校長室
【ろくりんピック】最終競技!
リアクション公開中!
障害物借り物競争5~関羽フルパワー!~ 『これが最後のレースよ! 思いっきり暴れちゃいなさい!』 オーロラビジョンにVIPルームの様子が映し出され、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)が西シャンバラチームの選手に発破をかける。その画面の下から、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の頭がにゅっ、と覗いた。 『勝つのは東シャンバラですぅ! 蒼空学園に負けるなんて許しませぇん! がんばるですぅ~』 『蒼空学園だけが西シャンバラチームじゃないんじゃがな……』 向かって左側からアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が顔を出してツッコミを入れる。 『う、うむ! 今日はとっても楽しいぞ! ふ、フレーフレー……で、いいのか?』 向かって右側からセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が割り込んできた。ブルーグレーの長手袋をはめた両手を握り締め、画面に迫る。 『ちょっと! あたしが映らないじゃないの! どいてどいて!』 エリザベートの頭をむぎゅうっと押さえ、理子が言う。 『と、に、か、く! せっかくのスポーツ大会なんだから楽しめばいいのよ! あたしたちはここで見てるから、がんばってね!』 西側スタンド応援席ではアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)の提案に乗ったフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)とユーフォリア・ロスヴァイセ、ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)が空中でチアダンスを披露していた。借り物競争に来ている西側のチアガールには飛べる種族が多い。それで、アリアは空中での応援を提案したのだ。 「さあ、気合入れていくわよ!」 「応援していますよ! ゴール目指して頑張ってください」 左右にフリューネとユーフォリアが。中央ではミルザムが華麗な舞を踊っている。それは、誰もが見惚れてしまうような美しい舞だった。 「虹七ちゃん、テティスさん、飛ぶよ! それぇ!」 アリアは、自身とテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)、天穹 虹七(てんきゅう・こうな)に魔法少女のスキル、「空飛ぶ魔法↑↑」をかける。今日つけてきてる羽は飾りだから飛べないけれど、これで大丈夫! 観客がおおー、と歓声を上げる。小さな子供が彼女達を見上げて目を輝かせて指差してくる。 「みんな、ファイトでーす!!」 選手も観客も、そして自分達。みんなが楽しめるよう一生懸命に空を舞う。 「西シャンバラチーム、ここで逆転よ!」 テティスもチア姿で声を掛ける。虹七が、両手に装備した光精の指輪から妖精を呼び出す。 「妖精さんも一緒に応援するのー!」 虹七は妖精達にお手製のミニサイズボンボンを渡した。高いところはこわいから、少し低いところでぷかぷかと浮く。運動は苦手だけど、その分はパフォーマンスでカバーだ。 「フレー! フレー!」 妖精達も、ボンボンを持って虹七のまわりを飛び回った。 「みんな~頑張ってなの~!」 「か、かわいい……」 東側応援席の男共が、西シャンバラチアガール達に憧れの視線を送っている。それを、キャプテン・ヨサーク(きゃぷてん・よさーく)が一喝した。 「こらあ、おめえらなんて顔してやがんだ! あんななよなよした応援で選手が鼓舞できっか! 俺達が本当の応援ってやつを見せてやっぞ!」 「おおー!」 野太い掛け声が応援席に響き渡る。 「行くぞこら! 三、三、七拍子!」 三、三、七拍子……? 「「「「「「「Hey,Hey,Hooooooo!」」」」」」」 とりあえず、男達は叫んでおくことにした。 『東西の応援が白熱しています! さながら男と女の対決! さて、最終レースの選手のウォーミングアップも終わったということで、選手紹介といきましょう! 第5レースは……』 1コース (西)安芸宮 和輝(あきみや・かずき)、クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど) 2コース (東)ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)、御薗井 響子(みそのい・きょうこ) 3コース (東)ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい) 4コース (西)関羽・運長 5コース (西)霧雨 透乃(きりさめ・とうの)、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ) 6コース (西)楠見 陽太郎(くすみ・ようたろう)、クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど) 7コース (西)アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)、アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす) 8コース (西)七尾 正光(ななお・まさみつ)、アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる) 「ミュー、頑張るにゃー!」 「おう!」 東側のスタンドの壁に乗って、カカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)がミューレリアに声援を送る。 「がんばれー、陽太郎ー」 西側のスタンドでも、イブ・チェンバース(いぶ・ちぇんばーす)が明るく手を振っていた。陽太郎は静かに頷いて、前を見る。西は負けてるし、頑張らないと。 「きちんと準備運動をしたので、走るほうは大丈夫だと思うけど……手に入りやすい借り物だといいですねえ」 今まで変なものが多かった気がするだけに。 「ケイラ……今回は何か作戦があるのですか?」 スタートラインに立つケイラに、響子がそう訊ねてくる。 「うーん……、手に入らなさそうなものなら志位さんを頼ろうと思ってたんだけど……出来るだけ自分の力でやってみるよ」 「志位……大地様、ですか」 「志位さんには何か策があるみたいだったからね。