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埋没遺跡のキメラ研究所

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第二章 情報収集


「ここは倉庫になっているのか……」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は研究所一階を調べ歩いていた。後ろでは世 羅儀(せい・らぎ)も辺りを見回している。
 既にいくつかの部屋を見て回ったが、置いてあるのは小型の機械や食料、生活用品といった物ばかりだった。

「早めに切り上げて次の階へ行くべきか……ん?」
 羅儀が、覗きこんだ部屋の隅に小さなパソコンのような機械を見つける。

「これは……研究員の忘れ物か?」
 その機械は長いケーブルにつながれており、ケーブルの先は壁の中へと続いていた。
 
 羅儀が持っていたテクノコンピューターを機械へ接続する。
 
「……ちっ、やっぱりプロテクトが掛かってやがるか」
 テクノコンピューターを操作する羅儀が舌打ちをする

「何か掴めそうですか?」
「ちょっと難しいかもな……お?」

 羅儀はプロテクトの掛かっていないデータを見つける。
 それには、この研究所各階の部屋の位置や大きさが細かく表記されていた。

「これは……設計図、ですかね」
「みたいだな。これで調査が楽になりそうだ」
「念のため確認をしてもらいましょうか」
「だな」

 羅儀はコンピューターを操作すると、教導団のパソコンへとデータを送信した。


 教導団のデータ室では、裏椿 理王(うらつばき・りおう)が待機していた。
 その目前にはパソコンの画面が。そこにデータ受信の文字が映る。

「差出人は世羅儀……これは、研究所の設計図か」

 理王は届いた設計図を印刷すると、データ室を出て、別の部屋へと向かった。

「やあ、何度もごめんね。疲れてないかい?」

 部屋の中には小さな机と二つの椅子。
 椅子にはそれぞれ、研究所から逃げてきて保護された少女と、桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)が座っていた。

 少女は大丈夫です、と笑顔で答える。

「ちょっと確認してもらいたいものがあるんだけど、いいかな?」
「はい」

 屍鬼乃が席を立ち、じゃ、と小さく呟いて部屋を出る。
 理王は空いた席に座ると、持ってきた紙を少女へ見せる。

「これ、研究所の設計図みたいなんだけど……どうかな? 子供達の居る場所とか分かる?」
 少女は設計図を覗き込む。そして二階の一つの部屋を指差した。

「なるほど、そこに子供達がいるわけか……他に何に使われているか分かる部屋はあるかな?」
 理王の質問に少女が答える。少女が知っているのは自分が連れて行かれた部屋だけで、
 他は何があるか、何に使われている部屋か、などは分からなかった。

 しばらく質問した後、ありがとう、とお礼を言って部屋を出る。
 そしてデータ室に戻ると今聞いた事を猛スピードで打ちこんでいった。

 その画面の隅に、ぴこん、という音と共に屍鬼乃のアバターが表示される。
 アバターの発言はこうだった。

「さっき聞いた話じゃ、子供は全部で20人らしい。ただそのうちの一人はずっと姿を見てないんだとさ」

 理王が素早く返事を打ちこむ。

「ならそれも含めてメルヴィア大尉に報告しておく」

 そして少女から聞いた事柄を簡潔に纏めると、メルヴィア達へ送信した。



 同時刻、研究所奥にて。

 オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)は研究室の一つを調べていた。

「中々見つからないねー」
 棚の引き出しを引っくり返しながら、オデットは溜息をつく。

「やっぱりどこかに厳重に保管してあるのかしら? だとすると面倒ねぇ」
 書類の山を漁っているフランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)もまた困った顔をする。

 彼女達が探しているのは、ただの研究資料ではなかった。
 今回の事件を聞いて彼女達は、実験体の子供を攫った犯人が別に居る、と考えたのだった。
 先程から人攫いについて書かれた資料を探しているのだが、それらしき物は一つも見つからない。

「仕方ない、もうちょっと奥まで行ってみるかなー」

 この部屋の調査を諦めて外へ出ようとしたオデットは、地面に散乱する資料の中に一つだけボロボロの紙があることに気付く。
 何気なくそれを拾って眺めていたオデットの目が大きく見開かれる。

「フラン、これっ!」
 フランソワが駆け寄り、差し出された紙切れを見る。

「これは……時間と場所の指定、それに子供の数に金額までメモしてある。間違いないわね!」
「うん! ……でもこれ、すごく古そうだね」

 オデットの言うとおり、そのメモは軽く風化しており、所々擦れて文字が読めなくなっていた。
 念のためメモを拾った周辺を探すが、似たような物は見つけられなかった。

「うーん、他のとこに資料があるのか、それともまさか最近は取引をしていない……とか?」
「どっちも考えられるわね……ま、とりあえずこのメモは持っておきましょう」

 そう言うとフランソワはポケットにメモをしまう。
 二人は部屋を出ると、他に研究室が無いか探し始めた。




「やれやれ……なかなか見つからないな」

 佐野 和輝(さの・かずき)もまた、資料探しをしていた。
 こちらは技術情報の収集が目的である。

「研究資料はやはり機械の中、か。ロックが掛かっていて中は見れんし、やはり研究員に聞き出すしかないな」
 リモン・ミュラー(りもん・みゅらー)が壁に備え付けられた機械を操作しつつ溜息をつく。

 彼女はデータを閲覧しようとしたのだが、殆どのデータには厳重にロックが掛けられており、
 機械の専門でない彼女達では到底解除できそうに無かった。

「ねぇ、誰か来るよ!」
 部屋の入り口近くに居たアニス・パラス(あにす・ぱらす)が、殺気看破で近づいてくる何者かの気配を察知する。

「研究員か?」
「わかんない……けど、あんまりいい感じはしないね」

 和輝達が身構える。やがて近づいてくる足音が聞こえてきた。

「なっ、何者だお前達!?」
 部屋に入ってきたのは白衣を着た男だった。後ろにはキメラらしきものを連れている。

「ほぅ。その白衣、君は研究員だな。丁度良い、君に聞きたいことがあるのだが」

 だが男は背中を向けると一目散に逃げ出した。
 和輝達が後を追う。

「悪いがコレで痺れてもらうっ」

 和輝が『放電実験』を発動、放射された電撃が研究員とキメラへと命中する。
 彼らは小さな悲鳴を上げるとその場に倒れた。

「さて、研究員君。私は医者でね、生物を死なないように壊していくことが出来るのだが……」
 リモンの言葉に、痺れて動けない研究員は顔を引きつらせる。

「あれ、また何か来てるよ?」
 アニスが近づいてくる足音に気付く。

 和輝とリモンにも聞こえていた。それはたくさんの人間が走ってくる足音だった。
 
「調査隊が到着したのか? 思ったより早かったな」
「ふむ……キメラを回収したかったのだが……調査隊に見つかっては何を言われるか分かったものではないな」
「なにか言ったか、リモン?」
「いや、何でもない」

 リモンが首を振る。

「? まあいいか。研究員の仲間と間違われても困るし、こいつらを引き渡しとくか」

 和輝達は研究員とキメラを引きずって調査隊の元へと向かった。