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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

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 終章 そして夜が明ける


「ひどいですねこれは……」
 ぷりりー君がむきプリ君を引き上げている所に、ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)がやってきた。アーデルハイトに犯人の調査と連行を頼まれて様子を伺っていたわけだが、次々とやってくる粛清部隊の連鎖に、出るタイミングを逸してしまっていた。金槌の時は流石に足を踏み出そうとしたが、何かしらの抑止力が働いて動けなかった。
 ユウとしてもむきプリ君には怒っていたし、制裁の方法をいろいろと考えていたわけだが、ここで追い討ちをかけるほど鬼ではない。
 ということで、ユウはむきプリ君に服を着せて両手両足猿轡目隠しだけして、アーデルハイトの下へと連行することにした。ぷりりー君もついてくる。
 アーデルハイトが遊園地で遊んでいることは、事前に連絡をもらって知っていた。

「今日は楽しかった……です。パラミタの事、いつも色々教えて下さってる……感謝の気持ち……です」
 観覧車の中で、クエスティーナはショルダーバッグから木箱を出して 晴久に差し出した。地球のパリから取り寄せたトリュフチョコだ。
「え? 俺に? わーいありがとなー!」
 屈託のない晴久の笑顔に、クエスティーナもにっこりと笑う。
「じゃあ俺からも、プレゼントなー。両手、出して」
 手の平を上に向けて合わせる仕種をしてやると、彼女はきょとんとしつつも同じように両手でおわんを作る。そこに晴久は、先程買ったうさぎのキーホルダーを乗せてやった。
 クエスティーナはキーホルダーを握り締めると、静かに胸に当てた。
「……すごく……かわいいです……大切に……しますね……」
 チョコレートを渡して緊張が解けたのとはしゃぎ疲れたので、扉が開く頃にはクエスティーナは眠っていた。幸せに満ちた顔で寝ている彼女を背負い、晴久は遊園地を出た。
 そこには、執事然としたサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が待っていた。
「よほど楽しかったのでしょうね」
 クエスティーナの頭を撫で、お姫様抱っこされて帰っていく。眠っていても、彼女はキーホルダーを離そうとはしなかった。

 空京遊園地は、島の外縁に沿った場所に存在する。土産物屋の間の、少し入り組んだ裏路地を通った先に、ぽっかりと穴が開いたように見通しの良い場所があった。柵の先には何もなく、見えるのは雲海ばかりである。
 昇ってくる朝日を眺めながら、天 黒龍(てぃえん・へいろん)は隣の紫煙 葛葉(しえん・くずは)に話しかけた。
「覚えているか、葛葉。ここがまだ正式に開園する前に来た時の事を……不思議な蝶の鱗粉を吸って、お前の事を忘れて完全に『先生』だと思い込んでしまった。記憶が戻った時……少し、悲しかった。お前は違うのだと、……わかっていたつもりだったのに」
 地球にいた頃に様々なことを教えてくれた『先生』。身内以上の絆を感じていたのに突然消えてしまった、大切な人。『先生』がいなければ葛葉と出会うこともなかっただろう。
「…………」
(空京遊園地……そう……前にも来たことがある)
 その時のことは――忘れようもなかった。
 葛葉はメモを取り出そうとして、止めた。何をどう伝えればいいのか。そもそもこれは伝えるべきことなのか。
(黒龍が俺を完全に『先生』だと信じ込んでいて……『紫煙葛葉』には向ける事の無い輝いた目をしていた。結局、黒龍が俺に求めているのは『先生』で……)
 葛葉が『先生』の姿を模していることがそれを物語っている。メモを出して、一言だけ書く。
『俺は、剣の花嫁だ』
 黒龍の表情が辛そうに歪む。
 彼は何も間違ってはいないし、葛葉もそれでいいと思っていた。
 ――そうでなければ、俺がここにいる意味は無い。
 風が吹き、2人の髪をなびかせる。急に寒さが増して、黒龍は葛葉にもたれた。彼の温もりが欲しかった。無言のまま彼は、包み込むように白いマントで抱き寄せてくれた。
 求めれば、葛葉は応えてくれる。だがそれは『剣の花嫁』としてだ。
(私が欲しいのは『先生』ではなくて、ここにいる『紫煙葛葉』なのだと、どうしたら伝えられるのか……)
 ペンダントを外して朝日に翳してみる。あの時。夕陽を前でこれをくれた時。
『互いを必要とし、常に傍に在る』
 そう言ってくれた。これは、その証ではなかったのか?
「2人で1つでは、無かったのか……私にとって、『葛葉』は『葛葉』なのだ」
(……俺を欲するという事は、人形を欲するようなものだと言うのに)
 求められるままに黒龍に口付けながら、空しくそんな事を思った。

