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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第3回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第3回/全3回)

リアクション

 マウスを動かす速度が上がる。チェスナー・ローズの部屋で、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は彼女のパソコンを調べていた。
 アーティフィサーの研修から戻ってきたチェスナーが己のパートナーに襲いかかった。彼女に何かあったのだとすれば、誰かと接触したのなら。
「どう、ですか?」
 レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)は、玲奈の肩越しにパソコン画面を覗き込んだ。
 開いているウィンドウは、1つだった。
「あぁもう! 画面が小さい! 矢印も小さい!」
 カーソルが揺れに揺れている。合わせた歯には力が込もる一方のようで、玲奈は今にも発狂しそうだった。
「代わりましょう」
 席を替わり、レーヴェがマウスに手を添えた。玲奈が瞬きをするまでの間に、画面には大量のウィンドウが次々に現れた。
「あれっ? その画面って、たくさん出せるのっ?」
「なるほど、メールを見る限り、怪しげな人物との接触はなさそうですね。データの修復もしてみましょうか」
「それ! メール画面は私が出したんだからね…」
 ウィンドウの現消は確かに速かったが、玲奈にとっては瞳で追うのもやっとに見えて、その眉は寄っていくばかりだった。
「って言うか、師匠… パソコン、そんなに得意だったんだ」
「いえ、最近少し触り始めた、という程度です」
「少しって……」
「これ、見て下さい」
 映っていたのは、学校内の見取り図だった。イルミンスール魔法学校は巨樹イルミンスールの内部に在るため、イルミンスールが、その形状を変えれば学校内の構造も変化する。
 見取り図を見る限り、それはごく最近の学内の様子を表しているようだった。
「この見取り図をデータで送受信したという痕跡はありません。しかし」
「データに起こしている事自体が不審って訳ね」
 レーヴェは静かに頷いた。建築図面のような、それほど精巧に作られている。電気、水道の配管図まであるのは、どう考えても不自然であろう。
 彼女が学校に戻ってきたのは昨日である。データの作成日は昨日となっているが、昨日の今日で一から作成したとは考え難い。持ち込んだ物、あるいは研修に出る前のデータをイジったか。
 止めていたマウスを動かし始めた時、レーヴェの携帯が鳴り響いた。
「マスター、このまま進んでよろしいのでしょうか」
 レーヴェをマスターと呼んだレーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)の声は、どこか不安そうに揺れていた。彼女を肩に乗せているジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)の声は、聞こえない。
「罠の類は、大丈夫ですか?」
「はい。というか、ただの通気溝に出てしまいました」
 通気溝? チェスナーも、そこを通って行ったはずだが、生徒たちの個室も含めた各部屋に繋がっているとなると、向かった先の特定は難しいか。
「ジャック! 聞こえる? ジャックっ!!」
 玲奈が携帯に届き着かぬ口を尖らせて叫んだ。
「火薬の匂いがする部屋に行くのよ! 良い? 火薬よ!!」
「了解!!」
 電話口からジャックの叫ぶ声が聞こえた。調べが済んだなら2人を追う、それまでに危険な事はしないで欲しいと願いつつも、するんだろうなと思慮する玲奈であった。
 

 イルミンスール魔法学校内で起きた爆発は、数回に渡って聞こえた。
 初めの爆発音が聞こえた時、御厨 縁(みくりや・えにし)は家庭科実習室で、ご飯を炊いていたのだが、ベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)教諭の研究室で起きた爆発音を聞いて、部屋を飛び出したのだった。
「えっ、ちょっと、縁っ?」
 サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)は、慌てて火を消してからの後を追った。
 の心配は、先に向かった支倉 遥(はせくら・はるか)の身であった。
 全身を水晶化されたままのユイード・リントワーグ、彼女の水晶化を解除しようと検証を続ける教諭と生徒たちに、と共に定食を作った。
「先に持っていきますわ」
 そう言って、盆を持って向かった研究室の方からも爆発音が聞こえたのだ。
「兄者!!」
 研究室の前に、の姿を見つけたのだが。
 室内へ入ってゆく生徒の波に押され、は持っていた盆をひっくり返された!
 と共に表情を凍らせたのはベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)であった。
「あ、いや、遥… これは事故だ、事故なのだぞ…」
 のパートナーたちも追いついたようだが、目の前の状況との様子を見て、一様にその身を硬直させた。
「ほら、見ろ、彼らの姿を。みな精気がないではないか」
「そうじゃよ、兄者、決して悪気があってやった事では−−−」
「食い物を粗末にするやつは……」
 は持っていた盆を両手で折り割った。
「マジブッコロス!!」
「マズいっ!!」
 星輝銃を構えて駆けだしたを追って、一同も研究室内へと飛び込んだ。
「ぐっ」
 空中で体勢を起こして着地した、菅野 葉月(すがの・はづき)は高周波ブレードを床に突き立てて立ち上がった。
「くそっ、厄介だな」
 瞳の色を変え、パートナーに襲いかかったチェスナー・ローズ。パワーアシストアームを装備した彼女の殴打に、葉月 ショウ(はづき・しょう)は何度目かに弾かれていた。
「裏切りの花嫁とか… いろいろ気になる単語は出てきたけど、まずは、」
 ショウは雄々しく封印解凍を唱えた。
「止めさせて貰うぜっ!」
 弾けるように跳び出した。繰り出してきたチェスナーの拳に、ショウは正面から斬りつけた。
 力比べの後に弾き合う。
「よし、イケる。それなら」
 ショウがアームに再び向かって行った時、チェスナーと同じく瞳を赤く輝かせたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)たちを狙撃した。
 たちは壁側に避けていったが、そこに精気のない、フラッドボルグによって操られた生徒たちがジリジリと迫っていった。
「食い物を粗末にしたのは、おまえ等−−−」
「遥、今はそんな事を言っている場合では無いであろう」
 ベアトリクスがブライトクロスボウを握りしめて呟いた。牽制だったのだろうか、ミーナは姿は既にそこになく、目の前には蛇腹になった壁のように生徒たちが立っている。
「彼女たちは、操られているだけなの」
 壁伝い、部屋の奥から声がした。全身が水晶のユイードを抱えるジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)フラッドボルグを顎で指した。
「あの男、あの男に操られているのよ」
「そう、鏖殺寺院の彼にね」
「鏖殺寺院!!」
 ノーム教諭の言葉に一同は驚きと共にフラッドボルグの姿を見た。彼は笑みながら、ゆっくりと歩み寄って来ていた。