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サンタクロース、しませんか?

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第1章 サンタクロース、しますよね?


 12月25日、クリスマスの朝。

 蒼空学園では、掲示板に貼られていた『サンタクロース、しませんか?』という募集を見た者達が、集合場所の体育館へと集まっていた。
 そこには、プレゼントが詰まっているたくさんの大きな白い袋とサンタ服が置かれており、『サンタ服を持ってない方は貸します。着替えて待ってて下さい』という手書きの張り紙がしてあった。

 その指示に従って、サンタ服に着替えた男子のもとに、同じく着替えた女子が戻ってきた。
「ぉおおおおぉっ!!!」
 野太い歓喜がミニスカートのサンタ服を着た女生徒達を迎える。
「皆、すっごく可愛いよ!!」
 ゴールドに改造した自前のサンタ服姿で、エル・ウィンド(える・うぃんど)が女性陣を褒め称えた。
「生きてて良かった!」
 並ぶ太ももの光景に感動した鈴木 周(すずき・しゅう)は、女子に気づかれないようにそっと視線をさまよわせた。
「どのお洋服もとても可愛らしくて素敵です〜」
 可愛い服に目のない神代 明日香(かみしろ・あすか)は自前のサンタ服に身を包みうっとりと呟いた。
「ほんと、サンタクロースって最高だねぇ」
 エルの言葉に同意しながら、日向 永久(ひゅうが・ながひさ)は、パートナーの月白 悠姫(つきしろ・ゆき)のミニスカ姿をニヤニヤと眺める。
「笑いながら人を見るのはやめておけ」
 楽しそうに自分を見つめる永久の視線にいたたまれなさを感じて悠姫はキツく言うが、永久は理想通りの悠姫のスカート丈を見て、サンタクロースに心の中で感謝を捧げた。

「はぁ…」
 飯霧 セキ(いいぎり・せき)はサンタ服に着替えたものの、重い溜息をついた。本当ならクリスマスは部屋にこもってだらだら過ごす予定だったのだが、パートナーのおせっかいのせいで、よもやサンタクロースになろうとは。
(だいたい、僕はただのどんくさい一般人なのに、それでサンタなんかやったってさぁ、うっかり見つかっちゃって、ドロボー!なんて……やばい、ありそう。ど、どうしよう。逃げるべき?)
 緊張顔で、ぶつぶつと呟くセキを見て、くすりと笑う声がする。
 セキが顔をあげると、ミニスカサンタ服に赤いマントを羽織った霧島 春美(きりしま・はるみ)がにっこりと微笑んだ。
(ふぅん、ああいう娘もいるんだ。よく見ればちっちゃい子もいるし、大丈夫…かな?)

 やがて、サンタクロースの服を着た少女が壇上に現れた。
「注目!!」
 ピシィッ!と、少女はいきなり持っていたトナカイ用の鞭で床を打つ。
 その迫力に、会場がざわめいた。
「あら〜? 昨日お会いした時と、ずいぶん印象が違いますねぇ……」
 困惑して呟く明日香の隣りに、パートナーの神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が身を寄せる。
「なんだか、ちょっとこわいですわ……」
 昨夜、プレゼント争奪戦に参加した者達は、あまりにも違う少女の様子に驚いた。
 可愛らしい目の下には立派なクマが出来ており、時折、身体がふらりと揺れる。
 不眠不休で限界を超えた過酷な労働に長時間従事していれば、たとえ美少女といえども、過労と睡魔のストレスでおかしくもなるだろう。
「皆、集まってくれてありがとう。私はフレデリカ・ニコラス。新米のサンタクロースだよ。
 キミ達には、腰を痛めたおじいちゃんの代わりに、今日1日、私と一緒にサンタクロースとしてプレゼントを配って欲しいの。ホントは、私が24日の夜の間に配りきりたかったんだけど……」
 フレデリカは悔しそうに唇を噛みしめる。
「でもっ、今日まではクリスマスだから! だから、絶対に今日中に配りたいの。お願い、皆の力を貸して!」
 フレデリカの必死の訴えに、それぞれが頷いて見せた。
「ありがとう! プレゼントを届ける時は、出来るだけ親や子供、特に子供には見つからないようにしてね。
 ……と言っても、もう朝だし、無理かなぁ。それに正直、そんな事いってられる状況でもないってゆうか、今日中に全部配り終わるならもうなんだっていいって感じも……」
 後半の台詞は、皆にというより、自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いている。
「まぁ、とにかく、そんな感じで!」
 疲労がフレデリカの思考を雑にしているようだ。
「あと、皆、自分で用意したプレゼントもついでに配りたいっていう人もいると思うけど、『子供優先』は鉄則だからね! 個人的理由なんかで今日中にプレゼントを配りきれなかったなんて事になったら……、皆まとめて七代先までプレゼントはないと思え
(っ…呪われる……!!?)
 クリスマス気分で参加した者たちの背筋に冷たいものが走った。
 フレデリカは大きく息を吸うと、1日サンタクロース達に号令をかける。
「それじゃあ、行動開始!!」
 こうして1日サンタクロース達はそれぞれ大きな袋を担ぎ、プレゼントを配るためツァンダの町へ向かった。

