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リアクション
2.捜索します
「管理人さん〜いませんか〜」
秋月 葵(あきづき・あおい)は声を張り上げた。
タネ子さんを助けるには管理人さんを探すしかない──
その思いに突き動かされて、葵は行動していた。
まずは本当にいないのか温室付近を捜してみる。
管理人さんは、タネ子さんの異常を発見して何かしら対策をする為にいないだけかも?
もしかしてイルミンスールまで行ってたりして……でも温室での作業中に、変化したタネ子さんに捕らえられているんだとしたら、どうしよう?
「管理人さ〜ん、何処ですか〜〜? 管理人さんが居ない間にタネ子さんがピンチだよ〜早くなんとかしないと大変なことになっちゃいますよー」
必死な葵の様子を見ながら、パートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は気付かれないように溜息をついた。
(また葵ちゃんが、危ないことしないといいけど……でもしちゃうんだろうなぁ。今回はイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)ちゃんも居るし……私が頑張らないと)
エレンディラは大きく頷く。
「ねぇねぇイングリットちゃん。管理人さんの匂い、探してみて?」
葵の言葉に、菓子袋を持ちながらも中身をぎゅもぎゅ食べていたイングリットは、危うく喉に詰まらせそうになった。
「えぇ? 管理人さんの匂いで足取り…って、イングリット、犬じゃないし〜誇り高き白虎の獣人なんだから無理だよー」
しかし。
葵の逸らさない期待の眼差し光線に負けて、イングリットは一応試してみた。
………………。
「やっぱり無理だよー」
「そっかぁ、残念」
エレンディラは苦笑した。
◇
「付き添いなんて本当に良かったのだよ」
月白 悠姫(つきしろ・ゆき)はパートナーの日向 永久(ひゅうが・ながひさ)と並んで歩きながら、付いてくる養護教諭の藍乃 澪(あいの・みお)に言った。
「先生も、痕跡とか聞き込みとかを行ってー管理人さんを探しますぅ。見つけたらー排除はなくなるのでしょうから皆さんに、お知らせしますねー」
「お仕事は大丈夫なの?」
永久の問いに、澪は笑顔で答える。
「大丈夫、大丈夫〜」
「…………」
本当に大丈夫なんだろうか? 一抹の不安がよぎる。
「まず管理人、タネ子、ケルベロス、温室周辺を徹底的に洗い直した方が良いと思うのだよ」
「管理人さんを探す管理人の安否を調べるのが重要だと思うんですぅ。見つけられればぁ、両方とも痛い事ないですよねぇ」
悠姫と澪、二人の会話を聞きながら、永久はぼんやり思った。
(お礼は出来れば現金がいいんだけど……)
◇
神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)は、管理人室を見回しながら呟いた。
「いらっしゃらないし……何も見当たらないですね」
とにかく管理人を見つけだして、タネ子の排除命令を撤回してもらうよう交渉しようと思っていた。
「管理人さんに、タネ子さんのあしらいが出来ないとも思えません。管理人さん失踪には何かあるはず……タネ子さんが排除されるなんて可哀想ですから、管理人さんを捜し出して止めてもらいましょう!」
早く見つけなければっ!
ざっと見渡したが、残念ながら情報になりそうなものは無い。
それどころか、もう既に先客がいたようで、色々調べまわったような痕跡が見られる。
「──あっ」
中にいたエレンに驚いて、稲場 繭(いなば・まゆ)が声を上げた。
エレンと同じく、タネ子が管理人さんを喰べるなんてことはありえない──いなくなったのはきっと何か理由があるんだと思った繭は、本当に管理人がいないのか温室付近を捜していた。
(──もしかして何か手がかりがあるかも)
そして、近場にある、この管理人室にやってきた。
管理人さんを見つけたら、タネ子が処分されそうになっていることを告げ、対応を求めたかった。
「何も無いみたいですね……一体どこに行かれたんでしょうか…」
ひどく残念そうに繭は言った。
その時。
ガタン! とすぐ近くから大きな物音が聞えた。まさか管理人さん!?
