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 沢渡真言(さわたり・まこと)は、ツァンダにある美味しいロールケーキの売っている、ケーキ屋さんの玄関を出て、腕の中のプレゼントを見てにっこり笑顔になる。
「これなら、のぞみも喜んでくれますね」
 のぞみというのは、真言の幼馴染の名前だ。
 バレンタインに彼女とチョコを交換したので、お礼を探しにツァンダまで来たのだ。
「マーリンも着いてきてくださってありがとうございます」
 真言は、パートナーのマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)にお礼を言う。
「いや、別にいいけど」
 マーリンの反応はそっけない。
「それじゃ、今度は俺に付き合ってもらってもいいか?」
「え?はい、構いませんけど」
「じゃあ行こうぜ!」
 そして二人が向かったのは、外観ピンクでリボンの柄の入った壁。
 いかにも女の子が好きそうなファンシーな洋服店。
「ここですか……?」
 真言がその近寄りがたい雰囲気に一歩後ずさる。
「そうここ、もちろん一緒に入ってもらうぜ」
「え!?え!?」
 連れ込まれた、真言はマーリンの着せ替え人形だった。
 春を感じるフレアのスカート、ギンガムチェックのワンピース、その他諸々、真言が疲れ切ったころに来ていた服は、いつもの真言のイメージとは少し違う、マーメイドラインのパーティードレスだった。もちろん、アクセサリーやバッグといったものも一式揃っていて美しい女性を作り上げている。
 真言が鏡で自分の変わりように驚いていたら、マーリンがいきなり。
「この娘が来ているもの一式プレゼント用に包んでください」
 言うものだからびっくりするが、マーリンにもホワイトデーに、プレゼントしたい子くらいいるだろうと納得する。
 そうして店から出ると、マーリンから大きな袋、あの服たちが入った袋が渡された。
「え!?え!?マーリンこれは?」
 戸惑う真言にマーリンは後ろを向いて歩きだしながら。
「さっきの店で、ホットチョコレートおごってくれたお礼」
「でもでも、値段が違いすぎます」
「いいんだよ。俺が好きでやってるんだから。それ着てのぞみとパーティーにでも行けよ」
 少しの沈黙の後、真言が口を開く。
「ありがとう、マーリン」
 マーリンは何も言わずに先を歩いていく。
(「ちょっとは、着る時俺のこと思い出せよな」)
 口に出せない本音を隠しながらマーリンは歩いていく。

「いいか、エオリア。ホワイトデーのプレゼントはもう決まっているんだ!」
 そう声高に言うのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)その人である。
「決まっているというと何ですか?」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が、ちょっと引きながら尋ねる。
 引いてる理由は単純。
 渡す相手が男なのだ。しかも実の弟ときている。
 恋愛観は自由なので、エースに何か言ったことはないが、ちょっと不毛な気がするのは自分だけか。
「サンダーソニアの花束が欲しいんだ!オレンジのベル型の花がなかなかユニークな花なんだぞ」
「ほうそうなんですか?」
「ほんとは、自分で育てたのをあげたいんだけど、普通サンダーソニアは夏に咲くんだよ……いや残念だ。エルシュに俺の愛を力いっぱい表現したかったのに」
 本当に残念そうに言うエース。
 そこで、エオリアの中にひとつの疑問が浮かぶ。
「エースはエルシュのどこがそんなに好きなんですか?」
「え!?そりゃ笑った顔とか……そういうこと聞くもんじゃないよ」
 エースの顔は真っ赤だ。
 真剣な恋をしているんだろうなと分かる。
「エルシュ喜んでくれるといいですね」
 エオリアがやさしい声でエースに言う。
「うん。そうだな」
 エースの瞳は輝いていた。