空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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リアクション



■パラミタ内海の海賊


 ――何が最高の宝かって、そりゃあ、おまえ、同じ海賊と奪い合って勝ち取る物ほど”イイ”物はねぇよ――
 と、のたまった海賊はトルトゥーガの酒場で惜しみない賞賛を浴び、その翌日には真っ裸で井戸に沈んでいたという。
 それはともかくとして。
 空京スタジアムでは次の競技の準備が進められていた。


「パラミタ内海の海賊……」
 巨大な帆船の船尾側では、東シャンバラチームの面々がスタートの合図を待って各々の準備を進めており……{SFL0017089#アン・ボー}は、ぐっと握り締めた拳を高く掲げていた。
 腹の底から溢れ出しそうな感情に押されて、口元がどうしようもなく笑む。
「なんて良い響きなんだい! カリブの海賊だったこのあたしに相応しい舞台じゃないか!」
 天高く突き上げていた拳をほどきながら、彼女はそれを払うようにそばで準備を進めているパートナーの方へと視線と手元を向けた。
「これは勝つしかないよッ、優子――……って、何してるんだい?」
 アンが、はて? と軽く眉を寄せた先では、八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は、ろくりんピック公式タオルに何かを包んでいた。
「ン」
 優子が顔を上げ、そのタオルで包んだ何かをアンへと投げ渡す。
「これは?」
 アンは、受け取った『それ』を手元で遊ばせがら問いを重ねた。
「宝ってのは、簡単に手に入らないから宝なんだよ」
 そう言って小首を傾げてみせた優子は、悪戯気な笑みを浮かべていた。


 実況席――
「まもなく『パラミタ内海の海賊』が開始されます。実況は、わたくしルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)がお送りします」
「解説のセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)だ」
「解説のような人のクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)です。よろしくどーぞ」
「解説のような人の補足役のルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)です。宜しくお願いします」
 と四人がそれぞれのマイクに言ったところで、
「……『ような』というのも引っかかりますけど、解説の補足?」
 何か違和感を覚えたルナティエールが、端っこに控えていたルルーゼの方を怪訝に見やる。
 ルルーゼが静かにうなずき、
「我がパートナーはテキトーな発言が多いですから」
「よく分かってらっしゃる」
 ははは、とクドの眠たそうな顔が笑う。
「……とりあえず、セディ。ルールの簡単なおさらいをお願いします」
「――ルールは至極簡単だ。西シャンバラチームは帆船の船首側から、東シャンバラチームは船尾側からそれぞれ船に乗り込み、メインマストの頂上にある宝箱を奪い合う。宝箱を一番最初に手に入れた選手のチームの勝利だ」
「ちなみに、この帆船には三本のマストがあって、船首側から順にフォアマスト、メインマスト、ジガーマストと言います」
 ルルーゼが言って、セディが続ける。
「選手たちにはマスケット銃が支給されている。使える弾は四種類。石化弾、睡眠弾、麻痺弾、通常弾だな。通常弾を頭部か胸部へヒットさせたり、石化させることで相手の選手を退場させることが出来る。――そして、スキルの使用は自由だが、空を飛ぶスキルだけは禁止されている……まあ、こんなところであろうか」
「というところで、丁度、時間のようですね」
 ルルーゼが置いて、ルナティエールが高らかに宣言する。
「お待たせ致しました。パラミタ内海の海賊――スタートです!」


 大砲による空砲の音が響き渡り、それが開始の合図だった。
 同時に、選手たちが控えていた台と甲板との間に足場が渡され、ドゥッと沸き起こった観客の声援の中、両チームの選手たちは速やかに甲板や船内へと展開していく。
 そんな中――
 東チームの立川 ミケ(たちかわ・みけ)は、あっさりと空を飛んでいた。
「あ。あー、こらっ!」
 パートナーの不正に気づいた立川 るる(たちかわ・るる)が、慌ててミケの尻尾を掴もうとするも、くるりと空中に身を返したミケの尻尾は彼女の手元をすり抜けた。
「もー、ミケ! お空を飛ぶのは反則だよ!」
「なななななーなななな、なななーななーなな?」
 基本、「なー」としか鳴けないミケは、『あたしは小さいから、飛んだっていいでしょ?』と主張。
「もー、よく分かんないけど、わがまま言わないの!」
 主張届かずに、ちょっと落胆。でも、くじけずにミケはひゅるりらと空を舞って、更に上空を目指そうとした。
「言うこと聞かないなら、実力行使だからね!」
 るるのそんな声が聞こえたような気がして――バフンッと銃声。ミケの身体の横を弾丸が掠めて、どっかに飛んでいく。
 何か銃声が近くに聞こえたような気がする。
「……なー?」
 おそるおそる振り向いたミケの視線の先には、レビテーションで浮きながら銃をこちらに構えた るるの姿があった。
「なーななな」
 説得力ないし、といった何かとても冷静な雰囲気の鳴き声。

