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【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃

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第6章 奪われた武器を探して保管庫へ

「この階に兵どもが奪った生徒たちの武器があるんだよな」
 地下3階にたどりついた垂は、ゴーストが潜んでいないかキョロキョロと見回す。
「今のところ邪悪な気配は感じないから大丈夫だと思うよ」
 ディテクトエビルを発動させて警戒しているライゼが言う。
「先に通路を作らないと、この先に進めないのか。そう簡単には保管庫に侵入出来ないみたいだな」
 水路を流れる激流に阻まれてしまい、垂たちは先に通路を作ることにした。
「ポンプはどこでしょうか・・・」
 朔は水路を流れる水を止めようとポンプを探す。
「あそこでしょうか?」
 入れそうなドアを見つけて指を刺す。
「ちっ、兵が来やがった。少し待とうぜ」
 タイミング悪くやってきた巡回しているゴースト兵を目にした垂が朔を止める。
 やってきた兵は数分間ほど待機して離れていく。
「行ったようだな・・・今のうちに止めよう」
 垂はポンプ室に入り水を止める。
「水溜りが沢山あるね」
「滑らないように気をつけましょう」
 水路に降りたライゼと朔の2人がかりで足場となる台を動かす。
「この辺でしょうか?それにしても重いですね・・・」
 途切れている道の間に台を動かし、進んでいる途中で落ちないか確認する。
「手を貸そうかー?」
 通路にいるシエラが朔に声をかけた。
「えぇ、お願いします!」
 声をかけられた朔は彼女に向かって片手を振る。
「これはどっちに持ってけばいいんでしょう」
「さっき上から見たけど、左側だったはずよ」
 シエラは左右のどちらに運べばいいか悩む朔に教えてやる。
「せーの・・・くぅ、重いわ・・・」
 途切れている道のところへ移動させようと、力を込めて腕と膝で押す。
「ぁあっ」
 水に濡れた床の上を台が滑ってしまい、目標位置を過ぎてしまった。
「向こうからもう1度押そう」
 位置を調節しようとシエラたちは反対側から台を押す。
「この辺りならいいわね」
「よし、こっちもオッケーだ。巡回のやつが来る前にポンプ室へ戻るぞ」
 台を動かし終えた垂が2人に通路へ戻るように言う。
 3人はポンプを操作し、水路に水を流した。
 彼女たちがそこから出ようとすると、何者かの足音が近づいてくる。
 どうやら巡回の兵が戻ってきてしまったようだ。
「ちっ、もう戻って来やがったか」
 足音の正体を確認しようとドアを開けた垂は、ポンプ室へ来ようとする兵の姿を見て舌打ちをする。
「―・・・な、何だ貴様!?」
 隠れていた垂に高周波ブレードの刃を向けられた兵が思わず声を上げる。
「おっと。じっとしていてもらおうか。でないと、その頭と首がさよならすることになるぞ」
 垂は兵の髪を掴むと、ポンプ室へ引きずり込んだ。
「牢に囚われている人たちの武器を隠している保管庫はどこだ。10秒だけ待ってやるから、さっさと言いな」
「フンッ、誰が貴様のような小娘に言うもんか」
「どうやら2度目の黄泉路を歩きたいようだな」
 慈悲の欠片もない冷酷な目つきで睨み、保管庫の位置を教えようとしない兵の額を貫く。
「自力で探すしかないか」
 生徒たちの奪われた武器を探そうと、垂たちはポンプ室を出た。
「それじゃあ私はこの辺で。別の通路をも作らなきゃいけないから」
「1人で大丈夫か?」
 下の階へ行こうとするシエラを垂は心配そうに言う。
「隠れ身で姿を隠すから大丈夫よ。それに、やばくなったらどこかに隠れるわ」
「そうか・・・どこにゴーストが潜んでいるか分からんからな、気をつけろよ」
「兵たちが来るかもしれないから僕たちも行こう」
 地下へ向かうシエラを見送ったライゼたちは、保管庫を探そうと歩き始めた。



