イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

遺跡探検!

リアクション公開中!

遺跡探検!

リアクション


第四幕 探索! 第四階層・後編!

 さて、一方その頃。
 第四階層最深部付近を進む、集団の姿があった。
 彼らはある目的のため、手を結んだ組織だ。勿論、それはバイト君の救出でも、ゴーレムの捜索でもないのである。彼らはある意味最も自分に正直で、そしてロマンを愛する人間だと言えよう。その目的とはトレジャーハンティング。つまり、お宝である。
「きてる、きてる、きてるよぉ……」
 あーる華野筐子(あーるはなの・こばこ)はダウンジング棒を握りしめ、集団の先頭を歩いていた。
 彼女は段ボール箱を身にまとっていた。その姿は段ボール製のロボットのようである。借金取りの目を欺くための変装らしいが、どちらかと言えば目をひいてしまう姿であった。今回は、遺跡探検と言う事で、段ボール製のテンガロンハットをかぶり、有名な探検家の衣装を模した絵を胴体部分に描いてある。気合いは十分といった感じである。 
 その後ろに続くのは、パートナーの剣の花嫁、アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)
「分岐点に出たら一度立ち止まってくさいね、筐子」
 アイリスの担当はマッピング。方位磁針を確認しながら、地図を作製している。
「あの、筐子さん。そのダウジングは効果があるのですか?」
 筐子に並び前衛を務める、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が不安を口にした。
「あるある。ダウジングの歴史は古いんだよ。次は絶対見つけるからね」
 次は。との言葉が示す通り、彼らはまだめぼしい物を発見してはいなかった。
「できれば、強力な武器を発見して頂けると、私としては喜ばしいのですが……」
「ああ、そいつはいいな。おっさんも武器に一票入れるぜ」
 一票入れた男は、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)
 おっさんと自分で言うだけあって、見た目は完全におっさんである。彼の本当の年齢は、お宝捜索隊の謎の一つなのだが、おっさんはおっさんなのか、と不躾な質問をする人間は目下のところいなかった。ちなみに、一票入れると武器が見つかるかは定かではない。
「相変わらず、夢見がちな野郎だぜ……」
 そうぼやいたのは、ラルクの相棒、ドラゴニュートのアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)である。
「夢はでっかく持ってなんぼだろうが」
「たまには現実を担当しているこっちの身にもなって欲しいぜ」
 ラルクが夢を追い、アインが現実的に後始末。苦労の絶えない役割分担である。
「……それにしても、随分順調にここまで来てしまいましたね」
 周囲に警戒しながら、水神樹(みなかみ・いつき)は静かに呟いた。
「なんか問題でもあるのか?」
 パートナーの剣の花嫁、カノン・コート(かのん・こーと)が怪訝な顔で彼女を見た。
「もっと罠がひしめくような遺跡を想像していたんです」
「言われてみれば、めぼしい罠はリビングスタチューぐらいか」
「伊月さんは何か気づいた事はありましたか?」
 ふと樹に声をかけられて、巫丞伊月(ふじょう・いつき)はなにやら考えを巡らせた。
「……罠かぁ、そうねぇ」
 伊月は罠探知を担当していた。11フィート棒で、怪しい場所を突ついて回るのが、主な仕事である。幸運な事に今のところ、罠には遭遇していないのだが……。
「樹ちゃんの足下に何かあるみたいだけど……?」
「な、なんですって!」
 突然の危険通告に、樹は身体を硬直させた。
「み、皆さん。私から離れてください。地雷の類いかもしれません……!」
「地雷かぁ。いいわねぇ、それ。じゃあ、樹ちゃんの足下にあるのは地雷って事で……」
「いい加減にしろ、です」
 冷ややかな声とともに、伊月の脳天にゲンコツが叩き込まれた。
「い、痛いなぁ、もう」
「自業自得だこの野郎、です。頭湧いてんのか、です」
 罵倒の言葉を浴びせるのは、伊月のパートナー、剣の花嫁のエレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)だった。
「嘘なんですか……?」
 樹は胸を撫で下ろしつつも、厳しい視線を伊月に向ける事を忘れなかった。
「あらあら、怒らないでぇ。面白くなるかなって、思って……、つい」
 大和撫子な見た目とは裏腹に、伊月はかなりふざけた奴のようである。
「まあまあ、お嬢さん達」
 そう言って、エル・ウィンド(える・うぃんど)が二人の間に割って入った。
 色付きサングラスに、派手な服をセンスなく着こなす男である。暗い遺跡の中にも関わらず、サングラスを外さないのは、彼の揺るぎないポリシーの表れに違いない。
「罠なら、ここにあるじゃないか」
「え?」
「あらあら、本当に?」
 二人は訝しげに顔を見合わせた。
「ボクの心を捕らえて放さない、恋の罠がね……」
「恥ずかしいから、やめてください」
 エルの相方の機晶姫、ホワイト・カラー(ほわいと・からー)がきつくエルの脇腹をつねった。
「痛たっ……。いいじゃないか、ボクのささやかな趣味なんだから」
「暗い遺跡の中で、女性を口説くのはいけないと思います」
「わからない奴だなぁ……、暗い所で口説くのは常識だろう」
 そんなやりとりをぼんやり見つめながら、葉月ショウ(はづき・しょう)は思った。
「なんだか、緊張感のない集団だなー」
「ショウも十分緊張感がありませんけど……?」
 緊張感の感じられない声で語る彼に、パートナーの剣の花嫁、葉月アクア(はづき・あくあ)が言った。
「このやる気が伝わらないとはなー、俺は悲しいぞ、アク」
 マイペースで気分屋の彼がそんな事を言っても、残念ながら賛同は得られないのだった。
「私もだんだん悲しくなってきました」
 