『……って、いきなり反則者出てるしよ、二人も。どうなってんだ東は』
 ぽろっと、ルナティエールの猫かぶり口調ではない剥がれる。
『しかし、何やら二人で撃ち合ってますね。喧嘩?』
 ルルーゼが言って、セディが冷静に続ける。
『まあ、どちらにせよ二名ともこう堂々とルールを破ったとなれば、失格は免れないだろう。――すでに強制退場用のスタッフが向かっている』
『うわぁ、ごつい人たちばっかだこと。で、立川ミケ選手と立川るる選手、スタッフ相手にそれぞれ猛然と抗議している模様。お兄さんなら可愛いから許しちゃうなぁ』
 クドがのんびりとこぼし、ルルーゼの訴えかけるような咳払いが聞こえる。


 るるとミケの抗議は続いていた。
「えー違うよ、これは飛行じゃないもん。浮遊だもん。ミケは間違いなく失格だけど」
「ななななー」
 一人だけ逃れようなんてずるい、的な意味の鳴き声を上げながらミケが、るるの方に発砲する。
「やーん、ミケはもう失格でしょー!?」
「ななー!」
 るるからの反撃を逃れながら、ミケはシガーマストの頂上近くまで飛んだ。
 そして、シガーマストの先端に隠れようとしたミケの足は、何か別の物を踏んだ。宝箱だった。
 メインマストの頂上に置かれているはずの宝箱が、なぜかジガーマストの頂上、ミケの足元にあった。
「なー……?」
 くりん、と小首を傾げて暫し逡巡する。
 マストの根元の方では、るるが連行されていっているようだった。
 ともあれ、この宝箱だ。在るはずの無いものが在るのは、すこぶる怪しい。
 が――
「ななな」
 まあいっか、と彼女は語尾に星マークを飛ばす勢いのテヘ顔をしながら宝箱をシパーンっと開いた。
 開かれた宝箱の中から、ぬっと手が出て、レーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)が姿を現す。
「こんにちわ、ミミックです」
 言って、ぺこりと頭を下げてからインフィニティーは手に持っていたマスケット銃でミケを撃った。
 好奇心、猫を殺す――そんな言葉が石化していくミケの脳裏を巡っていた。
「ななーーん!」
 いやーん、といった趣きの断末魔が空に響く。

『何か出てきましたけど』
『出てきたねぇ』
『というより、何ですか。今のは。何故、ジガーマストにも宝箱があって、宝箱の中から少女が』
 ルナティエールが軽くこめかみを抑えながら言った言葉に、クドがフッと小さく息を漏らし、
『空から然り、箱から然り……突然、思ってもみないところから少女が現れるってのはロマンだよなぁ。あんたもそう思わない?』
『思わん』
 バッサリと切り捨てて、セディが続ける。
『資料によれば、あれは中立の罠だ。西や東に関係無く、宝箱を開けた者に問答無用に石化弾を撃ち込むパラミタ妖怪・THE箱入り娘〜がっかりさせてごめんなさい、だってミミックなんだもの〜……おい、この資料書いたのはどいつだ? 二、三、抗議したい事がある』
『……っと、西側のフォアマストの頂上にも乗ってるけど、あれも同じ奴かねぇ?』
『そのようですね』
 ルルーゼが資料を確認しながら言う。
 ふむ、とクドが何か考え深げに眠たそうな目を細めてから、ぽつっと。
『アレ、試合終了まで開けられないって可能性もあるんじゃないかねぇ?』
『……でしょうね』
 夏の青空にあるのは燦々と輝く太陽。
 その光は船上の全ての物にまんべんなく降り注いでいた。
 ルナティエールが、こほん、と咳払いする。
『……箱の中の人の生命維持に一抹の不安は残るものの、とりあえず、実況を続けたいと思います』