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リアクション
第九章 講義風景 二 (古森あまね)
「教授。すいません。私のレポートを書き直させてください」
百合園女学院推理研究会のマジカル・ホムーズこと、霧島 春美(きりしま・はるみ)さんが席を立って、フライシャー教授にお願いしました。
すると、他にも何人かの人がレポートを書き直したいと言いだして、レポート作成のために講義は十分間、中断されることになりました。
あたしとくるとくんは、みんなの様子をみに、教室内を歩いてまわることにします。
「くると。ここは勉学の場なのだから、他の者の邪魔をするなよ」
黒崎天音さんのパートナーのドラゴニュート、くるとくん気に入りの竜さん、ブルーズ・アッシュワースさんが、くるとくんをひょいっと抱え上げてくれました。
「ふむ。少しは大きくなっているのか? 子供は大きくなるのも仕事だぞ。謎ばかり追っていては・・・あのようになりかねん」
「ブルーズ。なにか言ったかい」
レポートを書き直し中の黒崎さんが顔をあげます。
「く、くるとに立派になれ、と言っていいたのだ」
「ふぅん。やあ。こんにちは。きみたちも興味をひかれて、この講義にきたのかな」
「天音さん。こんにちは。レポート書き直してるんですね」
「うん。どうやら、フライシャー教授は、隠し事をするのにむいた人じゃなさそうかな。けど、現状、治外法権の空京大学でなにか起こっても、犯罪として告発するのは、難しいかもしれないな。それより、彼がかわい家のリン太郎氏のようにならないように注意しないとね」
謎と興味を追う人である黒崎さんには、なにかがみえてるみたいです。あたしには、さっぱりですが。
「くるとくん、黒崎さんの話の意味わかった」
「十二人の優しい日本人」
「なにそれ」
「嘘つき同士が本性を隠して、ずっと議論する映画」
くるとくんが、竜さんに頭をなでてもらって、あたしたちは別の席へいきました。
(親愛なる静香様。空京には、最新の設備が溢れています。でもそこにいる人の業は・・・)
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)さんが書いている手紙を、後からこっそり盗み見ちゃいました。ごめんなさい。
「古森くん。覗きはよくないなぁ」
クリスティーさんのパートナー、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)さんが、いたずらっぽくウィンクしてくれました。
「クリスティーはきっと、ペンフレンドの桜井静香校長に手紙を書いてるんだよ。意外と筆マメだよね。ところで、クライマックスはまだこれからだろ?」
「クライマックス、って。講義の、ですか」
「それもあるけど、このメンバーが揃ってるんだよ。二度あることは三度あるって、ことわざがあったよね」
ニヤリと笑う、クリストファーさんの隣の席は、鬼院 尋人(きいん・ひろと)さんです。
尋人さんは、あたしを見かけると、やっぱり大きな声で、
「あまねちゃん!」
背後の席で竜さんが、ビクリとしてる姿が目に浮かぶわ。
「気のせいかもしれないけど、オレは講義中に、何度も奇妙な物音をきいたし、怪しい人影をみたよ。霊がいるのかな。あ、怖くないよ。怖くはないんだけど。気になるよね」
「尋人さん。あの、実は、さっきから、尋人さんの足元に」
「うわっ。なに、きみたちは、なんなんだ」
尋人さんの机の下には、教室内の机の下を手をつないで、うろうろとさまよっているらしい、ヴァーナー・ヴォネガットちゃん、クロシェット・レーゲンボーゲンさん、童子華花ちゃん、鬼桜刃著桜花徒然日記帳くんが、しゃがんでいました。
赤羽美央ちゃんがリタイアしたのに、人数が増えてる。
まるで怪談難民ね。
「むむむ。百物語は、安全じゃないかもしれないです」
「教室は地獄。・・・机の下は安心、快適なのだ、なのだ」
「今日はだいぶお友達が増えたよ」
「僕は男の子だから、みんなを守ってあげるんだ」
口調も表情も四者四様です。
「ヴァーナー。怯えているのか」
