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闇世界の廃校舎(第1回/全3回)

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闇世界の廃校舎(第1回/全3回)

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第3章 顔のない亡者

-PM16:30-

「校舎付近に辿り着いたら、急に箒で飛べなくなったね・・・」
 廃校舎の広い校庭内を探索していたニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)が呟くように言う。
「飛べなくなってしまうような、何か不思議な力でも働いているのでしょうか?それとも・・・ゴーストたちの怨念か何かの影響で・・・」
 ニコの傍でユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)は首を傾げて考え込む。
「おぉーいっ!」
 噴水付近から宮辺 九郎(みやべ・くろう)が片手を振りながら、ニコたちの所へ駆け寄ってくる。
「やーっと生きてるヤツに会えたぜ」
「宮辺はどうしてこのゴーストタウンに来たんだい?」
「そりゃー化け物をバッタバッタとぶっ倒してみたかったからだ」
「―・・・そうなんだ」
 安直な彼の返答に、ニコは苦笑する。
「また誰か向こうから来ますね」
 ユーノが指差す方向を見ると、リネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)の姿があった。
「あら・・・誰にも会わないと思ったけど・・・」
「エルフトも遊びに来たのかい?」
「私は生存者を見つけて一緒に連れて帰ってあげようかと思って・・・」
 無口なリネンの代わりに、ヘイリーが答えた。
「へぇーそうなんだ。僕たちはこの町がどういう原理で存在しているのか興味を持ってね」
「興味本位で来てしまった感じです。(こんな危険な場所に、ニコさん1人で行かせるわけにもいきませんし)」
「―・・・それじゃあ私たちはもう行くわ・・・」
「待てっ!何か人の声が聞こえないか?」
  リネンが行方不明者を探すために再び歩き出そうとしたその時、進もうとする彼女たちを九郎が静止させる。
「他の生徒さんじゃないんですか」
「それにしては可笑しな声だと思うがな・・・。ほうら・・・やっぱり当たりだぜ」
 現れたゴーストたちを九郎は、1体2体3体と指差し確認しながら数えた。
「よっしゃぁあ、暴れてやんぜぇええ!」
「―・・・あっ!」
 ニコが止めようと声を上げるが、ゴーストの群れの中に九郎は1人でつっこんで行ってしまう。
 ため息をつき、銀色の髪をフルフルと左右に振る。
「とりあえず助けに行ってあげましょうか」
「そうだね、ゴーストの体格や服装も確認しておきたいから」
 顔のないゴーストたちの方へ向くと、ニコは手の平から雷術を放つ。
 術によって標的の皮膚は焦げ、いやな匂いが漂う。
「うっ・・・強烈な匂いですね」
 ユーノは顔を顰めながらも、手斧でゴーストたちの四肢を叩き斬る。
 止めと言わんばかりに、九郎がカルスノウトで頭部や胴体を斬り刻む。
「―・・・いっ痛い!」
 斧で斬り落とされたはずのゴーストの手が、リネンの足を掴みギチッと握り締めた。
 振り払おうと足を上下に降っても、なかなか離そうとしない。
「化け物めっ、リネンを離せぇえ!」
 パートナーの足を掴むそれを、ヘイリーがむしり取るように無理やり引き剥がし、地面へ叩きつけるように放り投げる。
「まったく、執念深いやつらだぜ」
 獲物を捜し求めて動こうとする手を九郎は、思い切りクツで踏みつけた。
 ゴキャッと潰されたそれは赤黒い血を流し、ピクピクと痙攣するだけになり、地を這って動くことはできなくなる。
「さて・・・ゴーストたちの服装などをチェックしてメモしないと・・・。それにしてもだいぶ古めかしい服装だね、一昔前のとかばかりだよ。身体の構造はどうかな・・・あれ?人間と同じような気が・・・」
 ニコはさらさらとゴーストの絵を描いたり、特徴の詳細をメモしていく。
「よしっ、書けたっと。(後でとんでもないことが分かりそうだね)」
 動けなくなったゴーストをもう一度眺め、口元に片手を当て考え込む。
「あの・・・ニコさん?」
「ちょっと待って」
「えーっとあのー・・・」
「だからすぐすむから待ってて」
「ものすごく言いにくいんですけど・・・。他の皆さん・・・もう先に行っちゃいましたよ」
「―・・・えっ?」
 ニコが振り返るとさきほどまで一緒にいた九郎たちの姿がなく、キョロキョロと周囲を見回して探すが、見つからなかった。
 どうやら分析に夢中になっている間に、彼らはどこかへ行ってしまったようだった。



