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サンタ少女とサバイバルハイキング

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サンタ少女とサバイバルハイキング
サンタ少女とサバイバルハイキング サンタ少女とサバイバルハイキング

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第3章 出発直前


「それで、君はどうして参加しようと思ったのかね?」
 ミヒャエルは、参加者へのインタビューを続けていた。
「フレデリカさんとはクリスマスの時以来だったから、会いたいなって思ったの。それに、愛トナカイのスズちゃんを山の新鮮な空気の中でお散歩させてあげたいとも思ったし。それで参加したんです」
 蒼空学園のアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、そう答えながら、トナカイの首筋をそっと撫でた。
「なるほど。協力感謝する。では、気をつけて行きたまえ」
 ミヒャエルはアリアに別れを告げ、次のターゲットへとマイクを差し出す。
「さて、君はどうして参加しようと思ったのか、教えてもらえるかね?」
「うむ。1日とはいえ、サンタクロースをやったせいか、どうにもフレデリカ殿が娘のように思えるのである」
 蒼空学園の万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)は、いかつい顔でしみじみと答えた。
「危なっかしい娘が心配で同行しようと思った、といったところであるな」
「ほう。父親気分というわけですな」
 見た目同世代の男二人は、無言で共感しあった。
「では、次の方に聞いてみましょう。君、どうして参加しようと思ったのか教えてもらえるかね?」
 マイクを向けられた蒼空学園のリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、苦笑しながら答える。
「フレデリカさんのあの性格からして、アバウトな計画で遭難しそうな山に登りそうですからね。少しでも手助け出来ればと思ったんです。……ただちょっと、手違いはありましたが」
 リュースは手違いことパートナーの守護天使、レイ・パグリアルーロ(れい・ぱぐりあるーろ)を困ったように見つめた。
 遭難する可能性を考え、パートナー達には内緒で参加するはずが、あっさりレイに見つかってしまい。結局2人で来ることになったのだ。リュースは登る前から心配で気が気ではない。
「あら、ひどいわ、リュース。人を手違い扱いしないでちょうだい。だいたい、私だってサンタさんに会いたかったのよ。私と年が変わらない女の子みたいだし、お友達になりたいと思ったっていいでしょう?」
「気持はわかりますけどね。まぁ、そういうわけで、オレは参加者が滑落や遭難の危険がないよう、目を光らせておくつもりです」
「なるほど。陰ながら応援させて頂こう。頑張ってくれたまえ」
 次に、ミヒャエルは、なぜかすでに疲れた顔をした蒼空学園の樹月 刀真(きづき・とうま)にもマイクを向けた。
「失礼。参加理由を教えてもらえるかね?」
「……参加理由は、パートナーが来たがったからです」
 それ以外の何があるというのだろう。刀真は、ハイキングの何もかもが楽しい様子のパートナー、剣の花嫁の漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を目で追った。「刀真、玉ちゃんハイキングに行こう!」といつになく積極的に誘ってきた月夜の誘いを無下に出来るわけにはいかない。
「しかし、月夜にねだられては仕方ないが、面倒なのも事実」
 もう一人のパートナー 英霊の玉藻 前(たまもの・まえ)が退屈そうにつぶやく。
「やはり我は山登りなど……、」
「えっ、玉ちゃん、……行かないの?」
 刀真の元に戻った月夜が玉藻の言葉を耳にし、悲しそうに彼女を見つめる。
「そんな顔をするな月夜。…やれやれ、仕方が無い。刀真、行くぞ」
 玉藻は、月夜の肩を抱き寄せ、先を促す。刀真は、3人分の荷物を持ち上げ、その後に続いた。
「よくわからんが、幸運を祈る」
 ミヒャエルは刀真に向かってエールを送ると、最後に教導団の青 野武(せい・やぶ)にマイクを向けた。
「失礼。参加理由を……、」
「機密なのである」
 野武は眼鏡をキラリと光らせ、パートナー達とともに、集合場所へ向かった。
 一応、野武としては教導団が開発中のパワードインナーの高地環境における耐久テストも兼ねているので、間違いではない。
 ミヒャエルはマイクを持ち直し、アマーリエの構えるカメラの方を向いた。
「こうして、様々な理由で集まった屈強の猛者達は、これからサンタクロースとともに、ヒラニプラ北方の未踏峰登頂へと赴くのだ。この世紀の瞬間を、我々は必ずやカメラに納めてみせようではないか!」
「カット! なかなかいい画が撮れましたね。御苦労さまです。」
 アマーリエは、嬉しそうにカメラを撫でた。
「確か、この山、未踏峰ではなかったと思うのだが。それに屈強の猛者というのも……」
 ロドリーゴは再び余計な事を言ってアマーリエの気を逆撫でする。
「聖下って、学習能力がないの? それともそういう趣味なワケ?」
 イルがあきれた様にロドリーゴに聞くが、言いつけられた雑用に勤しむロドリーゴには答える暇はなかった。

