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遺跡探検!

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遺跡探検!

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第四幕 探索! 第四階層・前編!
 
 舞台はいよいよ遺跡第四階層である。
 第四階層にはこれまでの階層とは異なる雰囲気が漂っていた。それは歴史的文化的な趣きを感じさせる雰囲気である。通路の至る所に、古代文字を確認する事が出来た。その多くは巨大な石版の上に記され、そしてその多くは朽ち果て無惨に床に転がっているのであった。
「あ、お師匠。次はこっち、こっちの石版を調べるであります」
 さきほどから、石版の文字を手帳に書き写している少女の姿があった。
 彼女の名前はロレッカ・アンリエンス(ろれっか・あんりえんす)。チャームポイントのそばかす顔に、好奇心と恐怖が入り交じった表情を浮かべているのが、とても印象的である。と言うのも、古代文字には興味津々なのだが、彼女は実は暗所恐怖症なのである。
「ふぉふぉふぉ……。心配しなくとも、ちゃんと我輩が照らしておりますじゃ」
 相棒のゆる族、クゥネル・グリフィッド(くぅねる・ぐりふぃっど)がそう言った。
 ロレッカの周囲が明るくなるように、クゥネルは上から照明を向けている。彼女の暗闇に対する恐怖を少しでも緩和させようという気配りが、彼の様子から見て取る事が出来るだろう。
「貴重な古代文字のサンプルであります。地上に持ち帰って解読するであります」
 熱心にペンを走らせるロレッカの横では、武来弥(たけらい・わたる)が石版に向かってカメラを構えていた。
「……しかし、こんな巨大な遺跡があるとは。親父達が夢中になるわけだぜ」
  ライダースジャケットとブーツと言った、どこか旧世代のバイク乗りを思わせる風貌の彼であるが、今は亡き彼の両親は学者であり、彼もまたその血を受け就いでいるのであった。
「む、フィルムが無くなった。エスペディア、替えのフィルムを出してくれ」
「こちらでよろしいですか?」
「おう、ありがとう」
 傍らで照明係を担当しているのは、パートナーのドラゴニュート、エスペディア龍姫(えすぺでぃあ・りゅうき)である。
 そんな彼らのやりとりを、ロレッカは恨めしそうに見つめていた。
「……何見てんだよ、ロレッカ」
「……なんだかずるいのであります」
 昔ながらの学者のように手帳に記録を続けるロレッカ。かたや、弥はカメラで簡単かつ確実に古代文字を記録していく現代型。同じ時代に生きるはずなのに……、なんとも腑に落ちない思いが、ロレッカの胸に込み上げてきたのは、当然と言えば当然の出来事である。
「あのなぁ……、準備してこねーのが悪いんだろ」
「……うう。超ずるいのであります」
 ロレッカのどんよりとした視線に、さすがの弥も勝つ事は不可能だった。
「……わかったよ。焼き回ししてやるよ。……だからそんな目で見るのはやめてくれ」





 石版を記録しながら進むロレッカと弥。その前に、ふと奇妙な光景が飛び込んで来た。
「なんだぁ、こいつは?」
 通路には網の目のようにテープが張り巡らされていた。黄色と黒の二色刷りのテープに、立入禁止の文字が病的なまでに印刷されている。これが遺物だとしたら、オーパーツもびっくりなのであるが、無論そこまでお茶目な遺跡ではない。
 通路の先で、何やらもめている様子である。
「立入禁止のテープが見せませんでしたの? ここはわたくしが先に見つけた場所ですのよ!」
 そう語るのは、リリサイズ・エプシマティオ(りりさいず・えぷしまてぃお)
 イルミンスール魔法学校の連金術学科に所属する少女だ。
「だーかーらー、なんでお前にそんな権利があるんだ!」