 ……そうこうしている内に、一行はとある部屋に辿り着いた。




 そこは天井の低い部屋だった。
 彼らは遺跡に入って初めて天井を目にした。
「ここがお宝の部屋ですか……?」
 そう言って、ウィングは部屋を見渡した。
 部屋の中には瓦礫の山が散乱していた。瓦礫に混じり石版のような物も確認出来る。その様子はここまでの道中に、一行が見てきた景色と変わらなかった。ただ一つ違ったのは、部屋の中央に巨大な岩が鎮座している事である。
「ほらほら、見てよ。すっごい反応だよ」
 段ボール……、ではなく筐子の両手に握られたダウンジング棒は高速で回転中だ。
「……ダウジングってこんな物だっけ?」
 まるっきり怪奇現象なそれを見つめ、ショウは不思議そうに首をひねった。
「皆さん、ちょっと待ってください」
 ふいに樹は歩みを止めた。それに続いて他の者も立ち止まった。
「どうしたんです、樹さん?」
 尋ねるアイリスに視線を向けず、樹は前方の瓦礫の隙間を指差した。
「どうやら先客がいるようです」
 彼女が指し示した先には、例の巨大な岩が鎮座していた。
 そして、その周りに数組の人影があった。
「やはり気になるのはこの岩ですね」
 長身の白人女性が岩の調査をしていた。
 彼女はガートルード・ハーレック。E捜索隊に参加していたあのガートルードである。E捜索隊所属のボランティアとは世を忍ぶ仮の姿。その真の目的はお宝なのであった。隙を見て捜索隊を離れ、いち早くお宝を確保するため、ここまでやってきたのだ。
「じゃったら、わしが砕いたるけえ……、とっとと頂いておさらばするんじゃ」
 相棒の機晶姫、シルヴェスター・ウィッカーがドスの聞いた声で言った。
 美少女の外見とは、ギャップのありすぎる性格と口調である。
「ですが、これは本当に博士の言う貴重石なのでしょうか?」
「……でも何かあるのは間違いないと思いますよ」
 話しかけたのは、百鬼那由多(なきり・なゆた)であった。
 文化的な価値のありそうな石版を運び出すため、彼女は小型飛空挺に積み込んでいる最中だった。だが、石版の重量に飛空挺は沈み、その試みが成功する可能性は極めて低そうである。
「ほら、見てください」
 那由多そう言うと、岩の表面に刻まれた古代文字を指差した。
「……なんと書かれているのでしょうか?」
「残念ながら、解読はできませんでした」
「これだけ石版があるのに、どうして岩に文字を刻んだのかしら……?」
 那由多の相方、ヴァルキリーのアティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)が疑問を口にした。
「おそらくよほど重要な事が書かれていると思うんですが……」
「重要な事ってなんですの?」
「例えば、危険を知らせる何かとか……」
「随分、弱気な事をおっしゃいますのね」
 そう言ったのは、側で岩を調べていた東重城亜矢子(ひがしじゅうじょう・あやこ)である。
「バルバラ、調査は終わりました?」
「はい」
 パートナーの機晶姫、バルバラ・ハワード(ばるばら・はわーど)は冷静に調査結果を報告した。
「私の調査では、九割りがた一般的な岩石のようです」
「あら、つまらない代物ですのね」
 と亜矢子は言うと、腰元の剣に手をかけた。
 それは彼女の得意とする抜刀術の構えであった。
「待ってください。何をする気なんですか?」
 その様子に思わず那由多は尋ねた。
「決まっていますわ。持ち運べる大きさに切り分けて、わたくしの冒険の記念に頂戴しますの」
「危険がないか、もっとよく調べるべきです」
「あら、浪漫がわかりませんのね。危険があってこその宝探しですわよ」
「そ、それは……」
 那由多も浪漫を求めて宝探しに来た人間である。だから、スリルにとんだ大冒険を求める亜矢子の気持ちはわかる。だがしかし、そのスリルの末に何か素晴らしい物があるからこそ浪漫があるのであって、何もなさそうなのにわざわざ危険に飛び込むのは那由多の主義に反する。
「彼女の言う通りにしたほうが良いと思うよ」
 亜矢子を制したのは岩の上に腰掛けた人物だった。
