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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第3回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第3回/全3回)

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第三章 狂暴

「なっ、これは……」
 ガラクの村に辿り着いた一行。その中に居た黒崎 天音(くろさき・あまね)が状況を得ようと村中へ目を向けた時、轟音があがり爆砕音が響き聞こえた。視線を向ければ、向かい来る巨大な影に、天音は白馬に鞭打ち駆けさせた。
「天音!」
 パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)天音のそれに白馬を添わせると、倒れ来た巨体に目を向けた。ボコボコに砕けた機晶の身体が横たわっていた。
「大丈夫か?」
 天音と共に白馬を降りると、意識を失っているレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)ブルーズはヒールを唱えた。大砲でも受けたような痕にブルーズは言葉を失った。
「まんざら、間違ってもないかもな」
 宙を見上げる天音の視線を追えば、篠宮 悠(しのみや・ゆう)ミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)に加え、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)に向かっている所であった。
「あのランチャーか… ん? 天音、どうかしたか?」
「あ、いや…… あれか……」
 天音は村の奥へと目を向けていた。そこには巨大な蠍が蠢いている様が見て取れた。
「あれが話に聞いた三槍蠍か… 確かにこの毒は、厄介かもな」
 天音の左膝の下、デニム生地が破けている。足下の液体が飛んだのだろう、傷口が痺れるような痛覚を感じていた。
「村が囲まれてる… 水が溜まれば、みな毒にやられるぞ」
「天音、治療が必要な者を連れてきてくれ、この毒に当たり続けるのは危険だ」
「了解、まずは安全な場所に移動しよう」
 天音が指摘した通り、足下に溜まる水は、先にパッフェルが毒化している為、時間が経てば経つほど侵される危険性は増してゆく。しかも毒を吐き出す三槍蠍も、パッフェルだって囲いの中に居るのだ。
「いい加減に… しろっ!!」
 苛立ちと共に、葛葉 翔(くずのは・しょう)ははグレートソードを三槍蠍の尾根に振り下ろした。
 渾身の力を込めた一撃も、蠍の鋼のような甲皮に弾かれてしまった。
「くそっ、やっぱり頑丈に出来てやがるか」
 3つに分かれ、槍のように襲いかかってくる尾。その尾の攻撃を避けては受け、受けては斬りかかるも弾かれる。それを続けたは、ついに抑えきれなくなり、元凶といえる尾の付け根をブッタ斬ろうとしたのだが。流石に太く、強度も高いようだった。
「翔」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、ヒラヒラと手をブラブラさせるの手の動きに、一間、視線を奪われながらも強く切り出した。
「三槍蠍を倒すのではなく、一カ所集まるよう誘導しよう!」
「誘導? そんな事どうやって」
「ボクがやるよ」
 小さな体を重たそうに起こしながらロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が言っていた。気丈を装っているが、体が軋む度に顔を歪ませている。
「攪乱させれば良いんだよね、それなら、ボクが適任だもん」
「本当に、大丈夫なのか?」
「うんっ、エヴァルトが治してくれたでしょ♪ だから、大丈夫っ!」
「そうか」
 治したと言っても、機工士としての知識とスキルを用いて応急処置をしたに過ぎない。パーツだって傷だらけだ。それでも… あんな笑顔を見せられたら…。
「よし、ロートラウト! 任せたぞ!!」
「うんっ!」
「こっちはダメ、だな」
 掌を滝水へ向けていたデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)は、氷術を放ったまま鼻だけを向けた。
「やはり滝を凍らせるには、出力がどうにも足りぬ」
「出力、か……」
 エヴァルト自身、氷術は使えない。ロートラウトも同じだ。
 辺りを見回せば、氷術を使っている者はいる。その一人が風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)である。優斗は滝壺と村を囲む壁、そして自らを頂点とした三角形を作り、溢れ出た水を凍らせていた。
 滝壺から壁に向けて、道を造るように氷を重ねているようで−−−。
「氷を重ねる? そうか、その方が強度も増すはずだ!!」
