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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

リアクション

「うにゅ。みんならぶらぶなのです。バレンタインはすごいのですっ」
 空飛ぶ箒に乗った出雲 たま(いずも・たま)は、噴水周辺を上空から観察していた。むきプリ君に先制攻撃を仕掛けに行くモニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)が心配だったからだ。
 13日の朝、出雲 竜牙(いずも・りょうが)は信じられない思いでちらしを見詰めた。
「……ホレグスリって、アレか? アレなのか!? ……さすがに二度もあの悲劇を繰り返すわけには行かないぞ……!」
 早速、たまとモニカを集める。ちらしを見ると、モニカは竜牙に物問いたげな視線を送った。
「ホレグスリ……?」
 また? と言いたげな彼女に、竜牙は頷く。
「主催者を滅☆殺する」
「めっ☆さつですかー?」
「前回の一件でさえ収拾つけるのに苦労したのに、空京全体に被害が及んだらもう目も当てられない。というか、そうなったら校長が色々言われるに決まってる。だから被害を最小限に抑えるためだ!」
「校長せんせを助けるですね、がんばりましょー!」
 そして現在、たまの眼下ではモニカがむきプリ君と接触を果たす所だった。
「モニカさん、ほんとにあのチョコ、わたしちゃうんですかねー」
 たまは少しだけしゅんとして、彼女の様子を見守った。
(正直な所、もうホレグスリには関わりたくないんだけど……空京中に蔓延されても困るし、仕方ないわね)
 むきプリ君の前に立つと、モニカはそっぽを向いてチョコレートを差し出した。
「チョコが欲しいんでしょ? あんたのことなんかこれっぽっちも興味ないけどあげるわ。買いすぎた義理チョコの余り物だけど、捨てるのも勿体無いしね」
 それは紙とリボンでラッピングされた、余計な飾り付けのされていないチョコレートだった。厚みからして、板チョコではなく箱に入ったものだろう。質素だけれど、それなりに感謝の気持ちがこもったチョコレート。
 ショコラティエのチョコやテロルチョコや高価いだけのチョコではない。
 いくらむきプリ君でも、それが義理でないことくらいは分かる。
「ホレグスリはもうここには無いのだが……」
「……そんなもの要らないわ。私はチョコを処分したいだけだから」
 一瞬、徒労を覚えたものの目線を下にして言うモニカ。むきプリ君は歓喜に震えた。ついに、ついに俺にも春が来た! 悪いなおまえ達、俺は一抜けするぞ! エリザベートへの復讐なんぞどうでもいい、デートだ!
「そうか、ではもらおうか……OH! NOーーーーーーーーー!!!」
 無事に受け取ったむきプリ君が、これまでで一番悲痛な声を上げた。箱が宙を舞い、先程トラックから降ろしたチョコレートの山に紛れる。
「流石にここは鍛えられないでしょ」
 モニカが蹴りをぶち込んだのは、股間だった。もう玉破裂すんじゃないの? ってくらいの勢いである。
「どうせ使う機会なんて無いんだから、腐って落ちても問題無いはずよ」
「ぬ、ぬおおおお…………」
 トイレを我慢しているような格好で悶絶するむきプリ君。そこに竜牙が出てくる。たまも降りてきた。
「ふ、はは……校長の顔に泥を塗ろうたァ、いい度胸じゃないか……! で? ホレグスリと解毒剤はどこにあるんだ? さっき、『ここには無い』って言ってたよな?」
 残りのホレグスリを解毒剤で中和しないと、空京を救うことはできない。しかし、むきプリ君は答えるどころではなく、地にぺたりと座って股間を押さえて涙をだらだらと流していた。竜牙はしゃがむと、むきプリ君の顎を持って無理に顔を上げさせる。
「早く言わないとお前ン家のプロテイン、全部『自称小麦粉』にすり返るぞ」
「む、むじゃ(無駄)なきょとを……」
「ご主人、かっこいいですー」
 口を割らないむきプリ君。竜牙はちらりとチョコレートの山を見て、立ち上がった。
「俺だってチョコ貰いてーよ! 女の子とイチャイチャしてーよ!」
 エリザベート云々も嘘ではないものの、竜牙は結局、ホレグスリを餌に女の子からチョコを貰おうとしているむきプリ君が許せないだけだった。
 ようするに八つ当たりである。
「ご主人、かっこわるいです……」
「お前でウサを晴らすことにした!」
 火術を使う竜牙。むきプリ君は情けない体勢のままなんとか避ける。
「待て待て! 言う! 言うから!」
「竜牙、こんなやつにSP使っても疲れるだけよ。場所だけ聞いてさっさと薬を処分しましょう」
「そうですよご主人。チョコレートもとけちゃいますよ?」
 真の理由にどん引きした2人に諭された竜牙は、むきプリ君が在処を吐くとしぶしぶ引き下がった。彼の後ろを歩きながらたまは言う。
「モニカさん、チョコレート……なくなっちゃいましたね」
 むきプリ君に渡したチョコは、竜牙に渡す予定のものだったのだ。
「元々、ガラじゃなかったから……良かったのよ、これで」
 淡々としているモニカに、たまはチョコレートを差し出した。たまも、竜牙にチョコを用意していたのだ。
「モニカさんがわたしてあげたほうが、きっとご主人も喜ぶのです」