「この辺りはまだ誰も生徒がいないようね」
「そのようでござるな」
 教室の黒板を見たり窓の外を見ていると、ミシッミシッと床を踏む音が聞こえていた。
 ブツブツと呻くような声がだんだんと近づいてく。
 室内に入り込んできたゴーストを、ゲッコーが鉄パイプで殴りつけ、対象の骨がゴキッと音を立てて折れる。
 まったくきいていないのか襲い掛かろうとするゴーストを、イリスキュスティスが机を踏み台にしてゴーストが凶器を持つ腕を斬り落とす。
 2人に気づいた教室の奥にいるのっぺらぼうたち、そして廊下を徘徊していた化け物どもが彼らへ向かってくる。
「次々とこんなに出てくるなんて・・・」
「キリがないでござるよ!」
「ここは撤退しよう!」
 ゲッコーたちはその場から逃げるように走り去っていった。



「人の声が聞こえたが・・・誰もいないな」
 校庭からニコたちが立ち去った後、入れ替わりに聖水を飲んで生存者を探し歩いている武尊たちが進入する。
「ねぇっ見てよあれ!」
 伽耶が指差す方向を見ると、九郎たちによって骨をへし折られたり黒こげにされたゴーストたちの姿がった。
「きついわね、この匂い・・・」
 片手で鼻を塞ぎ、あまりの異臭にアルラミナは顔を顰めた。
「こんなところでそいつらみたいなのに遭遇したら厄介だろうぜ・・・」
 またもや隆光がボソッと不吉なことを言い放つ。
「あまりそんなこと言うなよ、本当に出てきたらどうするんだ。そんときは倒してやるつもりだがな」
 眉を潜めて又吉は苦笑する。
「ほうら・・・噂をすればなんとやらだ」
「本当に来ちまったじゃねぇか」
「その割にはずいぶんと嬉しそうな顔してんじゃないか」
 隆光は草陰から獲物を探そうと現れたゴーストを見てニヤつく又吉に向かって言う。
「こまけぇことは気にするなよ!向こうからはオレたちは見えてないはずだぜ、爽快にぶっぱなしてやろう」
 手にしていた手斧を口にくわえて武尊は、顔のない化け物が包丁を持っている方の腕を狙い、ショットガンのトリガーを引く。
 ダァアンッと銃声が響き渡った。
 銃弾が命中し校舎の壁へ、叩きつけられるように腕が千切れ吹き飛ぶ。
 腕を落とされたゴーストを狙ってアルラミナが、ギャザリングヘクスの強化版アシッドミストを放つ。
 彼女の術によって標的はドロドロに溶解される。
「かなりの数がいるじゃないか」
「せっかく聖水を飲んでいるのに、これ以上暴れてしまったらもともこうもありませんよ」
 喜々としてゴーストたちに立ち向かおうとする源内侍 美雪子(みなもとないし・みゆきこ)を、マルシャリン・ヴェルテンベルク(まるしゃりん・べるてんべるく)が止める。
「戦う機会ならまだあるでしょうから、今は我慢してください」
「こいつらと遊んでやっている時間もあまりねぇ。先に進もうぜ」
「えぇそうね」
「遊び足りないが仕方ねぇな」
 隆光の言葉に武尊たちは頷き、再び1階の廊下へ戻っていく。
「ここから2階に上がれそうだな」
「そのようね」
「行ってみようー♪」
 軽い口調で言い先に上るアルラミナの後に続き、伽耶たちも階段を上がっていった。



 ヘルドが持つ紙に記された謎を解くため、どこかにヒントがないかルーシー・トランブル(るーしー・とらんぶる)は1人、校舎内を探し回っていた。
「念のため聖水飲んだけど・・・ゴーストに遭遇しちゃったらいやだなぁ」
 恐怖に怯えながら開きそうなドアを開けて、1室ずつ調べていく。
「ひいっ!今・・・誰かの声が・・・」
 話ながら2階へと上がっていく伽耶たちの声に驚き、静まり返った校舎内に響く声の主がゴーストだと思い込んだルーシーはビクッと身を震わせる。
「あは・・・ははは・・・気のせいだよね、気のせい。そういえば紙に書かれた言葉の中にディナーてあったよね。関係してそうなのと言えば、調理室や食堂かな?」
 めぼしいヒントが見つからなかった教室を出て、ルーシーは調理室へ向かう。
「たしか校舎の出口付近に通っていない通路があったよね、そこにあるのかな」
 1階へ下りた彼女は、なるべく足音を立てないように慎重に進む。
「―・・・ふぅ・・・何とか無事に辿り着いた。さて・・・何かヒントになることは・・・」
 棚にしまってある埃の被った食器や厨房を覗き、ヒントになりそうなことを探しだす。
 調理室の隣にあった食堂も覗いてみるが、謎解きに役立ちそうなのは特になにもなかった。
「うぅ・・・何もないなんて・・・。そいえばフランケンが家庭科室にピアノがあると言ってたよね。皆そこにいるかも・・・」
 廊下を出ると突然、不気味な声音が聞こえてきた。
 声が聞こえた方を見ると、顔のない化け物が近くまで迫ってきている。
「どっどうしよう。あっ、そうだ!まだ聖水の効力がのこっているんだっけ・・・」
 ゴーストに見つかることを恐れながら、ルーシーは庭科室へ向かって行った。