エレンと繭は音のした方へ視線を向けた。
「…うんしょ…よいしょ……」
身体を丸めたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がじりじりと這い出てくる。
「い、いつからいらっしゃったんですかっ!?」
エレンの声に、ヴァーナーはにっこりと笑う。
「10分くらい前です。スケジュール表を見つけて足取りを追いかけようと思いまして。でも……」
落胆の色を見せたヴァーナーの表情で、言葉を続けなくても全てが分かった。
「残念でしたね……」
繭がヴァーナーの頭を優しく撫でる。
「…あの〜…こんにちはぁ〜」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が顔を覗かせた。
「あれ? エレンさん、ここにいらっしゃったんですね。管理人さんは見つかりました?」
そこにいる全員が首を横に振った。
「そっかぁ。管理人さんの性格的に、珍しい動物や植物があったらそこに行きそうだし──そういう噂がなかったかどうか誰も知らないかな?」
「…よく分かりません。ですが……温室の方に、既に何人かの方達が集まっていました! 話を聞きに行ってみませんか? みんなが幸せにならないと絶対ダメです!」
まるで自分に言い聞かせるように、ヴァーナーは言った。
「そうだね──あたしもそう思うよ。ただ、何日も放置するって言うのはおかしいと思う。何かトラブルが起きてるのは本当なのかも。皆の所に行ってみよう!」
歩の言葉に頷いて、四人は駆け出した。
◇
「あれ……」
目の前を駆けて行く人影を見ながら、橘 カオル(たちばな・かおる)は首を傾げた。
(どこに行くんだろう? あの方角は……)
「温室に行くみたいね」
パートナーのマリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)がなんでもない風に答える。
管理人さんが音信不通なのは心配だが、果たして本当に喰われたんだろうか?
食われたと噂されているが証拠も無いし……ちゃんと調べた方がいいな。
カオルはそう考えて、マリーアと一緒にここ、管理人室近くまでやって来た。
が。
中から飛び出していった連中から察するに、中は情報源になり得る物は、何も無い。
「オレ達も行くか」
「うん」
前を歩くカオルを見ながら、マリーアは小さくガッツポーズをした。
(温室に入れたら珍種果物いただいちゃうもんねー。サボテンの実とか食べてみたいなー。他にもあるかなー)
くふ、くふふ…と、マリーアはカオルに気付かれないように、含み笑った。
◇
「──皆集まってるみたい」
加賀見 はるな(かがみ・はるな)が温室の入り口付近の黒い人だかりを見ながら言った。
そして誰もが目を引く大きな番犬、ケルベロス。
蒼空学園の知り合いが以前ここで音楽隊をして、ケルベロスを眠らせた話を聞いた。
その番犬が今、目の前にいる。
「おー、三つ首じゃのお……何じゃ? 元気ないのぉ。おや、オーバタさんが居ないようじゃが…」
管理人さんが行方不明になっている事をまだ知らないパートナーの天子 魅鬼(あまね・みき)は、複雑そうな表情を浮かべた。
「魅鬼は本当にケルベロス君のこと、気になってるみたいだね。ある意味似た者同士だからかな」
鬼っ娘と、地獄の番犬……
「鬼人族の末裔である魅鬼──どっちもある意味似た者同士の意味がやっと分かったよ。地獄と言えば鬼もいるしね。地獄の番人(住人)と地獄の番犬」
アンレフィン・ムーンフィルシア(あんれふぃん・むーんふぃるしあ)は一人納得する。
「それよりタネ子さんはどうするの? 伐られちゃうよ」
「タネ子は人の話を多分聞かない奴だから、話が合わない」
はるかの言葉をばっさり切って、魅鬼はケルベロスに視線を向ける。
思いが注がれるのはケルベロスのみ。
「あたいが……いや、集まっている皆がオーバタさんを必ず探し出してくれるから、心配するな。待ってろよ」
魅鬼は拳を固く握った。
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