 こうしている間にも、参加者達はぞくぞくと集まり、いつもは静かな山麓がにぎわいを見せている。
「お天気で良かった! まさにハイキング日和だね」
 百合園の秋月 葵(あきづき・あおい)は、パートナーの獣人、イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)に笑顔を向ける。
「うん! 頑張って山菜採ろうにゃ!」
 山登り=山菜採りと思い込んでいるイングリットは、今から山菜が味わえるのを楽しみにしていた。
「それにしても、みんな、ハイキングなのに重装備だよね。何でだろう?」
 制服姿で来てしまった葵の疑問に、近くにいた蒼空学園の瀬島 壮太(せじま・そうた)が同意する。
「それ、オレも思ってた。ハイキングって、遠足みたいなヤツじゃねぇの?」
「壮太さん、あたし達、なんか、すっごく浮いてる気がするよ」
 一緒に参加した百合園の遠鳴 真希(とおなり・まき)が、心細そうに言う。
 壮太はジャケットにジーンズ姿。真希に至っては、普通の運動靴にショートパンツ、ノースリーブの上にシャツを羽織っただけの服装だ。
「まったく、そんな軽装で山に挑もうとは、軽率であろう」
 ラフな服装でやって来た面々に厳しい言葉を投げかけるのは、イルミンスール教師、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)だ。
 彼は、頭から足元まで、店で揃えられる本格的な登山用品一式で包んでいた。
「……大丈夫、オレらより浮いてるのがいた」
 壮太が真希を安心させようと小声でささやくと、真希は相手に悪いと思いながらもくすりと笑った。
「そこ、きちんと話を聞く!」
 授業の癖で私語を牽制しながら、アルツールは話を続けた。
「見なさい! この山々でハイキングというのもおかしな話しだとは思わんのかね。そこで私は分析し、結論付けた。これは『登山』の誤植であろうと!」
 研究発表のように語りだすアルツールに、大袈裟だという空気が漂う。
「いや、あながち間違いじゃないと思うぜ」
 下調べをしてきたイルミンスールの高月 芳樹(たかつき・よしき)が、アルツールを擁護する。アルツールと比べれば軽装だが、パートナー共々、しっかりとした装備を準備している。
「簡単に調べた程度ですが、僕もハイキングのつもりでの参加は不安だと思います」
 蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)も同意した。
「ワタシもその意見には賛成だわ。それにこの山、危険動物やモンスターが出るそうだしね」
 蒼空学園のアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が教えてくれた情報に、軽装組がざわめく。
「だからね、すっごく似合ってて可愛くてむきゅーってしたくなっちゃうし、好きなお洋服を着たい気持ちも乙女として分かるけど、その格好で山に入るのは賛成出来ないわ」
 アルメリアが、皆のやりとりを見ていたフレデリカに言った。
「えっ? 私?」
「そうです。怪我しない為にも、病気にならない為にも、きちんとした服に着替えて下さい」
 教導団衛生科の夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が、演習服をフレデリカに勧める。
「でも、こんな服じゃ動きにくいよ」