良雄伝説とか武勇伝も結構あるし、きっと頼りになると思……ってたんだけど、怪我しちゃったみたいだからね。出来るだけ休んでてもらわないと。……あとでお見舞いにいってみようか」 「お見舞い……では、りんごを……」 「り、りんごはいらないと思うよ!」 歌菜が選手の紹介の後、改めて関羽をクローズアップする。 『やはり、注目してしまうのは西チームの関羽選手でしょうか! 助っ人要請に答え、堂々参戦です! さて、どんなレースを見せてくれるのか! 最後ということで、かなり大きな障害物が用意されているのが確認できるよー!』 ぱぁん! とピストルの音が鳴る。 『第5レース、スタートです!』 「あっ、これ……!」 ケイラは、「10」のカードに書かれている借り物を見て驚いた。そこには『相手チームの友人』とあったのだ。 (相手チームの友人って……) 西側応援席に顔を向ける。そこにはファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)とラス・リージュン(らす・りーじゅん)、ピノ・リージュンが座っている。今は、第1レースに出ていた春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)とエミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)も一緒だ。 真菜華は今日は同チームだし、ファーシーに付き合ってもらうわけにもいかない。そうなると、候補はそう多くない。 ラスの方を見る。元々ケイラは、今日彼と話せないかな、と考えていたのだ。最近ロリコンロリコンと言われているみたいなのでなんとか励ませれば、と思っていた。というかさっきもロリコンと言われていた。西側でチームが違うし、難しいかという気もしていたが―― (……ピノさんが大事なだけだとおもうんだけどな……) 「響子、行こう」 「……あ、ケイラ」 響子はケイラに手を差し出した。どっちの手にしようかと迷って、なんだか両方中途半端に出してしまった。 「転んだら大変、かと」 「……うん、そうだね。ありがと」 「む……『マイク』か……」 関羽はカードを拾うと、スタジアム全体を見回した。そして、その視線をぴたりと小型飛空挺に据える。実況の歌菜と羽純が乗っている飛空挺だ。 「実況よ! 確か、予備のマイクを持っていたであろう!」 『え? あ、はい……持ってます!』 先程、カッティにマイクを渡したのを見ていたのだろう。 「貸してもらえないか!?」 『わ、分かりました! もちろんです!』 「さて、何が来るかな……」 借り物は、何が出るか予想できない。臨機応変に対処するしかないな、と思いながらミューレリアは「11」のカードを拾った。そこには『腕時計』と書いてある。 「腕時計か……。借りやすそうな感じだな」 「ミュー、コイツを使えにゃ!」 どの辺から聞いていこうか、と観客席に目を遣った時、カカオがメガホンを投げてきた。ぱしっ、と受け取る。 「……おおっ! カカオ、ナイスサポートだぜ!」 ミューレリアはメガホンを使って、観客に借り物を叫び始めた。 「おーい、腕時計貸してくれるやついないかー! 腕時計!」 スタンドを周回するように走りつつ、観客達の腕にも注目する。結構大きな声を出している筈なのだが、注目を浴びるのは難しい。 「どうしたの? 腕時計?」 そこに、西スタンドに向かっていたケイラが足を止めた。 「おう、この熱狂の中から物を借りるってのは難しいな」 お互い、第5レースでは唯一の同チーム選手である。それはつまり、東シャンバラチームの選手が2人しかいないという事なのだが。 「そうだよね。この祭り騒ぎじゃ、聞こえるかも怪しいかも」 観客はかなりヒートアップしていた。関羽が出たということもあるだろうが、やはり最終レースということが大きいだろう。少し考え、ケイラは何かを決意したような顔をした。 「……よし、ちょっとそのメガホン貸して」 「? どうすんだ?」 「幸せの歌を使って目立ってみよう……えっと……」 ケイラはメガホンを手に、幸せの歌を歌い始めた。『腕時計』をリスペクトした替え歌だ。 “腕時計をー、貸してくださーいー♪” “時間が分かるー、すぐれものー♪” “ファッションアイテムとしてもーー♪ 欠かせないーー♪” “携帯忘れても大丈夫ー♪” ――最後のは本末転倒な気もするが。 (は、恥ずかしいかも……) しかし、観客達の気を惹くことは出来たようだ。いつの間にかカメラにも注目されていたらしく、中継映像に自分が映っている。 「ほれ、腕時計!」 観客席から腕時計が降って来る。それを受け取り、ミューレリアは提供してくれたおっさんに礼を言った。 「サンキュー! ちゃんと返すからな!」 バーストダッシュで障害物に戻ると、彼女はハードルを跳び越えていった。 「運動部所属が伊達じゃないところを見せてやるぜ!」 足が活かせるからと障害物競走を選んだだけあり、その動きは軽やかだ。次の障害物は謎であったが。 (小柄な体が有利になるやつならいいんだけどな!) そう、次の障害物は巨大な要塞のような建造物である。 『2番目の障害物に1番最初に辿り着いたのは、ミューレリア選手! しかし、この建物は一体何なのでしょうか! 入口が見えることから、中で何かをするのだと思われますが……! 解説の司さん、お願いします!』 《はい、これはですね……簡単な迷宮になっています。迷宮といっても、飛空挺用の資材搬送コンテナを利用したものなのでそんなに複雑なものではありません。小さなアトラクションといったところでしょうか。中には、宝箱の形をした複数のチェックポイントがあります。迷宮の各所にある看板に時間的条件が書いてありますので、それに従ってポイントを通過していってください。そこにあるスタンプを全部押すと、脱出できます》 「これまた面倒くせーの作ったなあ。まあいいや! 要は速く抜ければいいんだろ!?」 ミューレリアはそう言って、迷宮に入っていった。 「……なにやってんだ? お前……」 ケイラが西の応援席まで行くと、ラスは呆れたような顔で開口一番にそう言った。 「うー……他に方法が思いつかなかったんだよ。それより、これ」 借り物カードを見せられて、ラスは目を瞬かせた。 「……俺?」 「うん。他にぱぱっと思いつかなくて……じゃなくて! ラスさん! 自分はロリコンじゃないってわかってるからね、元気出して!」 「……は? ロリ……」 「このカードが出てなかったら言えなかったかも。東西って……ちょっと面倒だね」 「ケイラ、急いだ方がいい……かと」 「そうだね、じゃあ……悪いけど、つきあってくれる?」 「……しょうがねーな……」 ということで、3人は障害物――主に巨大時間迷路に向かった。