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戦乱の絆 第二部 第一回

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戦乱の絆 第二部 第一回
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リアクション

 2.海底遺跡・入口攻防
 
「へーえ、これがパパの言ってた『遺跡』ってやつ?」
 緑色の長い髪を掻き上げ、シャムシエル達は物珍しそうに、辺りをぐるりと見回した。
「達」――1人ではない。
 同じ顔の、同じ格好の、能力も同程度な彼女達は、「13番目の十二星華」であるシャムシエルのクローンだ。
 彼女達は一様に、神殿風の遺跡に目を向ける。
 崩壊した巨大な石柱群の向こうに、入口と思しき長方形の穴がある。
「う〜ん、女王器の気配なんて、感じられないけど。本当に有るのかな?」

「感じようが、感じまいが、あなたには渡しません!
 シャムシエルさん!!」
 声は、空間に響いた。
 石柱の陰から、バラバラとシャンバラ側・迎撃隊の面々が姿を現す。
 
 水神 樹。
 エドワード・ティーチ。
 菅野 葉月(すがの・はづき)
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)
 御凪 真人(みなぎ・まこと)
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)
 宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)
 仁科 響(にしな・ひびき)
 
 以上、10名。
 だが樹とエドワード以外の面々は、打ち合わせ通り、弥十郎の案内に従って遺跡内部へと入って行った。
 
「何? ボク達相手に、たった2人だって?
 それって、ナメてない?」
 シャムシエル達は御機嫌を損ねたようだ。
「キミ達なんか、ボク達が手を下すまでもないよね!
 帝国軍の方々ぁー! やっちゃいなさぁーい!」
 
 クローン・シャムシエル達の指示で、帝国軍の兵士達は樹達に襲い掛かった。
「1、2、3……50人はいない、ですか。
 随分と少ないのですね?」
「だが、手強そうだぞ!
 精鋭部隊――俺達だけで、防ぎきれるか?」
 兵士達は見た所、パラディンか、メイガスのようだ。
「さて、腕試し、といきますか」
 樹は龍骨の剣を振りかざした。
 そのまま、アルティマ・トゥーレを使う。
 怯んだところで、光条兵器を取り出した。
「これで、どうです!?」
 深海の暗闇の中で、一瞬光が弾ける。
 眩しさに、兵士達が手をかざした所で、樹は斬り込んだ。
 すかさず、エドワード・ティーチ(えどわーど・てぃーち)が轟雷閃で援護する。
「お前らみたいないけ好かない奴らに、
 女王器は渡せない!
 ぜってぇ、妨害してやるっ!!」
 オラオラッと凄んで爆炎波を放った。
 不意の炎で怯んだすきに、樹の龍骨の剣が炸裂する。
 だが所詮は2人だ。
 あっという間に、入口は突破されてしまった。
「し、しまった!」
 満身創痍な2人の背中越しに、シャムシエル達の声が流れてくる。
「さ、さっさと行くわよ!
 あのロリババァを片付けて、
 女王器かっさらって、
 みぃーんまとめて、海に沈めちゃうんだからね!」
 
 遺跡の中は暗闇だった。深海の底だ。
 照明で時折道を探りつつ、シャムシエル達は進む。
 
 菅野 葉月(すがの・はづき)らの足が止まったのは、シャムシエル達の足音が小さく聞こえてきたから。
「まずいねぇ……」
 行き掛かり上、道先案内人となってしまった佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は眉をひそめた。
 彼は開戦前にトラッパー、トラップ解除、捜索の特技まで駆使してトラップを調べていたことから、遺跡の事情については詳しい。
 もっともエリュシオンの宣戦布告が予想外に早かったため、入口周辺しか把握できなかったのだが。
「分かれ道まで辿り着ければ、撒ける! って考えたんだけど」
「ミーナと2人で、皆さんの盾となります!」
 葉月は迷わなかった。
「出来る限り長く、足止めしますから!
 弥十郎達は探索に集中できますよう、探索隊の方々のことを頼みます!」
 そうして、柱の物陰に潜んだ。
 
 帝国軍の面々が、弥十郎達、探索隊の後ろ姿を発見する。
「ふん、この距離なら、走れば押さえられるよね?」
 シャムシエルの1人がにやりと笑った。
 
 シュンッ。
 
 アセイミーナイフが頬をかすめる。
 抜群の運動能力で回避したシャムシエルは、頬の傷から流れ出た血を片手で拭う。
「くっ、さすがはシャムシエル! といったところですね?」
 葉月は舌打ちすると、庇護者、女王の盾、エンデュアを使って、帝国軍の足止めに集中する。
 だが少数精鋭とはいえ、さすがに2人ではない。
「このままでは、突破されてしまいます!
 されど、僕は騎士」
「最期まで、一緒だからね!」
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は妖刀村雨丸を構える。
「『死が2人を別つまで』、そう誓ったよね!
 付き合うよ!」
「ありがとう、ミーナ」
 葉月は一度振り返った。
 遠くに、まだ小さく捜索隊の明りが見える。
 あの光が、攻めて見えなくなるまで、と葉月は考える。
 いざとなれば、「要人警護」で体を張ってでも、止めなければ、な。
 そうして捨て身で斬り込もうとした2人の後方から、ファイアストームの炎が放たれた。
 
