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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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第1章 季節外れの転校生

1.ようこそ、リフルさん

「それではリフル君、あそこの空いている席に座りなさい」
 教師に言われて、リフルは教室の隅、一番後ろの席に腰掛ける。生徒たちは早速彼女に質問を浴びせた。
「ねえねえ、あなたどこからこっちに来たの?」
「リフルちゃんのパートナーってさ、どんなやつ?」
 しかし、リフルは質問に答えようともせず、窓の外をぼんやりと眺めている。それでもリフルに構い続けようとする生徒たちを、教師が注意した。
「お前たち、もうとっくに始業時間を過ぎているぞ。おしゃべりは後にしろ」
 机から身を乗り出していた生徒たちは渋々正面に向き直り、教師が授業を始める。
(この時季に転校生とは珍しいですの。地球生まれ地球育ちのわたくしとしては、古代シャンバラ史にも関心がありますし、ぜひお友達になっていただきたいですわ)
 真っ先に話しかけようとはしなかったが、リフルの隣の席の荒巻 さけ(あらまき・さけ)も彼女に興味をもっていた。
(ただちょっと無口なところがあるみたいですし、普通に接触しても無駄なようですの。伝わるかは分かりませんが、ここはひとつ……)
 さけはリフルの方を見ずに、机を指で叩き始める。モールス信号でコンタクトを図ろうという考えだ。
(『は・じ・め・ま・し・て』と)
 リフルに反応はない。
(……ですわよね。でももう少しだけ)
 さけは続けて「友達になってほしい」、「学校を案内する」、といった内容の信号を送る。だが案の定、リフルからの返事はない。
(やっぱりダメですの。仕方ありません、後で普通に話しかけてみましょう)
 さけが諦めかけたそのときだった。机を叩く音が聞こえてくる。
(『ほ・っ・と・い・て』?)
 リフルが窓の外を眺めたまま信号を送ってきたのだ。
「通じていたんじゃありませんの!」
 さけは思わず立ち上がり、リフルの方を向いて声を出す。クラスメイトの視線が彼女に集まった。
「荒巻。何が通じていたのかは知らんが、授業が始まっていると言ったのは通じていなかったようだな」
 振り返った教師がさけを見据える。
「ご、ごめんなさいですの……」
 さけは肩をすくめながら、静かに席に着いた。

 一時間目が終わって休み時間。生徒たちは待ってましたとばかりにリフルの元へと駆け寄る。一番乗りは橘 カナ(たちばな・かな)だった。
「はじめまして、あたしカナよ。こっちは福ちゃん。よろしくね?」
 カナが市松人形風の操り人形を右手にリフルに声をかける。リフルは相変わらず黙ったままだ。
『……チョット! しかとシテンジャナイワヨ!』
「もー、福ちゃんてば。きっと恥ずかしがってるだけよぅ」
 カナは腹話術でホンネを福ちゃんにしゃべらせ、自分はタテマエでフォローすると、次いで休む間もなくマシンガントークを始めた。
「あなた、古代シャンバラ史の専攻なのね。以前はどこでお勉強してたの? 他所の学校?」
「おうちはどこ? 近くから通ってるの?」
「最近ハマってることとかある? 趣味は? 何かないの?」
「イヌ派? ネコ派? ちなみにあたしはネコ派よ」
「ねー、眼鏡だと、一番後ろの席じゃ見づらくない? 代わってもらえば?」
 だが、怒濤の質問にもリフルは一切答えようとしない。
『マッタク、外バカリ見テ何ナノヨ! 外ニ何ガアルッテイウノヨ!?』
 福ちゃんがしびれを切らせて叫ぶ。そこに渋井 誠治(しぶい・せいじ)が割って入った。
「まあまあ、あんまり質問攻めにしたらかわいそうだろ。それに、そんな人形ひっさげてたんじゃあ、不気味がられるってもんだぜ」
『誰が人形じゃゴルァ!』
「しかしよくできてるな。ちょっと見せてくれよ」
 誠治がカナから福ちゃんを取り上げる。
「あ、あう……」
 途端、カナはもじもじしてうまくおしゃべりできなくなってしまった。
「オレは渋井。よろしくな! 学園で分からない事があったら遠慮なく聞いてくれ。売り切れ必至のやきそばパンの買い方からカンナ校長のおでこの広さまで、何でも教えるぜ!」
 リアクションのないリフルにも、誠治は気さくに話しかける。その様子を見つめながら、久世 沙幸(くぜ・さゆき)が呟いた。
「リフルって外ばかり見ていて、みんなの呼びかけに応じないのよね。どうやったらお話しできるかなぁ……」
「わたくしというものがありながら、沙幸さんは転校生に興味がおありですのね。これはお仕置きをしなくてはなりませんわ」
 パートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)は恨めしそうに言う。
「美海ねーさま、そんなんじゃ……」
「……と思いましたけれど、リフルさんでしたっけ? なかなかかわいらしいので、今回は不問にいたしますわ。沙幸さんが仲良くなったら、わたくしにも紹介していただくという条件でですけれども」
 美海の言葉に、沙幸は顔を明るくする。
「うん、きっと仲良くなって、おねーさまにも紹介するね!」
「頼みましたわ。それにしても、転校してきた時季が時季です。変に疑われたり事件に巻き込まれたりしないよう、気を配って差し上げてくださいね」
「そうだね、分かったよ」
 やがて休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。生徒たちは各々の席へと戻っていった。