「そうだよ、そんな服じゃ楽しくないぞ!」
 フレデリカの太ももの危機に、たまらず蒼空学園の鈴木 周(すずき・しゅう)が口を出す。
「周くん、楽しくないって、……なにが?」
 パートナーで剣の花嫁のレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が、怒った目で器用に微笑んだ。
「太ももに決まってるだろ! あと二の腕とか鎖骨とかっ!!」
 真っ正直に主張する周を、レミが無言で殴って黙らせる。
「ごめんね。どうぞ話を続けて」
 レミは愛想良く言うと、周の襟首を掴んで皆の輪から離れた。
 レミの言葉を受け、アルメリアと彩蓮は、再びフレデリカに丈夫な服に着替えるよう説得を始めた。
「演習服が可愛くないっていうのなら、ワタシの薄くて通気性のいい長袖の上着貸してあげるわ。ほら、ふわふわでレースもついているのよ」
 演習服を着たがらないフレデリカにアルメリアが上着を渡そうとする。
 そんな中、フレデリカの側にいた翡翠を呼びよせた円は、用意して来た登山装備を彼に渡した。
「翡翠、あなたもこれに着替えた方がいいわ」
「えっ?」
 翡翠は不満で眉間に皺を寄せる。
「聞いたでしょう。モンスターも出るんじゃ、その格好ではかえって足手まといになってしまうわ」
「………でも」
 重装備で行ってはサンタクロースの修行にならない!というのが翡翠の持論だった。
「お願い」
 いつになく真剣な円に、翡翠は仕方なく、登山靴と、いくつかの道具を身につける事を承諾した。
 その間も続くアルメリアと彩蓮の説得に困るフレデリカに、一陣の風が吹いた。
「フレデリカよ。皆は騙せてもこの俺は騙されんぞっ!!」
 突然現れ、皆を見下ろせる岩の上に駆け上がった挙句にそんな事を言い出したのは、珍しく服を、正確に言えばサンタクロースの服を着た薔薇の学舎の変熊 仮面(へんくま・かめん)だった。
 変熊は、びしりとフレデリカを指差し、尚も主張を続ける。
「春に生まれた仔トナカイをモフリに行くのだろう! 抜け駆けは許さん! この俺様も連れてってもらうぞ!!」
「……別にいいけど、この山、トナカイいたかなぁ?」
 考え込むフレデリカに、変熊は見破ったりと仮面の下で勝ち誇った笑みを浮かべた。
「敵はモンスターだけだと思ったのだが、こういう輩がいる以上、対人間込みで護衛にあたらせていただこう」
 教導団の相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、サンタクロースの服のまま、フレデリカに向かって敬礼する。
「準備は万端ですわ。洋さまとわらわで貴公を必ずお守りいたしますわ」
 パートナーの魔女、乃木坂 みと(のぎさか・みと)も、洋に言われるがままサンタ服姿で、登山用品一式を搭載したトナカイとともにフレデリカに挨拶する。
「護衛は大袈裟だけど、ありがとね」
 続々と現れるサンタクロースに、フレデリカはチャンスと見て、
「ほら、サンタ服を着てるの私だけじゃないもん! 私なら平気だから、他の人に貸してあげて!」
 アルメリアと彩蓮の説得からそそくさと逃げ出した。
 少し離れたところでそれを見ていた獣人のオウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)は、サンタ服の面々を見ながら、
「近頃は、ずいぶん派手な格好で山登りするのが流行っているのでござるな……」
 と、ぼんやり呟いた。

