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サンタ少女とサバイバルハイキング

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サンタ少女とサバイバルハイキング
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第4章 皆で楽しいハイキング!?


「いい気持ちだね!」
 爽やかな新緑の中、美羽は、鼻歌を歌いながら、元気よく先頭を歩いていた。
「いい日差しですね!」
 イルミンスールのルイ・フリード(るい・ふりーど)も、陽光に坊主頭を光らせながら、笑顔で先頭を歩いていた。
 最初はフレデリカの両隣にいた2人だったが、知らず先頭を競い合うようになり、結果、フレデリカよりも前を歩くことになっている。
 コハクは、走って先を行くと、笑顔で先頭を歩く美羽とルイをカメラに収め、いい笑顔が撮れたことに満足した。
 芳樹は、先頭を引率中のシグルズに捕まり、延々と昔話と現代の便利さについて聞かされている。
「先日、教導団から貰ったこのパワードスーツとか言うのは実に便利なんだよ! 昔ヒンダルフィヤル山に登った時は、あ、ヒンダルフィヤル山って知ってる?」
「いえ」
「そっか。んー、まあ、こんな感じの山なんだけどさ、あの時は荷物抱えてえらい苦労してねぇ。ほら、あの時代って『スパイク』なんてものもなかったじゃない。その点、こいつは、動きは軽いし食料だってバックパックに詰まっているし、温度も実に快適! ほんと、科学って良いよねぇ! はっはっはー」
「はぁ」
 当たり障りのない相槌を返しながら、芳樹は登山よりもシグルズとの同行に耐えられるか心配だった。
 芳樹のパートナーのヴァルキリー、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)を始め、魔道書の伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)、ハーフフェアリーのマリル・システルース(まりる・しすてるーす)は、シグルズと目を合わせず、目立たないよう芳樹の少し後ろを歩いている。
 芳樹の為ならば、命を掛けることにためらいはないが、今の立場を代わるには勇気が必要だった。
 教導団のザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)もわりと前の方について歩いており、ザカコが邪魔な枝葉をカタールで払って進むため、後進の者達はその恩恵に与った。
 ルカルカは、高山植物などの写真を撮るなど、ハイキングを満喫している。
 フレデリカは、円やアルメリアや明日香、涼子にミルディアにアクア、メイベル達に朝野姉妹に郁乃達と、沢山の女の子に囲まれ、楽しそうにおしゃべりをしていた。
 その後ろを、護衛をかってでた洋とみと、蒼空学園のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)があたりを警戒しながらついて歩く。