「捕まっちゃった人たちが沢山いるみたいだね・・・。もしかしたら危険な状態かもしれないし、助けてあげたいな」
 牢獄に捕まっている人たちを助けたいと思ったリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は地下3階で足を止め、共に同行しているアウラネルクの方を見る。
「ふむ・・・どのような状態になっているか分からぬが。生命の危機であれば優先しよう」
 頷いた妖精にリーズはニッコリと笑顔を向けた。
「その前にちょっと、やらなきゃいけないことがあるから待ってくれ。どこかに手頃なやつないかな・・・」
 彼女たちと同行しているエル・ウィンド(える・うぃんど)は偽装用の死体がないか探し歩いている。
「ちょっと背丈が違うけど、これでいいか」
 ポンプ室に入ると垂が始末し、ただの死体となり動かなくなった兵を見つけた。
「こんな感じか・・・。特に顔は判別出来ないようにしないとな」
 死体に黄金の改造制服を着せたエルは、それを通路へ放り出す。
「いいかいアウラネルクさん、これを燃やす時に例の言葉を言うんだ」
 妖精が頷いたのを確認した彼はブラックコートを纏った。
「ゴーストどもにわらわの友が殺された!おのれぇ許さぬぞ、姚天君たちにの好きにさせてたまるか!」
 アウラネルクはエルが死んだと嘘の言葉を大声で言う。
「(偽者に騙されてくれるといいんだが・・・)」
 死体の外見が分からないように、エルは自分のダミーに火術を放ち黒焦げにする。
「それじゃあアウラさん、これを着てエルさんと隠れてください!」
 ブラックコートをアウラネルクに渡した七枷 陣(ななかせ・じん)は、妖精とエルをポンプの裏側に隠す。
「アウラネルクたちがいたぞー!地下2階へ逃げて行った、全員で追え!」
 そこから出た陣はすぐさま情報攪乱による嘘情報を大声で叫んだ。
 巡回に来た兵はその声を聞き、すぐさま無線で仲間たちを呼び集めた。
「どこだ、探せ!」
 騙された兵たちは地下2階へ向かおうとする。
「おい、死体が転がっているぞ」
 誰だか判断出来ないくらい炭にされている死体を見つけた兵が仲間たちを呼ぶ。
「黒焦げになっていて顔はまったく分からないが、この派手な金色のローブ・・・。姚天君様が捕らえろといった男に間違いない」
 エルが作ったダミーだと知らずに、遺体を見つけたと無線機で姚天君へ連絡する。
「例の小僧を始末しましたっ」
 自分たちの手柄のように姚天君へ報告した。
「そう、メガネの小僧が死んだのね。フフフッ、これの情報をオメガの周辺に流して、彼女の耳に届くようにしちゃって」
「はっ!了解いたしました!」
 オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の耳に届くように情報を流せと、命令を受けた彼は施設の外へ向かった。
「あいつら何のためにそんなことを・・・。おっと、今は保管庫に向かわないと!」
 十天君が兵に出した指示が何のためか気になりながらも、邪魔なゴーストの群れを地下3階から移動させようと身を蝕む妄執を放った。
「見つけたぞ、捕らえろぉおお」
 発見した妖精を動けなくしてやろうと、兵が標的に機関銃で乱射する。
 もちろん彼らが見つけたのはアウラネルクたちではなく、身を蝕む妄執の幻覚に陥り自分たちの仲間を、探している者たちと思い込んでしまっている。
「上手くいったようやね」
 隠れて混乱する兵たちの様子を確認した陣は妖精たちがいる場所へ戻った。



「まったく迷路かっ、ここは。保管庫どこやねん!」
 保管庫を目指している陣たちは迷路のような道を彷徨い歩く。
「ねぇ、向こうに人がいるみたいだよ」
 リーズは真っ暗な通路を進む人影を見つけ、陣に教えようと彼の袖を引っ張った。
 気づかれないように慎重に近づいていくと、シャンバラ教導団の女子生徒が3人、倉庫の中に入ろうとしている。
「生徒じゃないか・・・。びっくりさせんなっ」
 人影の正体が垂たちだと分かり、陣はゴースト兵と間違えたリースのもみあげをぐいっと引っ張る。
「やばいよ垂、危険な気配がする・・・!!」
 ピッキングでドアの鍵を開けようとしている彼女をライゼが急かす。
「仲間を呼ばれると面倒だ、先に片付けてしまおう」
 右手に高周波ブレードを持ち、もう片方の手で光条兵器の鞭とダークネスウィップを絡めた特製の鞭を構える。
 垂に敵の位置を教えようと、ライゼが廊下の奥へ光術を放つ。
「そこかっ!」
 銃を撃たせまいと垂がチェインスマイトの爆炎波の連撃をくらわす。
「威力が落ちてしまうとは。対策を考えておくべきだったか」
 水路の水しぶきで威力が弱まってしまったせいで、兵どもの動きを停止させることは出来なかった。
「陣くん、女子生徒たちがゴースト兵と戦っているよ!」
「おし、任せとけっ。セット!クウィンタプルフレア!・・・悪条件下版じゃコラー!」
 指先に纏った火術の火球、蒼紫の炎に雷術の雷光を纏わせて放つ。
 火術に雷の気を纏わせたおかげで炎は消えることなく、兵たちの身体を消し炭にする。
「っしゃーんなろー!これで無能脱却や!」
 技が成功し、調子に乗った陣は同じように数発放った。
「・・・何で唐突に水が噴き出すの?ねぇ?」
 突如噴出した水柱に炎が消され、驚きのあまりパニックになる。
「作為的な何かを感じざるを得んのやけど・・・なにこれこわい」
 水路に水を流しているポンプが一瞬、動作不良を起こしてしまった影響だ。
 止まってしまった流れが正常に戻り、鉄砲水のように水路を流れて足場の台に激突し、水柱となったのだった。
「(にはは♪無能脱却の日は遠いねぇ〜)」
 気配を隠して遠くからその光景を見たリーズが心中で笑う。
「そんなに気を落とすなよ」
 しょんぼりと床に両手をついている陣の肩を、残りの兵を片付けた垂がポンッと軽く叩く。
「開いたぞ」
 垂は保管庫のドアをピッキングでこじ開けた。
「いつまでもへこんでないで手伝ってよ。そこの・・・む・の・う♪」
「うわぁあ〜っ!無能言うなぁああ!!」
 リーズに小ばかにされた悔しさのあまり陣は叫びながら、生徒たちの奪われた武器をおもちゃの袋に入れる。
「これで全部か?」
 垂が武器を入れたおもちゃの袋の中を確認する。
「持てる分だけ・・・やね」
「俺たち自身が武器を持てないんじゃ、敵に見つかった時に戦えないからな。それだけ持って行こうぜ」
「まぁっ、しゃーないか」
 保管庫を出た陣たちは地下牢へ向かった。