 エヴァルト優斗に協力を要請した。2人で氷術を放ったとしても、滝そのものを凍らせる事は出来ない、まして村に広がる水を止める事も出来やしない、それなら。
「なるほど、パッフェルが造った壁を一面として、あと二面を氷術で造る。巨大な水槽を造る、という訳ですね」
「あぁ、気色の悪いあの節足類を水没させてやる」
 怒りを込めて、いや、憎しみを込めてエヴァルトが拳を握りしめて言うのを聞いて、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)が歩みを始めた。
「水槽を造るなら、時間が必要でしょう」
 氷河の壁を造り出す。落ち生づる滝水を使うと言っても、厚い壁を造るには、やはりそれなりに時間が必要であろう。
「パッフェルの気を引く… って事ですか?」
「奴を… 地に落とします。奴が水に触れているうちは、この水を毒に変えるような事はしないでしょうからね」
「そんな危険な… わたくしも行きます」
「いえ、水槽を造ると言っても水には触れてしまうでしょう。治療スキルを役立てるのです」
「…… わたくしが行っても、戦闘では役に立てないからですね……」
 瞼が重く、額を俯け始めたレオポルディナの手を、はそっと包み込んだ。
「力を合わせて、泉の中にステキな水槽を造るのですよ」
「…… はいっ!」
 明るさを取り戻したレオポルディナ表情から、宙で戦いを繰り広げるパッフェルへと視線を移して。は瞳に鋭さを宿し戻すと、小型飛空艇に乗り込んで飛び出した。
 ナナが空飛ぶ箒で駆け抜ける。同時に、借り物の箒に跨ったミィルも同時にパッフェルの元へと距離を詰めて行く。
 ランチャーから放たれた今度の波動は大砲と呼ぶには小さく、小砲といった所だろうが。放たれると、直後に幾数に分散した。
「うっ」
 ナナも箒を傾けて、これらを避けた。大砲を含め、ランチャーによる弾速は十分に見ていたし、ナナに関しては以前にも体験していた事が要因として挙げられるのだが、それより何よりどれよりも、今のパッフェルの動きでは、射出のタイミングが容易に見て取れた。それほどに動きは大きく、殺意は隠れてすらないのである。
「残念でした−」
 避けた先を狙われた! オリヴィアの箒の横に並び現れると、にその身を蝕む妄執を、の背に添い乗るミィルには吸精幻夜を唱えると、思惑通り、2人を乗せた箒はフラつき、地へと墜落していった。
「パッフェルちゃんに近づこうなんて、そんな事、させないわよ−」
 なんて言ってる傍から、ナナパッフェルへと迫っていた。
 パッフェルのランチャーを封じるには、彼女の間合いを詰める事が有効である。自分から暴れ動いている今こそ、その絶好のチャンスだと考えたのだが…。
「ミネルバちゃんを忘れちゃダメだよ」
 彼女の背後から、ミネルバが忘却の槍で突きかかると、同じく間合いを詰めていたにはトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が雷術を放ち、迎撃をした。
「甘い! 甘いんだよぉ!」
 地に墜ちゆくに笑みを見せると、ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)は辺りを見回してから嘆息を吐いた。
「ヴァンガードやミルザムが居ると言っても、この程度とは、情けないのう」
 頭に血が昇ったままのパッフェル神野ザイエンデといった向かい来る敵ばかりだけでなく、ミルザムの護衛をしていたシルヴィオアイシスをも次々に襲撃していった。
 彼女を守り抜くと決めた生徒たちにとっては、じっとしてくれている方が守りやすいのだが。次々に地に伏せ倒していくパッフェルの姿には、嘆感の吐を雫すばかりであった。
 交戦中の者を含めても、パッフェルの敵となる生徒たちは、数名の手負いが居るばかりであった。ミルザムを護衛する生徒たちが数名いるが、これらが彼女の傍を離れるとは思えない。
「へっ、所詮は雑魚の寄せ集めだったって事だ!」
 トライブが雅刀を握りしめる。パッフェルの瞳が標的を捉える。と交戦中の真理奈、数少ない反抗者を一人ずつ沈めてゆくつもりであろう。そこにトライブが、そして六花と交戦中のアンドラスを潰すべく、ベルナデットは氷術を唱え始めた。
「クライマックスも無しに、間もなく終幕じゃ!」
 互角に繰り広げられているそれぞれの戦いに加勢が入る、それは均衡を破るには十分であり、戦局が一気に終わりを迎える事を誰もが容易に想起できた。
 強大な力を持つパッフェルと、彼女を護る生徒たち。終幕を告げる拍手と喝采の代わりに呻号と悲鳴を上げさせるべく。
 グリフォンに駆けるを合図したパッフェルの前を、光術が、横切り過ぎた−−−。
 後方、上空、太陽の中。放たれた光術を辿り振り向けば、光の中から更なる光術が放たれていた。
 パッフェルがこれを波動の弾で撃した時、光術を放った秋月 葵(あきづき・あおい)の小型飛空艇を先頭に、トカール村から駆けつけた生徒たちが次々に降り来ていた。