「お前らばかりに、いい格好はさせられないよ」
「っ!?」
 葉月が驚いて振り返る。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)がブリザードの発動に備えていた。
「ここは、手伝います。
 君達は少し休んでいてください!」
 ブリザードの冷気に帝国軍の兵士達が怯んだすきをついて、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)
「もう! なんで真人のために私が……この私が動かなくちゃいけないんだよっ!」
 ブレード・オブ・リコを抜き去る。
 むくれながらも、バーストダッシュ!
 ライトニングランスで兵士達を蹴散らしては、真人の合図で引き下がる。
 いやいや攻撃している様には見えない。
 ツンデレって奴ですか?
 体力を回復し始めたミーナが、率直な意見を漏らす。
「ち、違っ!
 た、ただ、私は、皆の役に立てばって!」
 真っ赤になって否定しつつも、奇襲の手は緩めないセルファなのであった。
 
 闇の中で、こっそりと移動するシャムシエル達の姿が、真人の目に入った。
「マズイですね。セルファの体力も、俺のモチベーションも流石につきかけています。
 ここは、一旦退くしかありませんね」
 味方に、サッと片手を上げる。
 それを合図に、4人は道の奥へと移動をはじめた。
「後は優梨子達に任せましょう」
 真人は自分にそっと耳打ちした、美人な空大生の笑みを思い浮かべた。
 
 その藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は弥十郎達を先に行かせた後、狭い通路で待ち構えていた。
「本当にこんなところに来るの? 蕪之進」
 宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)に小首を傾げて見せる。
「弥十郎の奴が言うには、ここが最適らしいってよ!」
「弥十郎? 彼に? どうやって?」
「根回し使って、聞いたんだ。
『入口からここまでは一本道。
 敵は当然、通ら去るを得ないはず』
 ……って、それは、まさか!!」
「そうよ、まさかの『さくらんぼう』」
 ふふふ、と笑って、見せる。
 埼玉製は、特に手触りがよいわね?」
 胸元に仕舞うと、トラッパーで「ナラカの蜘蛛糸」を張り巡らせた。
「さあ、今回はいくつの『エリュシオン製』な材料が手に入ります事やら……」
 
 帝国軍が侵入してくる。
 バリリンッと照明が割れる。優梨子のサイコキネシスが炸裂したのだ。
 断末魔の声が上がる。
 先兵の幾人かは引っ掛かったようだ。
 が、すぐに明りは確保され、ナラカの蜘蛛糸は突破されてしまった。
「ボクが剣の花嫁だってこと、忘れてない?」
 シャムシエルは、星剣を掲げると、残ったナラカの蜘蛛糸の残骸を面倒臭そうに払った。
 忍びの短刀が飛んでくる。
「ふん、この動き……サイコキネシスで操作でもしてんの? 甘いよ!」
 難なく、武器で叩き落とす。
 そうして反撃が来ないことを確認してから、道の先の明りを目指すのだった。
 程なくして、光学迷彩を解除した蕪之進が、柱の陰に隠れているはずの優梨子に告げる。
「行っちまったぜ。それで目的は果たせたのかよ? お嬢」
「ええ、こんなに!」
 優梨子は倒れている数名の兵士達を物色していた。
「私の大切なさくらんぼ……じゃなくて、『ぶどう』候補達♪
 シャムシエルさん達は、次の機会ですね?」
 
「優梨子達は突破されてしまったようです!」
 仁科 響(にしな・ひびき)が後方を見定めて、悲痛な叫びを上げる。
 自分が仕掛けた釣り糸トラップ(引っ掛かると爆発する)も、稚拙な為だろうか?
 爆発させることなく、難なくクリアされてしまった。
「どうしましょう? 弥十郎」
「大丈夫! それについては、考えが……。
 とにかく、あと少しだから頑張って!」
 そうして一行を励まし、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は広い通路へと出た。
 幾つかの石柱を確かめた後、ここだ! と一行を集める。
「動かないように!
 いいかい?」
 そうして、シャムシエル達が躍りかかろうとした瞬間をついて
「えいっ!」
 柱に刻まれた刻印に片手を当てた。
 刻印は一瞬光って、地鳴りが通路に響き渡る。
 間もなく、目の前の通路の一部が盛り上がり始め……大きな壁となって道をふさいだ。
「何だ! このトラップは!
 こんなのパパからきいてなぁ――いっ!!」
 シャムシエル達の悔しがる声は聞こえるが、厚い壁の向こうだ。
 弥十郎達に守られた捜索隊の面々は、ひとまず安堵する。
「けれど、これも一時の事。
 この先については、分からないしねぇ」
「ボク達が皆さんをお守りし、ご案内出来るのはここまでです」
「いや、助かった。礼を申すぞ! 弥十郎、響」
 アーデルハイトは弥十郎と握手を交わす。
「急いだ方がいい。
 こっちも、別のルートから逃げるのでねぇ」

 ■

 シャムシエル達が石壁トラップを破壊し、再び通路に出た時、探索達の面々の姿は既に影も形もなかった。
 先は複数の道に分かれている。
 足跡を追っていた兵士達の知らせを聞いてから、シャムシエル達は決断を下した。
「……ふ〜ん、足跡は複数の道に分かれてあるって?
 ということは、幾つかの隊に分かれて行動しているということだよね。
 こっちは頭数少ないし……でも女王器の場所は1つ――。
 ってことは、集まったところを叩くしかないよね?」
 でも女王器の場所ねぇ……と困ったように首を捻る。
「足跡を追いかけていく、しかないのかな?
 あー、イライラする。
 時間かかっちゃうなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 
 そうしてシャムシエル達が地団駄踏む時間を利用して、シャンバラ側の女王器捜索隊の面々は距離を稼いだのであった。