 反論しているのは葛稲蒼人(くずね・あおと)
 実家が神社であり、和服や宮司服を愛用する古風な感性を持った少年である。
「この場所は研究のために確保していますの。知識のない方に踏み荒らされては困りますわ」
「俺は神社の生まれだ! 古物に対する知識は多少はある!」
「まあまあ……、ケンカはやめようよ、蒼人くん」
 そう言って、蒼人の服を引っ張ったのは、パートナーの剣の花嫁、神楽冬桜(かぐら・かずさ)だった。
「止めるな、冬桜」
「他の石版を調べに行こうよ。石版なら幾らでも転がってるんだからさぁ」
「そりゃそうだけど……、でも、ここで引いたら負けたみたいじゃないか」
 男には譲れない時がある。しかし、時には譲ったほうがうまく事が運ぶ場合もある。
「リリちゃんも、そのぐらいにしておきなさい」
 リリサイズの肩に手を置いて、優しく声をかけたのはヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)だ。
「どうせこんな石版誰も取りゃしないわよ」
「どうしてそんな事を言いますの、ヴェルチェ?」
 ヴェルチェの軽い一言に、リリサイズは眉を寄せた。 
「あなたなら、この石版の価値はおわかりのはずでしょう?」
「え? ええ……、そうね、文化的価値はあるわよね」
 と言いつつも、ヴェルチェは内心「金銭的価値はないのよね」と付け加えた。
 彼女の立場は、表向きには文化的価値のある物の探索である。その立場を利用しリリサイズの探索にも同行しているのだが、こんな石版にはちっとも魅力を感じていなかった。どうせ巨大な物なら、金目の物に勝る物なし。彼女の本当の目的は金銀財宝なのである。
「ちょっと、遙遠ちゃん達も二人を止めるの手伝って」
 ヴェルチェが声をかけたのは、争いを無視して石版を調査している緋桜遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜遥遠(しざくら・ようえん)だ。
『いえ、おかまいなく』
 と、二人は声を揃えて返事をした。
「この石版には遺跡に関する歴史が記録されてると、遙遠は思います。遙遠はどうですか?」
「遙遠は古代の技術が記されていると想像します。解読の糸口を掴みたいところです」
 緋桜遙遠はウィザードの少年であり、パートナーの紫桜遥遠はヴァルキリーの少女である。にも関わらず、その姿は映し鏡のようにそっくりだった。おまけに自分の事を名前で呼ぶ癖も同じなので、周りの人間はどっちがどっちなのか正確には把握していなかった。
「そろそろ、どちらの言い分が正しいか決着をつけよう、リリサイズ」
「望むところですわ、蒼人さん」
「いい加減にその辺でやめとこうぜ、二人とも」
 口論を続ける二人に見かね、弥とロレッカも仲裁に入った。
「ちょっと、あなた達! 勝手に入って来てはいけませんのよ!」
「だから勝手な理屈を並べるなっ!」
 再び火花を散らし始めた二人だったが、思わぬところから争いの終止符は打たれた。
「む?」
 ふと、蒼人は頭の上に柔らかいものが落ちてきたのを感じた。
 それを見ていたリリサイズの顔がみるみる青ざめていく。
「な、なんでそんな目で俺を見る……?」
 頭の上に手を伸ばし、何事が起きたのか確認する蒼人。
 手の中でもがくのは、まるまると太った野ネズミだった。
「ネズミ……? どこから降って……」
 上を見上げた蒼人は、大量のネズミが降ってくるのを目撃し、その顔を引きつらせた。
「ひいいいいーっ!」
「わっ、わっ、なんだなんだ!」
「ケンカはやめてくださーい」
 ネズミに混じって、少女が上から降ってきた。
「気持ちを伝え合えば分かり合えるはずです!」
 彼女の名は外岡天(そとおか・てん)
