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お菓子づくり大会その4彼の為に彼女の為に

 涼司の調理台には、彼を心配しているのか、沢山の生徒たちが集まっていた。
 レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)などは。
『俺らは本気で大切なやつ思って菓子作ってんだっ!邪魔したら許さないぜ?』
 などと息巻いていたがこの場に集まった皆、まじめに思い人に渡すお菓子を作っていたので、彼得意の遠当てはいまだ放たれていない。
 そのためレイディスは、涼司たちと会話しながら、正確に時間配分をし、ホワイトチョコケーキを作っていた。
 レイディス以外にも涼司のことを心配している生徒は、まだ居た。
 黄泉功平(よみ・こうへい)もその一人だった。
 功兵としては涼司が上手く花音にお菓子を渡せるかが気になっていたので、渡すところに隠れてい合わせるつもりでいたのだが、涼司に思いっきり拒否されてしまった。
『それ滅茶苦茶恥ずかしいじゃねえか!告白覗かれてるようなもんだ!』
 だそうだ。
 仕方ないので功兵はお菓子作りに集中することにした。
 自分一人では、心もとないのでパートナーの千堂ちひろ(せんどう・ちひろ)娑婆こより(しゃば・こより)にも一緒に来てもらっている。
 と言っても、お菓子作りの助っ人を頼んだのは、ちひろだけでこよりに至っては誘いもしないのについてきた。
 そして、ついてきただけならまだいいが、構ってほしい猫のように茶々を入れてきて、調理の邪魔をするのだから仕方がない。
「早く作れ。俺の為に。試食してやるから。おまえのお菓子を試食してやるもの好きもオレくらいのものだろう」
 などという始末である。
 一方のちひろはと言うと、功兵の役に立てるのがうれしいのかお菓子の本を片手に作業工程を説明している。
 あくまで作るのは、功兵だ。
 ホワイトデーには、キャンデーやクッキーを贈るのが一般的だが『お前だけが特別』という意味を込めたい。
 ちひろに、道明寺粉、桜の葉、宇治抹茶、砂糖などを用意してもらい準備万端。
「上品で味わい深い一品を作るぜ!」
そして数刻、出来上がったのは、なんと和風な『桜抹茶もち』(宇治抹茶100%使用)。
ホワイトデーとしてはどうなのだろうか?
「山葉どうやって、お菓子渡すんだろうな?ん?」
 そこで気付く、功兵自身がどうやって渡そうか一切考えていなかった。
「……抜かったな」
 パートナーに気づかれないようにぼそりと呟くのだった。
「涼司ちゃんすごく張り切っているみたいだけど、なんとなく空回り気味かなぁ」
そう口にするのは、霧雨透乃(きりさめ・とうの)だ。
「私が指導してあげようかな?」
 涼司の側によると、透乃は、涼司の様子を見てみる。
 あーでもない、こーでもないと言いつつ、いろんなお菓子を作っている。
 失敗作も多いようだ。
「涼司ちゃん、私と一緒にお菓子作りしようよ♪」
「……ん?まあ、別にいいけど」
 涼司が承諾すると、透乃は涼司の手を取り、お菓子作りの指導を始める。
 涼司の顔が一瞬真っ赤になる。
「こんなところを花音さんに見られたらややこしいことになりそうですね」
 淡々と言うのは、透乃のパートナー、緋柱陽子(ひばしら・ようこ)である。
 それを聞いた途端、涼司の顔が青ざめ、パッと透乃の手を払いのける。
「あら、涼司ちゃん、レディの手を払いのけるなんてひどいじゃない」
 怒ったような茶化しているような顔で透乃が涼司に詰め寄る。
「す、すまん。だが、俺は花音以外の女の子と手を握るなんてやっぱり駄目なんだ!」
 マジ顔で言う涼司に、透乃も陽子もぷっと吹き出す。
「だーいじょうぶよ。悪いけど、私、涼司ちゃんを異性として見てないの」
「もちろん私もです」
 二人に言われて、ぽかんと口を開けて涼司が口にしたのは。
「もしかして俺って、男としての魅力無い?」
 その言葉に二人はまた笑いだす。
「そうじゃなくって、好みの問題だよ。そう、花音ちゃんが涼司ちゃんを好きなようにね」
「そうなのか……」
 透乃の言葉に納得したような納得していないような顔をする涼司。
「それより、お菓子作ろう。そうだ!花音ちゃんの好きなところとか聞きながら調理したいな♪」
「私も大変興味があります」