「みなさぁん、注目してくださぁい! フレデリカさんからぁ、ハイキングについてのお話がありますぅ!」
 伽羅が、メガホンを使い、大きな声で、参加者達に呼び掛ける。
 ざわめきが収まるのを見計らって、伽羅がフレデリカにメガホンを渡した。
「久しぶりの人も、初めましての人も、今日は集まってくれてありがとう! 皆で楽しく登ろうね!」
 パチパチと同意の拍手が集まる。
「それでね、伽羅さんと話して、あんまり危険なモンスターが出るようなルートは避けようって話になったんだけど、それでも熊とかは出るかもしれないから、十分気をつけて! 『危険を感じたら、迷わず逃げる!!』これが、私が最初に山で修行する時にお父さんから習った事だよ。万が一はぐれたら、麓のベースキャンプに助けを求めて! でも、もしも頑張れるんなら、頂上を目指して。そこで会おう!」
 フレデリカが拳を天に突き上げると、皆も掛け声とともに拳を振り上げた。
「さぁ諸君、登山を始めようではないか!」
 教師であるアルツールがそう宣言し、フレデリカを先頭に生徒たちが山に入るのを見守っている。

「あのぉ、出発されないんですかぁ?」
 伽羅が、なかなか動こうとしない空京大の佐野 亮司(さの・りょうじ)とパートナーの剣の花嫁、向山 綾乃(むこうやま・あやの)に訪ねた。
「いや、俺らは、」
「もう1人、連れがいるんです」
 そう答える2人に、お待ちかねの声が掛けられた。
「亮司さん、綾乃さん、遅れてごめんなさい」
 見れば、月島 悠(つきしま・ゆう)が、はにかみながら立っている。
「に、似合うかな……?」
 悠は、ピンクとグリーンを基調としたウィンドブレーカーにひざ上丈の山スカート、その下にパステルカラーのアンダータイツを着用し、帽子と登山靴とリュックは亮司と色違いのお揃いという服装だった。
 それらは、亮司がハイキングに誘った時に、山に登れるような私服を持っていないと悠が言ったため、亮司がプレゼントしたものだ。
 ただ、悠には服は任せろと言ったものの、実際、購入しに行った際にはかなり迷ってしまい、店員にアドバイスを求めていた。
 それだって、「どの様なものをお探しですか?」と訪ねられ、しどろもどろになりながら「可愛くて、…山に、そっと咲いているような可憐な感じの、あ、でも、弱そうなんじゃなくて、小さくてもキリッと太陽向いてそうな感じで……、」
 などと、絶対に悠や綾乃には聞かせられない注文をしていた。
 しかし、それも、まさに花のような悠の姿を前にしては、頑張った甲斐があったというものだろう。
「亮司さん」
 綾乃が、ひじで亮司をつつきながら、小声で呼ぶ。気がつけば、悠に見とれて押し黙ったままの亮司を、悠が不安気な瞳で見つめていた。
 綾乃が、急かすようにもう一度、亮司の腕をつつく。
「に、似合ってる。……すごく」
 亮司の言葉に、悠の顔がぱぁっと明るくなった。
「良かった。……えと、それじゃあ、行きましょうか」
「あ、ああ」
 アースカラーでまとめた薄手の長袖Tシャツとカーゴパンツ姿の亮司が、花色の悠に寄り添って歩いて行く初々しい姿を、綾乃と伽羅は微笑ましく見ていた。
「春ですねぇ」
「春ですね」
 女子2人が言うのに、うんちょうが口を挟んだ。
「義姉者(あねじゃ)、春というより、もう初夏でござ……」
 ぺしりと、伽羅の鉄扇がうんちょうの口を塞ぐ。
「それじゃ、行ってきます」
 綾乃は伽羅に挨拶して、お弁当を入れた荷物が揺れすぎない様に気をつけながら、小走りで亮司と悠の元へと急いだ。
 今まで3人がいたすぐ側の茂みが突然ガサガサと揺れ、悠のパートナーで剣の花嫁の麻上 翼(まがみ・つばさ)、同じく獣人のネル・ライト(ねる・らいと)、アリスの月島 未羽(つきしま・みう)が姿を現した。悠達との距離が少し開くのを待ってこっそりと後をつけていく。
「ふふふ、両手に花の佐野さん、無自覚な好意を寄せる悠くん、佐野さんの事を大切に思ってる綾乃さん。ああっ、微笑ましくて、見てるだけでニヤニヤしちゃう!」
 翼が言葉通り、ニヤけながら言った。
「佐野さんの選んだ服を着てはにかむ悠さん、とても女の子らしかったですわ」
 ネルも、先ほどの光景を思い出し、満足そうに言う。
「悠ちゃんの恋の行方や如何に! 闇商人とのハイキングデート!!…といった感じですね♪」
 未羽がうきうき気分で今日のタイトルをつけた。
 3人は、パートナーの恋路を暖かく見守る為、悠達に気づかれないよう気をつけながら道を進んで行った。

 最後に、アルツールが残っている生徒がいないか確認し、伽羅達に片手をあげて合図すると、パートナーの英霊、シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)と共に山に入っていく。
「さてとぉ、これで皆、出発しましたねぇ。それじゃ、始めましょうかぁ」
「何を始めるんじゃ?」
 長門が訊ねると、伽羅はにっこりと微笑んだ。
「初心者の方でも簡単ですよぉ。優しく教えますからぁ」
 テントでは、嵩と協が、段ボール箱を開け、長机の上に手際良く封筒張り内職セットを、うんちょうが造花内職セットを用意していた。