 ドラゴーレムと仲良くなりたい、と言う思いを胸に、ここまでやってきた平和を愛する少女である。遺跡の中を一人で探索していたのだが、蒼人とリリサイズの口論が聞こえ、仲裁に入るため思わず飛び出して来てしまったのだ。
「あ、あなたどこから湧いてきましたの!」
 彼女の思いとは裏腹、ネズミを引き連れたその姿に一同は若干引いていた。
「どこって……、あそこからですけど?」
 彼女は壁に空いた通気口を指差した。
 ここは地下に広がる遺跡である。内部の空気を循環させるため、通気口が各所に設けられているのだ。一見すると壁が朽ちて空いた穴にしか見えないが、今でもちゃんとその機能を果たしており、中も人間一人が立って進めるほど広く作られている。
「通気口を進むのが一番安全なルートでしょう?」
「でも、ネズミまで連れてくる事はないんじゃないの?」
 苦笑するヴェルチェだったが、天はにっこり微笑んだ。
「動物のほうが安全なルートを熟知しているものですよ」
「……そして、その安全なルートを進む人間を追跡するのが、最も安全なルートですのよ」
 そう言って、通気口から出て来たのは、久世沙幸(くぜ・さゆき)とその相方の魔女、藍玉美海(あいだま・みうみ)だった。
「ねーさま、お宝の部屋についたの?」
 周囲を見回す沙幸を、美海はさりげなく抱きしめた。
「沙幸さんはせっかちですわねぇ、そんなところも素敵ですけれども……」
「ねーさまっ! 抱きつかないで、人が見てるじゃないの!」
 騒々しい二人に戸惑いながら、天は二人に質問した。
「あなた達、あたしの後をつけてきてたの?」
「ええ、おかげで無事にここまでこれましたわ」
 美海はそう言ったが、安全なルートを確保するため、天を追跡していたのではない。自信に満ちた美海であるが、その弱点は方向音痴な事。まともに遺跡へ踏み込んでは、バイト君の二の舞になる。そこで、たまたま見かけた天を追跡していたわけである。天の容姿が彼女好みだったのも理由の一つかもしれないが、それについては定かではない。
「ところで、二人はお宝目当てみたいだけど、めぼしいものはあったのかしら?」
 状況を聞き出そうと、ヴェルチェはさりげなく尋ねた。
「ぜーんぜん……。思い起こせば、通気口の壁の印象しかないんだよねー……」
 はあ、とため息まじりに沙幸は答えた。
「他のお宝探索組も見なかったし……、やっぱり最深部が怪しいと思うなぁ」
 一同が情報を交換していると、どこかで何かが爆発する音が聞こえた。
「おいおい。戦争でもおっぱじまったのか?」
 弥をはじめ、一同は警戒を強めた。
「あ、あれを……、奥のほうで火が上がってるようでありますよ!」
 最初に異常に気づいたのはロレッカだった。
 通路奥の暗闇の中に、赤い炎がゆらゆらと立ち上っていた。





「……な、な、な、なんだこりゃあ!」
 田桐顕(たぎり・けん)は悲鳴にも似た叫びを上げた。
 そんな声を上げるのも無理のない話だった。遺跡の中を歩いていたら、燃え盛るドラゴーレムが、目の前に降ってきたのである。それで仰天しないような人間は、随分と肝が座った人間か、もしくはショックで心停止した人間だけである。
「どうやらドラゴーレムみたいですね」
 そして、ここに肝の座った人間が一人。
 顕の相棒、魔女のリリス・チェンバース(りりす・ちぇんばーす)である。だてに二千年近くも生きていない。
「第三階層で何かがあったみたいですね」
 天井を見上げたが、はるか上の天井の闇は濃く、上層の状況は推察できなかった。
「この道を通るのは無理っぽいね。回り道しよう、リリス」
「待ちなさい」
 そそくさと逃げる顕の襟首を、リリスはむんずとばかりに捕まえた。
「なかなかの好敵手ではありませんか。戦っていきなさい」
「ば、馬鹿言うなよ! いくらなんでも怪物過ぎるだろ、これ!」
「だからこそ修行になるのです」
「いやいやいや、無理だってば。だってほら、やたらデカイし。それになんだかやたら燃えてるし。そんでもって、強そうだし。それからええと……、あとほら心の準備が出来てないし」