 集団の中盤の方では、トライブが道々、小さなナイフで木に傷をつけているのを、葉月が見咎めた。
「君、何をしているんですか?」
 葉月の注意するような口調に、トライブはつけたての傷を見せる。
「誰かが道で迷ってもついて来られるように、目印つけてるんだよ。これでも丈夫そうな木を選んでるんだ。このくらいの傷なら大丈夫だろ?」
 見れば確かに、つけられた傷は小さな矢印の形をしている。
「だからって、調子に乗っていっぱい傷つけたりしないでよね!」
 魔女のミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が、環境と安全の板挟みで返事に困ったパートナーの葉月の代わりにトライブに言った。
「わかってるって!」トライブはぶっきらぼうに言うと、さっさと坂道を登って行った。
 ミーナは、葉月の腕に腕をからませ、心地良い木漏れ日に口元をほころばせる。
「ふふ、こういうデートも素敵だよね。今度は葉月と2人で来たいな!」
「うん」
 ミーナの言葉に、葉月は照れながらも素直に頷いた。
 その近くでは、イングリットと葉月 フェル(はづき・ふぇる)が、一緒にひらひらと舞う蝶を追いかけている。同じ獣人同士、何か通じるものがあるのかもしれない。
「イングリットちゃん、足元に気をつけてね!」
 葵がイングリットに声を掛ける。
「フェル、あんまりはしゃぐとこの先持たないぞ!」
 蒼空学園の葉月 ショウ(はづき・しょう)も、パートナーのフェルに注意を促した。
 葵とショウは顔を見合わせて、どうもうちのパートナーがと保護者よろしく挨拶を交わした。
 木漏れ日がキラキラと差し込む一角で、イングリットが葵を手招く。
「葵、見てにゃ〜♪」
 言われるがままに見てみれば、岩間に小さな薄紫色の花が咲いている。
「わぁ、綺麗なお花いっぱい咲いてるね〜。何ていうお花なのかなぁ?」
 それに対抗意識を燃やしたのか、フェルもショウを呼ぶ。
「ショウ、ボクも見つけた!」
 フェルがショウに見せたのは、陽だまりに咲くオレンジ色の小さな花だった。
「おお、綺麗だな」
 ショウは、見せてやりたい大切な人の顔を思い浮かべた。
「何かあるんですか?」
 興味をそそられた悠が、亮司と綾乃とともにこちらへやって来た。
「うわぁ、可愛いお花!」
 どっちの花が一番可愛いと思うかイングリットとフェルに聞かれた悠は、迷ってしまい、亮司を見る。
「亮司さんは、どちらがお好きですか?」
「俺? 俺は……」
 亮司は花ではなく、悠をじっと見つめた。
 場の雰囲気に、こほんと小さく咳払いしたショウは、フェルを急き立て、登山道へ戻った。
「フェル行くぞ。皆とはぐれちゃうだろ」
「ほらほら、イングリットも!」
 葵もショウに習い、イングリットを道へと連れ戻す。
「ふふ、ごめんなさいね」
 綾乃が悠と亮司にかわり、4人に謝った。
「………でもそうね、私もお邪魔かしら?」
 横目でからかう綾乃に、我に返った亮司が動揺する。
「そんなわけないだろ、なに言ってんだよ」
 そんな亮司の様子に、綾乃は楽しそうにくすくすと笑う。悠だけが、状況をわかっていなかった。
「でも本当に、どちらも可憐なお花ねぇ」
 いつの間にか彼らの足元にしゃがみこみ、花を眺めていた獣人のヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)がうっとりと呟いた。
「いい匂いまでして、とってもおい……」
「とっても『おい』?」
 綾乃が聞き返すと、ヴィアスは笑顔を強張らせ、
「しそう……に、み、見えないのよぅ」
 と誤魔化しながら、ステップを踏むようにしてパートナー達の元へ戻って行った。
「ヴィアス嬢、あなたまではぐれないで下さい」
 クルトは、戻ってきたヴィアスに頼む。ただでさえ、目を離すとすぐに足を止めてあちこちスケッチして回る珂慧が皆から離れないよう気を配っているのに、ヴィアスを探しに行く余裕はない。
「あら、平気よぅ。元はぐれヤギさんだもの、山登りの経験も、放浪の経験もそれなりにあるわ。……たしか」
 クルトを安心させようとしたヴィアスの言葉は、却ってクルトの不安を煽った。
「あ」
 風に揺れた枝に邪魔され、珂慧が鉛筆を取り落とす。
「はい」
 足元に転がって来たそれを、彩蓮が珂慧に手渡した。
「そっちも、スケッチ?」
 珂慧は、彩蓮の持つ小さなスケッチブックに目を止めた。
「はい。そんなに上手というわけじゃないんですが、好きなんです」
「ふぅん。……でも、上手とか、ちがうとか、そんなの、絵には関係ないと思うよ」
「そうですね」
 彩蓮は、珂慧のぼんやりとした言葉を、深い所で受け取った。

 集団の終盤の方を歩くイルミンスールの五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、珍しい植物や鉱石が採取が見つからないものかと、時折茂みを覗きながら歩いていた。
 パートナーの獣人、ガレット・シュガーホープ(がれっと・しゅがーほーぷ)もまたお茶に使える植物はないかとめぼしい葉を調べている。
「こらこら、君達、あんまりよそ見ばかりしているとはぐれるであろう。気をつけたまえ」
 そんな2人をアルツールが注意する。そこへ、偵察に出していた使い魔のカラスが戻ってきた。
「皆、この先の茂みの下は、すぐに崖になっているから気をつけるように! 道から逸れてはならん!」
 アルツールは、カラスが持ち帰った情報を、皆に伝える。
 最後尾で脱落者が出ないよう見守ろうと思っていた蒼空学園のクロト・ブラックウイング(くろと・ぶらっくういんぐ)は、友人のグラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)がトレッキングポールを駆使して登って来るのを見つけ、付き添っていた。
 クロトのパートナーでドラゴニュートのオルカ・ブラドニク(おるか・ぶらどにく)は、グランのパートナーで兄と慕う同種族のアーガス・シルバ(あーがす・しるば)が小声で「……早く終われ早く終われ」と繰り返し呟いているのを、心配そうに見ている。
 こうして、ハイキング一行は、悪路ではあったものの、特に問題なく頂上を目指していた。
(でも、この道、こんなに歩きやすかったっけ?)
 皆と一緒に浮かれていたフレデリカがふと気付く。
 道が歩きやすいのもそのはず、先まわりして、皆のために道を開いた者達のおかげだった。