 透乃と陽子がさらりと言うが、涼司は顔を真っ赤にしている。
「パートナーの関係はとっても大事なんだよ♪」
「関係……」
「ねっ。だからいろんなお話ししようね。それと、心配しないでね♪余ったお菓子は私がちゃんと食べてあげるから」
 にっこりほほ笑む透乃だった。
「涼司さん。涼司さん。この本見てください。こーいう可愛いの作れば花音さんもきっと喜んでくれると思います!」
 お菓子の本を亮司に突きつけてきたのはティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)だ。
 実に楽しそうに本を持っている。
「俺には、難しそうだな~。お前は何を作るんだ?」
 涼司に問われて、ティエリーティアは本のページをめくって。
「これなんか可愛いと思うんです♪」
 ティエリーティアの持っている本は、お料理上手な女の子がレベルアップの為に読むようなお菓子作りの専門書だ。
 本人はともかく誰もティエリーティアに作れるとは、思えなかった。
 特に、パートナーのスヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)などは、楽しそうなティエリーティアを見てため息をついている。
 そして、調理を始めた途端やってくれる、やってくれる。
「あれ?何でこんな色になるんでしょうか!?」
「ティティ!順番が逆です!」
 ティエリーティアは慌てふためきスヴェンの声が飛ぶ。
「そうだ!これを入れれば解決すると思います!」
 そして、ティエリーティアが鍋に投入したのは何か分からない固形物。
 鍋の中身がどんどん変色していく。
「ティティ!変なものを入れちゃいけません!そこ!レンジでジャガイモを温めてるんじゃありません!」
 スヴェンに怒られているはずのフリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)は、反省するどころか、こう反論してのけた。
「スヴェン。お前も魔法の箱のすごさにいい加減気づけ。これさえあれば、お菓子も作り放題だぞ」
「確かに、お菓子は作れますが、レンジは魔法じゃありません!」
「お前、レンジ様をバカにするのか!」
 怒号と悲鳴がこだまする中、はたしてティエリーティアのお菓子は、完成するのだろうか?
 そんな時、涼司に耳打ちする者がいた。
「葉山、花音にお菓子を渡す時は、プレゼントも添えるといいぞ」
 涼司にはその男に見覚えがない。
「わりぃ。お前誰だっけ?」
 その一言にその男は大声で。
武神牙竜(たけがみ・がりゅう)!ケンリュー……、おっとこれ以上は秘密だ」
 突然自己紹介をやめた、牙竜に対して不審げに。
「何なんだお前?」
「いやあ、俺はただの蒼空学園の一般生徒だ」
「牙竜!誘ったのはお主じゃろう。れでぃーを放っておいて何をしておる!」
 そこには、いら立った様子の迦具土赫乃(かぐつち・あかの)がいた。
「すまん、すまん。葉山、俺たちも一緒にお菓子作りをして構わないか?」
「別にいいけど、あの子すっごい不機嫌だぜ」
「いや、はは」
 そうして赫乃も混じってお菓子作りをするが、赫乃は始終不機嫌だった。
 そうこうしているうちに、牙竜と赫乃は沢山のクッキーを作り袋に詰めた。
「そんなにいっぱいどうするんだ?」
 涼司の質問にも笑ってごまかす牙竜。
「それでは、行くぞ牙竜」
 お菓子作りをしている間に多少機嫌が治ったのか、赫乃が牙竜を呼ぶ。
「では、諸君、我々はちょっとした野暮用があるのでこれで失礼する」
「おう、じゃあな」
 涼司が手を振る。
 竜が牙調理室を出ると先に出ていた、赫乃が牙竜に言う。
「これからは、ケンリューガーと白狐面イナリの時間じゃ。子供達にお菓子を配りに行くのじゃ」
 大きな袋を担いで、赫乃が先に行こうとすると、牙竜が赫乃に声をかける。
「ちょっと待ってくれ」
「なんじゃ?」
「これをお前に」
 牙竜が赫乃に差し出した透明な袋の中には狐の形のクッキー。
「これをわらわに?」
「お前以外に誰がいる?」
 蒼空学園の廊下で頬を赤らめる牙竜と赫乃。
 少しの間をおいて。
「世の子供たちが、俺たちの熱いスピリットの宿ったお菓子を待っている。行くぞ!白狐面イナリ!」
 恥ずかしさを吹き飛ばすような大声で牙竜が言うと赫乃も笑顔になり。
「了解なのじゃ!」
 二人して廊下を駆けだすのだった。