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闇世界の廃校舎(第3回/全3回)

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闇世界の廃校舎(第3回/全3回)

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第1章 壊された保健室

 ゴーストタウンの謎を解き明かそうとする生徒たちや、クリーチャを生産している者を探し出そうとしている生徒たちがトンネルの前に集まっていた。
「石の謎解きをしたら、今回の騒動の顛末が見れるに違いありませんわ!」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はトンネルの奥を睨むように見据え、ロッドを握り締め意気込んでいる。
「えぇ・・・どんな結末が待っているんでしょうね。あっ、そろそろ時間です」
 携帯電話で時間を確認し、影野 陽太(かげの・ようた)たちは漆黒の空に覆われた町へ踏み入れた。
「犯人を探し出したいところだけど・・・まずはあの人を探さなきゃね」
 廃校舎に入ると小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はすぐさま1つ1つ部屋を調べていく。
「もしかしたら保健室に戻っているかもしれませんよ?」
「―・・・そうね、ちょっと行ってみようか」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に言われ、美羽はゴーストたちが襲ってこないか周囲を警戒しながら保健室へ向かう。
「(こういうの苦手のはずなのに、ずいぶん積極的ね・・・)」
 怖がる様子のないベアトリーチェの表情を、不思議そうな顔をして覗き込む。
「誰かいませんか・・・?」
 そっとドアを開けて中の様子を窺うが、シーンと静まり返っていて誰もいなかった。
「あちこっち散らかっているけど・・・。単に掃除ができないんじゃなくって、何者かに荒らされた感じがするわね」
「最初来た時の印象だと、それなりに片付いていましたからね」
「見て・・・いくつか本が燃やされているわ」
 美羽が黒く焦げた本を指差す。
「焼け残っているのもあるわ。証拠を消すのにしては雑ね・・・何らかの事情で急いでいたのかしら?」
 ファイルの中を覗くとゴーストクリーチャについて書かれていた。
「あの病棟でゴーストクリーチャーを作っていたみたいよ。酸を吐き出すヒューマノイド・ドール・・・生者をナラカへ引きずり込もうとするベックォン・・・その他にもまだいるようね」
「ヘルドさんが燃やしたんでしょうか・・・それとも・・・」
「そうじゃなかったら・・・ちょっとヤバイ状況かもね」
「というと・・・」
「今・・・思ったこと・・・。そのまま・・・ね」
「―・・・」
 最悪な事態を想像したベアトリーチェは顔を青ざめさせる。
「急いで探さないと・・・!」
「えぇ・・・」
 彼女たちはヘルドを探すべく、保健室から駆け出て行く。



「あれ・・・先に誰か来たのか?」
 緋山 政敏(ひやま・まさとし)はそっと保健室のドアを開け、中を確認すると床に泥混じりの足跡があったが、先に入った美羽とベアトリーチェのものだった。
「他の生徒たちかもしれませんよ」
 乾いてない泥を見てカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が言う。
「鍵が壊されているわ、誰がやったのかしら?」
 ドアノブが外され高温の火で溶かしたのか鍵穴は黒く焦がされている様子に、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は首を傾げて見つめる。
「何者か侵入して意図的にやった・・・ていう可能性が高いかもしれないわね」
「ヘルドのおっさんがどこにいるのか気になるが、そっちは誰か探しているだろうな」
「それじゃあ探索しているっていう2人を探しにいきますか?」
「うーん・・・そうだな。一通り校舎内を見て回って、もし見つけたら謎解きしている生徒たちの所へ連れていこう」
「まぁそこなら人も沢山いるし安全よね」
 リーンたち3人は保健室を出ると、まずは調理室と食堂を見て回り、校庭にもいないのを確認すると2階へ向かった。