尋人さんの横の席の早川 呼雪(はやかわ・こゆき)さんが、半泣きのヴァーナーちゃんに声をかけました。
呼雪さんは、クールに見えますが、大事なお友達にはとても熱い人だと思います。
尋人さんも呼雪さんも、面倒見がよさそうだから、四人にとってここは安住の地かもしれないわね。
さて、そろそろ席に戻ろうかな。
「だから、事件の鍵は講義準備室だったんだよっ!」
お。エル・ウィンドさんの声がする。
「な、なんだってぇ!!」
PMRの人たちは、いつもの会議をしてるみたいで、お決まりのセリフがきこえてきます。
おや。最初にレポートの書き直しを提案した、霧島春美さんのまわりには、人がいっぱいいますね。
「何度も気にする壊れた時計と、視線の先にある部屋。結論はでたわ。ピシッといくわよ」
ブリジット・パウエルさんが張り切ってます。
推理研究会のミーティングですね。
「うさぎは、教授の服が乱暴されたみたいに、ひどく破れてるのを確認しましたっ。血痕も、鼻血の前にたくさんついてました」
「講義前にもガンとして入れてもらえなかった準備室、そして、トランクケースに、きっと、なにか隠してますね。よほど、見られたくないものを」
宇佐木みらびさんと、ペルディータ・マイナさんも、テンション高めです。
「推理研のメンバーみんなで、フライシャー教授を観察して、その人となりを推理して当てるゲームをしてるんですよ」
橘舞さんが教えてくれました。
ほう。見ただけで、ぴたりと当てる。小説の名探偵みたいですね。探偵さんだけでなく、なりきり警部さんもここにいます。
「レストレイドさんもゲームに参加したんですか?」
「ああ。捜査協力の一環としてな」
舞台からおりて、普段の服装に着替え、メイクも落としたマイト・レストレイドさんは、洗顔したのか、さっぱりした顔をしています。
「レストレイドさんには、教授はどんな人物に見えましたか」
「彼は・・・男だ。この点は間違いがないと思う」
それは、推理ではない気がします。警部。
「ゲームに負けたやつが、みんなに食事をおごるんだぜ。わかってるよな。マイト」
セイ・グランドルさんに念を押され、レストレイドさんは、探偵のような推理はヤードの仕事じゃない、とかぶつぶつ言ってます。
「私は、首筋のキスマークらしい痣と、血の他に、複数の香水が入り混じった香。
講義前に、かなり親しい人と、服が破れ、時計が壊れ、血まで流れる場面があったってことかしら。
講義準備室は、そのトラブルのせいで人に見せられない状態になっている、とか。
みんなの意見をまとめて、レポートにして教授にぶつけるわ。人の知らないことを知るのが、私の仕事。謎はきっちり暴くわよ。めざせ、ハッピーエンド」
春美さんが、ぐっと拳を握りしめました。
「もし、この教室で事件が起こっていたとしても、それは、すでに終わっているのではありませんか」
ハッカパイプを手にしたシャーロット・モリアーティさんが、こちらを眺めて、また推理研のみんなに、水を差すようなこと言ってきました。
「そうよねえ。きみの仕事が終わった後で、ウチらが呼ばれるのがパターンよね。ショタ探。今度は、誰を殺したの?」
シャーロットさんの隣で、くるとくんをショタ探、呼ばわりするのは、黙っていればメガネ美少女の茅野 菫(ちの・すみれ)さんです。
「私は、あんたらがここに入るのをみて、この講義を受けるのを決めたの。そうしたら、案の定。講義は混乱への道をまっしぐら。またまた、やらかしてくれてるようね」
「あたしとくるとくんが、なにをしたって言うんですか?」
「さあ、私みたいな常識人には、あんたらの考えなんて想像もつかないわ。怪談よりも、ショタ探が怖ろしい。ショタ探が側にくると震えがとまらないもの」
「講義が再開されるようですね。私は、教授の体調が本当に心配です。講義開始前に、講義準備室でお会いした時に、教授はすでに普通ではありませんでしたから。
みなさんが余計な負担をかけて、教授をさらに苦しめないのを望みます」
春美さんとシャーロットさんが、視線をあわせ、しばらく見つめあっていましたが、教室内の灯りが落ちると、二人はステージに目をむけました。
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