 彼女の名はシャミア・ラビアータ(しゃみあ・らびあーた)
 彼女もまたお宝を求めてやってきた特殊部隊出身の盗賊である。
「なんかね、嫌な予感がするんだよ、この岩」 
「シャミアの忠告に従ったほうがよろしいですわ」
 隣りに座るシャンバラ人のパートナー、リザイア・ルーラー(りざいあ・るーらー)も同意見のようだ。
 女王の加護により高められた第六感が、二人に言い知れぬ危険を知らせているのだった。
「……そこの人達も手を出しちゃ駄目だよ」
 岩陰で様子を伺うお宝捜索隊にも、シャミアはしっかり忠告した。
「なんだなんだ、ばれてたのか」
 ぼやくラルクを先頭に、捜索隊は姿を現した。
「……で、お嬢さん。これは本当にただの岩なのかい?」
 そう言って、エルはこんこんと岩を小突いた。
「私の調査は完璧です」
 とバルバラ。
 確かに見た目はただの大岩である。もし貴重石(そんなものが存在するのか疑問だが)だとしたら、すでにガートルード達が採掘を始めていたはずである。お宝捜索隊の一同はバルバラの言葉を信じた。だが、貴重石だと信じて疑わない人間がこの場に潜んでいたのであった。
「そんな事を言って、独り占めしようと考えているんじゃないか?」
 彼の名は神名祐太(かみな・ゆうた)
 彼が金と関わった時、ある種彼の真価は発揮される。幼い頃から貧乏で苦労していた反動なのか、その優れた頭脳と凄まじい行動力を、善くも悪くも最大限に発揮する男なのである。
「これはどう見てもただの大岩だと思いますよ?」
 そう言ったのはウィングだ。
 誤解しているのではないか、と思い指摘したのだが、彼は揺るぎなく誤解しているのである。
「貴重石かどうかは、持ち帰ってみればわかる事だろ」
 祐太は意識を集中させ、大岩に向かって雷術を放った。
 持ち運べるように砕くためである。
 青白い稲妻に貫かれ、彼の目論見通り、大岩は四方八方へと砕け散った。
「貴重石は俺が頂いた!」
 祐太は高らかに勝利を確信した。
 だが、次の瞬間、彼の前に広がった光景は輝かしい未来ではなかった。そこで彼が目撃した光景は、天に昇る柱のように噴き出した大量の地下水であった。そして、それは筐子のダウンジングが反応を示していたものだったのである。
「な、な、なんだ?」
 那由多が指摘した通り、重要なのは記された古代文字だった。大岩が破壊された今となっては、誰もその古代文字を解読する事は叶わないが、そこにはこう書かれていたのである。
『水漏れ注意。触れるべからず』
「だから、私があれほど言ったのにーっ!」
 悲鳴を上げるシャミアに続いて、一同は部屋の入り口を目指し全力疾走した。
 だが、部屋の入り口に辿り着いた時、無情にもその扉が閉ざされたのである。
「な、何で閉まったんです?」
 そう叫ぶアクアの目に、扉に刻まれた古代文字が映った。
「きっと『侵入者に死を!』とか書かれてるんだよ……」
 筐子は震える声で呟いた。
 だが、実際にはこう記されているのであった。
『水漏れに付き封鎖する。隠し扉より避難されたし』
 そんな事は知らない一同。
 この絶対絶命の状況にみるみる表情が青くなり、パニックになり、……そして諦め始めた。
「せめて、これまでの冒険譚を記しておきましょう」
 そう言って、アティナは手記になにやら書き始めた。
「いつかこの冒険譚を読んでくれる人間が現れる事を祈りますわ……」
「諦めてはいけません!」 
 アティナを勇気づけようと那由多は励ました。
 しかし、同時に彼女は後悔していた。こんなところにアティナを連れて来てしまった事を。何が浪漫だ。スリルと興奮の先にある、輝かしい未来なんてない。スリルと興奮しかない。これなら、遊園地にでも行けばいい。遺跡では未来がなくなる可能性もあるのだ。
 とその時、壁の隠し扉が開いた。
「なんだ、この部屋。水浸しじゃねーか」
 不機嫌そうに悪態をつくこの男。スパイクバイクを駆る武尊である。
 ふと、生き仏でも見るような視線を送る人間がいる事に、彼は気がついた。
「ど、どうした?」
「か、輝かしい未来です!」
 思わず那由多は声を上げた。