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リアクション
最終章 告白
茅野菫さんが提出したレポートの再現が終わると、教授は、これで参加者全員のレポート再現が終わったことを告げました。
「トラブルもあって、予定時間を大幅にオーバーしてしまった。申し訳ない」
「教授。遅くなりました。すいません。私はまだレポートを提出していません」
マジカル・ホームズこと霧島春美さんが立ち上がりました。
「私のレポートは再現ではなく、私とパートナーのピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)、百合園女学院推理研究会のみんなで、ここで本物の霊を呼びだしたいと思います。いいですか」
教授は、手元の手帳を眺め、顔をあげてこたえました。
「・・・・・・いいでしょう。今日は、特別ばかりですね。再現された話もふくめ、この講義では、現時点で九十七話の怪談が語られたと、私はカウントしている。研究者としての興味もある。こうなったら、あと三話、やってみましょう」
「ありがとうございます。みんな、お願い」
機晶姫のペルディータ・マイナさんが、教授の許可をとって、メモリープロジェクターで、教室の正面中央、普通なら黒板のあるはずの場所に、アルファベットと数字の書かれた大きな表を映しだしました。
「ブリジット代表。こんな感じでいいですか」
「オッケーよ。ペルディータ。みなさん。あれはウィジャボード。あれを使って、霊と交流するの」
マイクを持ったブリジット・パウエルさんが説明します。
スカーフで目隠しをした橘舞さんが、教授に借りた指し棒を持って、巨大ボードの映像の前に立っています。
舞さん。すでに、よたよたしてますが、大丈夫でしょうか。
「これって、日本でいうコックリさんですよね。私でできるのかしら」
「うさぎと煌おばあちゃんがフォローするから、きっと、成功しますっ」
「そうだよ。キミなら心配ないよ」
「わらわも霊が喜びそうな歌でもうたって、場を盛り上げるぞ」
舞さんのまわりには、宇佐木みらびちゃん、煌おばあちゃんこと、少女の姿の宇佐木煌著煌星の書さん、金仙姫さんがついています。
「教授。危険な霊がきた場合に備えて、身辺を警護させていただきます」
「もし、言いたいことがあったら、いつでもおっしゃってください」
「センセー。霊が本当にくると思うか」
マイト・レストレイドさん、七尾蒼也さん、セイ・グランドルさん。推理研男性陣が、フライシャー教授を囲んでいます。
「ワタシは奇術を研究するものです。奇術、手品と交霊術は、かっては密接な関係がありました。十九世紀頃のマジシャンには、手品も、心霊術も、魔法さえ同時に扱う者が大勢いました」
「プレステージ。奇術師と魔法と科学の世界」
いかにもマジシャンっぽい、ピクシコラさんの前口上を聞きながら、くるとくんがあたしの隣でごにょごにょ言っています。
「ワタシとパートナーの春美が、これから交霊術を行います。ワタシたちが呼びだした霊は、舞の体を借り、ウィジャボードを通じて、きっとなにかを語ってくれるでしょう。ファンタスティックな世界をあなたへ! では、はじめます」
第九十八話 幽霊
電気は消され、教室にはわずかに残った数本のロウソクの灯りと、ステージを照らすライトの光しかない。
金仙姫のもの悲しい歌声が、この場に幻想的な、浮世離れした雰囲気を与えている。
春美とピクシコラは、目を閉じ、下をむき、手をつないで並んで座っている。ピクシコラは、小声で呪文を唱えている。
「動いてるぞ」
参加者の誰かが声をあげた。
舞の持つ棒が、ウィジャボードの静止画の上で動きはじめたのだ。
「最初は、A。次は、L。そしてF」
ブリジットが、舞の指した文字を実況する。
「いま、ここには、霊がきています。殺された男の人の霊です」
春美の声が響いた。
「霊はなにかを訴えています。力を貸して欲しいと言っています」
きれいに折りたんだ布、純白のシーツを春美は机においた。
「昨日、ピクシーが占いをしました。彼女は言いました。明日の講義では、大きな布が必要になる。火事が起こるかもしれない。その時には、布を水に浸し、身をまもれ。火事は無事、おさまっても、この布が必要な者がいる。布は、その人に貸してやれ、と」
「ううううううう」
ピクシコラは目を見開き、うめきはじめた。
「あー、あー、あー」
「M、U、R、どんどん早くなってくわ。みんな、ボードをみて! 舞、棒を離しちゃダメよ」
「腕が、腕が、引っ張られます。これは、どうなってるの」
ブリジットが、舞が、舞のまわりにいる推理研メンバーが、あわてふためいている。
金の歌もとまった。
春美と手をつないだまま、痙攣をはじめたピクシコラは、空いている手で机の上のシーツをバンバンと叩いた。
「これを、どうしたいの」
春美が尋ねても、ピクシコラはこたえない。シーツをつかみ乱暴に振り回す。
「これも、あなたからのメッセージなの?」
その問いに、かすかにピクシコラが頷いたようにみえた。と、その時、シーツはピクシコラの手を離れ、中空で、ぱっとひろがった。
ふわふわと漂っていき、教授の前に落ちると、シーツは、まるでフードマントをまとった人間のような格好になって、立ち上がった。
教授は、青ざめ、全身を震わせている。
「ALFRED FLEISCHER MURDERER HE KILLED RICHARD
霊からのメッセージよ。フライシャー教授。リチャードを殺した犯人はあなたよ!」
ピシッ。
ブリジットは、教授に人差し指を突きつけた。
九十八 怪談実況の延長のため、番組の放送時間を変更しております。
第九十九話 終了
これまでの、張り詰めていた緊張が切れたように、教授はぐにゃりとしゃがみ込んだ。
「バあレチゃッたあ」
教授は、素早く手をのばし、目の前に立つシーツを掴むと、それを頭からかぶる。
立ち上がった。シーツお化けそのものだ。
「さよーなら」
銃声。
お化けは、横に倒れた。
「銃は空砲のはずだ! 死にはしない」
戦部小次郎が怒鳴る。
「あらあら残念、ダーリン死んじゃってるわよう。うえーん」
シーツをめくって、中をのぞいた雷霆リナリエッタが、笑いながら泣きマネをした。
教授の側にいた推理研男性陣と鬼桜刃、講義準備室の前にいた教授を支持する者たちが、倒れた教授の周囲でもみあっている。
「あれこれ考えても、ま、成るようにしか、成らねぇってな。行くぜ」
比賀一を先頭に、PMRのメンバーはこの機に、講義準備室に突入した。
ニコ・オールドワンドが叫ぶ。
「一話足りないよ。これで終わらせるもんか。だって、約束が」
「キシャシャシャ。ニコ。やっちまえ」
突如、教室に氷雪がふぶき、雷鳴が響いた。
九十九 怪談だって死ぬんだよ。
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