 噴水から見えるアトラクションの1つに、メリーゴーランドがある。白馬のオブジェに跨って晴久が言う。
「な、なんか子供の頃に戻ったみたいでちょっと恥ずかしいぜ」
「うふふ……実家のビオラに……似てます」
 クエスティーナも、実家で飼っている白馬を思い出しながらオブジェに乗った。その後ろでは、射月璃宇に笑顔を向けている。
「僕の隣にどうぞ、お姫様」
「はい、王子様……」
 それが薬の効果であることは忘れ、璃宇はこの一時を楽しんでいた。大好きな人と一緒で幸せで、嬉しい。
 片や虚雲は、メリーゴーランド外のベンチに座り、ただ夜空を眺めていた。
「まったく何の為に来たんだか……ん、何だ? ジェットコースターの上に誰か居るような……」

「何度倒れても復活するとは見上げた悪役魂だ! だがそれももう終わりだ!」
「だ、誰だ!」
 むきプリ君が誰何すると、ジェットコースターの足場上で朗々と口上を述べた人影は、空高くジャンプした。着地して走ってくると、むきプリ君から10メートルほどの間を開けて足を止めた。シルバーと黒を基調としたヒーロースーツが、イルミネーションを受けて光り輝く。
「俺か? ケンリュウガー。ただの正義の味方だ!」
「ケンリュウガー!? あの、蒼学ヒーローのケンリュウガーか!?」
 驚愕するむきプリ君。確かこいつは、片思いしてくれている彼女がいた筈だ。くそうモテ男め! 本人が気付いていなくても、モテていることに変わりはない。
「ホレグスリなどという人の意志を操る奴は許さない!」
 ピンク色の仮面の下から武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は言う。ヒーローショーのバイトを終えた帰り、正義の直感でむきプリ君から悪の匂いを感じた牙竜は、それ以来様子を伺っていたのだ。
「さっきから見ていれば……くだらない動機で、クソ忙しい時期に悪事を働くな!」
 バレンタインデーは朝から嫉妬に狂ったメガネを退治する予感があったり、女の子に呼ばれて出かけたり、バイトしたりと予定がてんこもりだったので、夜くらいは寝ておきたいところだった。
「くっ、おまえに何がわかる! 行け! レオタードの戦闘員達よ!」
「もうレオタードじゃねーし、かませ犬になるのはごめんだ!」
「オレも嫌だよ。SP無いし。疲れたし」
「役立たずめ……! かくなる上は!」
 どこかのメガネと同じく嫉妬に狂ったむきプリ君はケンリュウガーに拳を振り上げた。それを待ち受けながら、ケンリュウガーは叫ぶ。
「ライザー!」
「はっ!」
 牙竜のスポーツクルーザーと合体した重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が後ろからやってくる。彼自身、騎士道精神からむきプリ君の暴挙は許せなかった。ケンリュウガーが右手のリュウドライバーに必殺技カードを入れると、『ファイナル・アクション』という機械音が鳴り響く。リュウライザーの背中からトリガーが出てくる。
 リュウライザーは六連ミサイルポッド2つと機関銃を展開した。
「FCS、フルコンタクト……ナァーヂャエンジン、フルドライブ」
 ケンリュウガーがトリガーを引く。
「「アルティメット・エンド!」」
 ケンリュウガーの爆炎波。そしてリュウライザーの、特技・重火器を加味した攻撃がスプレーショットによって全弾命中した。ちなみにこの六連ミサイルポッドには、どこかの巨大機晶姫の腕をもいだ実績がある。
「があっ……っ!」
 声にならない悲鳴を上げて、むきプリ君は倒れた。
「焼却完了! 悪は滅びた……」
 ケンリュウガーはバイクに乗ると、夜の遊園地を去っていった。
 しかし、まだむきプリ君を狙う者は存在していた――

 道行く女の子にホレグスリを飲ませているのはどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)だ。
「うふふ、みんなかわいいわ……たっぷりかわいがってあげる……」
「もぉっどり〜むちゃんったら、また私以外の子に手を出して〜〜〜〜」
 ふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)はたまらずホレグスリをどりーむの口に突っ込む。だが、やはりというか何というか、薬は効かずじまいだった。
(これは、私のことが好きだからで良いんだよね? 合ってるよね?)
 合っている。どりーむはふぇいとのことが好きで、尚且つ普段からこれっぽっちも遠慮していないので効果がないのだ。節度ある恋をしているカップルだと箍が外れるケースもあるが、どりーむの場合は外す箍が存在しない。
 その時、彼女達の前をレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が通り過ぎた。ホレグスリを飲んだ瞬間にそちらを見た少女達は、どりーむそっちのけでレイナを追いかける。
「…………!」
 レイナは無表情に首を振り向けると、無言のまま逃げ出した。立派に吃驚していたし割と必死だったので、頭からは犬耳と尻尾が生えてくる。
「え、またこのパターン!? って、あれはレイナちゃんじゃない! あたしのものにするわよーーーーー!」
 残りのホレグスリを握り締め、どりーむもレイナを追い始めた。
「どり〜むちゃん〜、待ってよ〜」
 既にどりーむに惚れていた少女達やふぇいとも追走し、彼女達は遊園地で注目を浴びた。