 皆を送り出したフレデリカも、再びプレゼントの袋を背負って歩き出す。
 彼女よりもほんの少し布の多い自前のミニスカサンタ服を着た九条院 京(くじょういん・みやこ)がそれに気付き、フレデリカに歩み寄った。
「ほら、そっちの袋をよこすのよ!」
「え?」
 フレデリカがうつろな目で京を振り返る。
「そんなふらふらの身体で重いもの持ったら、プレゼントが壊れちゃうって言ってるの! 荷物は私が持ってあげるから、早くよこすのだわ!」
「それってさ、素直に『疲れてるだろうから自分が荷物を持ってあげる』って言やいんじゃねぇの?」
 本心を言い当てる出雲 竜牙(いずも・りょうが)を、京がギロリと睨みつけた。
 2人のやり取りに、フレデリカが小さく笑った。今日、初めて見る笑顔だ。
「ありがと。それじゃ、お願いするね!」
 フレデリカが京に持っていた袋を渡す。
「きゃっ!」
 プレゼントの袋は思ったより重かったが、ここで弱音を吐くような京ではない。
「くっ……そ、それじゃあ、さ、さっさと行くのだわ!」
 なんとか袋を担ぎあげて強がる京に、フレデリカと竜牙が京に気付かれないよう、微笑みを交わした。

「あの〜、ちょっと、よろしいですか〜?」
 明日香が、フレデリカと残っていた者達に声を掛ける。
「効率良く配るためにも〜、お互いに、連絡用のアドレスを交換してはいかがでしょ〜?」
「賛成っ!!」
 いち早く手を挙げたのは、周だった。女の子のアドレスを手に入れるこんなにおいしい口実は逃せない。
「ボクも大賛成だ!」
 同じく女の子大好きのエルもすぐに周に賛同した。
 2人のあまりの喜びようと、他の男子のまんざらでもない感じに、女子はどうしてもためらってしまう。
「あの、俺、連絡役とか、そういう裏方の仕事を引き受けたくて来たんだけど。何か手伝えるかな?」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が言うと、明日香がにっこりとほほ笑んだ。
「それでは、全ての情報はあなたに集め、全ての情報はあなたから発信する事にしましょう〜」
「えっ?」
 ここに、ツァンダ1日サンタクロース中継基地人間が誕生した。
 明日香の提案に応じて、皆は正悟にアドレスと配りに行く場所を伝え、正悟はそれぞれの名前とアドレスをメモし、持っていた地図に誤りがないよう必死で書き込んでいく。

 準備を終えたフレデリカ達が学園の外へ出ると、先回りしていた周が小型飛空艇でフレデリカの前に乗り付けた。
「サンタクロースのお嬢さん、俺の小型飛空艇でお茶でも……じゃねぇや。歩きじゃ大変だろ? 俺と一緒に行こうぜ! 第1配達ポイントまで、15分で行ってやるよ!」
「15分?」
 フレデリカが不満そうに周の言葉を繰り返す。
「いやっ! 5分で! そのかわりしっかり捕まってもらうぜ! 特に胸のあたりをこうぎゅーっと……」
「胸?」
「いや、何でもねぇ! 乗って行くだろ?」
「ちょっと待って!」
 朝野 未沙(あさの・みさ)が周とフレデリカの間に割り込んだ。
「私もフレデリカさんと一緒に配りたい。フレデリカさん、私のそりで行こ?」
「それなら俺の空飛ぶ箒で相乗りって選択もあるぜ!」
 竜牙が空飛ぶ箒を手に、ポーズを決める。
「はーい! 私のそりにも乗ってー! サンタちゃんのお手伝いしたーいっ!!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も大きく手を挙げてフレデリカにアピールした。
「ん〜〜〜、じゃあ、……こっち!」
 フレデリカは美羽のそりを選んだ。
「やったーっ!!」
「なんでー?」
 喜ぶ美羽と対照的に、周が不服そうに言う。
「ん〜〜〜、なんとなく?」
 サンタクロースの直感は何かを察したらしかった。

「仕方ないか」
 フレデリカを誘えなかった竜牙がひとりで空飛ぶ箒に跨ると、飛ぶ直前、急に箒の後ろが重くなった。
「なんだ?」
 振り返ると、プレゼントを抱えた京が座っている。
「乗せてくれるって言ってたのだわ」
「いや、それはフレデリカちゃんに、………ま、いっか、素直じゃないけど、よく見りゃ可愛いし」
「よく見なくたって可愛いのだわ」
 京は反射的に言い返してぷいっと横を向くが、可愛いの言葉に頬が緩む。
「よし、じゃあしっかり捕まってろよ!」
「わかってる!」
「ん?………………ない?」
 背中の、2つの柔らかな丸みが当たるはずの場所には、隙間風が吹いていた。竜牙は、ちょっぴり残念な気分のまま空飛ぶ箒でフレデリカ達の後を追った。

「あら〜、声を掛けられませんでしたね〜」
 明日香が残念そうに言う。彼女もまた、フレデリカと一緒に配達しようと思っていたのだが、先ほどのフレデリカ争奪戦の輪に入りそびれたのだった。
「仕方ありませんわ。そりにはお誘いできませんでしたけど、お手伝いはできますもの。参りましょう」
「そうですね〜」
 夕菜に促され、明日香はプレゼントの袋と一緒にそりに乗り込んだ。
「ちょっと待ってー!」
 葛葉 明(くずのは・めい)が2人に駆け寄ってきた。
「皆、もう行っちゃった?」
「はい〜。私達が最後です〜。あなたもサンタクロースをされるのですか〜?」
 明日香の言葉に、明が悪戯っぽく瞳を輝かせた。
「そう思ってたんだけど、フレデリカちゃんの様子を見てたら、思いついたことがあってその準備に行ってたんだ。ね、協力してくれない?」
 明日香は明の『思いついたこと』を詳しく聞き、笑顔で賛同した。
「他の方にも声を掛けておきますね〜」
「よろしく!」
 明は、他の協力者を求め走り去り、明日香達もフレデリカ達を追って学園を後にした。