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リアクション
第5章 企む者達の末路
遊園地を周り終えて帰宅の途につく人々の中、諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)はむくれたテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)とミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)に不思議そうに言った。
「テレサ殿もミア殿もどうしました? 今日は楽しくありませんでしたか?」
2人は、同時に孔明を睨みつける。
「「もう! 孔明さんが電話なんかしてくるから」」
「です!」「じゃん!」
「え、私、何かしました?」
目を白黒させる孔明。テレサとミアは声がハモったことに顔を見合わせ……また孔明に抗議する。
「「タイミングが悪すぎなん」」
「ですよ!」「だよ!」
「……………………え、なんですか? お化け屋敷でまさか、変なこと……」
「そっちこそ、観覧車で何するつもりだったのさ!」
「まあまあ、2人とも落ち着いてください」
風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が宥めると、彼女達は怒りの矛先を彼に向けた。
「「優斗」」
「さんに言われたくないです!」
「お兄ちゃんが言わない!」
さて、この半日の間に何があったのか? 少し振り返ってみよう。
「あの、優斗さん……」
新聞広告を後ろに隠して、テレサは優斗の部屋を訪ねた。
「もし良かったら……遊園地、とか行きませんか? 深夜、なんですけど、無料みたいなので……」
「遊園地ですか、わかりました。じゃあ一緒に行きましょう」
優斗はにっこりと、淡く優しい笑みを浮かべた。
その十分後。
「優斗お兄ちゃん!」
新聞広告を後ろに隠して、ミアは優斗の部屋に入った。
「遊園地行かない? 今日タダなんだって! 深夜だけど!」
「あ、それさっき、テレサから聞きましたよ」
(うっ、先を越された!)
広告が皺だらけだったから予想はしていたがやはり悔しい。デートさせてなるものかとミアは言う。
「僕も行きたいなー。ついてっちゃダメ?」
案の定、優斗はあっさりと首肯した。
「もちろん良いですよ。そうだ、孔明も誘いましょう。遊園地に興味があるかは知りませんが、保護者として同伴するように言えば一緒に来てくれますよ」
「え、ええ〜!」
「僕達はまだ未成年ですしね」
遊園地は随分と盛況だった。バレンタインデーの所為かカップルが多く、度を超えたイチャつきぶりを見るのは目に毒だと思った優斗は、テレサとミアをなるべくカップルから遠ざけようと心に誓った。年下の2人には教育上宜しくない。
「私、飲み物を買ってきますね」
テレサはそう言って、ホレグスリと解毒剤を取りに行った。むきプリ君ではなく、噴水の周囲に立つ少年の1人から薬を貰って優斗の分のジュースに入れる。それを飲み干すと同時、彼女は優斗を観覧車に連れて行った。1人余ったミアは、孔明とペアを組む。ミアは内心で地団駄を踏んでいた。まさか、4人でいる時に薬を飲ませるとは!
……考えが甘かった……
ゴンドラが動き出すと、テレサは彼の隣に座った。
「優斗さん……キス、しませんか?」
「うん…………ええっ!?」
ホレグスリの効果でぼーっとしていた優斗は素直に返事をし――遅まきながら意味に気付いてゴンドラの壁に張りついた。
「私は優斗さんの花嫁ですから……遠慮はいらないですよ?」
正しくは『剣の花嫁』なのだがその『剣の』をテレサはすっとばした。空いた間を埋めるように近付き、唇を寄せる。
「わっ……テレサ……」
誘惑に導かれるまま、優斗はキスをしようとする。しかし、そこで彼は躊躇した。
「だ、だめですよ。僕は、僕達は……」
「べっ、別に優斗さんが私に対して責任をとらなければいけないように既成事実を作ろうとなんてしていませんよ。本当ですよ?」
弁解のように本音を言うテレサが、妹ではなく女性に見える。それでも、どうしようもなく頭にちらつくミツエの姿。
自制心とは逆に、手がテレサの頬に触れる。息がかかる程に顔が接近していた。
「……テレサは妹で……僕には好きな人が……ミツエさんが……」
携帯電話の着信音がゴンドラの中に反響する。それで優斗は我に返った。相手は孔明だった。ミアが不満を爆発させた為、仕方なく掛けてきたのだ。
『実に綺麗な夜景ですな。そちらはどうですか?』
「あ、はい……綺麗ですね」
中身の無い会話をしているうちに、ゴンドラは1周を終えた。扉が開くと、テレサは諦めて解毒剤を優斗に飲ませた。
「僕、御手洗いに行ってくるね」
観覧車を降りるとミアはそう言って、ホレグスリと解毒剤を取りに行った。テレサは孔明に足止めするように頼んである。むきプリ君ではなく、噴水の周囲に立つ少年の1人から薬を貰って手の甲に塗る。怪我をしたと言って手を舐めてもらう作戦だった。戻ると同時、ミアはお化け屋敷へと優斗を誘った。
「2人1組なんだって! 行こ!」
1人余ったテレサは内心で焦った。お化け屋敷は絶好の誘惑スポットである。だが自分は、恐くてとても入れない。ミアにも誘われたと聞いた時点で、もしやと思っていたのに!