 全力で戦闘を回避しようとする顕だったが、その胸ぐらをリリスに掴まれた。
「いいから、ワタシの教えた通りに戦えばいいんだよ!」
「いや、その……」
 目の据わった彼女に圧倒され、顕は次の言い訳を出させてもらえなかった。
「戦ってはいけませーん!」
 そこへ駆けつけたのは、天と先ほどの一同。
「話せばゴレームだってわかってくれます!」
「なんですか、あなたは?」
 リリスは目を細めて、天を胡散臭そうに見つめた。
 天はそれには答えず、直立不動のまま単眼を光らせるゴーレムに近寄った。
「聞いてください、ゴーレムさん。あたしは外岡天と申します。あなたに危害を加えるつもりはありません。あなたを迎えに来たんです。あなたを作ったオリヴィエ博士も助手のヨシュアさんも、あなたの事を心配してますよ。だから……、あたしと一緒に帰りましょう」
 その説得を、ドラゴーレムは静かに聞いているように見えた。
 聴覚に該当するセンサーの有無は不明だが、少なくとも周りの人間にはそのように思えた。
 やがて、ドラゴーレムはゆっくりと天に腕を伸ばした。
「わかってくれましたか……?」
 天はドラゴーレムに微笑んだ。
 だが、ドラゴーレムは友好を示したわけではなかったのだ。
「危ない!」
 間一髪、顕が天を引き戻す。
 伸ばされた腕は握手を求めるものではく、彼女をなぎ払うためのものだった。天の鼻先をかすめたその一撃は、石畳の床を無惨に削り取った。ドラゴーレムの挙動に、顕が反応できなかったら、彼女は粉々に粉砕されていた事であろう。
「そんな……、あたしの言ってる事がわからないんですか……?」
「遥遠には、あのゴーレムは知性を有するものに見せません」
「遥遠にも意思の疎通は不可能に思えます」
 天は二人の遥遠に引きずられていった。それに続いて、一同も避難を始めた。
「よし、じゃあ俺も……」
「あなたは駄目です」
 逃げようとした顕を、再びむんずとリリスが捕まえた。
「折角のレベルアップの機会です。戦っていきなさい」
「あ、あんなの一人じゃ無理だって!」
 顕が叫んだその時、通路の先からスパイクバイクの走行音が鳴り響いた。
「ドラゴーレム、見つけたヨ!」
 スパイクバイクで爆走してくるのは金髪美女。
 彼女はレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)。白のタンクトップにデニムのホットパンツ。どこから見てもヤンキーガール。スパイクバイクを乗り回す姿は別の意味でヤンキーガール。健康的なお色気を振りまいて、ドラゴーレムににエンジン全開で突っ込む。
「飛ばしましょう、もっと飛ばしましょう」
 レベッカの後ろに乗り、騒いでいるのは、剣の花嫁の相棒、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)
 スピード狂の毛があるのか、すでに最高速度なのに物足りないと主張している。
「おとなしくワタシに回収されるネ!」
 レベッカは巧みに操縦しながら、アサルトカービンでドラゴーレムを牽制した。
 ドラゴーレムも腕を振り回して抵抗するが、縦横無尽に駆け回る彼女には当たらない。
「ほら、顕。援軍も到着したみたいですよ」
 リリスがにかやかに微笑むと、いい加減腹を決めたのか、顕は剣を抜き払った。
「……わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
「随分と派手にやってるみたいねぇ」
 ふと、顕の背後で声がした。
 騒ぎを嗅ぎ付けたのは、レベッカ達だけではないのだ。
「これは壊しがいがあるわね」
 メイスをぶんぶん振り回しながら、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)、通称リカの登場である。
