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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

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 第4章 ホレグスリは闇に消える


「ラッキーでしたわ! オトコなんかにチョコをあげなくてもホレグスリをゲットできましたわー!」
 ぷりりー君が女性達に囲まれている間にロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)はホレグスリを手に入れていた。節分の豆のように盛大に投げつける予定だった麦チョコは彼女のおやつになっている。
 片手には紅茶を持っていた。無料で配られていたやつだ。
「麦チョコですらおしいですわ! おっほっほっほ♪」
 ロザリィヌはコスプレ衣装で園内を周っている祥子とエレン、小夜子に目を止めた。先程までの羞恥はどこへやら、小夜子は男達の視線を釘付けにしている。
「百合百合三姉妹を見つけましたわ!」
 半分ほど減っていたお茶にホレグスリを大量投入し、3人の前に立って哄笑する。これを飲めば、雪だるまを懐かしむくらいでは済まないだろう。
「おーほっほっほっ! ロザリィヌ・フォン・メルローゼですわよっ! お紅茶はいかが? 今なら間接キスのおまけつきですわっ!」
「いただきますわ」
 小夜子が紙コップを受け取り、飲み干す。
(これを機に祥子様たち同士も、友情を超えた関係になればよろしいですわー♪ うっふふ……これでうまくいったら……このホレグスリを道行く可愛い女の子に無差別に飲ませまくって、全世界のお姉さまにわたくしはなってみせますわよー! 百合こそがこの世界の正義ですわぁ!)
しかし、目を光らせたのはロザリィヌだけではなかった。祥子は霧吹き器を持って彼女に近付き、噴霧する。ついでにドレスにも噴霧する。
「新しい香水よ。ロザリィヌにきっと似合うわ」
「まあ祥子様……魔法少女のコスプレも素晴らしいですわ! 祥子様に似合わない衣装はございませんのねっ!」
 ぞっこんになったロザリィヌが祥子を褒め称えている間に、濡れた紙製のドレスがふにゃふにゃとめくれていく。
「さあお姉さま、跪きなさい! あなたは今、私の犬になったのですわ!」
 女王様ボンテージにシスターのフードを被った小夜子が、コスプレ用の鞭を手にロザリィヌを叩く。すると、最後の砦であったドレスは脆くも破れた。
「ああっ! 祥子様、わたくしの服がっ!」
 祥子は、縋ってきたロザリィヌをやさしく撫でる。
「大丈夫よロザリィヌ、衣装ならいくらでもあるわ。さあ、あなたもコスプレを楽しみましょう」
「ロザリィヌさんのボディも素晴らしいですわ。さてどんな服を着せましょうか」
 笑い合うエレンと祥子。それから4人は、朝までコスプレ享楽に勤しんだ。