お化け屋敷に入って暫くすると、ミアは躓いたふりをして転んだ。優斗は手を差し出す。
「大丈夫ですか?」
「うん……痛っ! 擦りむいちゃったみたい……」
実際に痛みを感じて見てみると軽く手が切れていて、正に怪我の功名である。
「あ、僕、絆創膏持ってますよ。えっと、どこやったかな……」
「こんなのツバつけとけば治るよ! 優斗お兄ちゃん、舐めてくれる?」
「えっ……」
驚く優斗。さっきはテレサがキスを迫ってきたし、カップルに変な影響を受けたのかもと心配になる。
「あのですねミア、淑女というのはそういうことを自分から求めてはいけません。僕は兄だからいいけど、他の男の人に言ったらだめですよ」
涙目になるミアに、今回だけですよと傷を舐めてやる。
(……量が少ないかな?)
どきどきしながら優斗の様子を伺う。しかしそれは杞憂だった。薬が効いてきたらしい所で、ミアは抱きつく。彼は尻餅をついた。
「優斗お兄ちゃん……キス、しない?」
「うん…………ええっ!?」
ホレグスリの効果でぼーっとしていた優斗は素直に返事をし――遅まきながら意味に気付いて後退して作り物の墓石を倒した。それでも、ミアは抱きついているのだから離れるわけもない。
「優斗お兄ちゃんは僕の婚約者なんだから……遠慮しなくていいんだよ?」
ミアはパートナー契約を『婚約』だと思い込んでいた。抱きついたまま、目を閉じる。
「わっ……ミア……」
誘惑に導かれるまま、優斗はキスをしようとする。しかし、そこで彼は躊躇した。
「だ、だめですよ。僕は、僕達は……」
ミアが、妹ではなく女性に見える。それでも、どうしようもなく頭にちらつくミツエの姿。
自制心とは逆に、手がミアの頬に触れる。息がかかる程に顔が接近していた。
「……ミアは妹で……僕には好きな人が……ミツエさんが……」
携帯電話の着信音がお化け屋敷の中に木霊する。それで優斗は我に返った。相手は孔明だった。いつまで経っても出てこない2人にテレサがやきもきし始めた為、仕方なく掛けてきたのだ。
『優斗殿、何かありましたか?』
「い、いえ、何もありませんよ。もう出ますから待っていてください」
そそくさと立ち上がると、優斗は絆創膏を出した。傷に貼ってやると手を繋ぐ。
「さあ、行きましょう」
いつもの親切なのかホレグスリの効果なのか、ミアにはよくわからなかった。とりあえず解毒剤はとっておこう。
ということで、妹達のホレグスリでキス作戦は失敗に終わった。それもこれも孔明のせいである。
「私は保護者として務めを果たしただけですよ。お二方のデートへの干渉はなるべくしないつもりでしたが……というか、優斗殿がいつまでもハッキリしないからいけないんですよ! いい機会です。ここでちゃんと……優斗殿?」
優斗は、道行く女性にぽうっとした視線を送って、あまつさえ声を掛けようとしていた。手にはホレグスリの瓶を持っている。どこかに置いてあったのを飲んでしまったらしい。
「「優斗」」
「さん!」
「お兄ちゃん!」
自分の時より明らかに顕著な反応を見せる優斗に怒り、ミアは解毒剤をその口に突っ込んだ。
「見知らぬ女性に声を掛けようなんてどういうことですか! 私にはあの態度だったくせに!」
「こういうの浮気っていうんだよ! 知ってる? 僕達というものがありながら……」
優斗を正座させたテレサとミアは、息の合った説教を延々と続けた。
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