 暴走するドラゴーレムに恐れもせず、リカは鈍器片手に殴りかかった。ドラゴーレムの装甲をギャングのようにボコボコにぶん殴る所行は、とてもプリーストのする行動ではない。ドラゴンアーツで怪力を発揮する彼女は、紙くずのように装甲板を叩き潰していった。
「ちょ、ちょっと、何してるネ!」
 突然現れた修羅の蛮行に、レベッカは思わず声を上げた。
「何って……、暴走するゴーレムを止める勇敢な行動には見えない?」
「全然、見えないヨ!」
「どえらい誤解ね」
 そう言って、ドラゴーレムをまた殴った。
「せめてもっと、目とか、足とか……、弱点になりそうな所を狙ってくれません?」
 そう提案したのはアリシアだった。
 レベッカとアリシアの目的。それは、回収したゴーレムを交渉材料に、博士からゴーレムに関する技術を提供してもらう事である。その技術でバイクに素敵な改造を施そうという算段なのであるが、このままではゴーレムではなく、ボコボコになった何かの塊を回収する羽目になる。
「原型を留めてないと、博士との交渉材料になりませんわ」
「ゲンケイヲトドメル……?」
 リカは不思議そうに首を傾げた。
「ごめんね。馴染みのない言葉だから、私にはよくわからないわ」
 そして、メイスをぶんぶん振り回しながら告げた。
「でも、仕方がないわよ。暴走してるんだもの。ふかこーりょくよ、ふかこーりょく」





 彼らの戦闘を柱に隠れ傍観する影があった。
 影の目的はドラゴーレムの生み出すエネルギーにあった。正確に言えば、ドラゴーレムの技術は新たなエネルギーを生み出す事が可能か、と言う事である。その事を見極めるべく、影はずっとドラゴーレムを追跡していたのだ。第三階層ではE捜索隊の背後に身を潜め、そしてここでは顕達の背後に身を潜め、観察を続けているのだった。
 影の名はドラゴニュートのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と言う。
「やあ、ブルーズ。ご苦労様」
 ふと、気配もなくブルーズに近づいた影があった。
「遅いぞ、天音」
 彼の名は黒崎天音(くろさき・あまね)。ブルーズはそのパートナーである。
「博士から有益な情報は聞き出せたのか?」
「まあ、それなりにね」
 ブルーズの質問に、天音は首をすくめた。
「僕が質問する前にゴーレム理論について話してくれたよ。よほど喋りたかったんだろうね。何があったのか知らないけど。まあ、ドラゴーレムの仕様についても聞いてきたけど、どうやらもうそのデータは古くなってしまったようだね」
 ドラゴーレムを見つめながら、天音は静かに微笑んだ。
「そういえば、お土産に爆薬を貰ったんだけど……、いるかい?」
「……いらん」
 ブルーズは憮然として答えた。
 どこか飄々としたタイプの天音に対し、ブルーズは真逆の真面目な性格をしている。
「それでドラゴーレムの技術転用は出来そうかい?」
「転用可能かはわからないが……、素晴らしい能力を秘めているのは事実だ」
「ふぅん……」
 そう言うと、天音はしばし考えを巡らせた。
 博士の提唱するゴーレム理論が技術転用出来るかどうか。天音の考えでは未知数である。ドラゴーレムのこの驚異的な性能は、博士の想定外の事態で発生したものだ。博士の理論には、欠落している部分が多くあるのだろう。となれば、研究に必要になってくるのは……。
「……ドラゴーレムのサンプルが必要になるね」
「あれを持ち帰ると言うのか……?」
「君のサンプルを使っても、研究ははかどらないでしょ?」
「サンプルは提供しない!」
 ホルマリン漬けの自分を想像して、ブルーズは身震いした。
「……と言うわけで、彼らに協力するよ、ブルーズ」
「ああ、さっさとサンプルを採取しよう。我のサンプルを採取されないうちに……!」