 遊園地のゲートにトラックが入ってきた。荷台にはチョコレートが山と積まれ、その上ではネズミのゆる族が埋もれている。噴水の前に停車すると、運転席側から少女が、助手席側から少年が出てきた。少年の図体は横に大きい。
 少女――女装した風間 光太郎(かざま・こうたろう)は、復活を果たしたむきプリ君に近付いた。
「これ、全部チョコレートですー。ホレグスリに換えてくださーい」
 若干女性恐怖症になっているむきプリ君は、及び腰になりながら言う。
「ほ、本当にホレグスリが欲しいのか?」
「入手したホレグスリは朕の布教活動で使徒及び信者を増やすために使う等、朕の愛の国の建国のために使わせてもらうアル。また、むきプリは良い働きをしたので朕の使徒参号として厚遇してやると約束するアル」
 トラックから降りたゆる族、幻 奘(げん・じょう)が自分の胸をどんと叩く。
「使徒参号?」
 どこかのロボットアニメの黒い機体を思い出すが。
「私が弐号でーす」
「初号だよ!」
 光太郎が言うと、横に大きい少年――ノヴァ・ノヴータ(のう゛ぁ・のう゛ーた)が続く。アホだ!
 こいつら全力でアホだ! よし安全だ、と思ったむきプリ君は、チョコレートの数を確かめるように少年達に言う。
「数えなくても、残り分より多いよ? コレ……」
「あれ、まだ裏になかったっけ?」
「……とりあえず全部積んじまおうぜ……」
 疲弊した彼らを見て、女性口調をやめた光太郎が言う。
「前回のイルミンスールでの事件を鑑みて、ホレグスリを処分しようとする輩は結構いそうな気がしたでござるが……苦労したでござるね? でももう大丈夫。むきプリ君が倒されてもホレグスリは拙者達が保護するでござるよ」
「むきプリ君の気持ちは痛いほどわかるよ! 僕様達は味方だよ!」
「おまえ達……」
 むきプリ君は見捨てる的な発言をされたのにも気付かずに落涙し、3人を抱きしめた。だが傍目からは、か弱い少女と遊園地の着ぐるみを襲っているようにしか見えない。
「やっぱりむきプリ君は女の敵だね! それじゃ痛い目を見せないといけないよね!」
 そこに突然、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が乱入してきた。
「おんなのてきかぁ〜。なら噛みついてもいいよね?」
 彼女のパートナーのイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)がむきプリ君に噛み付いた。とはいえ吸血鬼ではないアリスの攻撃では、八重歯が刺さる程度のダメージしかないのだが。イシュタンは反撃を受ける前に離れると、少年達にも噛み付いていく。しかし吸血鬼ではない……以下略。
「ホレグスリをばら撒くだけじゃなくて、女の子を襲うなんて最悪だね! ってことで現行犯逮捕しにきたよー」
「おまえは、さっきの……!」
 殺すとはいえ、いきなり行ったら危険だと判断したミルディア達は、怪しまれないようにとホレグスリ交換を済ませていた。イシュタンに至っては『おっちゃん! すんげー筋肉だな!』とか超フレンドリーに接していたからむきプリ君の驚きも一入だった。少女(光太郎)が抱きつかれたというのもあるが、少年達が大量のチョコレートと格闘している今がチャンス! と2人は出てきたのである。
 ミルディアを見た幻奘は、ホレグスリを着ぐるみの上から被り、彼女に突進した。
「愛のタックルアルー!」
「わーっ!」
 かわいらしい着ぐるみに下心全開で迫られ、ミルディアはハルバードを振り回した。それは見事に幻奘を捉える。
「ぐふっ!」
 次に前に出たのはノヴァだ。彼は光条兵器の鋼線を取り出して何か知らんが――もとい、痛い目をみたくないから技術で敵を魅了しようと、あやとりを始めた。
「僕様の美技に酔いな! ……ぶぐうっ」
「……だから何? 惚れるの照れるのって、それをクスリとかで操っちゃいかんでしょ?
 彼女が欲しいなら、自力で突っ込んで行かないと逆に嫌われちゃうぞ!」
 その素晴らしきかな正論に、ノヴァは逆ギレする。
「ホレグスリを使ってモテて何が悪いんですか!? 非モテ男達の苦しみが分かるんですか? 貴女は僕をモテさせることが出来るんですか! 非モテ男の夢を奪う権利が貴女にあるんですか!!」
 訂正しよう。逆ギレではない、心の叫びだ。
「お師匠様、ノヴァ殿! 逃げるでござるよ!」
 トラックの運転席に乗った光太郎が彼らを促す。ほうほうの体で2人が荷台に乗ると、ホレグスリを満載したトラックはゲートへと一直線だ。轢かれないように、客が慌てて道を開ける。
「あっ! ちょっと!」
 ミルディアがトラックを追いかける。噴水の側では、少年達を噛み付きまくったイシュタンが満足そうにしていた。
「あ〜、久々に思いっきり噛みつけた〜♪」