「楽しかったですぅ〜。ジェットコースターに乗れなかったのが残念でしたけどぉ〜」
 ベンチに座ってむにゃむにゃというエリザベート。神代 明日香(かみしろ・あすか)とアーデルハイト、ミーミルが彼女を囲んで会話している。
「お母さん、疲れてしまったみたいですね」
「寝顔もかわいいですぅ〜」
 明日香がエリザベートの頬をぷにぷにと触る。
「全く。身長制限で乗れないとはどういうことじゃ? 私を幾つだと思うておる。これは、コースターを変える魔法薬か背を高くする魔法薬を作るしかないようじゃの」
「おいおい、今度はどんな騒動を起こす気だよ?」
「その時には私達も呼んでくださいね」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)ヘルメス・トリスメギストス(へるめす・とりすめぎすとす)が戻ってきた。2人共、トレーに食べ物や飲み物を乗せている。
「トライブさんがこれ全部奢ってくれましたよ。食べ物やおみやげは無料じゃないんですね」
「ま、まあ、これくらいはな」
 必要以上の笑顔で言うトライブ。べ、別に、前回の醜態を収めた写真をデコ校長に見せたことが後ろめたい訳じゃありませんよ?
「おみやげもですかぁ〜? 私、行きたいですぅ〜。欲しいものがいっぱいあるですぅ〜」
 奢りという言葉に反応したのか、エリザベートが目を覚ました。
「私も気になるものがあったな、後で行くか」
 ジュースを飲みながら言うアーデルハイト。
「私は……えーとえーと……」
「ミーミルのも選んでやるですぅ〜、あなたたちのも私が選びますぅ〜。いつも遊んでくれるお礼と思えばいいですぅ〜」
 エリザベートは明日香とヘルメスに指を向ける。
「おい、そう言って一銭も払う気ないだろ……」
(しかし、深夜にチビッ子を三人引き連れて遊んでる俺って、傍から見ると物凄く怪しいかもなぁ)
 ジャンクフードをつつきながら今更ながらにそう思う。そこに、むきプリ君を引き摺ったユウとぷりりー君が歩いてきた。ユウは黒猫の耳と尻尾を生やしている。
「ユウ、ご苦労だったな」
 アーデルハイトがねぎらって、彼を手招きした。猫にするように頭を撫でる。忠犬というよりは忠猫という感じである。ユウは、ホレグスリを渡している証拠写真を全員に見せた。
「これが証拠です。この少年も一枚噛んでます。あと、前回レオタードでダンスを披露した何名かも、ですね」
 次々と少年達の写真を出すユウ。
「ちょ、ちょっと待てよ! オレは付き合わされただけで……」
「でも、何気に今日一番良い思いをしてますよね」
「うっ……」
 ぷりりー君が口ごもる。
「また、見事に全員うちの生徒じゃな……」
 アーデルハイトは頭を抱えた。
「反逆ですぅ〜。そろそろ転校の時期ですし、パラ実に送ってやりますぅ〜」
 そう言ってむきプリ君とぷりりー君に魔法攻撃をしようとするエリザベート。トライブは慌てて、彼女の首根っこを引っ掴んだ。
「コラッ、もうむきプリは充分に殺られかけてるだろうが。もともとはエリザベートが発端なんだから、喧嘩両成敗だろ?」
「白状しますから転校は勘弁してくださいー、実はこのイベント……」
 そしてぷりりー君は、むきプリ君がエリザベートに大借金を負わせようとしていたこと、不名誉な印象を残そうとしていたことを全部喋った。

 後日、空京の病院にて――
 全身ミイラ男になって入院しているむきプリ君の所に、空京遊園地の企画部責任者がやってきた。
「残念ですが、ホレグスリは商品には出来ません。園内で大きな混乱は無かったようですが……主催者が半殺しになるような薬はごめんですからね。商品にすれば、遊園地が倒産する事態にもなりかねない」
「そうか……」
 遠い目をしてむきプリ君は答えた。
「あと、今回の費用ですが、ムッキーさんにご請求いたします」
「何っ!?」
 驚いてむきプリ君は飛び起きた。途端に身を捩って悶絶する。
「どういうことだ。費用は全てエリザベート校長にと言った筈だが」
「そのエリザベート校長から、あなたに払ってもらうように、と言われました。せめてもの温情として利子はつけませんので、一生かかってでも払ってください」
 六学校の1つを敵に回すのは遊園地としても避けたかった。実際、費用を回収出来れば支払いは誰でもいいのだ。
「……………………」
 病室を出て行く企画部責任者を、むきプリ君は呆然として見送った。借金だと……? もしかしたらどこぞの娘よりも多いんじゃないか……?
 それから暫くして、サイアスがむきプリ君を訪ねてきた。包帯の下で頭髪を真っ白にする勢いで表情を無くしたむきプリ君に、彼は1粒のカプセルを渡す。
「どうやら、これを1番必要としているのはあなたのようですね」
 それは、ホレグスリを元に教導団衛生課で作り上げた安心薬のカプセルだった。
「今のところは副作用もありません。PTSDや恐怖症の治療の有効打となるでしょう。効果中に対象への恐怖を緩和すれば、次第に精神的負荷は軽減されます。帰還兵の心のケアにも役立ちます。そこで……」
 サイアスは一度間を置いてから、言った。
「改良成功の暁には、元製造者のあなたに製造を担当してもらいたいのですが。流通させた時には然るべきものをお支払いいたしますよ」


担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

マスターの沢樹一海です。ご参加&拝読、ありがとうございます!
今回も遅れてしまいまして、本当に申し訳ありませんでした。

むきプリ君の大人気っぷりには驚かされました。
彼のパートナーのぷりりー君と少年達ですが、むきプリ君1人ではヒールがもう全然足りなかったのでちょっと出張ってもらいました。
遊園地ということで本当にバラエティに富んだアクションで、楽しく書かせていただきました。

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次シナリオですが、28日に「魂の欠片の行方2」のガイドを公開予定です。こちらの方もよろしくお願いいたします。

また、リアクションの裏話や今後の予定等はブログ「とりノベdiary!」でも公開しておりますのでよろしかったら覗いてやってくださいませ。

では、またお会いできる日を楽しみにしております。

追記:シーン重複があったので、修正いたしました。申し訳ありませんでした。