた。
「いいね、いいねぇ。もっと絡んで〜動いて〜」
「もう、どりーむちゃん! ふざけてないで助けなきゃ」
「──いいねぇ〜いいねぇ〜」
どりーむの興奮は、最高潮! にまで達していた。
「ふざ…けないで、よ……っ、早くたすけてよ」
息を荒げて、リアクライスは足をばたつかせる。
あらわになった白い太もも、溶けたスカートから見える下着……
「……あれ?」
つーっと。
どりーむの鼻から血が流れた。
「きゃああ!! どりーむちゃん!?」
ふぇいとの悲鳴で、絡んでいた三人は動きを止めた。
「……いや〜〜〜なんで鼻血なんか出してるの〜〜〜来ないで〜〜〜!」
リアクライスの発言に、どりーむがツッコミを入れる。
「行かなきゃ助けられないでしょうが!」
「その鼻血なんとかしなさいよ!」
「これは青春の証だもん!」
「………………い、い、い、いや〜〜〜〜!!!!」
もうパニックだ。
◆
かん! かんっ!!
想と満夜は、力いっぱい根に斧を振り下ろしていた。
「堅い……」
満夜は汗をぬぐった。
この根をどうにかした所で変化が現れるとは思えないが、成分でも調べて弱点を見つけられさえすれば……
「手が、痛いです」
斧から手を離して、想が呟いた。
耳栓をしているために、お互いの会話は全く聞こえない。
ふいに視線が合って笑みを交わす。
女性不振に陥っていた想だが、満夜の汗が綺麗だと、思ってしまった……