「さぁて・・・保健室にいたヤツがいなくなったって聞いて探しに来てみたが・・・」
 結城 翔(ゆうき・しょう)は他の生徒たちと共に、廃校舎内の2階を捜索していた。
「やはりどこかに隠れているのでしょうか?見つかりませんね・・・」
 掃除用具入れや机の下を覗いて神楽 誠(かぐら・まこと)も一緒に探す。
「それなら教室の中とかにいるかもしれないな」
 開けっ放しの教室の中に入り、人が隠れそうな場所がないか確認する。
「(結城さん慣れてないみたいだし、オレらがフォローに回らんとな)」
 捜索に協力している彼らを七枷 陣(ななかせ・じん)は心配そうな表情で見つめる。
「見つからないねー・・・ゴーストたちとも遭遇しないし」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は退屈そうに欠伸をする。
「ん・・・ねぇ、何か聞こえない?」
「その辺のモン動かしてるからちゃう?」
「ううん・・・それとは何か違う感じが・・・・・・」
 錆ついた金属の音がだんだんと陣たちがいる教室の方へ近づいてきた。
 キュリキュリ・・・ギギッ・・・キュリギッコッ。
 生徒たちは捜索をいったん止め、物陰に身を潜める。
「(一輪車・・・?)」
 そっと廊下を覗くと古ぼけた一輪車が見え、彼らがいる教室を通り過ぎようとする。
「誰か乗ってるの?」
 後ろからひょいっと顔を出したリーズが声を出してしまう。
「ちょっ・・・お前・・・!(前回やられたのに全っ然懲りてねぇのな!)」
 陣は小声で言い、慌ててリーズを抱えて壁際へ隠れる。
 ギコッ・・・ギッ・・・・・・。
 突然ピタッと一輪車が廊下の上で止まったかと思うと、ギギギッと周り引き返してきた。
 キュラギコッ・・・ギッ・・・。
「こんな所でとり憑かれたら洒落にならないぞ」
「それ以上に・・・魂を持っていかれるかもしれませんよ」
 翔と誠が逃げようと促す。
「ふっふ〜ん、今日は大丈夫だもん!ほら、最近買った・・・らいとぶれ〜どぉ☆」
 新品の武器を手に、少女はブンブンと剣を振り回す。
 生徒たちが教室から出ようとすると、ドアの傍で一輪車が止まった。
「どうしたの?先に行っちゃうよ」
「あ・・・待て!・・・どっから突っ込んでやるべきなんか、考えるだけで頭痛いなおい」
 陣が止めるのも聞かず、リーズは1人で先に廊下へ出てしまう。
 ガシャァアアンッ。
 廊下に出る同時に一輪車が床に倒れ、横たわったまま車輪がクルクルと回転している。
「だぁれも乗ってないのに不思議だねー」
 リーズは床へ転がっているそれに触れようとする。
「ばっ!リーズ、危ない!」
「―・・・!?」
 突然床から現れた青白い手が、ガシッと少女の腕を掴む。
「くぅ・・・この・・・・・・!」
 なんとかリーズからゴーストの手を引き離し、ガンッと踏みつけ廊下を走る。
「引きずり込まれたらアウトだぞ!」
 翔と誠も生者をナラカへ連れて行こうとする無数の死者の手から必死に逃れようとする。
「フフフッ・・・生きて帰さない・・・・・・」
 必死に逃げる彼らの背後で、女の笑い声が聞こえてきた。
 振り返って見るとのっぺらぼうに殺された女子生徒の霊だろうか、眼球は垂れ落ち顔面がめちゃくちゃに切り裂かれていた。
 悪霊はクスクスと笑い姿を消す。
「オレらを道連れにする気なんかっ」
「あぁ・・・そうかもしれないな」
 翔は暗闇に潜む女の化け物を鋭い眼光で睨みつける。
「また穴開けられんのだけは勘弁だぜ・・・!」
 舌で貫き殺そうとしてくる女のゴーストの襲撃を避けた。
「もらったぁぁあっ!!」
 リーズはライトブレードの柄を両手で握り亡者の首を狙う。
 プシュァアアッ。
「よっし結城さん、張り切ってやってまえ!」
「これで捕まえたつもりか?斬り落としてやる」
 足首に巻きついた長い舌を剣の刃で斬り離す。
 飛び散る赤黒い血を目にした翔は床へ膝をつき、欲が抑えられなくなった彼は剣の柄を掴む手を振るわせる。
「結城さん大丈夫ですか!?」
 彼の元へ駆け寄り震えている手を誠がそっと両手で包み込む。
「―・・・なんとか・・・な・・・・・・」
 心配そうに見つめる誠を見ずに、欲望に支配されそうな顔を見れないよう俯かせる。
「か・・・神楽、伏せろー!」
 闇に身を潜めていたもう1匹のゴーストの触手が神楽を狙う。
「(だめだ・・・間に合わないっ)」
 誠を守るため自らを盾にし、襲いかかる触手に身体をズブリと貫かれてしまった。
「か、ぐら・・・怪我はないか・・・?」
「俺の・・・おれのせいで・・・ゆうきさん・・・!」
「―・・・ぐぅ・・・あっ、ごはぁああっ」
 苦しそうに悶えながら口から大量の血を吐き出す。
 陣とリーズの方は蛇女と戦い続け、彼らのスタミナは徐々に消耗してきている。
「むぅっ!斬っても斬っても再生するよー」
「これは思いた以上に厄介かもしれないな・・・」
「再生するって分かってても倒してみたくなっちゃうんだよね♪・・・あっ、こら離せ!」
 ライトブレードの柄にゴーストの舌がギュルリと撒きつき、鋭く尖った猛毒の牙でリーズの首元を狙う。
「いつもいつも無茶しやが・・・って・・・・・・」
 リーズを庇い陣は自分の腕を亡者に食らいつかせた。
「ギ・・・が・・・あっ!」
 ミシミシと骨を噛む音が聞こえてきた。
「リ・・・・・・ィズ・・・逃げ・・・っぐぅっ」
「陣・・・くん?」
 毒が彼の身体を蝕み始め、口からツーゥッと血が流れ出る。
 陣の頬に触れたリーズの手にはべったりと真っ赤な血がくっつき、少女は顔を蒼白させた。
「・・・ねぇ君たち、陣くんに・・・何・・・やったのかな・・・答えてよ・・・。―・・・ねぇ?答えろって・・・・・・言ってるんだよおおお!!」
 ツインスラッシュの剣風でゴーストの首、胴体を薙ぎ払う。
「ディライドさん・・・!今は戦うことよりも一刻も早く、七枷さんたちを助ける方が先でしょう!」
 我を忘れて暴れる少女の両肩を掴み、誠が止めようとする。
「は・・・離して・・・離してよぉおっ!」
「いいかげんにしなさい!」
 頬を叩こうとする誠だったが、寸前で手をピタリと止めて慰めるように優しく撫でてやった。
「早く2人を安全な場所に運んで治療してあげましょう・・・」
「―・・・う・・・うん・・・・・・」
 再生を始めるゴーストたちから離れようと、リーズと誠は彼らを抱えてカンバスに書かれた言葉の謎解きをようと生徒たちが集まっている生物室へ向かった。